(加藤)「他には社長に伝えておくことないよな?」
(ハラ)「はい」
(義之)じゃあ夕方。
4時に報告聞くから。
(義之)でも何かあったらいつでも電話くれ。
(加藤)「了解しました。
では後ほど」・
(雨音)・
(チャイム)
(美智子)よかったね。
お父さん大したことなくて。
(綾音)ホントよ。
寝たきりになっちゃったらどうしようかと思っちゃった。
転んで腰打ったって電話じゃ大騒ぎしてもう。
(美智子)綾音の顔見たかっただけなんじゃないの?結婚してから全然帰ってこないから。
(恵)式だってちゃんと挙げてないしねぇ。
(綾音)40過ぎてからウエディングドレスは似合わないでしょ。
(美智子)フッ。
(綾音)フフフ。
(美智子)でどうなの?新婚生活は。
ちょうど1年だっけ?
(綾音)楽しいよ。
2人で旅行行ったりおいしいもの食べに行ったり。
(恵)リッチな会社社長だもんね。
旦那さま。
(美智子)お金持ちで優しい人なんて最高じゃない。
はい。
(恵)子供は?つくらないの?ああ。
それはもう無理でしょう。
すいません。
同じものをもう一つ。
(ウエーター)はい。
かしこまりました。
(美智子)そういえばさこないだ悪魔の手事件ってあったじゃない?あれでT大学のY准教授って出てきたでしょ?犯人が名指ししてた。
(美智子)あれ湯川君よ。
湯川君?
(美智子)覚えてない?中学のとき一緒だった。
(綾音)湯川学君!?
(恵)ああ。
小6のときに転校してきた。
東京の高校に進学したんだっけ?
(美智子)物理学者なのよ今。
帝都大学の准教授。
(綾音)知らなかった。
(美智子)警察に協力していろんな事件解決してるんだって。
警察。
(恵)物理学者なのに?何で?
(美智子)いやー。
それは私も。
すいません。
このお皿下げてください。
(綾音)はい。
(加藤)エムシステムズの加藤です。
(綾音)ああ。
加藤さん。
(加藤)あの。
社長がどこにいらっしゃるか奥さんご存じですか?4時に会議の予定だったのに連絡取れないんですよ。
今日は一日中家にいるって言ってたけど?
(太田川)ご主人はご自宅のダイニングで倒れてらっしゃるのを警備員に発見されました。
私が様子を見に行ってほしいとお願いしたんです。
何度電話しても出ないから。
(美砂)ご遺体は今司法解剖に回されています。
死因はまだ分かりません。
会えないんですか?主人には。
(太田川)申し訳ありません。
奥さまにはこれから貝塚北署で話をお伺いしたいのですが。
一度自宅に戻らせていただけませんか?これがまだ現実かどうかぴんとこなくて。
(太田川)ですよね。
まだ現場検証の途中ですが。
ああっ。
ご主人はコーヒーをお飲みになっているときに倒れられたようです。
失礼します。
現場にあったものはすでに鑑識に回しています。
ご確認お願いします。
割れていたコーヒーカップ。
使用済みのコーヒーフィルターが捨てられていたものとシンクの横に置いてあったものが2つ。
コーヒーの粉が入っていた瓶。
ごみ箱にあったミネラルウオーターのペットボトル。
それからやかん。
(太田川)お宅のもので間違いありませんか?だと思います。
あの。
ここにはまだ警察の方が出はいりされるんですよね?
