吉田調書:他の調書も公表…「検証の幅広がる」期待の声

毎日新聞 2014年09月12日 01時10分

 政府事故調の聴取を巡り、政府は11日、吉田昌郎元所長の調書にとどまらず他の調書の一部の公表にも踏み切った。話を聴かれた当事者や調査に当たった元委員はどう受け止めているのか。【奥山智己、関谷俊介】

 「吉田元所長の証言だけでは事故の全容を把握できない。官邸や東電本店にいた関係者の分も公表されれば、それぞれがどのような指示をして、どう行動したのか検証できる」

 経済産業省関係者の男性はこう語り、公表が一層進むことに期待する。政府事故調が聴取したのは政治家、役人、東電幹部ら計772人。男性も2011年秋、政府事故調の事務局があった東京・大手町の合同庁舎に3回ほど呼ばれ、事故調の事務局員を務めた東京地検の検事ら4人から話を聴かれた。政府の対応や東電とのやりとりを中心に1日3〜4時間、事故当時の記憶をたどった。

 政府は今後、本人の同意を得られたものから順次、公表するとしている。男性は、1167人から聴取した国会事故調の調書の公表も望む。「いろいろな証言を分析すれば、両事故調の報告書自体の検証にもつながる。自分の調書も必要なら公表してかまわない」。ただし調査が非公表を前提に実施されたことに触れ、「政府は公表に当たってきちんとした手順を踏まないと、将来別の事故調ができた時に真実を話そうと思う人がいなくなる」と注文する。

 ◇公表ルール必要

 一方、研究者や法曹関係者ら計10人で構成した政府事故調の元委員たちの反応はさまざまだ。

 九州大大学院の吉岡斉教授(科学技術史)は「原発事故の検証と今後の事故対策を考える上で社会にとって有益だ」と公表を歓迎し、「できるだけ多くの調書について同意が得られて公表されることを望む」と話した。

 調査では、関係する全員の証言が一致しなければ「証拠」として報告書に採用できなかったという。時間的な制約により再度のヒアリングがかなわず、真実に迫れなかった部分も多かった。その反省を踏まえ、「常設の事故調査組織を復活させ、政府・国会事故調で得られた証言を全て活用できるようにし、検証を継続すべきだ」と主張する。

 さらに「一般向けにも30年たったら全て公表するなど、今後のルールを決めるべきだ」と提言する。

 これに対し、元名古屋高検検事長の高野利雄弁護士は「非公表を前提で聴いたものを公表すると、今後同じような組織ができた時に協力を得られず、真実を追求しにくくなる」と懸念する。

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