世界最大の軍事同盟が正念場を迎えている。

 米欧などでつくる北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が先週、英国で開かれた。

 紛争を含む緊急事態に備える即応部隊の創設を柱とする宣言を採択し、ロシアの脅威に立ち向かう姿勢を鮮明にした。

 NATOは冷戦の終結後、ロシアを戦略的パートナーと位置づけ、協力態勢を築いてきた。今回の決定はその方針を明確に転換させるものだ。

 だが、まるで冷戦時代のように加盟国の防衛に固執すれば、逆に緊張を高めかねない。

 NATOが守るべきなのは、国際法に基づく秩序だ。その理念をはっきりと掲げてこそ、国際社会の理解と支持も得られるに違いない。

 NATOは冷戦初期の1949年に発足し、旧ソ連陣営とにらみ合った。だが、冷戦後はロシアに対抗する性格を薄めてきた。アフガニスタンを含むテロとの戦いなど、欧州域外の課題への取り組みも強め、ロシアとの協力を深めた。

 NATOの加盟国は旧共産圏に広がり、現在28カ国を数えるが、旧東欧やバルト三国には部隊を常駐させてこなかった。これも、ロシアに対する配慮からに他ならない。

 しかし、ウクライナ危機でロシアの信用は失墜した。今回、NATOが厳しい態度を打ち出したのは当然の対応だ。

 ただ、冷戦のような対立の再現は避けねばならない。そのためにもNATOは国際法秩序や民主主義、人権を守る理念を前面に出し、組織の枠を超えた幅広い結集を図る必要がある。

 何より求められるのは、欧州連合(EU)や欧州安保協力機構(OSCE)などとの協力強化だ。その連携のもとで、軍事的な対応だけでなく、制裁や交渉、市民社会の育成支援など、重層的なロシア関与を続けることで、ロシアを国際社会に回帰させる道も見えてくるだろう。

 ロシアはウクライナで、軍事行動と情報活動、プロパガンダを組み合わせた戦略を展開している。この、いわゆる「ハイブリッド戦略」を軍事面だけで抑止するのは難しい。NATOには、民間組織や市民の理解と協力を得た対応が不可欠だ。

 NATOにとってもう一つの課題は、中東で勢いづく過激派組織「イスラム国」だ。こちらも幅広い対抗勢力の結集が有効だ。中東各国との協力を深め、包囲網を築かねばならない。

 いずれも時間を要する作業になる。開かれた議論を重ねつつ、粘り強く取り組むべきだ。