騙されて不遇職
西洋風の世界観に、東洋風を足したような設定。
だいたい日本みたいな、だけど違う世界。
そういう説明が一番しっくりくるような異世界と、そこにあるヴェラ・ニ・ア帝国という国を舞台にしたごく普通のネットゲームが、それなりにブームになって一年ほど経った。
それに幼馴染でもある友人がハマっていた、ということ。
それが僕にとって、すべての始まりになったと思う。
ある日、そのゲームの公式サイトが、ゲーム世界を舞台にした掌編小説を募集した。内容はなんでもいい、冒険中でも、NPCとの交流でも。メイン、あるいはサブイベントの別視点なんていう類でなければ、各種物語に関係する話でもいい――そんなルールの、企画だった。
友人は、その企画で数十人出される『優秀賞』の付属品、先行配信の新規職業というものに就きたがった。彼いわく、先行職業は基本的に優遇されているのだそうだ、いろいろと。
だけど彼は生まれてこの方、小説なんて書いたことがない。
しかしまだ見ぬ新規職業への夢は捨てられない。
そこで国語の成績がいい、僕が作品を書くことになった。
僕自身はゲームをしていない。
だから本来は参加する資格なんてない。
だけど友人がどうしても、と必死に頼むので。
ムリだろうけど、と前置きして一つ書き上げて送ったのだ。
その後を簡単に言うなら、僕の作品は優秀賞の隅っこに引っかかった。ちなみに書いたのはもの作りをするプレイヤーと、周囲の人々の交流。そのとある一日を切り取ったような内容。
このゲームは、そんなプレイスタイルもできるほど自由度があるという。僕は戦ったりとかいうRPG要素にはあまり興味がなくて、むしろ生産職プレイの方に興味を惹かれた。
畑で食べ物を育て、料理をし、それを食べたり売ったり。
そんなプレイをしてみたいなぁ、なんて思って、書いてみたのだ。
後日、届いたのは新規職業につくためのシリアルコード。
ここまでは、きっといい話だったのだろうと思う。
僕は楽しく文字を綴って、彼は念願の先行配信を手に入れることができた。
問題は――ただひとつ。
いざ蓋を開ければ、それがとんでもない『地雷職業』だったことだ。
それには、上位互換とも言えるものがあった。
固有の技能はほとんど無い。
レアなアイテムとそれなりのお金で覚えていくスキル関係は、以外にも初期から揃っていて恵まれているように思えるけど、そのほとんどが生産系――つまり、非戦闘用。
さらに素のステータスをレベルに応じて伸ばしたり減らしたりする周辺の設定も、早さが多少秀でているだけで、後はもう下方修正されていないだけマシじゃないかっていう塩梅。
当然というか、友人はやっぱそれはいらないやと言った。
きっと、凄い職業が追加される、と思ったのだろう。
彼からすると肩透かし、がっかり感がすごかったに違いない。
こうして、件のシリアルコードは僕の手元に残されることになった。
何も知らない僕はもったいないな、と思った。そこで、友人に一応断ってから自分で使うことにした。彼はなぜか笑いながら、サブにはこれを使えばいいと一つの職業の名前をあげて僕にアドバイスをくれた。がんばれよ、と彼が告げた言葉の意味は、後で知る。
それから僕はアカウントをとって、シリアルコードを入力。それによりアンロックされた職業をメインにし、友人におすすめされた職業をサブに設定してゲームスタート。
こうして面白そうな異世界に旅だった僕だけど、この頃は知らなかった。
友人はいらないとしか言わなくて、僕は何も調べないままで。
だからコードでアンロックされる職業の性能が素人目にもとんでもないものだったなんて当然僕は知らないし、サブに選んだ職業がマゾ専用と言われているなんてことも知らなくて。
さらに悪いことはいろいろと重なるもので、直後に大事件が起きる。
それは――この世界に飛ばされてしまったというもの。
ゲームで設定したままの容姿、育てたままのステータスと職業。
手に入れた荷物、装備。
ただ、画面をクリックするだけのゲームが、いきなり現実になってしまったのだ。
その瞬間だって、僕は普通にゲームを始めたばかりだったはず。いっそ作りなおしてしまおうと思って、メニュー画面を立ち上げて。……で、気づいたらこんなことになっていた。
見知らぬけれど、見知った町。
阿鼻叫喚が響く広場に、僕はわりとダサい初期装備のまま立ち尽くしていた。
「あれ……お前」
と、そこに声をかけられる。振り返ると見知らぬ青年。
しばらくして、その声が聞き慣れた友人のものだと僕は気づいた。
顔をよく見れば、友人そのもの――ではないけど面影がある。キャラメイク時にあんな顔はなかったはずだから、もしかすると『この世界』に来た時にそうなったのかもしれない。
よぉ、と片手を上げて近寄ってくる友人。彼はかなりやり込んでいるから装備などの身なりも立派で、以前聞いた話によるとそれなりの規模のキルドで幹部職についているのだという。
どうやら彼やその仲間も巻き込まれたらしい、この謎の現象に。
改めて夢ではないんだな、と確認していた僕は、気づく。
しげしげと、友人が僕のステータスを表示して見ていることに。
その目が、あからさまに憐れむような色を、しているということに。
「お前、マジでそれにしたんだな」
「えっと、オススメって言われたし……」
「いや、そんなのバカ正直に信じるのがどうかしてるぜ?」
ばっかじゃねぇの、と笑いながら彼は仲間と去っていった。少しは攻略サイト調べろよというごもっともな彼の言葉に、僕は今もいい反論が思いつかないでいる。
こうして僕は、無力そのものな『語り部』になってしまった。
しかも下積みがあまりにも過酷で、ゲームのサービス開始前後に始めた古参のプレイヤーでさえ極めたものがいない、その前に転職してしまうという『召喚術師』をサブにつけた。
どうしようもない、まさにお荷物のような状態の。
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