安倍晋三首相の言う「政府の責任」の意思が伝わらない。
原子力規制委員会が九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)について、新規制基準への適合を認めた。10月9日から住民説明会が始まり、再稼働に必要な「地元同意」の手続きに入る。
規制委は、施設面の対策が最低限の条件を満たしたことを確認したにすぎない。住民を被ばくから守る避難計画はできておらず、実効性も疑問視されている。
避難計画の策定を自治体に丸投げしてきた政府の責任は重い。原発の安全性をどう総合的に判断し、誰が万一の際の責任を負うのかもはっきりしない。再稼働の是非を住民に諮る前提さえ整っていないのが実情だ。
今後の焦点の一つは、同意を得る「地元」の範囲だ。従来通りなら川内原発の場合、九電と安全協定を結ぶ立地自治体の鹿児島県と薩摩川内市が対象となる。
東京電力福島第1原発の事故で、放射性物質は広範囲に飛散した。国は事故後、避難対策を準備する地域を、原発の半径10キロ圏から30キロ圏に広げている。
危険があるのに再稼働の是非には発言権がない。各地の自治体は反発を強め、電力会社に協定の締結を求めてきた。再稼働を急ぎたい電力会社は拒んでいる。
結局、範囲の結論は出ないまま今日まで至った。政府は、最低でも30キロ圏の自治体の同意を取り付けるルールを定め、電力各社への指導を徹底してほしい。
避難計画の整備も大きな焦点となる。鹿児島県内に限らず、各地で遅れている。特に入院患者や施設入所者らの移送手段、受け入れ先の確保が難航している。
一般住民の避難にしても、原発に近い方の住民から順次避難を促すという内容が目立つが、実際に守られるのか。避難経路が寸断されたら、渋滞したらどうするのかといった問題点も多い。
政府はここにきて、経済産業省の職員を鹿児島県内に派遣し、計画づくりの支援を始めた。9カ月ぶりに原子力防災会議を再開し、各自治体の計画の実効性を検証するとしている。場当たり的としか言いようがない。
この期に及んでも、小渕優子経産相は、鹿児島県に説明に出向くかどうかの明言を避けた。規制委の審査結果を「原発の安全」にすり替え、住民の安全確保は自治体に押し付ける。政府として保証できないなら、原発再稼働の方針は撤回すべきだ。