<2014年6月 東スポ携帯サイトより>
6月17日、米ニューヨークにおける競売で旧英領ギアナ(現在は「ガイアナ」と
表記)で1856年に使用された八角形の1セント切手が約950万ドル(約9億7千
万円)で落札されたというニュースが入ってきた。
紙片1枚が9億7千万…大雑把に10億円という超高額ぶりに対するビックリは
さておき「今は英領ギアナをガイアナと呼ぶ」ということに驚いた。英領ギアナの
歴史について詳しいワケではないが、昔から世界最高額の切手として有名な存
在だったし、そもそも切手収集の世界で「英領ギアナ」とは国名云々ではなく、こ
の切手その物を指していたものだ。
平成生まれの子供たちに、昭和時代に切手収集が少年たちの趣味の王様であ
ったことを説明しても、なかなか正しいニュアンスで伝わらない。趣味が多種多様
化しオタク文化が花盛りな現在からしても、かなり偏ったカルト的な趣味として受
け取られてしまう。
だが昭和50年代あたりまで、切手は古銭や酒瓶のフタ(通称・酒ブタ)など少年
たちが熱中する収集物の中でも、かなり高貴で投資的な意味合いまで持つ「趣味
の王様」と呼ばれていた。記念切手の発売日には郵便局に列ができ、切手収集専
門の雑誌が複数あり、切手を取り扱うためのピンセットは普通に街の文具店でも
売られていた。
小学校の教室でも、定期的に訪れる切手ブームの折には半数以上の男子は切
手収集に熱中していたし、私もご多聞に漏れず切手収集に精を出していたもの。
周囲がどんどん切手収集から脱落…いや飽きていくなか、雑誌「趣味の切手マガ
ジン」(あかしや出版)や「スタンプクラブ」 (日本郵趣出版)を毎月購入し、お年玉など臨時収入が入ると、やや背伸びして大人向けの「月刊郵趣」(日本郵趣出版)
を買ってみたり、ついには月刊では物足りなくなり、小学生ながら週刊の新聞形式
の「郵趣ウイークリー」まで購読し、今度は風景印の情報まで集め出す、かなりスト
ロングな切手少年になってしまった。
昨年のこと、自宅に届いた郵便物に昭和45年の大阪万博の記念切手が貼られ
ていたことに驚いた。そうしたら同じ週に全く別関係から届いた郵便物に今度は昭
和50年の沖縄海洋博の記念切手が貼られていた。同じ週に1970年代を代表する
国家イベントの記念切手が貼られてくるという偶然…。
別に今現在、熱心に切手を集めているワケではないが、元切手少年としては、記
念切手をそのまま封筒ごと捨てる気にもなれず、昔とった杵柄で切手部分のみを
切り抜き、ぬるま湯に浸してはがし、新聞紙の上で乾かして「使用済み記念切手」と
して保存した次第。
現在も発行されている切手のカタログには未使用の価格と使用済みの価格が記
されており、少年たちは、このカタログで切手の〝値打ち〟を熱心に調べたもの。
当然、使用済み切手は未使用よりも価値が下がる。
そんな〝価値のある切手界〟の王様、両巨頭的存在は「見返り美人」(昭和23年
発行)や「月に雁」(昭和24年発行)。昭和50年代当時ですら、1万円程度の高額価
格で売買されていたが、現在、これらの切手をヤフオク等で検索してみると、わずか
に5000円にも満たない価格で売買されているではないか? 大暴落!
切手をピンセットで取り扱うことの理由に対して「この記念切手は将来、何倍もの
値打ちがつく。だから指紋なんかをつけてはいかん!」なんて説明を聞かされたは
ずだ。
ところが21世紀には何倍もの値打ちがついているハズの記念切手たちは現在、
ほぼ原価に近いような値段で売買されていたりする。そりゃもう、わざわざ売りに出
すより「郵便物に貼る」という本来の至極まっとうな使用法で使った方が良いに決ま
っている。
我が家に届いた郵便物に大阪万博や沖縄海洋博の記念切手が貼られていたの
も、ある意味当然の行いだったのだ。