(綾音)救済には時間がかかるの。
(湯川)救済?
(美砂)どこ行った?
(綾音)私を疑ってるの?私が夫を殺す理由がないわ。
(湯川)君が日曜礼拝に僕を誘ったときこんな話をしたんだ。
私はバラの花が嫌いだ。
どんなに奇麗でもとげのある花は好きにはなれないと。
ところが今は君の家にはたくさんのバラが咲いている。
それが私を疑う理由になるの?美しい完全犯罪というものが存在するのならその美しさはこの十字架に近いのかもしれない。
神は全ての人間を救済する。
君はそう言った。
ならば君のご主人を殺した人間も救済されなければならない。
(義之)《綾音。
覚えてるよね?あの約束》《約束?》あとひとつき足らずで夏休み。
僕の講義も今日を含めてあと2回だ。
(学生たち)えー!やだ。
君たちがそんなに科学に興味を持ってくれていると思うと僕もうれしいかぎりだ。
ハァー。
そこの君。
君が使っているそのコンピューターの演算処理能力は僕たちの頭上を飛び交っている人工衛星に搭載されているコンピューターよりもはるかに高いということを知ってるかい?
(学生たち)えー!人工衛星にわざわざ性能の低いコンピューターを搭載するのは宇宙空間における放射線によるCPUの誤作動。
いわゆるビット反転という現象を最小限に食い止めるためのものだ。
ちなみに人類初の月面着陸を成功させたアポロ計画。
その宇宙船に搭載されていたコンピューターは今の携帯電話ほどの処理能力すらなかったんだ。
(学生たち)へえー。
では今日はこのビット反転の切り口から量子コンピューターについての講義をしたいと思う。
教室は寝室じゃない。
僕の講義中に入ってきて熟睡するのはやめてほしいな。
ごめんなさい。
(栗林)えー!寝てた?湯川先生の前で!?疲れてるの!真柴義之さん殺害事件の捜査で毎日毎日足を棒にして走り回ってるから。
仕事熱心なのは結構だが寝るなら自分の家で寝てくれ。
(栗林)ですよね!湯川先生。
綾音さんの幼児教室で実験を見せたってホントですか?
(栗林)えっ?やかんを使ってお湯の色が変わるっていう実験をやったそうですね?やかんじゃない。
電気ポットだ。
(栗林)先生が幼児教室で?子供嫌いの先生がどうして?しかも微妙に事件と関係ありそうなことを。
(栗林)えっ?何でそんな実験を?でしょ?私のアンテナにびびっときたのよ。
あの事件に関係あるって。
真柴義之氏はコーヒーを飲んで亡くなった。
えっ?朝1杯目のコーヒーを飲んだときは何ともなかったわけだから毒物が仕込まれたのはそれ以降。
つまり犯人は義之氏が自宅にいる時間帯に侵入しやかんの水にヒ素を仕込んだ。
それが君たち警察の見解だ。
はい。
(栗林)だってそうでしょ?だが僕はあらかじめ何らかの方法でヒ素が仕込まれていたのではないかと考えている。
あらかじめ?時限爆弾のように。
時限爆弾!?もしそうなら真柴綾音にも犯行は可能だということになる。
真柴綾音!?奥さんが?いや。
いやいやいや。
それはない。
あの清らかな綾音さんが?絶対にない。
真柴義之氏は水道の水を飲まないと言ったのは彼女だ。
そしてペットボトルからも浄水の水からもヒ素は検出されなかった。
だから警察は事件直前やかんにヒ素が仕込まれたと判断した。
結果その日北海道にいた真柴綾音には鉄壁のアリバイができた。
彼女に誘導されて知らず知らずのうちに捜査対象から外してしまったんじゃないのか?誘導なんてそんな。
だいたいそんな時限爆弾みたいな方法って何?さっぱり分からない。
はあ!?じゃあ何で奥さんを疑うんです?可能性があると言ってるだけだ。
ひどい。
ひど過ぎる。
綾音さんは先生の同級生ですよ。
湯川先生。
とにかくもう勝手に彼女に接触したり捜査を混乱させるようなことはやめてください。
今は紫の傘の女が最有力の容疑者なんです。
次の実験にいってきます。
ハァ。
先生!もう。
(太田川)ええー!何で枯れてんだよ?ちゃんと水やってたのに。
紫の傘の女の情報はありましたか?
