<2014年5月東スポ携帯サイトより>
早くもやや本質から外れつつ、論議やバッシングを呼んだ「美味しんぼ・福島の真実編」(原作・雁屋哲、漫画・花咲アキラ)の問題。
改めて31年も続く人気漫画「美味しんぼ」の影響力を思い知った次第。気がつけば、この漫画の1つの軸であった海原雄山、山岡士郎親子の憎悪が、いつの間にか雪解けし、現在は雄山と士郎がともに手を取り合い、闇深き福島の問題と戦っているという感じ。
「巨人の星」に例えるなら、感動の最終回後、元の親子に戻った星一徹&飛雄馬親子が今度は再合体して米メジャーリーグに戦いを挑むようなものか。
「美味しんぼ」は食を通じて各方面に問題提起するだけでなく、もちろん普通に読むだけでも面白い漫画作品。その芸風は実は昔から、かなりのハードヒットで、それをソフトに補いつつ、エンタメ作品として成立させているのは作画担当の花咲アキラ氏の画風だと感じる。
今、連載初期の「美味しんぼ」を読み直すと、まだ花咲氏の画風も、この原作にどう付き合えば良いのやら? 迷っている様子がアリアリで現在とはかなり違う絵柄だ。山岡士郎は卑屈で小汚い小男だし、逆にやたらと巨大に描かれた海原雄山は、この時点のまま実写ドラマ化されたとしたら〝極道コンビ〟の大熊元司がピッタリな風貌だ(実際に実写版の雄山を演じたのは、1994~99年のドラマ版が原田芳雄、江守徹、1996年の映画版が三國連太郎、2007~09年のドラマ版が松平健)。
現在でこそ「美味しんぼ」のイメージが強い雁屋哲氏だが、それ以前は週刊少年サン
デーに連載されていた硬派劇画「男組」や「男大空」(ともに作画は池上遼一)の原作で知られていた。仮に「美味しんぼ」が花咲氏ではなく、そのまま池上遼一とのコンビで発進していたとしたら連載数回で大問題に発展していたような…。
5月15日には、映画「トラック野郎シリーズ」でおなじみ、どんな原作だろうが細かなこだわりなどバッサリと切り捨て、わずか90分程度の面白映画に仕立ててしまう達人・鈴木則文監督が亡くなった(享年80)。仮に鈴木作品の「トラック野郎 突撃一番星」を小津安二郎が監督していたら?、「徳川セックス禁止令 色情大名」を黒澤明が監督していたら?、はたまた実写版「ドカベン」をジョージ・ルーカスが監督していたら…などと妄想するまでもなく、原作者と作画担当の相性による化学変化というものは想像以上に大きいのだ。
今回の福島問題をきっかけに「美味しんぼ」のハードヒットな作風に初めて気がつい
た人がいたとしたら、それは花咲氏のほんわかとした高い画力に、まんまと騙されていたってことだ(それは意外とダークなSF短編が多い藤子・F・不二雄作品にも当てはまる)。
「美味しんぼ」問題で渦中にある雁屋氏原作のアニメ作品は、大ブームを巻き起こした
「宇宙戦艦ヤマト」(昭和49年)と「機動戦士ガンダム」(昭和54年)の二大SF作品の狭間となる昭和51年に放送されたロボットアニメ「UFO戦士ダイアポロン」(原作タイトル「銀河戦士アポロン」)がある。
当時、火曜午後7時からTBSで放送されていたのだが、裏番組に「サザエさん(再)」(フジ)、「アクマイザー3」(テレビ朝日)という人気子供番組が控えていたためか? それほど人気は高くなかった。
放送は半年ほどで終わったが、驚くべきことに翌週の木曜午後7時から東京12チャンネルに局を移して「UFO戦士ダイアポロンⅡ」が放送スタート。一応、新シーンも加えた再編集版なのだが、ほぼそのまま前作が再放送されるという回も混在する不思議…。
人気アニメが本放送から数年後に東京12chにて再放送というケースは星の数ほど
存在した。だが放送終了の翌週から〝12ch行き〟となり、しかもほぼ再放送にも関わらず堂々と「Ⅱ」と表記。私的には今回の美味しんぼ騒動以上に、今も心にモヤモヤと引っかかる「雁屋作品の大きな謎」だったりする。