吉田調書:官邸介入弊害を裏付け…政府公開

毎日新聞 2014年09月11日 21時37分(最終更新 09月12日 00時42分)

 政府は11日、東京電力福島第1原発事故を巡り、政府の事故調査・検証委員会(政府事故調)が関係者から当時の状況を聞きとった聴取結果書(調書)のうち、吉田昌郎・元同原発所長(昨年7月に死去)ら19人分を公開した。官邸と現場との間を取り持つ東電本店や原子力安全・保安院が機能不全に陥り、情報が共有されなかったために官邸の現場介入を招いた実態が、当事者の肉声によって浮き彫りになった。

 政府事故調の調書が公開されるのは初めて。内訳は菅直人元首相や枝野幸男元官房長官ら政治家11人、官僚や有識者ら7人。東電関係者は吉田氏だけだった。

 福島原発事故では、事故直後の2011年3月12日に菅氏が現場をヘリで視察したり、15日未明に菅氏が東電本店に乗り込んだりするなど、官邸の介入が問題視された。吉田氏は証言で「本来なら本店本部、保安院を通して来る話。官邸と現場がつながること自体ありえない」「菅首相が(東電本店で)えらい怒っていた。気分が悪かったことだけは覚えている」などと不満を示した。これに対し官邸側は「保安院はほとんど状況説明ができない。機能していない」(菅氏)、「東電は政府に報告しないで、ものを隠す体質」(枝野氏)と証言。保安院や東電への不信をにじませた。

 東電が同原発からの「全面撤退」を検討したとされた問題では、吉田氏は「使いません、『撤退』なんて。現場は逃げていない」と全面的に否定。一方で官邸側は「間違いなく全面撤退の趣旨だった。これは自信がある」(枝野氏)と認識が食い違った。

 政府事故調は最終報告書で、官邸の介入について「弊害の方が大きい」と断じ、東電の全面撤退も「菅氏らの誤解だった」と判断した。さらに東電の初動対応にも不手際があったと認定。政府と東電の双方に「複合的な問題があった」と結論づけている。

 事故の被害については、吉田氏が「イメージは東日本壊滅。最悪の事故ですから」、菅氏も「チェルノブイリの100倍以上(の放射性物質)が出て行く認識がありましたから」と、危機感を共有していた。

 政府は調書公開にあたり、国の安全にかかわる機密や個人の名前などの一部を、黒く塗って消した。【酒造唯】

 ◇政府事故調◇

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