(太田川)ああ。
まだないな。
だいたいその女見つけたのに逃げられたの誰だよ?またすぐ見つけてやるわよ。
絶対この辺にいる。
お前今どこ?真柴さんの家の近くに決まってるでしょ?
(太田川)えっ?
(女性)間もなくガーデニング…。
(太田川)行かなくていいからな。
真柴さんの家には。
(女性)高枝切りバサミの…。
(太田川)絶対入るなよ今日は。
高枝切りバサミ?ああ。
どこにいるんですか?太田川さ…。
あっ。
いや。
どこって。
(通話を切る音)
(不通音)
(太田川)あっ。
・
(チャイム)
(女性)はい?
(のり子)今の世の中に不安を感じてらっしゃいませんか?あなたは神様を信じますか?
(女性)はっ?神様?この家です。
(のり子)ああ。
このバラのお宅。
来ました。
ハァー。
6月13日午後2時4分。
(のり子)ええ。
この宗教の勧誘に?
(のり子)そうです。
その傘を持って?
(のり子)雨が降ってましたから。
ハァー。
インターホンを押されたんですね?ご主人が出られました。
その方は玄関を開けられた?私が少々しつこくお誘いしたもので。
そして何が起こりました?何が?ああ。
(義之)《何ですか?もう》《あっ。
お話だけでも》
(義之)《そういうの興味ありませんから》・
(警報音)「侵入警報」
(のり子)ドアを開けられた途端何か警報器が鳴って。
でそれっきり。
その後あなたは?同僚と一緒に五反田の支部に戻りました。
あ…。
もみのき会という宗教団体の田沢のり子さん。
情報の提供者ですが念のため身元の確認をお願いします。
はい。
いえ。
特に疑うべき点はありません。
(太田川)ヤッバいぞこれ。
何で枯れちゃったんだろ?ハァー。
大丈夫かな?これで。
(綾音)はい。
形と色をよく見てね。
次はどこ?
(子供)こんなの早くできるよ。
(綾音)そう?できる?じゃあ頑張って。
(子供)うーん。
(綾音)ウフフ。
(子供)できるかな?
(綾音)できるかな?
(子供)できた!
(綾音)おっ。
すごいね。
(あずさ)真柴綾音さん。
覚えてます。
自転車にぶつかったってご自分で歩いてこられたんですがそのときはもう出血があって。
あっ。
その。
ここでお子さんを?
(あずさ)ああ。
処置しました。
もう諦めるしかない状態でしたから。
ホントにかわいそうでした。
あっ。
どうぞ。
ああ。
すいません。
そのぶつかってきた方については何かおっしゃっていましたか?
(あずさ)そのときはそんな余裕は。
そうですか。
(あずさ)でも…。
でも?
(あずさ)あっ。
これは関係ない話ですから。
何ですか?教えてください。
すごく驚いたことがあったんです。
その知らせを聞いてすぐにご主人が駆け付けてこられたんですが。
(義之)《可能性はないんでしょうか?先生》《妻はもう40を超えています》《また妊娠するのは難しいですか?》
(あずさ)《そんなことないと思いますよ》
(義之)《子供はできますか?1年以内に》
(あずさ)《1年以内?》
(義之)《僕は子供が欲しいんです》《じゃなきゃ結婚の意味がないんだ》
(あずさ)《そんなこと》《もしできなかったら離婚するしかない》《僕にとっては何よりも大事なことなんです》《どうなんですか?先生》離婚?
