世の中には色々な種類の先生がいます。

数学の教師、国語の教師、英語の教師…という各科目のスペシャリストの他にも、東大受験専門の先生、医学部受験専門の先生、早稲田・慶應などの難関私大受験専門の先生…というように目的別の対策に特化した先生方というのもいらっしゃいます。
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そんな中、僕は「出来ない子」を平均レベルまで持っていくのが専門という、ちょっと変わり種の先生です。

東大受験や医学部受験に独特の積み重ねられてきたノウハウがあるように、僕も自分自身の経験や指導の中で、どうすれば「出来ない子」を伸ばしていけるのかのノウハウを少しずつ積み重ねてきました。

本稿ではそんな自分のノウハウの中で、僕が最も重要視している3つの原則についてご紹介しようと思います。


【原則1:自分にあったレベルから始める】

定期テストはいつも赤点続き、さすがにこのままでは良くないことはわかっている、よし次のテストこそは!と奮起してみるも教科書に書いてあることが全く理解できずに諦めてしまう…。

これは「出来ない子」がやる気を出した時の、最もありがちなパターンです。

どんなに学習意欲が高くても、どんなに「地頭」が良くても、自分のレベルと乖離した分野の勉強は理解できません。アインシュタインと言えども3歳で微分方程式を解くことは無理だったでしょう。

同じように「基礎」の単元を理解できていないのに、いきなり「応用」の単元から始めようとしても、それは無駄な努力になってしまいます。


しかし「出来ない子」は早く結果を出そうと焦るあまり、往々にしていきなり「今学校でやっている単元」から手を付けようとしてしまいます。これは本当によくありません。絶対にやめましょう。

そうではなく「自分が理解できる単元」、具体的に言うと「8割程度の問題を正解できる問題集」から勉強を始めてください。何事も最初は弱い敵からです!
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「6割程度なら正解できる」では駄目です。「解答を見ればわかる」でも駄目です。必ず「何も見ずに解いて8割程度正解できる」問題集・教科書から学習をスタートさせてください。

というのは、長らく勉強から遠ざかっていた子の場合、基礎単元に多くの抜けがあることが極めて多いのです。ですから、まず基礎の重要単元に「抜け」がないかをしっかりチェックする必要があります。そうでないと先には進めません。

また「問題を解く」「ペンを使って文字を書く」という作業に慣れる必要もあります。

「出来ない子」は往々にしてそういった作業から長らく遠ざかっていることが多いので、まずはスラスラ解ける問題から手と頭のリハビリを開始しなければなりません。これは極めて重要な工程です。


実際に「自分でも8割正解できる問題集」を探すと、自分の学年から1、2学年、時には5、6学年も下の問題集になってしまうと思います。もしかしたら「ここからやり直さなきゃいけないの?」と思うかもしれません。でもここはグッと我慢して、そのレベルから始めましょう。

人間の知能や理解力は年齢とともに成長しますから、例え5学年下の参考書から始めたとしても、追いつくのに5年かかるというわけでは絶対にありません。1学年ぶんの勉強を1ヶ月、2ヶ月で終わらせることも可能です。ですから、まずは自分でもスラスラ解ける問題集から勉強を始めてください。それが一番の近道です。


【原則2:小さなことから始める】

自分のレベルにあった問題集は用意した。さあ、ここからバリバリ勉強して一気に遅れを取り戻すぞ!

その意気は良し!しかし「いきなり頑張りすぎる」のはNGです。

「ドラゴン桜」では「1日16時間勉強合宿」というのを初日にやっていましたが、あれは進学校の生徒など既に「基礎力」が付いている受験生向けの話。平均を下回るレベルの子にとっては逆効果になりかねません。

まずは毎日少しずつ勉強する癖をつけましょう。最初は「1日5分」でも大丈夫です。


「いや、僕は今日から心を入れ替えました。1日10時間勉強します!」

時にはこんな答えが返ってくることもあります。その意気は良し!…なのですが、やはり出来れば「1日5分」から始めて欲しい。

というのは、勉強というのは基本的に身体的な動作なのです。

指を動かす、脳を動かす、同じ姿勢を保つ、これらは全て身体的な働きです。どんなに「気合」があっても、身体の側にそれを受け止める準備ができていなければ、長時間の勉強は反動として長時間の休息を必ず要求してきます。初日は5時間勉強したけどその後1週間なにもできなかった…では「1日5分1週間続けた」の方がよっぽどマシです。

