灰王SS(+追記2件)

2014年 08月08日 (金) 21:04

もりもり書籍の作業やってる合間に衝動的に書いた灰王SSです。タイトルなし。
個人サイトの方では拍手御礼に置いてあります。

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 気分転換を兼ねて海に潜っていたフィニアスは、砂浜に上がってきて首を傾げた。
 浜辺でレーナがしゃがみ込み、流木の枝を手になにやらうんうん頑張っている。いつもならフィンが海から出てくるとすぐに、嬉しそうに駆け寄ってくるのに、今は砂の相手をするのに夢中だ。
「何をやっているんだ?」
 蟹か貝でも見つけて遊んでいるのだろうか。フィンは軽く問いかけながらそばに寄り、きらきら輝く金銀の髪ごしに、レーナの手元を覗き込んだ。
「……??」
 なんだこれ。
 正体不明の図形を見出し、フィンは変な顔になった。円や線が複雑に組み合わさり、かつて見た事のない謎めいた抽象画を成している。
 まさか魔術の模様ではあるまいし、とすればもしやこれは、竜の用いる言語なのだろうか。それにしては単語の切れ目らしいものもないし、絵文字のようにも……
 屈み込んだフィンの髪を伝って、ぽたぽたと雫がレーナの頭に落ちる。慌ててフィンは身を引いたが、レーナはまだ熱心にがりごりと枝を動かし続けており、顔を上げもしない。
 しばらくして、やっとレーナは手を止め、立ち上がった。
「できた!」
 嬉しそうに言って、首を傾げながら砂浜の模様を見下ろし、周囲をぐるりと回って確認する。
 フィンも横からそれを眺めたが、さっぱり正体がわからない。レーナがやたら嬉しそうなのは、態度からも、心を通じても伝わってくるが、これはいったい何を記したかったのだろうか。
 困惑しながら立ち尽くすフィンに、レーナは頬を染めて幸せ満面に笑いかけた。
「フィンのこと、描いてみたの!」
「……え」
「うふふ」
「……これが……俺?」
「あ、もちろん、もっともっときれいなんだけど! それは砂には描けなかったの」
「…………」
 自分も大概、竜の視力を使うようになって以来、普通の人間とはものの見え方が違ってきたとは思っていたのだが。竜本人の視界はさらに上を行っていたということなのか。
 いやしかし、絵画や彫刻、あるいは竜をかたどったパンなどは、ちゃんと何の形か判別できているはずだが。
「うまくできたから、今度は絵の具を使ってみたくなっちゃった。絵を描くのって、楽しいのね」
「ああ、うん……」
 ――とりあえず、楽しそうだからいいか。
 フィンはそう結論付けて、微笑みながらうなずいたのだった。後日の惨劇は推して知るべしである。

(終)
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レーナちゃんの「きれい」の信憑性がますます怪しくなってきた、という小ネタでした。
まぁ単に「絵を描く」ということに慣れていないのでド下手なだけなのですが…。そして多分同じ竜でもゲンシャスがレーナちゃんの絵を見たら大笑い必至。(見てろこんな風に描くんだ、とか言って花火的なアートで表現してくれそう。でもやっぱり写実とは程遠い。竜だから)

****追記****
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明るく楽しいライトファンタジーです。よろしくお願いいたします。

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