(あずさ)流産なさったのは奥さまのお体に問題があったわけではありませんから妊娠の可能性もじゅうぶんあるってお答えしたんです。
でもああいうことを言う方は初めてでしたから。
(綾音)ジャン。
(子供たち・綾音)オートバイ。
はい。
(子供たち・綾音)オレンジ。
(子供たち)音符。
(綾音)音符。
はい。
(子供たち・綾音)おやつ。
(加藤)確かに社長は子供を欲しがってました。
会社が軌道に乗ったら今度は自分の遺伝子を残したくなったって。
遺伝子って。
(浦部)いや。
でも分からなくもないんですよ。
社長のご両親社長がまだ幼いころに亡くなられたそうで家族というのに縁がなかったんですよね社長は。
(浦部)血のつながりが欲しかったんだと思います。
(加藤)奥さんも欲しがってたよな?不妊治療に通ってたっていうし。
不妊治療。
理解できない。
でしょ?いくら家族愛に飢えてたって子供ができなかったから離婚だなんて。
どうしてそんなに子供が欲しいんだ?えっ?ああ。
そっち。
子供苦手ですもんね。
先生。
苦手じゃない。
嫌いなんでしょ?分かってますそんなこと。
でもそんなことは今どうでもいいんです。
大事なのは…。
だいぶすり減ってる。
ちょっと。
何?ハァー。
とにかく大事なのは。
まあ殺された人のことは悪くは言いたくないけど。
真柴義之は女を子供を産む道具としか思ってなかったってことです。
そしてもう1年がたっているということだ。
えっ?真柴義之氏は産婦人科医にこう言ったんだろう。
1年以内に子供ができなければ離婚すると。
はい。
もし今真柴綾音のおなかに子供が宿っていないとしたら彼女はすでに離婚を言い渡されていることになる。
あっ。
えっ?じゃあホントに綾音さんが?僕は僕で自分に課した問題を解く。
つまり離れた場所にいてある特定の人物が口にする飲み物に毒物を混入させることは可能か?しかもあらかじめ施されていた仕掛けにはその痕跡が残ってはならない。
もう一度現場を見せてくれないか?ミネラルウオーターのストックは?どこにもありません。
つまり事件当日ミネラルウオーターは他にはなかった。
それが最後の1本だったわけだ。
はい。
もしそのペットボトルの中に残っていた水の量がコーヒー一杯分だったとしたら。
はっ?真柴義之氏が事件当日午前10時に飲んだコーヒーはそのペットボトルの水を使い2杯目はこの浄水器の水を使ったということになるんじゃないのか?えっ?安全だった1杯目と毒物が入っていた2杯目に違いがあるとすればそれしか考えられない。
はい。
この構造だとこちら側から蛇口の内部にヒ素を仕込むことはできない。
浄水器?でもここは前に湯川先生が調べたじゃないですか?フィルターカートリッジを取り外したのか?ああ。
警察の鑑識が調べたんです。
でも浄水器からもフィルターからもそして水道水からもヒ素は検出されませんでした。
分からない。
・
(ドアの開く音)綾音さん。
まだ調べることがあるの?湯川君。
まだ事件は解決していないからな。
そうね。
2階のお花に水をやりに来たの。
あっ。
勝手に上がりこんですいません。
構いませんよ。
事件はまだ解決してないんだから。
この浄水器のフィルターを一番最近交換したのはいつかな?浄水器?フィルターだ。
普通は定期的に交換する。
ああ。
ここに引っ越してきたときだと思うけど。
結婚したときにこの家を買ったの。
前に使ってた人がいたから業者さんがそのときに替えてくれたと思うけど?1年前か。
1年。
それが何か?そろそろ交換した方がいい。
古いフィルターはかえって有害だというデータもある。
この家は売るわ。
一人で住むには広過ぎるし。
あんなことがあってもうここにはいたくない。
その水を使うのか?うん?2階には水道がないそうです。
浄水器の水を?お花にあげるんだから奇麗なお水がいいと思うけど。
変?いえ。
そんな怖い顔しないで。
湯川君。
初恋のイメージが壊れちゃう。
自分が疑われてるって分かってるんですね彼女は。
1年かかったと言っていたな。
このタペストリー。
はい。
《美しい》
(美砂・綾音)《あっ》《これってタペストリーっていうんでしたっけ?》
(綾音)《はい。
1年かかりました》《えっ?》《君が作ったのか?》《うん。
時間はたっぷりあったし》《それにうちには子供がいなかったから》どこで作っていたんだ?そこのソファだと思います。
義之さんの会社の人が言っていました。
綾音さんはいつもそのソファに座ってタペストリーを作っていてまるで置物みたいだったってご主人がボヤいてたことがあったそうです。
どこにも外出せず。
ずっとここに。
(綾音)《ミネラルウオーターが切れたときは浄水器の水じゃなきゃ駄目だって》《子供ができなかったから離婚だなんて》
(綾音)《1年かかりました》《まるで置物みたいだって》えっ?あの。
先生?どうしちゃったんですか?
(綾音)分かるわけないわ。
湯川君。
絶対に分かりっこない。
刑事さんは?岸谷君は署に戻った。
湯川君は?大学に戻らなくていいの?君に時間があるなら少し付き合ってくれないか?
(綾音)うわー。
マプサウルス。
今から1億年前の白亜紀に生きていた獣脚類の恐竜だ。
(綾音)デートに誘われてまさか博物館に連れてこられると思わなかった。
ホント中学のころから変わってないのね湯川君って。
相変わらずこういうところが好きなんだ。
大好きだ。
君は化石をCTスキャンするという技術を知ってるかい?