(太田川)ええ。
しばらくは。
(綾音)私どこかホテルに泊まります。
ここにはちょっと。
お気持ちの整理がつきませんよね。
(太田川)こちらも助かります。
(綾音)ハァー。
あの。
花に水だけあげてきてもいいですか?上のベランダのプランターには雨が当たりにくいので。
ああ。
どうぞ。
(綾音)あっ。
上には洗面所がないの。
ああ。
(太田川)しばらく戻られないんならこれからは僕が水やっときますから。
(綾音)ありがと。
・
(鑑識)太田川さん。
確認お願いします。
(太田川)おう。
奇麗ですね。
主人もこの花カワイイって。
どうして?どうしてこんなことに?綾音さん。
インスタントコーヒーが好きだったんじゃなかったの?先生は。
(湯川)バドミントン大会で優勝したら賞品がコーヒーメーカーだった。
使ってみるとなかなか便利だ。
(栗林)一杯当たりの単価も安いしね。
最初っからこっちでよかったのに。
(湯川)それはありませんね。
(栗林)えっ?
(湯川)コーヒーメーカーには大きな欠陥があります。
欠陥?
(湯川)それは…。
(湯川)インスタントコーヒーの味が出せないことだ。
(栗林)いやいや。
それは先生。
実は殺人事件がありました。
(栗林)話の腰を折るなよ。
真柴義之さんという43歳の会社社長がコーヒーに仕込まれた毒物を飲んで殺されたんです。
(栗林)えっ!?毒物?正式名称は亜ヒ酸ナトリウム。
通称ヒ素と呼ばれる猛毒です。
(太田川)《他殺だなこりゃ》
(アイザック)《計画殺人の可能性が高いですね》
(栗林)計画殺人!?岸谷君。
なぜ計画殺人なのか?それはヒ素が用意周到に仕掛けられた可能性が高いからです。
君はどさくさに紛れて事件の話をしようとしているようだがおそらく物理とはまったく関係のない話だ。
(栗林)あっ!事件当日奥さんは北海道にいて真柴さんは一人で家にいたんです。
関係ない関係ない。
ヒ素なんて僕らの専門外だ。
関係あるの。
話を最後まで聞く。
聞く!?朝10時までは真柴さんは元気だったんです。
その姿を真柴さんの会社の人がテレビ会議で見ています。
(栗林)テレビ会議?真柴さんがコーヒーを飲んでいるところを。
(栗林)コーヒー飲んでた?鑑識で検査した結果床にこぼれていたコーヒーからはヒ素が検出されました。
もちろんコーヒーカップからも。
やめてよもう。
さらにシンクの横にあったコーヒーフィルター。
そしてやかんからもヒ素が検出されました。
おいおい。
検出されなかったのは三角コーナーに捨てられていた紙フィルターとごみ箱にあったミネラルウオーターのペットボトルです。
えっ?どういうこと?おそらく真柴さんは午前中に飲んだコーヒーはこの捨てられた紙フィルターで入れて午後に飲んで亡くなったコーヒーはこっちを使って入れたんでしょう。
つまり1杯目と2杯目の間に毒が仕込まれた。
おそらくやかんの中に。
何でやかんなんだよ?ペットボトルからも水道水からもヒ素は検出されなかったから。
コーヒーを入れる過程を考えたらやかんを疑うのは当然でしょう?こっから先で毒物が発見されたんだから。
なるほど。
やはり物理とは何の関係もない。
えっ?あっ!いつの間にか話に乗せられてた。
犯人は被害者が自宅にいるのにキッチンにあるやかんに毒物を混入したんです。
物理的に不可能です。
家に誰かがいても空き巣は入る。
僕なんかアパートで寝てる間にテレビ盗まれたからね。
そんなセコい話は真柴さんの家ではあり得ないのよ。
何で?警備会社のホームセキュリティー。
いわゆる在宅警備システムがセットされていたからです。
なるほどね。
しかしやはり物理とは何の関係もない。
あっ!また。
本題はここから。
インターホンの記録から被害者がテレビ会議に出た朝10時からテレビ会議に出なかった夕方4時までの間に一人の訪問者があったことが分かっています。
