扇動者よりも助言者になりたい-寡黙で辛抱強い物言う株主
9月12日(ブルームバーグ):ジェフリー・ユーベン氏は物言う株主(アクティビスト)として米マイクロソフトの幹部人事に関与したほか、同氏率いるバリューアクト・キャピタル・マネジメントはカナダのバリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナル を企業買収路線へと方向転換させた。バリアントは今年、投資家のビル・アックマン氏と共同で米医薬品メーカー、アラガンに敵対的買収を仕掛けた。
バリューアクトの運用資金は140億ドル(約1兆5000億円)と、アクティビスト・ヘッジファンドの中では有数の規模を誇る。しかし、バリューアクトを率いるユーベン氏(53)は声を荒げるどころか口数の少ない寡黙(かもく)な性格で、穏やかなやり方を好むという。「世界で最も影響力のある50人」を取り上げたブルームバーグ・マーケッツ誌10月特集号が報じている。
ユーベン氏はニューヨークのセントラルパークを見渡すレストランで朝食を取りながら、「こちらからあれこれ口を出すのではなく、専門的アドバイスを求められて取締役会に迎え入れられるような評価を確立するのが私の目標だ」と語った。
バリューアクトの最高経営責任者(CEO)と最高投資責任者(CIO)を兼任するユーベン氏はこの14年間、世界的に注目を集めた再編や企業の合併・買収(M&A)の幾つかで目立たぬ仕掛け人を演じてきた。米サラ・リーの紅茶・コーヒー部門のスピンオフ(分離・独立)と再編、英ロイター・グループのカナダのトムソンへの身売り、米ガードナー・デンバーのKKRへの売却などだ。ユーベン氏が2000年にバリューアクトを共同で創業して以来、改革を求めた企業は75社。同氏はまた、マーサ・スチュアート氏が10年前に起訴された後、マーサ・スチュアート・リビング・オムニメディアの会長として指揮を執った。
中傷せずバリューアクトによれば、同社が投資家のためにこれまで生み出した粗利益は約110億ドルに達する。この間の年率ネットリターンは平均17%。ターゲット企業を公然と中傷することはめったになく、乗っ取り屋だと非難されるケースはまれだ。委任状争奪戦も06年のコンピューターサービス企業のアクショムを最後に行っていない。
アクティビストに関する情報を収集するヘッジファンド・ソリューションズ(ペンシルベニア州ドイルスタウン)を率いるダミエン・パク氏は、バリューアクトの「実績は見事で、信頼性も高い。利用できる資金も多い」と述べ、「大半の投資家、特にアクティビスト株主の間で羨望(せんぼう)の的だ」と語る。
ヘッジファンド・リサーチ(シカゴ)のデータによれば、アクティビストが運用する資金額は5年間で約3倍となった後、今年前半に94億ドル増えて1112億ドルに達した。13年にアクティビストの標的とされた企業は369社と、前年を12%上回った。今月5日までに狙われた企業は297社。そしてアクティビストは成果を挙げている。昨年、ターゲットとされた米上場企業83社の株式に投資した13Dアクティビスト・ファンドのリターンは33%と、S&P500種株価指数の30%を上回った。今年も今月9日終値時点でS&P500種の8%に対し、13Dファンドは12%となっている。
ひたすら価値を創造13Dファンドとアクティビストの活動を追跡調査するウェブサイト、13Dモニターを率いるケン・スクワイアー氏は「優れたアクティビストが優良企業の取締役となり、何年も取締役を続けながら価値を生み出す時にリターンは最も高くなる」と説明。「バリューアクトは功績が誰のものになろうと気にせず、派手なプレーをする必要がない。ひたすら価値の創造を目指している」と指摘した。
バリューアクトは標的とした企業と長く関わろうとしており、取締役を派遣することもしばしばだ。しかしユーベン氏は、パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントのアックマン氏や、乗っ取り屋からアクティビストに転身したカール・アイカーン氏とは対照的に、スポットライトを可能な限り避けようとしている。
バリューアクトはこのところ、今年最も論議を呼んでいる案件の1つ、バリアントとビル・アックマン氏によるアラガンへの敵対的買収案に関わっている。
バリアントはバリューアクトが出資した06年半ばの時点では小さな試験薬開発会社にすぎなかった。ユーベン氏の片腕、バリューアクトのモーフィット社長は07年にバリアントの取締役に就任。両氏の助力によりバリアントはマイク・ピアソン氏をCEOに迎え入れた。その後、100回を超えるM&Aを通じて3人はバリアントを時価総額400億ドルの企業へと育て上げた。現在バリアントの事業はジェネリック(後発医薬品)やしわ取り注射剤、歯のホワイトニング剤製造など多岐にわたる。
アラガンはバリアントにとってこれまでで最大の買収案件になるはずだった。当局への届け出によれば、ピアソン、アックマン両氏はパーシング・スクエアがひそかにアラガン株を10%まで買い増す計画を立てた。これにより、バリアントは買収に向け有利なスタートを切ることができた。アックマン氏はアラガンの大半の取締役の更迭を目指し、12月18日の臨時株主総会開催に十分な支持票を集めた。
アラガンは今年8月、バリアントとパーシング・スクエア、アックマン氏がインサイダー取引規則に違反したとして提訴。これに対し、バリアントとパーシングはこの提訴には「根拠がなく」、「恥知らずだ」とする声明を出した。パーシングはそれ以上のコメントを控えた。
インサイダー懸念モーフィット氏は、将来バリューアクトが持ち株の一部を売却する際、インサイダー取引規定に抵触しないよう5月にバリアント取締役を辞任した。
ユーベン氏はバリアントの事業の正しさを信じていると発言。バリューアクトはどこにも行かないと述べるとともに、アラガンの買収防衛策は絶望的な試みだと指摘した。アラガンはユーベン氏とバリューアクトは提訴していない。
バリアントはバリューアクトの支援を受け、10年にカナダの医薬品会社バイオベールを買収。これは企業が外国業買収を通じて本社を税率の低い国外に移転する「コーポレート・インバージョン」の先駆けとなった。ユーベン氏は「米議会はインバージョンという報いを受けて当然だ。愚かしい法人税制の改正を怠ってきたからだ」と指摘した。
楽しみを見つける趣味でスキーやテニスを楽しみ、50歳手前の時に4分の1マイル(約400メートル)を59秒で走ったと自慢するユーベン氏は自分のチームの部下に楽しい時間を過ごしてほしいと言う。「われわれの業界ではそれは簡単ではない。金持ちになるのは簡単だが、楽しみを見つけるのは難しい」と語った。
その一方で、ユーベン氏はデータや調査、陰で進める準備にこだわる。同氏はバリューアクトは扇動者よりも助言者になりたいとした上で、「われわれは辛抱強い投資家だ。本当に優良な資産を見つけたら、むしろ長く関与し続けたいと思っている」と述べた。
原題:Ubben Returns 17% Shaking Boardrooms as He Backs TaxInversions(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Beth Jinks bjinks1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Mohammed Hadi mhadi1@bloomberg.netMichael Serrill, Elizabeth Wollman
更新日時: 2014/09/12 07:05 JST