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【スポーツ】

<首都スポ>不屈の卓球ボクサー 左之介「日本王座に返り咲く」

2014年9月12日 紙面から

電気工事士の問題集で勉強に励む“卓球ボクサー”の佐々木左之介=東京都内の病院で(竹下陽二撮影)

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 “不屈の卓球ボクサー”元日本ミドル級王者佐々木左之介(27)=ワタナベ=が度重なる悲劇にめげず、復活を目指している。卓球一筋だった左之介は大学3年でボクシングに転向。大番狂わせで日本ミドル級王座に登り詰めたが昨年2月、王座陥落後は運勢急降下。北京五輪ミドル級王者村田諒太のプロテストで引き立て役となり、その後目の疾患が発覚。さらに今年8月の復活戦を目前にした7月、東京都内で青信号を横断中に車にひかれて重傷と、悲劇のデパート状態。それでも悲壮感はない。決してめげない男、左之介は何を思うか? 本人に会ってきた。(竹下陽二) 

 【七夕の悲劇】

 とんだ七夕だった。東京・五反田のジムで練習を終えた左之介は、青信号の横断歩道を小走りで渡ろうとしていた。と、次の瞬間、ものすごい衝撃でぶつかってきた物体があった。青信号で左折してきた乗用車だ。のちに、左足首開放骨折、左すね骨折で全治3カ月の重傷と判明するのだが、路上でKOされた左之介は骨がむき出しになった左足首を見ながら「皮膚を縫ったら治るな。復帰戦に間に合う」とノンキなことを考えていた。

 左目負傷で昨年6月よりリングから遠ざかっていた。それも癒え、8月18日に復帰戦が決まっていた。復活の日に備え、練習に明け暮れる日々だったが、この瞬間、全てが振り出しに戻った。

 【神が降りた日】

 左之介がボクシング界に衝撃を与えたのは、2012年10月8日のミドル級タイトルマッチ。下馬評では日本4階級制覇王者、湯場忠志が圧倒的有利だったが、KOで王座奪取。プロ12戦目。神が降りたかのような大大大番狂わせ。時の人になり、「卓球ボクサー」としてマスコミに取り上げられた。

 卓球一家に育った。左之介はリングネームで、本名は卓球から取った「卓也」。中学、高校と全日本大会で活躍したが、日大時代に卓球部の監督と意見が合わず退部。ボクシングに興味を持って、ワタナベジムの門をたたいた。そこから波乱の人生が始まった。

 思えば、ミドル級王座奪取時が、ボクシング人生のピークだった。翌13年2月11日、初防衛戦で6回TKO負け。2カ月後には、北京五輪金メダリスト村田諒太のプロテストの相手役に指名された。プロの洗礼どころか、金メダリストにボコボコにされる元日本王者としてゴールデンタイムの全国放映で流された。

 【天国から地獄】

 その後、練習中に10キロ以上も重い選手との無謀なスパーリングで左目負傷。しかし、それをひた隠し、6月21日の試合に出場してこじらせた。左目下半分の視界がなくなった時点で病院に駆け込み、網膜剥離の診断−。

 ボクサーにとって死の宣告にも等しい。全身麻酔で手術を受け、復位した網膜がはがれないようにするため、2週間うつむいたままの生活を強いられた。不自由な入院生活も乗り切ったかと思えた3カ月後、白内障を発症し、人工レンズ挿入手術。そんなこんなで1年以上のブランク。やっとリングに戻れるところまできて起きた路上の惨劇。足が折れた瞬間、心も折れなかったか?

 「こんなこと言うとなんですが、いい休養になったかなと。記者さんが、悲痛な思いで復活を目指す元ミドル級王者という絵を描いてるとしたら、期待に応えられません。そういう物語性はありせんから。アハハハ」

 そう言って、アッケラカンと笑うのだ。

 【折れない心】

 病室をのぞくと、電気工事士の問題集が机に置いてあった。引退して、電気工事士になるのか? いや、違う。プロボクサーといえど、世界王者以外はボクシングで食えない。左之介もジムや卓球教室のインストラクター、機械修理などのバイトで食いつないできた。しかし、“悲劇のデパート”になりながらも、引退を考えたことは一度もない。

 不屈の卓球ボクサーは独特な持論を唱えた。

 「短距離走でボルトには勝てない。身体能力はどうしようもない。でも、卓球やボクシングには、駆け引きがある。頭で補える。それが、卓球とボクシングの共通点。イケメンだけが女の子を口説けるのか? ぶさいくにはぶさいくなりの戦術がある。1回やって、村田さんにも勝てる。村田さんは右ストレートに絶対の自信を持っている。逆に言えば、右ストが当たらなければ、焦る。そこです。狙い目は。ムフフ。日本王座に返り咲きます。でも、それが、ボクのピークじゃない!」

 この男の辞書に悲運の文字はない。左之介は今日もリハビリに向かう。諦めなければ、あの日のように、再び神が舞い降りる日がやってくる、そう信じて−。

    ◇

 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」面がトーチュウに誕生。連日、最終面で展開中

 

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