訪問者?インターホンモニターの画像です。
あっ。
ほとんど傘しか写ってない。
訪問時間は午後2時4分。
真柴義之さんはドアを開けて対応したんです。
警備システムを解除しないまま。
「侵入警報」
(スタッフ)《侵入警報を感知しましたが》・
(義之)《すいません》《警備解除するのを忘れて玄関を開けてしまいました》警備システムを切らずにドアを開けてしまうことはよくあるそうで警備会社は出動しませんでした。
つまりこの紫の傘の人物が家ん中に入ったかどうかまでは分からないと。
そう。
ああちょっと。
もう。
そして夕方4時のテレビ会議。
真柴さんと連絡が取れなかったので社員が北海道に里帰りしている奥さんに連絡をし奥さんが自宅の鍵を預けている警備会社に連絡をし駆け付けた警備員が亡くなっている被害者を発見したんです。
死亡推定時刻は午後2時から3時。
つまりその女性が訪問してきた時刻と一致しています。
なるほど。
こいつが限りなく怪しいってわけか。
実に面白い。
そして実に素晴らしいプレゼンテーションだ。
最初から物理とは関係ないと指摘されながら諦めることなくデータを並べ物理とは関係ないまま仮説を展開しそしてとうとう物理とは関係ないまま結論へと導く。
これぞまさにスーパープレゼンテーション。
やられた!先生。
まったく興味がない。
帰れ帰れ。
この口八丁女が。
ああ。
もう。
まだ結論までいってないし。
その紫の傘の女性を捜せばいいだけの話じゃないか。
ですよね。
物理には関係なくても湯川先生には関係あるんです。
先生に?この人を見てください。
殺された真柴義之さんと一緒に写ってる女性です。
美人だ。
美人ですね。
真柴さんの奥さんです。
それと湯川先生の同級生。
えっ?今は真柴綾音さんという名前ですが旧姓は三田綾音さん。
北海道で湯川先生のクラスメートだったでしょ。
中学生んとき。
マジで?三田綾音。
(晴美)お花を置いてお辞儀して。
(晴美)綾音先生のところに。
お花置いて。
お辞儀して。
ひまわり会?
(太田川)真柴綾音さんの幼児教室だよ。
でも結婚してからこの1年は他の先生に任せて自分は主婦業に専念してたんだ。
子供が好きなんだってさ綾音さん。
でも自分は子宝に恵まれず旦那さんにも死なれて。
ハァー。
かわいそうに。
奥さんのことは入念に調べてるのね。
俺毎日真柴さんとこの花に水やってんだよ。
はっ?だってホテル暮らしで家に帰れないんだぞ綾音さんは。
その間に枯れちゃったら悲しみに追い打ちかけんだろ?ハァ。
(義之)《綾音。
覚えてるよね?あの約束》《約束?》・
(足音)三田綾音さん。
いや。
真柴綾音さん。
このたびは残念だった。
湯川君?26…。
いや。
27年ぶりか。
(綾音)全然変わってない湯川君。
君もだ。
また。
ホントに私のこと覚えてたの?中学卒業してすぐに東京に行っちゃったでしょ。
僕は美人の顔は忘れない。
嘘。
あのころ私のことなんか気にも留めてなかったくせに。
本当いえば警察が写真を見せてくれるまで忘れていた。
警察?僕は警察の事件捜査に関わることがあってね。
ああ。
知ってる。
でも主人が亡くなったのは物理学者さんに協力してもらうような事件なの?今回はかなり無理のある協力依頼だったが。
でも引き受けてくれたんだ。
自分の知っている人間の家族が不審な死を遂げ他殺の疑いがありさらにその事件の真相は謎に包まれている。
僕の知識が役に立つかどうかは分からないが協力しないなどと突き放すわけにはいかない。
ありがと。
湯川君。
現場を。
君の自宅を見せてくれないか?警察の立ち会いの下で。
もちろん。
ご苦労さまです。
あっ。
どうぞ。
真柴さん。
このバラは?
