川内原発:「再稼働ありき」に不安 恩恵多い地元苦悩

毎日新聞 2014年09月10日 20時10分(最終更新 09月10日 21時40分)

原子力規制委員会が審査書を正式決定した九州電力川内原発=鹿児島県薩摩川内市で2014年9月10日、本社ヘリから津村豊和撮影
原子力規制委員会が審査書を正式決定した九州電力川内原発=鹿児島県薩摩川内市で2014年9月10日、本社ヘリから津村豊和撮影

 原子力規制委員会が10日、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の安全対策を承認した。再稼働に向けた今後の焦点は地元同意に移るが、「再稼働1番手」が現実味を帯びるにつれて、これまで表立った反対運動がなかった住民の間からも不安の声が上がり始めている。

 川内原発から直線で約12キロの薩摩川内市山之口自治会(52世帯約130人)が再稼働反対の陳情書を市に提出したのは8月13日。市や市議会には反原発団体などから陳情・請願が数多く出されているが、自治会として反対の意思を表明したのは初めてだ。

 この約半月前、市の担当者を呼んで開いた避難計画の説明会で、住民からは「被ばくせずに避難するのは無理」「市の計画は実行不可能」などといった声が噴出していた。住民の不安を踏まえ、自治会長の川畑清明さん(58)は「納得いく避難計画が完成しない限り、再稼働に同意しないよう求める陳情書」の提出を提案。アンケートを実施したところ、過半数の29世帯が賛成(反対5)した。

 住民が特に不安視するのが、自家用車を持たない高齢者らの避難だ。市は自家用車がない人はバスで避難する計画を立てる。だが、市が保有する車両だけでは原発から10キロ圏の対象者でも約400台足らない。県も原発事故時の協力を求めて県バス協会との協定締結を目指しているが、運転手の被ばくの恐れなど課題も多く、締結のめどは立っていない。

 雇用など原発の恩恵を受ける住民が多い同市で、原発への表立った反対の声は出にくかったが、川畑さんは「再稼働がすんなり決まってしまう雰囲気に不安を持つ。市民の皆さんに、嫌なものは嫌と自分の口で訴えたい」と言う。山之口自治会が出した「再稼働ノー」の結論は沈黙していた他の自治会も動かした。

 その一つが原発から約11キロの乗越(のりこし)自治会(39世帯約95人)だ。自治会内で自家用車を持っていない住民は少なくとも4世帯。自治会長の森昭彦さん(75)はやはりバスによる避難に不安を抱き「万が一の場合に本当にバスが来るのか」と話す。同自治会は近隣の自治会とともに、再稼働の賛否を尋ねる住民アンケートを12日に実施する予定だ。結果次第では、市への意思表示も検討している。

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