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異世界ニート開拓記 作者:ファースト

地下室

   ◆

 クレイン家の屋敷には『地下室』があった。

 そして、幸いなことに、その地下室は、あの火災でもほぼ無事であった。

 地下室では、さまざまな実験・研究を行っている。

 その地下室で領主であるクレイン家の人間達は、浚ってきた村人を用いた人体実験を毎夜繰り返して――は、別にいない。

 健全な研究・実験しかしていないので。

 俺は、手先が器用なドワーフの下男ダットンを、助手 兼 技術協力者として様々な『道具』を研究・開発・実験していた。
 現代地球知識チートを生かしたチート的発明品も多数ある。
 いずれ、この発明品によりこのメリアをチート的大発展させる予定だ。

 諸事情から、発明品のほとんどは、まだ非公開だけど。

 非公開にしている事情の一つとしては――町の急激な発展、そして人口増加は色々 “ヤバイ” 面もあるからだ。
 特に治安面においてヤバイ。
 人口が増えれば、当然犯罪も増える。

 ――犯罪者も増える。

 そして、俺にはまだそこまでの『力』はない。
 犯罪抑止力となる『力』がない。

「(だから……怖い)」

 下手をすれば、急激な発展・人口増加に伴う治安の悪化・犯罪率増加により、メリアの町が犯罪者の巣窟になりかねないので。

 …………前世で俺は色んなコンピューターゲームが好きだった。
 リアルタイム都市経営系シミュレーションゲームやリアルタイムストラテジー(RTS)もかなり好きだった。
 『シムシティ』とか『エイジ オブ エンパイア』などに熱中していた時期もある。
 それこそ、寝食を忘れて没頭したこともある。
 そして、何度か大失敗をゲーム上でしてしまったこともある。
 都市の発展・人口増加に意識がいきすぎて、治安の悪化・犯罪率増加を招き――世紀末的犯罪都市になってしまったことも……ある。
 常に犯罪が起こりまくりのヒャッハー天国な町(都市)だ。
 暴力が支配する町(都市)である。

 ゲームならリセットしてやり直せるが、現実ではリセットできない。

 だから俺は、このメリアの急激な発展・人口増加には慎重な部分があった。
 ゆえに、現代地球知識チートを生かしたチート的発明品の多くは、封印中なのだ。

 ――今はまだ、ね

 それから、母カーラと妹アメリアは、魔法薬などの実験・研究を地下室でよく行っている。

 また、父カインズは、ある病気への研究だ。
 カインズは、医者――でもある。
 医者と言っても、手術などは苦手な研究者タイプのようだけど。

 貴族の次男として生まれ、成人しても部屋住み――いわゆる『ニート』――であった父カインズ。

 父、それから長男である兄が病死・戦死して、家を継ぐまでは、部屋住み(ニート)だったらしいのだ。

 そして、ありあまる時間を活かして、医者になろうとしたらしい。
 家を継ぎ、さらには新大陸の入植村・領主になっても、医学的研究を続けている。

 ある伝染病をこの世から撲滅するために。

 その伝染病とは。
 この世界ではいまだ存在し、最も恐ろしい病気・病魔と恐れられている――

「(………… 『天然痘』 …………)」

 天然痘てんねんとうは、天然痘ウイルスを病原体とする感染症の一つだ。
 地球でも過去、存在し、非常に多くの人々を長年に渡り苦しめた。
 とても強い感染力を持ち、全身に膿疱を生ずる。
 致死率も五十%近くあり、まさに死の病である。

 …………しかも
 仮に運よく治癒しても瘢痕(一般的にあばたと呼ぶ)を残す。
 時には、顔も含めた全身が酷い……本当に酷い状態になる。
 失明など、重い後遺症を残すこともある。
 このことから、世界中で『悪魔の病気』と恐れられているほどである。
 その大きな感染力、高い致死率のため、町どころか、時に『国』や『民族』が滅ぶことすらあるのだ。
 本当に恐ろしい伝染病である『天然痘』
 この病気の医学的研究を、父カインズはこの地下室でほぼ毎晩、行っているのだ。

 …………カインズが以前、とても真剣な顔で語ってくれたことがあった。

 ――両親を『天然痘』で亡くしたことを――

 父は酷い状態のまま病死。
 美しかった母親は『天然痘』により、死こそ免れたものの、顔も含めた全身に瘢痕を残した非常に醜い姿になり――人生を悲観して自殺したことを。

 そしてカインズは――
 なんとしてでも、この世界から『天然痘』を撲滅することを誓った。

「(天然痘は確かに恐ろしい……とても恐ろしい感染病だけど)」

 地球では、 『すでに撲滅している』。
 ある動物を利用して “ワクチン” を生み出せたことにより。

   ◆

「……本当にありがとうございます…………。
 これほど罪深い私への罰を……拷問や処刑の執行を……最長で十年も……延期……していただけまして。
 本当に……本当に……ありがとうございます」

 褐色の肌を持つ美人が、床に頭を擦り付けんばかりに礼を述べてきた。
 重犯罪者・ミザリーだ。
 死刑囚ミザリーである。
 もっとも、俺の提案により、即座の死刑執行も、執行までの拷問も 『延期』 となったけど。
 彼女は、研究中である天然痘ワクチンの実験体になることを了承していた。
 そもそも実験体と言っても、すぐに実験が始まる訳ではない。
 いまだ、有効的なワクチン開発のめどが立っていないので。

 ●10年以内に少なくとも一回は、天然痘ワクチンの実験体になってもらう。
 ●もし、その実験でワクチン開発に成功し、ミザリーが生き残れたら、恩赦を与える。

 という条件だった。
 本来なら、過酷な拷問を受けたのち、残虐な方法で処刑されるはずのミザリー。
 彼女が、実験体になることを望むのも、不思議ではない。

「(しかしアレだな)」

 ……実験体という言葉はちょっとアレなので、被検体と改めよう。

 天然痘は世界中で非常に恐れられている病気(感染病)だ。
 もし、ワクチンを開発できれば、開発者の名声は世界中に鳴り響くであろう。

 また、
 この世界では、重犯罪者でも、重大な病気治療に関する実験に協力する被検体(実験体)としてなら、刑の執行を延期することは、さほど珍しくない――ようなのだ。
 そして、もし成功したならば、恩赦を与えて罪を赦しても、これは、世間的に受け入れられるであろう。

 それだけ、天然痘ワクチンは、世界から望まれているのだ。

 …………。

「(天然痘のワクチン、か)」

 もし、開発できれば、世界的名声を手に入れられる。
 そして、今も世界各地で人々を苦しめ続けている恐ろしい天然痘を撲滅できる。
 人々を――救える。
 それも、何百万、何千万、あるいは――何億人と。
 いや、今後、数百年に渡って天然痘に苦しむであろう人々のことを考えれば、何十億、何百億もの人々を、救えることになる。

 ぜひとも、天然痘ワクチンは開発したい。

 秘かに尊敬している父、カインズに開発してもらいたい。

「(でも…………)」

「(どの、動物を利用すればいいのか…………どうしても思い出せない)」

 多分、哺乳類だったとは思うのだが。

 非常に……非常に悔しいことなのだが――俺は、天然痘ワクチン開発に利用する動物が何であったか、思い出せないでいた。

 なにせ、転生(憑依)してから十年以上経ってもいる。
 前世の知識を、こと細かく全て覚えていることは――不可能だった。

 …………なにか…………。

 なにか、きっかけがあれば思い出せる気がするんだが。

 …………豚?

 惜しい気はするけど、違う、よなぁ。

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