(綾音)主人が好きだったの。
ご主人がバラを?奇麗ですよね。
手入れは誰が?私だけど。
それがどうかしたんですか?いや。
(綾音)入って。
湯川君。
湯川君?真柴義之さんはここに倒れていました。
ここにコーヒーカップが転がっていてその周りにはコーヒーがこぼれていたんです。
あのごみ箱の中に空のペットボトルが?はい。
ご主人はコーヒーを飲むときはいつもミネラルウオーターで?コーヒーだけじゃないわ。
お料理も基本的にはミネラルウオーターを使ってくれって。
ご飯を炊くのも?彼は健康志向が強かったの。
ミネラルウオーターが切れたときは絶対浄水器の水じゃなきゃ駄目だって。
ああ。
浄水器の水は私も使いますけど。
こだわる人だったのよ。
まさかお風呂の水もミネラルウオーター?まさかそこまでは。
ここはあまり掃除されていないようだ。
だってそんなところめったに開けないし。
やはり毒物はやかんに混入されていた可能性が一番高い。
これですね。
はい。
でもどうしてこんなことができるんですか?ご主人は午前中には普通にコーヒーを飲んでいるんです。
このやかんでお湯を沸かして。
でも午後にはヒ素が仕込まれていた。
あの紫の傘の女が家の中に上がりこんでご主人の目を盗んでやかんに毒物を入れた…。
紫の傘の女?あっ。
事件当日ここを訪ねてきた人物です。
誰?毒物を仕込めるかどうかはその人物と真柴義之さんとの関係に関わってくる。
しかし現時点ではさっぱり分からない。
実に面白いとは言わないんですか?そんなデリカシーのないことは言わない。
美しい。
(美砂・綾音)あっ。
これってタペストリーっていうんでしたっけ?はい。
1年かかりました。
えっ?君が作ったのか?うん。
時間はたっぷりあったし。
それにうちには子供がいなかったから。
1年。
素晴らしい。
ありがとう。
集中力と根気がいる作業だ。
君は科学者に向いているのかもしれない。
いまさらそんな。
ねっ?いつか湯川君の研究室も見てみたいわ。
気晴らしになるならいつでも。
大歓迎だ。
ありがとう。
もういいですか?やっぱりここにいるのは少しつらいわ。
ホテルまでお送りします。
(綾音)カッコ良かったのよ彼。
頭が良くてスポーツもできてみんなキャーキャー言ってた。
ああ。
今も言われてますよ。
授業なんて女子学生ばっか。
理解できない。
(綾音)どうして?今でもすてきじゃない。
ああ。
見た目はそうかもしれないけど。
あの理屈っぽさがもう。
理系君にはついていけません私。
(綾音)それは分かる。
昔からそうだったもん。
でも実は私も好きだったの湯川君のこと。
えっ?
(綾音)中学のころよ。
もう二十何年も前の話。
あっ。
付き合ってたんですか?まさか。
初恋だもん。
岸谷さんは?いなかったの?そういう人。
ああ。
同じ学部の中島君。
(綾音)中島君。
あっ。
バレンタインのときにチョコレート渡したのが精いっぱいで後は自爆。
ウフフ。
刑事さんも普通の人なのね。
えっ?普通ですか?
(綾音)付き合ってくださってありがとう。
岸谷さんと話してたら少し気持ちが楽になりました。
ああいや。
私でよければいつでも。
(綾音)じゃあ。
(綾音)岸谷さん。
はい。
(綾音)私が北海道へ行かなかったら主人は死なずに済んだの?ご自分を責めないでください。
悪いのは犯人です。
警察は全力で犯人逮捕に努めます。
はい。
失礼します。
ハァー。
(女性)もう嫌。
(男性)何?
(女性)シェイクが硬くて吸えない。
(男性)もう俺が先っぽまで吸ってやるよ。
ほら。
(女性)ああ。
吸えた。
(男性)アハハ。
もっとさ勢いよくこう。
ぎゅって。
スプーンですくって食べなさい。
あれ?ひまわり会の先生。
えっ?綾音さんの幼児教室はいつごろから手伝われてるんですか?