(綾音)CTスキャン?うん。
(綾音)恐竜の骨を?骨じゃない。
化石をCTスキャンで調べるんだ。
(綾音)化石は骨じゃないの?そういう思い込みにこそ重大な落とし穴が潜んでいる。
(綾音)えー?穴を掘っていったら恐竜の骨が見つかった。
学者たちは大喜びで掘り出した。
そして骨についていた土を全部奇麗に取り除いて巨大な恐竜の骸骨を作りあげた。
(綾音)そうね。
骸骨だわ。
学者たちは「なるほど。
マプサウルスの顎はこんなにも大きかったのか」「腕はこんなにも短かったのか」と理解していった。
(綾音)湯川ゼミの授業ね。
しかし彼らは大きな過ちを犯していたんだ。
今から13年前ある研究グループが掘り出した化石の土をまったく取り除かずにそのままCTスキャンして内部構造を三次元画像にしようという試みを行った。
もう分からなくなってきた。
その画像に現れたものは何だったか?全然分からない。
何と心臓そのものだったんだ。
心臓!?そう。
つまりそれまで無駄なものだと思って捨てていた骨格内部の土は実は生きていたときの形をそっくり残した臓器などの組織に他ならなかったんだ。
(綾音)へえー。
今では恐竜の化石をCTスキャンするのは古生物学者たちのスタンダードな技術となっている。
(綾音)面白い!僕は初めてこの話を聞いたときこう思ったんだ。
これはまるで数千万年という長い時間をかけて完成させた巧妙なトリックのようだと。
トリック。
学者たちが無駄なものだと思って捨てていた土にこそ重要な意味があったわけだ。
そのことに気付かせないために必要だったものは時間だ。
途方もなく長い時間をかけたトリックによって誰も真実を見つけることができなくなってしまったんだ。
あの事件の話をしているの?湯川君は。
ああ。
(綾音)何億年も昔に戻らなくてもいいわ。
私は中学生のころに戻りたい。
知ってる?私たちのあの学校廃校になるんだって。
年内に取り壊すんだって。
それは知らなかった。
(綾音)その前に一度行ってみたいわ。
あそこに行けば会えるかしら?純粋に誰かのことが。
湯川君のことが好きだった私に。
教室に帰らなきゃ。
今度子供たちをここに連れてきてあげようっと。
ありがとう。
湯川君。
(綾音)あっ。
湯川君?どうして電話に出ないんですか?考え事をしていた。
私は先生に調べろって言われたことを報告しようと思って。
聞こう。
調査項目は3つあったはずだ。
1つ目。
まず真柴綾音がミネラルウオーターを購入していた店を探せ。
あの家の近所のスーパーを片っ端から当たりました。
そして見つけました。
(従業員)《ああ。
2週間前に一遍配達しましたけど》《量とかって分かります?》真柴綾音は定期的にミネラルウオーターを配達してもらっていたそうです。
記録によると事件の2日前に1ケース6本が配達されていました。
2日前に6本。
でも真柴義之さんの遺体が発見された日にはすでに最後の1本が空になっていたんです。
なくなり方が早過ぎます。
2つ目は?2つ目。
綾音さんが不妊治療で通っていた病院を探せ。
見つけました。
そしてびっくりする話を聞かされたんです。
確かに真柴綾音はそのクリニックに通院していましたがその目的は不妊治療ではなく。
《えっ?どういうことですか?教えてください》
(小笠原)《逆ですね》《逆?》
(小笠原)《ええ。
その方には避妊薬を処方しています》つまり彼女は不妊治療どころか子供をつくらないようにしていたんです。
3つ目は?ハァー。
3つ目。
真柴夫婦のあの家に入ったことのある人間を探せ。
そうだ。
まずあの夫婦は結婚後親しくしていた人はほとんどいません。
付き合いがあったのは仕事関係の人だけだったと言ってもいいくらいです。
綾音さんは幼児教室の先生たちでさえ家に呼んだことはありませんでした。
なるほど。
でも一度だけ義之さんの会社の人を招いて食事会を開いたことがあったそうです。
そのとき食事は?彼女が全て一人で作ったそうです。
キッチンには誰も入れなかった。
(浦部)《あっ。
手伝いますよ奥さん》《大丈夫。
お客さまなんだから座ってて》そうか。
これで僕の仮説を組み立てる条件は全て揃った。
条件?しかしあくまで理論上でしかないが。
理論上?ある人物が北海道にいて東京にいる人間に毒物を飲ませる。
それは可能だ。
しかしホントにそんなことが実行できるとはとうてい思えない。
どうしちゃったんですか?先生。
教えてください。
真柴綾音は何をやったの?私が何でも探し出し…。
あしたまで時間をくれ。
あした?そのとき全てを説明する。
会って話したいんだが。
できれば早く。
なぜそんなとこで?分かった。
休み!?
