【吉田調書】「部下たちは日本で有数の手が動く技術屋だった」吉田昌郎所長
吉田所長、官邸・本店へいらだち 調書に緊迫の状況
11日発表された政府の事故調査・検証委員会の「調査結果(調書)」で、東京電力福島第一原発の所長だった吉田昌郎氏は、事故後約4カ月たった2011年7月から、聴取を受け始めた。吉田氏の肉声を記録した調書からは、死を覚悟するほどの恐怖感や、現場から離れた本店や首相官邸との意思疎通の難しさが浮かび上がった。
炉心が損傷している――。福島第一原発の電源がすべて失われ、炉心溶融(メルトダウン)の疑いが濃くなるにつれ、吉田氏は現場の指揮に加え、本店や官邸とのやりとりに追われた。政府事故調の聴取に対しては、菅直人首相や本店幹部へのいらだちをあらわにした。
3月12日未明、1号機の圧力が高くなると、現場では排気(ベント)の作業を必死で試みていた。しかし、バルブが開かない。作業員の被曝(ひばく)も心配になる。そこへ、午前6時50分、経済産業相から「ベントの実施命令」が出される。
「命令を出して(ベント)できるんだったら、やってみろと」「現場が全然うまくいかない状況ですから。東電への怒りが命令になったか知りませんけど」
30分もたたないうちに、首相官邸からヘリで菅首相が到着した。突然の訪問に、「(何の目的か)知りません」「行くよという話しかもらっていません」。聴取に対し短めに答える様子からは、訪問に対する不快感がうかがえる。
吉田氏がもっとも語気を強めたのではないかと読めるのは、「全面撤退」の疑いに対してだ。
水素爆発や放射線量が高まったときなど、吉田氏は必要に応じ、社員や協力会社の作業員らに免震重要棟などへの一時的な退避を命じたことはあった。作業を再開し、社員らを現場に近づける判断の難しさも語った。
しかし、3号機が水素爆発し、2号機が危機的な状況になった14~15日、「東電は全面撤退を申し出ている」と官邸が受け止めていたことについては、「菅首相が言っているんですけれども、何だ馬鹿野郎というのが基本的な私のポジションで、逃げろなんてちっとも言っていない」。言葉づかいも荒くなった。
■必死の現場、所員をたたえる
調書からは、事故発生直後の現場の極度に緊迫した状況も浮かび上がる。現場指揮官の言葉からは、絶望や恐怖感を抱えながら「レベル7」という大事故に対応せざるをえなかったことがうかがえる。
なかでも生々しい肉声が集中するのが、3月14日夕から15日朝にかけてを振り返った場面だ。
「本当にここだけは一番思い出したくないところです。ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだと思ったんです」「これでもう私はだめだと思ったんですよ」「ここは私の記憶から全部消したいと思うんです。ここを思い出すと、トラウマみたいなものですから」。こんな言葉が繰り返し登場する。
当時、1、3号機の原子炉建屋は、相次いで水素爆発で吹き飛んでいた。「2号機はだめだと思ったんです、ここで、はっきり言って」と吉田氏が語ったように、2号機の状態も悪化し続けていた。
がれきや放射能に阻まれて、消防車を使った原子炉への注水がうまくいかず、格納容器の圧力は設計上耐えられる数値を超えた。放射性物質が大量にまき散らされるおそれが強まり、現場の緊張は高まっていた。
吉田氏はこの状況を「チャイナシンドロームになってしまうわけですよ」「我々のイメージは東日本壊滅ですよ」と振り返った。
思うように事態が改善しないなか、現場は必死に対応していたことも訴えた。「3プラントも目の前で暴れているやつを、人も少ない中でやっていて、それを遅いなんて言ったやつは、私は許しませんよ」「部下たちは、少なくともそういう意味では、日本で有数の手が動く技術屋だったと思います」と所員らをたたえた。
ただ、吉田氏は事故前、東電幹部として事故対策や津波対策に携わる立場にもあった。「基本的に私は地震だとか津波に余り素養がない」「何の根拠もないことで対策はできません」とも語っている。
複数の原子炉が同時に事故を起こしたことについても「同時に今回のような事象が起こるかということをあなたは考えていましたかという質問に対して言うと、残念ながら、3月11日までは私も考えていなかった」と振り返った。
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