(晴美)5年前です。
じゃあ真柴ご夫妻のこともよくご存じですよね?
(晴美)ええ。
まあ。
真柴さんと結婚されたきっかけは?綾音先生が妊娠されたからです。
妊娠?できちゃった婚?でも籍を入れられてすぐに流産されて。
えっ?
(晴美)それで主婦業に専念されてたんです。
教室は私たちに任されて。
(晴美)ハァー。
どうしても赤ちゃんが欲しかったんだと思います。
綾音先生。
ああ。
(晴美)ホントにかわいそう。
結局子供できなかったし。
ご主人もあんなことになって。
そもそもあの事故だって。
事故?綾音先生が流産された事故です。
自転車ぶつけられたんです。
女の人に。
女の人に?
(晴美)私その女が綾音先生を流産させるためにわざとぶつかったんじゃないかとさえ思いました。
わざとって。
(晴美)だってすてきな方でしたからご主人。
きっと女性にモテたんだろうし。
真柴さんと結婚した綾音さんを恨んでる人間がいた?
(晴美)例えば綾音先生の前に付き合ってて振られちゃった人とか。
例えばですけど。
あっ。
ごめんなさい。
何?
(太田川)もっと愛想よく出ろよ。
表示見て俺からだって分かってんだろ?その。
先輩に対するリスペクトはねえのか?用件は何でしょう?被害者が奥さんと結婚する前に付き合ってた女が分かったんだよ。
えっ?この右端の方ですよね?
(加藤)ええ。
津久井潤子さん。
(加藤)社長が連れてきたんですよ。
今付き合ってる女性だって。
あっ。
これはいつごろの写真ですか?
(加藤)おととしの暮れだよな?
(ハラ)クリスマスです。
あっ。
どうぞ。
ありがとうございます。
綾音さんと結婚される半年前。
何をされてる方ですか?
(浦部)イラストレーターだったと聞きました。
ああ。
今はどちらに?
(加藤)仕事を辞めて静岡の実家に帰ったって。
静岡?
(加藤)社長と別れたことがショックだったのかも。
加藤さん。
(加藤)勝手な想像ですよ僕の。
えっ?別れた原因はご存じなんですか?
(浦部)あっいや。
それは…。
教えてください。
大事なことなんです。
綾音さんにお子さんができたからでしょう。
えっ?
(栗林)よう…。
ようこそいらっしゃいました。
あの。
湯川先生の助手の栗林です。
初めまして。
真柴綾音です。
(栗林)写真より実物はもっとお美しいですね。
ああ。
もうやめてください。
そんなこと。
(栗林)こちらです。
(綾音)すいません。
あっ。
すごい!これが研究室?うわー。
ようこそ。
(栗林)こんな方が同級生だなんてもう何なんですか?先生。
まさか君がホントにここに来るとは思わなかった。
(綾音)いつでも大歓迎って言ったじゃない?湯川君。
(栗林)湯川君!?あっ。
うちのと同じやかん。
(栗林)湯川君って呼ばれてるんだ。
ずっとヒ素の仕掛け方を考えているんだ。
(栗林)いいなぁ。
だがなかなかいいアイデアが思い浮かばない。
(綾音)自分の研究も忙しいんでしょ?
(栗林)僕のことも栗林君って。
亡くなったのは君のご主人だ。
何とか犯行手段を解明したい。
(綾音)ありがとう。
湯川君。
入れない。
(綾音)でもホントにそんなに根を詰めないで。
実は今日は別のお願いがあって来たの。
(栗林)お願い?
(綾音)うちの教室の子供たちに何か面白い実験を見せてくれない?