(晴美)朝早くに綾音先生からメールがあったんです。
旅行?
(晴美)やっぱりまだ落ち込んでらっしゃるんだと思います。
(晴美)刑事さん?
(田窪)3番は平滑回路でいいのかな?
(萌子)いいんじゃないですか?
(宇野原)こんな難しい実験1年生が見て分かると思えないんだけど。
(折川)張り切り過ぎだよな。
クリちゃん。
湯川先生の代講だからって。
(みさき)でもこの前の代講は3人しか学生来なかったから。
(田窪)まっリベンジしたい気持ちも分かりますよ。
・
(ドアの開く音)先生は?
(みさき)岸谷さん。
湯川先生は?
(田窪)いらっしゃいません。
いない!?
(宇野原)あっ。
でもそれ岸谷さん宛てにって。
えっ?
(折川)じゃあ僕らこれからクリちゃんの講義手伝うんで。
(一同)失礼します。
(折川)はい。
行くよ。
ほら。
(宇野原)ちょっと待って。
(一同)早く。
急いで。
「岸谷君君には明日まで待ってくれといったが事情が変わった」「その代わりここに真柴義之氏殺害に関して僕が立てた仮説をすべて書き記す」えっ?「しかしこれはあくまで理論上の仮説だ」「それが本当に実行されたかどうかを知っているのは真柴綾音本人だけだ」本人だけ。
どういうこと?
(呼び出し音)先生どこにいんの?
(呼び出し音)懐かしい。
27年ぶりに見る風景だ。
来てくれたのね。
湯川君。
僕は思い出に浸るのは趣味じゃないがここは僕が初めて理科に興味を持った場所だ。
取り壊される前にもう一度見ておきたかった。
それに僕は科学者だ。
真実を確かめずにはいられない。
真実?これから僕の仮説を述べる。
間違っていたらその場で反論してもらって構わない。
長くなりそうね。
ああ。
理科室に湯川君と二人っきりだなんて。
中学生のころだったら心臓が口から飛び出してたわ。
僕は…。
私には興味がなかったんでしょ?分かってる。
あのころの湯川君は科学が大好きなミステリアスな転校生。
いいわよ始めて。
どうぞ。
君は去年真柴義之氏と出会い子供を宿し結婚した。
ええ。
しかしその子は不幸な事故によりこの世に生を受けることはなかった。
ええ。
警察は初め後に義之氏を殺した人物が君への復讐のために起こした事故ではないかと疑っていたが僕は赤の他人による不慮の事故だと思っている。
そうね。
しかしその結果君は二重の意味でショックを受けた。
一つは流産をしてしまったこと。
もう一つはご主人の人生観を知ってしまったこと。
真柴義之氏が結婚に求めたものはただ一つ。
自分の遺伝子を受け継いだ子供をつくること。
1年で子供ができなかったら僕は君と別れる。
君はあの事故の後義之氏にそう告げられたんじゃないだろうか?そんなことを言われて驚かない人間はいない。
愛情は一転して強い憎しみに変わってしまうかもしれない。
人間の感情には疎い僕でもそれぐらいのことは想像できる。
しかし君は理性的な人間だった。
感情的にならずその場で彼に罰を下したりはしなかった。
君は義之氏に対して猶予を与えたんだ。
猶予?1年間の死刑執行猶予期間を。
死刑執行猶予期間。
君はご主人と残酷な約束を交わした直後浄水器のフィルターにヒ素を仕込んだ。
フィルターを通った水が出ていく部分にごく少量のしかしコーヒー一杯分で確実にそれを飲んだ人間を殺せる量のヒ素を。
(綾音)《ハァー。
ハァー。
ハァー》そしてその後は一度も浄水器を使わなかった。
使わなかった?そう。
一度たりとも。
そして君は幼児教室を人に任せ家庭に入った。
なぜか?ターゲットを見張る必要があったからだ。
君は義之氏が家にいるときは常にキッチンの見えるソファに座り。
(義之)《コーヒーでも入れよっか?》《私が入れる。
座ってて》
(義之)《あっ。
ありがとう》ご主人を決してキッチンに入れなかった。
家に客が来たときも。
(社員)《いいんですか?》
(義之)《いいよ》
(社員)《こんなにいいワイン》
(一同)《62年だよ。
