時々おもしろい、が秘訣。コンテンツ作りの極意を糸井重里さんに聞いてみた
前号に続く「コンテンツマーケティング」特集第2弾は、その先駆けともいえる糸井重里氏にインタビュー。糸井氏が主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞(以下、ほぼ日)」は、1998年に創刊してから16年間、毎日更新を続け、現在でも1日10万人以上の人が見ている人気サイト。「コンテンツ」を作る秘訣を聞きました。
決まった形はない
-「ほぼ日」は今注目されている「コンテンツマーケティング」の先駆けといえるのではないでしょうか?
「コンテンツマーケティング」をやっているというつもりはないんです。でも面白いモノや時間がやり取りされるのが一番楽しいと思っています。ぼくは、コンテンツを「出し物」とか「演目」と、仮の翻訳で言い換えています。つまりアイディアや情報を伝えるためなら、なんでもいいということです。読み物も商品もイベントなんかも、ぜんぶコンテンツ。形にはこだわらない。芝居の後にまんじゅうが出てくるかもしれない、みたいな。それってすごく大事な考え方ですよね。
「動機」は弱まったり変化したりする
-企画や仕事は「動機」を起点にしながら「実行」「(アイディアやコンテンツを一緒に楽しむ)集合」の3つを回していくと、よくお話されていますよね。
中でも一番重要なのは「動機」。でも、動機も弱まったり飽きたり変化するのが人間なので、その弱さを最初から知っていてやるかというのが結構大事。例えば東北の震災の応援でいうと、あのとき個人も企業も被災地に支援にいったけど、「終わる」という予感があったんじゃないかな、どこかで自分たちは手をひくって。でも一部の企業は「どう続けるか」を最初の時点で考えていた。動機が「助けたい」の人は続くし、「やんなきゃな」の人は続かないですよね。だから、その活動を続けるためには、動機が一番大事なんです。
-最近糸井さんが注力しているコンテンツは?
今年の5月に「ミグノンプラン」という、保護動物の「譲渡のお店」を北参道に作るお手伝いをしました。動物病院と動物の美容室やグッズショップが一緒になっていて、きれいなペットショップみたいになっています。保護された動物を引き取るにも、新しい家族に引き渡すにも医療が必要という点と、動物シェルターに抱きがちなイメージを変えたくて、都会にあるおしゃれな「お店」というコンテンツを作りました。
元々、犬も猫も大好きだけど、社会的活動に対しては警戒心をもっていたんです。熱心さとヒステリックは本当は違うものなのに、一緒に見えることがある。良いことをしているんだから協力するべきだみたいな、そういうのが嫌で。そんな中、動物愛護活動をしている友森さん(ランコントレ・ミグノン代表)と出会ったのですが、彼女自身もそこに集まる人も動物もおもしろい。無理強いもしない「断られ上手」だし。この人のやりかたは完全に応援できるなと、自分の中で納得がいったんです。
それで昔の自分に読ませたいコンテンツがつくれると思い、ほぼ日で対談をしたんですが、そこで友森さんと自分の動機が重なって「ミグノンプラン」を作ることに。9月16日には動物愛護週間にちなんで渋谷で「いぬねこなかまフェス」というイベントもやります。動物が好きなアーティストによるコンサートや朗読とかをやるんですが、動物愛護っていう言葉のイメージを変えるような、気軽に参加できるコンテンツにしたいと思っています。
糸井重里氏をはじめ、さまざまなジャンルの人々が集まり、動物を愛するアーティストによるコンサート、そして朗読やパフォーマンスのほか、獣医師によるセミナー、動物愛護にまつわるディスカッションなどが行われる予定。収益は殺処分を少しでも減らすため、行政施設よりミグノンへやってくる動物たちの養育費となる。
◆イベント概要◆
日時:9月16日(火)18:30開演
場所:渋谷公会堂
チケット:全席指定 ¥3,800(税込)
主催:ミグノンプラン
後援:ほぼ日刊イトイ新聞
お問合わせ:DISK GARAGE:050-5533-0888 (平日12:00~19:00)
北参道に5月にオープンした「ミグノンプラン」
「転がる」のが良いコンテンツ
-糸井さんにとって良いコンテンツとは?
「転がる」という言いかたをよくするんですが、自分ひとりでずーっとやろうと思っていてもダメなんです。「私もやりたい!」って、他の人が入ったときに違った方向に転がっていくみたいに、自分の手を離れていろんな方向に転がっていく雪だるまのような企画が一番やるべき、いいコンテンツなんです。ミグノンプランでいえば、「ボランティアをするとモテる」と思って、ここのボランティアに参加する人がいたとします。それでオッケーなんです。主催者の理念を全部理解してくれる人じゃないとダメ、というのは転がらない発想なんです。
-最後に、コンテンツを作り続ける秘訣は?
話していてわかったのですが、やっぱり正直になることじゃないかな。ぼくも自信たっぷりでやっているわけではないんです。弱さとか、飽きっぽさもあるし。でもなんで正直になれるのかというと、自分たちが制作者でありクライアントでもあるから100点じゃなくてもいいんです。でもクライアントに売りに行く場合は「65点なんですが買ってください」とは言えないじゃないですか。そこで嘘をつくと自分たちの寿命を縮めてしまうんじゃないかと。友達選ぶときに「こうやると好かれるから、私はこんなにいいことしてる」って狙ってやっている人がいたら嫌ですよね?だから全部正直に言って、トータルでみて「ずっと見てたらあいつら時々おもしろいよね」と言われるだけで結構長続きするんです。
■糸井重里氏プロフィール
コピーライター、エッセイスト、作詞家など多彩な分野で活躍。1998年に開設したウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は、1日10万以上の読者を抱え、ほぼ日手帳をはじめとする物販なども展開している。2012年には、独自の価値観を生み出すユニークな企業運営が評価され、株式会社東京糸井重里事務所としてポーター賞を受賞。
****
「コンテンツ」という言葉を聞くと、派手なものやおもしろいものが良いコンテンツと思いがちですが、「どんな形か」だけではなく、それで何を伝えたいかという「動機」が重要だと改めて気付かされました。特にコンテンツマーケティングは継続が大切ですが、一方で個々のコンテンツの評価に左右されたり、運営者の疲弊など"続けること"の難しさもある。形は柔軟に変化させながらも、根底にある「動機」を見失わずに、「時々おもしろい」を目標にしていくことが続けていくポイントなのではないだろうか。
(原稿:タケウチ、オオモリ、イマニシ)
(2014年9月11日「週刊?!イザワの目」より転載)
'DIGITAL BOARDさんをTwitterでフォローする: www.twitter.com/DentsuPR