一時1ドル=107円台に突入するなど円安が進んでいる。これについて、「景気失速懸念で円が売られている」「恩恵は限定的」「企業や家計に負の側面も」など、円安をネガティブにとらえる報道が出てきた。
2008年のリーマン・ショック直後、他の先進国が猛烈な金融緩和をする中で、日銀だけが無為無策の結果、円高になった。輸出企業は国際競争力を失い、日本はリーマン・ショックに無縁であったのに、経済は停滞してしまった。典型的な政策ミスである。
今の円安といっても、リーマン・ショック直後の水準に戻った程度であり、これまでの政策ミスを取り戻したにすぎないのに、なぜこのような悲観論が出るのだろうか。
こうした円安懸念を唱える人は、昨年の円安進行を大きく見誤った人が多い。国際金融の標準理論である「マネタリーアプローチ」を知っていれば、為替は2国間の金融政策の差が主要因になって決まり、日本だけが金融緩和すれば円安が進むことを読むのはやさしい。
ところがほとんどのエコノミストは昨年の円安を読めなかった。その人たちは、今年に入って円安が一服して安堵(あんど)していたのだろうが、最近になって再び円安傾向になってきたことがまず気にくわないのだろう。
そうした人たちにとって、ここ20年来のデフレと同時進行していた円高は飯の種だったわけで、いわば十八番の円高を奪われた怨嗟(えんさ)もうかがえる。