朝日新聞の木村伊量社長が9月11日、「吉田調書」報道に関して、あっさり謝罪したことは何とも不可解だ。「従軍慰安婦検証報道」で過去の誤報を認めながら謝罪から逃げていたうえ、朝日の姿勢を批判したジャーナリスト・池上彰氏のコラム掲載見合わせ問題でも謝らなかったのに、「吉田調書」では急にお詫びの姿勢に転じたからだ。
「吉田調書」は、現政権の原発再稼働への「戦い」
朝日の記者会見の主眼は、「吉田調書」報道に関しての謝罪に置かれていた。むしろ世間の批判、特に木村社長に対する経営責任を問う声は、過去の誤報を潔く謝罪しなかったことやコラム掲載見合わせ問題についての方が多く、「吉田調書」については、政府や東京電力が隠していたことを暴き出した意義があるといった一定の評価もあったのに、である。
朝日新聞がスクープした「吉田調書」は、原子力発電所が想定外の大きな事故や災害に見舞われると、作業に慣れた電力会社の社員の手でも制御不能となることを当事者が克明に語った生々しい記録であり、その中身を公開することで、国民的な議論を喚起し、原発再稼働の是非を問うことに報道の意義があったはずだ。
と同時に「吉田調書」をジャーナリズムの手で白日の下に晒すことは、なし崩し的に原発再稼働に動く現政権に大きな「戦い」を挑む意味もあったのではないか。
だから「命令違反」があったのか否か、東電社員たちが逃げたのかどうか、頑張った東電社員たちを貶めるものなかどうかは、本質的な問題ではない。自分の命を懸けて働いた「美しい日本人たち」がいたかどうかも同様だ。
「吉田調書」や他の資料・証言などと照らし合わせて、あの時、政府や東電はどのような判断を下し、何が起こっていたのかあぶり出し、問題提起していくことに意義があるのではないか。
また、原発を再稼働させるならば、東電や政権がやるべきことは、「吉田調書」などを参考にしながら、国民的議論も踏まえて、原発が事故や災害などで不慮の事態に陥った際に、被害を最小限に食い止めるためにはどのような準備を怠りなくすべきなのかを考えたり、原発を再稼働させても本当に大丈夫なのかを真摯に考えたりすることであるはずだ。
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