ファミマ社員、加盟店への犯罪行為発覚 集会で説明求める店長を社員が囲み強制退場

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 大阪府茨木市内のコンビニエンスストア・ファミリーマート店長を脅し、店で売っているたばこ6カートン(2万6700円相当)を脅し取ったとして9月9日、39歳の男性らが恐喝の疑いで大阪府警に逮捕された。容疑者は店長たちを店内で土下座させる動画をインターネットに投稿したとされ、騒ぎになっていた。

 その事件で被害に遭った店長たちが土下座をさせられた8日、東京国際フォーラム(千代田区)でファミリーマートの店長集会が開かれた。この集会は、2014年度下期の商戦に向けて本部が方針を説明し士気を高める場。関東地区の加盟店主ら4000人を前に中山勇社長は、テニスの全米オープンで活躍中した錦織圭選手を引き合いに、こう宣言した。

「ファミリーマートは本気で勝ちに行く。錦織選手がジョコビッチをやっつけたのは、われわれがナンバー1のチェーン(セブン-イレブン)をやっつけたのと同じであります。本部が(ローソンを抜いて)2番目になる前に、みなさま個店個店が地域でナンバー1になることは可能です。そうなるよう、私は(錦織選手のコーチ)マイケル・チャンになったつもりで(加盟店を)ご支援させていただきますので、何卒よろしくお願いします」

 この時ばかりは参加者から大きな拍手が起きたが、この部分以外の中山社長の話は「厳しい戦況」を告白する内容だった。参加した店主が明かす。

「中山社長は、消費税が上がってから既存店の売り上げが前年同期比でプラスになったことがないと打ち明け、物価の下ブレや小売業全体の不振など、『不透明な経営環境』を強調していました。また、秘策や特効薬はないとも言っていました」

 秘策のかわりに中山社長が説いたのは、「商品の品質とお店の品質を上げること」。売り場改革で導入した新什器の活用やストアスタッフ(店員)の人材育成、全員参加の店舗運営にも触れたが、参加者が驚いたのは、本部の社長が加盟店に謝罪するという前代未聞の事態だった。

●異例の謝罪


 関係者の話を総合すると、店長集会の冒頭で中山社長は以下のような内容を語ったという。

「本部のほうでは2つ大きな案件が起こりました。1つはコンプライアンス案件、もう1つは食品安全に関わる案件です。まず1つ目のコンプライアンス案件ですが、当社のスーパーバイザー(SV)による不祥事です。自ら担当する加盟店さんの商品、現金などを不正に取得したというあるまじき行為が起こりました。後ほど(高田基生)営業本部長から、本件の説明と今後の再発防止策、高い倫理観を持ってこのようなことが2度と起こらないようにコンプライアンス体制を敷くことをご説明させていただきます。まことに申し訳ございませんでした」
 
 2つ目の案件とは、7月に発覚した中国期限切れ鶏肉事件をめぐり一部商品が一時販売停止に追いやられた件だが、1つ目のコンプライアンス案件とは、ファミリーマート本部の社員で加盟店を指導するSV(東京・多摩地区担当)が、加盟店からクオカードを窃取し、伝票操作によって隠していたという事件だ(8月17日付当サイト記事『ファミマ社員、加盟店への犯罪行為でずさん管理体制露呈 公表しない本部に加盟店が反発』)。内部文書によると、被害に遭ったのは6店で被害総額は55万9000円とされるが、「もっと多いはずだ」(加盟店主)との見方もある。

「報道後、本部は『社長が(マスコミ記者の)ぶら下がりに話したから、説明責任は果たした』と開き直っていましたが、『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社/9月6日号)でも報じられ、加盟店主からの質問状も届くなか、このままでは収まらないと判断したようです」(ファミリーマート関係者)

 コンビニ本部と加盟店の関係は、建前上では「対等」でも実際には「王様と奴隷くらいの差がある」(別のチェーンの店主)とされる。加盟店が本部から始末書を取られるのは日常茶飯だが、本部のトップが加盟店に頭を下げたのは「これまで聞いたこともない」とファミリーマート関係者は口を揃える。

●説明求める被害者店長を強制退場させる


 もっとも、大株主の伊藤忠からファミリーマート社長に転じた中山氏は潔く頭を下げた一方、具体的な説明に当たった高田営業本部長の説明は抽象的で、参加した加盟店主は「被害にあった加盟店主が質問をしたら、本部社員が取り囲み退場させてしまいました。一方的なやり方で残念です」と落胆する。

 筆者の取材に対しファミリーマートは、「店長集会を開催したのは事実だが、弊社の加盟店向けのものなので、内容は一切公開していない。会の中でどういうことがあったかも言えない。当該SVは規定にもとづき人事処分したが、処分の内容も言えない」(広報グループ)との回答を寄せた。

 個人の能力をいかに引き出すかをテーマに、中山社長は以前、こんなことを語っている。

「私の場合……メッセージを正確に受け取っていただくために、何よりも信頼関係を大切にしています。その信頼関係を築くために、『嘘をつかない』『約束を守る』ということを徹底しています。これは、お客様や社会に対して貫きたい姿勢でもあります」(ファミリーマートHPに掲載された6月18日付対談記事)。

 質問した店主を店長集会から無理やり追い出すようなやり方をし、「お客様や社会に対して」は沈黙を続けたままで、中山社長が謝罪に込めたメッセージは「正確に受け取っていただ」けるのだろうか。
(文=北健一/ジャーナリスト)