“自転車革命都市”ロンドン便り<6>ワイヤー錠はロックのうちに入らず 自転車泥棒“先進国”の傾向と対策
毎年、盗難届が出されているものだけでおよそ2万台もの自転車が盗まれているロンドン。安価なママチャリがない=中古価格がしっかりしている上、昨今の自転車ブームで転売しやすいため、換金目的の盗難があとをたちません。一昔前までは「飲んだ帰りの足として失敬」系の自転車盗難が多かった日本も、自転車ブームで高級スポーツ車が狙われることが増えてきています。“盗難先進国”(誇れることではないけれど!)の傾向と対策をご紹介します。
固定構造物に自転車をくくりつけること
自転車好きな日本の人がイギリスでまず驚くのは、イギリスの自転車にはまずほとんどスタンドがついていないということです。自転車から離れるときはどこかにくくりつけておかないと盗られてしまう可能性があるので、自転車が自立できる必要がない…とも言えます。日本のようなアスファルトを敷いただけの平場が自転車置場として提供されることはなく、常に金属製のラックが提供されます。
多くは伏せたコの字のような形状で、地面にしっかりと固定された分厚い金属製。これに自転車を立てかけつつ、チェーンやDロックのアームを通して施錠します。
自転車泥棒は換金できると見ればホイールやサドルだけでも持っていきます。そのあまりの多さに、ロンドン警察やロンドン市が共同で「フレームとホイールを前後2カ所でスタンドへロックしましょう」啓蒙キャンペーンを広げているほど。
フレームやホイールを地面などに固定された頑丈な構造物にロックでくくりつけるのがよい、ということまでは、日本でもそろそろ常識になりつつあると思いますが、ロンドンはここからがスゴイ(繰り返しますが、誇れることではありませんけど!)。
軽量バイクオーナーが抱えるパラドックス
日本で多くの人が使っているビニールコーティングされたワイヤー錠のほとんどは、ロックのうちに入りません。とくにワイヤー錠は100円ショップ級のプライヤーなどでも簡単に切れてしまうからです。コンビニで買い物をする5分程度なら「ないよりまし」、くらいの防護力でしょうか。
チェーンは針金を束ねたワイヤーよりは上ですが、これもチェーン断面が細いものや金属がチープなものはイギリスの自転車泥棒が愛用しているとされる柄の長いボルトカッターを使うと一瞬で切れてしまうとか。本屋さんで立ち読みして戻ったら、もうそこに愛車の姿はないかも…。
かなり太めのチェーンか太めのDロックで、それも破壊されにくい設計をされていて評判のいいブランドのロックでないと、カフェで心穏やかにお茶をすすることもできないのがロンドンの現実なのです。お金をためてがんばって軽量な高級自転車を買うほどに、自転車ロックは重くなっていくというパラドックスに苦しむのもまた、ロンドンの現実。
将来はクラウドで盗難自転車を追跡!?
わたし自身は防御力中程度のチェーンロック、Dロック、防御力“高”の2kgもある高級Dロック、太めワイヤーなどを揃えていて、目的地の環境や駐輪時間、時刻を考慮してその日のロックを選んでいます。ただ、いまいちばん頑丈なロックのひとつとされる米国ブランドのクリプトナイト、「ニューヨークロック」でも、そこそこの電動ノコギリがあれば4分ほどで切れてしまうらしいので、自転車のロックに万全というものはないということのようです。間違っても路上に一晩置きっぱなしにはしません。
強力なロックを手に入れる以外にも、わざと汚らしく見せかけて駐輪しておくこともあります。またピッキングされにくいように錠部分を手の届きにくいほうに向ける、くさびなどで叩き切られにくいようにチェーンは地面に接触しないようにするといった細かな秘訣も警察などから推奨されています(英語でのチラシイメージをご覧になりたい方はこちらへ)。
そしてこれから広がっていきそうなのが、ネット上に自転車のフレーム番号や写真を登録したり、ICタグをシートチューブ内に投入しておく方法。登録情報を調べればオーナーが判明するようにしておき、転売をしにくくするのです。
さらに今後は、Bluetoothで微細な電波を出し、同じスマホアプリを使っている人が近くを通ると自転車の位置がオンラインの地図に出るクラウドを利用した商品も出るようなので、要注目です。
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前回の連載で予告をしていたチャリティーライド「Manchester to London」(マンロン350)ですが、おかげさまで352kmを無事走り切ることができました!
タイムは15時間38分。タンデムでの経験不足からたいへんな“お尻痛”に苦しみ抜いた1日でしたが、大きなことをやりとげた満足感をたっぷり味わえました。今回のチャリティは、参加者が集めた総額でなんとすでに1800万円を超え、まだ伸び続けているそうです。そういった意味でも充実したイベント参加になりました。
(文・写真 青木陽子 / Yoko Aoki )
ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。