シリア:米空爆に抗議の構え 事実上黙認の可能性も
毎日新聞 2014年09月11日 20時56分(最終更新 09月11日 23時17分)
【カイロ秋山信一】オバマ米大統領がイラクで続けるイスラム過激派組織「イスラム国」への空爆をシリアに拡大する方針を示したことに対して、シリアのハイダル国民和解担当相は11日、「政府との協力に基づかない行動は侵略行為だ」と批判した。しかし、シリア東部で勢力を伸ばすイスラム国は、敵対関係にあるアサド政権と米国の「共通の脅威」となっている。空爆が政権側を利すると判断すれば、事実上黙認する可能性もある。
「軍事行動には政府の承認が必要だ」。ロイター通信によると、ハイダル氏は、一方的に空爆の計画を進める米国をけん制した。オバマ米大統領は反体制派を支援し、アサド政権、イスラム国の双方を打倒する方針を明確にしており、空爆に踏み切れば、政権が反発を強めるのは必至だ。
ただ昨年以降、第三勢力としてイスラム国が台頭したことで、アサド政権の米欧への姿勢には変化の兆しもある。ムアレム外相は今年8月、イスラム国を念頭に「対テロ戦争で協力する用意がある」と米欧に秋波を送った。1月には政権幹部が「欧米の情報機関とイスラム過激派対策で協力している」との情報をリーク。水面下で米欧との関係改善の可能性を探っている模様だ。米軍が空爆に踏み切っても、アサド政権に損害は少なく迎撃など空爆の阻止を行わない可能性もある。
一方、米国が連携相手と位置付ける反体制派主要組織「シリア国民連合」傘下の自由シリア軍は米国の支援強化の方針を歓迎しているが、懐疑的な見方もある。「米国は約束ばかりで信用できない。石油利権があるイラクにはすぐ介入したのに、シリアは3年以上放置されている」。北部で戦う自由シリア軍の兵士は毎日新聞の電話取材に不満を漏らした。
米軍が空爆に踏み切った場合、戦況に与える影響は不透明だ。2012年の内戦本格化以降、アサド政権と反体制派は、首都ダマスカス郊外や北部アレッポなど国土の西半分で激しい攻防を続けてきた。イスラム国はその間隙(かんげき)を縫うように、人口が少ない国土の東半分で勢力を拡大。油田を制圧するなどして戦力を充実させ、今年6月以降のイラクでの大規模侵攻につなげた。
イスラム国は油田からの収入や身代金目的の拉致、密輸などで1億円以上の日収を上げているとの分析もある。シリア、イラク両政府軍から米国やロシア製の武器を奪い、軍備も強化している。