なのでまずは「5分」、これを毎日続けることで少しずつ、少しずつ、勉強の為の身体作りをしていきましょう。時間はだんだん増やしていきます。8分に、10分に、15分に、20分に…。

そうして少しずつ勉強時間を伸ばしていくことで、ようやく1日何時間も勉強できる身体が出来上がるのです。野球やサッカーやマラソンなどのスポーツの練習と、全く同じです。
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特に引きこもりの方などは、自分が思っている以上に体力が落ちていることがあります。しかし焦る気持ちから、急に無理をしがちです。

気持ちは本当にわかります。僕も引きこもり時代に「心を入れ替えて長時間勉強!→反動で何日も寝こむ」のコンボを幾度と無く繰り返しました。しかし結局わかったのは無理は何も生み出さない、ということです。継続こそ力、なんとか焦る気持ちを抑えて「1日5分」のペースから始めてみてください。


【原則3:小さな目標をひとつひとつ達成させる】

「出来ない子」たちの一番大きな問題は「無力感」に支配され、自分の学習能力への自信を失ってしまいがちなことです。

考えてもみてください。「出来ない子」として何年間も学校に通うということは、1日何時間も全く理解できない授業を聞き、定期的に同じく理解できないテストを解かされ、その都度叱られ、怒られ、自信をなくしていく…という経験を積み重ねていくということです。

失敗も1回や2回なら「次こそはがんばろう」として奮起や集中を促しますが、何回も何回も失敗を重ねていくと「学習性無力感」と呼ばれるような一種の無気力状態に陥ってしまいます。

これは、心理学者のマーティン・セリグマン氏によって指摘された現象で、長期にわたり抵抗の難しいストレスの下に置かれると、人は「何をしても意味が無い」ということを学習してしまい、ストレス環境から逃れようとする努力すら行わなくなってしまうという現象です。

「出来ない子」たちにも少なくない割合で、これと同じような現象が起きています。

「勉強しても無駄」
「自分には才能がない」
「どうせ何をやっても無駄」

そんな言葉を重ねて、がんばれば理解できるはず簡単な問題でも「考える」という行為自体しなくなってしまう。ついには当て勘だけで解答用紙を埋め始める…そんな行動に出る子供もいます。


この「無力感」から来る習慣を払拭するには、小さな成功体験を積み重ねていくしかありません。

足し算引き算の計算ドリルでも、漢字の書き取りでも、なんでも構いません。

小さな努力で達成できる目標を無数に設定して、ひとつひとつそれを達成していく。

そして

「やればできる」

という体験を積み重ね、自分の能力に少しずつ自信をつけさせていく。
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本来、学校の科目に特別な才能や能力は必要ありません。
誰しも時間をかけて勉強(練習)すれば出来るように、学校の科目は作られています。

計算練習をすれば、計算が早く・正確になります。

漢字の書き取りをすれば、漢字が書けるようになります。

これらは単なる人間の生理的な機能であり、才能だとか運だとかが混ざりこむ余地はありません。

「学校の科目というのは、時間をかけて勉強すれば必ず出来るようになる」

この事実を、小さな目標をひとつひとつ達成させることによって、生徒の身体と心に染み込ませていきましょう。

すると、生徒は段々と自分の学習能力に対して自信を持ってくれるようになります。「きっと勉強すればできるようになる」と心の底から信じるようになります。

その自信さえつけてくれれば、もうその先は簡単です。適切な課題を与え続けるだけで、生徒はぐんぐん伸びていきます。「無力感」、完全払拭です。


【3つの原則は全てつながっている】

お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、この「3つの原則」はそれぞれ相互につながりあっています。

「自分にあったレベルから始める」からこそ最小時間での学習が可能になり、「小さなことから始める」ことが可能になります。そして「小さなことから始める」からこそ無理なく挫折なく目標に向かって進むことができ、「小さな目標をひとつひとつ達成させる 」ことが可能になります。


もし、この「3つの原則」を使って勉強してみようという方がいらっしゃったら、是非ひとつだけ抜き出して使うのではなく、3つ全ての原則を同時に使ってみてください。

きっと、今までよりもずっと楽に、ずっと効率的に勉強ができるはずです。

この3つの原則が、ひとりでも多くの方のお役に立てれば嬉しく思います。