青い髪のブルー
青い髪の少女、名前はブルー。
彼女は、上位職業の一つである『精霊術師』だった。
サービス開始のころからプレイしているとかで、さっき四苦八苦しながら見たステータスも凄いことになっていた。……やたら料理スキルのレベルが高かったのは、なぜだろうか。
ともかく、彼女の実力はとても高い。スキルレベルだって結構な数値だ。
だからこそ、あの光景の理由がいまいち理解できなかった。どうもいうことを聞かないから切り捨てた感じだけど、たったそれだけのことで追い出すほどブルーは弱くないのに。
「あの、さっきのあれは……」
「あれは……意見と方向性の違い、なのだ」
そんなミュージシャンかアイドルグループの解散みたいな、と思ったけど、黙る。
たぶん、いろいろあったんだろう。
ギルドなんて入ったこともない僕には、さっぱりわからないようなことが。そしてブルーはギルドを除名されて、一人になってしまった。その結果だけ把握しておけばいいと思った。
「ところで、君もどこかのギルドから叩きだされたのか?」
「いや、僕は始めたばかりで……って、叩きだされるって、どういう」
「生産職特化のプレイヤーやレベルの低いプレイヤーが、ギルドから除名処分をされているという話を聞いたのだ。レーネは特に生産職が多い都市であるから、ご覧の有り様なのだ」
「そんなことが……」
「ギルドの人数にはレベルに合わせて上限があるから、しかたがない。ましてや生産スキルにポイントを振る生産職のプレイヤーは、どうしても戦闘能力も下がってしまうのだ。こんな状態では初心者の育成もままならない。過去のどんなアップデートでも見ないことなのだ」
やれやれ、と言うように肩をすくめ首を左右に振ったブルー。
そういえばそんな話を聞いたけれど、ギルドは作るのではなく入る側だと思っていたから流してしまった気がする。まさかそもそも『入れそうにない』とは思わなかったなぁ……。
入れない、と断ずるのはこの段階では早いかもしれない。
だけどいうことを聞かないというだけで、こんなにもレベルが高くてスキルも充実しているブルーさえ切り捨てられるなら、僕なんかは最初から目も向けられなさそうだ。
彼女はまだどうにかなりそうだけど、僕はどうすればいいんだろう。
そう思うと、さすがに不安になってきた。
ブルーがいなければ、もしかすると周囲に混じって嘆いていたかもしれない。
そんな僕の心を救うように、その上で追い打ちを掛けるようにブルーが口を開く。彼女はどうも僕のステータスを見ていたらしく、その上で――予想はつくけど気になったようで。
「ところでこの、『語り部』とは……」
「あー、えっと」
できるだけわかりやすく簡潔に説明する。
企画で先行配信された新規職業であること、だけどいろいろと未実装すぎてぶっちゃけ何もできないこと、ついでに見ての通りサブ職業はマゾ御用達の『召喚術師』であること。
言い終わった後、ブルーにはかわいそうなものを見る目を向けられました。
■ □ ■
薄灰色の石畳と、白い壁や、柔らかい色味の木材。暖かそうな橙色の瓦屋根。良くも悪くも綺麗に整えられた街中を、僕と彼女は進んでいく。横目に、未だ混乱した冒険者を眺めつつ。
町の中央近い場所の広場、そこに面するある店に、ブルーはすたすたと入った。
「とりあえず、ここなら集まりやすいのだ」
「ここは……」
外観に合わせつつ、緑色も使った喫茶店。
適当な椅子に座ったブルーは、適当に注文をしていく。
僕のぶんも強制的に。
彼女の呼びかけにも生返事で、外を眺めていたのだから自業自得だ。
この辺まで来ると突然の悲劇に絶賛絶望中のプレイヤー、この世界の言葉でいうところの冒険者はいない。いても同じようにひとまず喫茶店に入り、お茶を飲んでいるぐらいだ。
なお、その表情が沈痛なものであることは、あえて認識するまでもない。
元のゲームは物件を持つことができる。
それは個人単位だったり、あるいはギルド単位だったり。
この帝国にはいくつか都市があって、例えばこのレーネなんかは農業中心のドのつくような田舎だ。大通り以外なら初級プレイヤーでも買えるし、大通りでもそう高くはないとか。
そんな感じに、土地を購入してそこに家を立てているプレイヤーは少なくない。
ギルド単位で所有して、たまり場にしたりとかもあるとのこと。そういう場所を持っているような中堅以上のギルドのメンバーなどは、おそらくそこに集まっているだろうという。
アイスティーを頼んだブルーは、それを飲み。
「何がどうなっているかわからない現状、ひとまず現状の情報収集なのだ」
「そっか……」
「こうしてメニューが見れるのは、正直ありがたいのだ……っと」
手元に表示した画面に触れていたブルーが、失礼、と一言入れる。どうやら文字チャットでも飛んできたのだろう。軽い音を立てて出現したキーボードを、かたかたと操作する。
彼女は情報収集として、巻き込まれた知人と連絡をとっているところだ。
表情は明るくないから……あまり、いい感じではないのだろう。
「他のところでも、わたし達と同じような感じなのだ」
「じゃあ……」
ん、とブルーは頷いて。
「追い出されている生産職プレイヤーや、初心者プレイヤーが多いのだ。とりあえずわたしと同じように所属ギルドを外された知り合いが近くにいるから、全員こっちに呼んだのだ」
情報をもっと集めねばー、とブルーは再びキーボードを操作する。
それを見つめ、僕は少しぬるくなったコーヒーをすすり、ため息を抑えた。
彼女はこんなに頑張っているのに、僕は何もできないんだ。初心者の上に役立たずで、こうして話し相手にしかならない。話し相手になっているのかも不明だ。
僕はこの世界の知識が最低限しかない、いや、最低限もないかもしれない。だから当然のことを知らない可能性だってある。彼女にいつか迷惑をかけてしまう、そんな気がして。
あぁ、本当にどうすればいいんだろう。
こんな世界にこんな状態で、僕は生きていけるのかな……。
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