62年》
(社員)《すごいこれ》
(浦部)《あっ。
手伝いますよ奥さん》《大丈夫。
お客さまなんだから座ってて》
(浦部)《あっ。
すいません》
(加藤)《お水頂きます》
(綾音)《駄目。
あっ。
ああ》《あの。
冷蔵庫にミネラルウオーターが入ってるから持っていくわ》
(加藤)《ああ。
すいません》誰にも浄水器を使わせず。
寝ているときでさえ。
(綾音)《どうしたの?》
(義之)《トイレ》《あっ》《大丈夫?》《大丈夫だよ》義之氏を監視し続けた。
そうやって1年もの間絶対に義之氏に浄水器の水を飲ませることはなかった。
それが君が彼に与えた執行猶予期間だったんだ。
そんなことできるわけない。
そして1年後。
約束どおり離婚すると言った義之氏に対して君は刑を執行した。
執行といっても君は何もしなくてよかった。
ご主人を残して家を出る。
それだけでよかった。
ただ一つだけ。
ミネラルウオーターを処分したんだ。
残したのは1本。
コーヒー一杯分。
なぜわざわざそんなことをしなければならなかったのか?君が東京を離れるまでの時間稼ぎだったんだ。
自分が北海道にいるときに義之氏の死体が発見されなければアリバイは成立しない。
そしてそこからは君の思いどおりに事は運んだ。
あの日の午前10時。
義之氏がコーヒーを入れるのに使ったのはペットボトルの水。
(社員)《「サンドリームさんの新戦略に関するプロモーションは以上になります」》安全だった。
(加藤)《「他には社長に伝えておくことないよな?」》そして君が北海道に着いたころご主人は2杯目のコーヒーを入れたんだ。
《ああ。
そっか》君には確信があった。
健康志向の強いご主人は必ず浄水器の水を使うという確信が。
ついに1年前に仕掛けられた毒物が効力を発揮するときが来たわけだ。
(せき)《がっ。
あっ!?》これが僕の仮説だ。
2014/08/21(木) 15:53〜16:47
関西テレビ1
ガリレオ #11−1[再][字]
「遂に最終回!聖女の救済−後編−
実に、実に、面白い!さよなら!湯川先生 前半」
福山雅治 吉高由里子 渡辺いっけい
澤部佑 天海祐希 ほか
詳細情報
番組内容
湯川学(福山雅治)は、会社社長の真柴義之(堀部圭亮)毒殺事件を通じて、義之の妻で、中学時代の同級生でもある綾音(天海祐希)と再会する。綾音は妊娠をきっかけに義之と結婚した。が、何者かに自転車で衝突され流産していた。
湯川は、綾音が営んでいる幼児教室で、子どもたちにある実験を見せた。それは、電気ポットを使って、次々とお湯の色を変えてみせるというものだった。
番組内容2
その話を知った貝塚北署の岸谷美砂(吉高由里子)は、その実験が事件に関係あるものだと考え、湯川を訪ねる。そこで湯川は、犯人は義之が自宅にいる時間に侵入してヤカンの水にヒ素を仕込んだのではなく、あらかじめ何らかの方法で仕込んだのではないか、と美砂に告げる。もしそうならば、事件当日北海道にいた綾音にも犯行は可能だ、と続ける湯川。美砂は、その可能性を否定し、勝手に綾音に接触しないよう、湯川に告げる。
番組内容3
そんな折、美砂は、事件当日義之の家を訪ねている紫色の傘の女性を見つけるが…。
出演者
福山雅治
吉高由里子
澤部佑(ハライチ)
渡辺いっけい
・
天海祐希
ほか
スタッフ
【原作】
東野圭吾
【脚本】
福田靖
【企画】
鈴木吉弘
【プロデュース】
牧野正
【演出】
西坂瑞城
澤田鎌作
【音楽】
福山雅治
菅野祐悟
『ガリレオ オリジナルサウンドトラック』(ユニバーサルミュージック)
【主題歌】
KOH+『恋の魔力』(ユニバーサル J)
【制作】
フジテレビドラマ制作センター
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – その他
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