(栗林)ああ。
(綾音)みんなすごく喜ぶと思うの。
(栗林)いいですね。
将来科学者になりたいなんて子供が出てきたりして。
(綾音)そう。
申し訳ないがそれはできない。
えっ?僕は子供が嫌いなんだ。
(栗林)先生。
(綾音)嫌い?どうして?子供は非論理的だからだそうです。
非論理的!?子供に近寄られるとじんましんが出てしまうんだ。
(綾音)子供はみんな天才よ。
(栗林)ですよね。
みんな天才なわけがない。
天才は人口の0.001%の割合でしか存在しないんだ。
(綾音)湯川君。
(栗林)僕がやりますよ。
実験。
任せてください。
(綾音)でも栗林さんは助手なんでしょ?お願い。
湯川君。
ハァー。
無理だ。
そう。
ごめんなさい。
勝手なお願いしちゃって。
帰るわ。
湯川君の研究室が見られてよかった。
じゃあね。
ああ。
(綾音)さようなら。
栗林さん。
(栗林)はい。
綾音さんはご主人を亡くして落ち込んでるんですよ。
子供が苦手なぐらい何ですか?僕なんかやりたくたってできないのに。
先生はご自分の幸せを分かってない!・待ってくれ!
(綾音)どうしたの?ハァー。
一つ聞きたいことがある。
(綾音)うん。
あのバラは誰が植えたんだ?バラ?君の家に咲いているあのバラだ。
ああ。
私だけど。
それがどうかした?子供たちに見せる実験はどんな実験でもいいのか?えっ?例えばバラの花を超低温で凍らせてガラスのように割ってみせるとか。
もちろんよ。
何でもいいわ。
では始めよう。
今日実験に使うのは電気ポット。
耐熱ガラス。
そして水だ。
バラじゃなかったんですか?すいません。
(晴美)はい。
明かりを消してもらってもよろしいでしょうか?
(晴美)はい。
まずはポットに水を注ぐ。
そして電源を入れる。
(警察官)ここが事故現場です。
真柴さんのお宅はあちら側を出てすぐです。
向こうから歩いてきた綾音さんに自転車がぶつかったんですね?
(警察官)ええ。
後ろから当て逃げでしたから乗っていたのは女ということしか分からなかったそうです。
《うっ。
あっ!》
(晴美)《その女が綾音先生を流産させるためにわざとぶつかったんじゃないかとさえ思いました》
(電子音)沸騰した。
この耐熱ガラス容器に400ミリリットルのお湯を注ぐ。
このお湯の色は何色だ?
(晴美)見てごらん。
お湯は何色かな?
(子供)透明。
(子供たち)透明!透明!もういい!そうだ。
透明だ。
ではもう一度同じことをする。
(太田川)《この津久井潤子って女には真柴義之さんを殺す理由があるんだからな》《妊娠してた奥さんに自転車で体当たりする理由も》津久井潤子?
(子供たち)綾音先生。
まだ?
(綾音)まだよ。
(子供たち)つまんない。
(電子音)沸騰した。
(綾音)何が起こるんだろうね?よく見てろ。
(子供たち)赤い!どうして?
(綾音)えっ!?
(子供)どうして?
(子供たち)どうして?どうして?どうして?もう一度同じことをやる。
(電子音)よく見てろ。
(晴美)どうして!?
(子供たち)紫。
紫だ。
紫色。
(子供)紫紫。
(晴美)ねえ。
(子供たち)すごーい。
すごい。
何で?
(晴美)どうしてだろう?
(子供たち)何で?すごいね。
ああもう。
何?
(太田川)大変なこと分かったぞ。
津久井潤子は死んでたよ。
1年前に。
えっ?
(太田川)手首切って自殺したんだってさ。
実はあらかじめこのふたの裏に赤い絵の具と青い絵の具をそれぞれ別の場所に取り付け厚さの違うゼラチンで覆っていたんだ。
君たちにも分かるように説明しよう。
このように最初に沸騰させたときはゼラチンが溶けずに透明のお湯が出てきた。
2回目のときは赤い絵の具を覆っていたゼラチンが溶けて赤いお湯が出た。
そして3回目は青い絵の具を覆っていた厚いゼラチンが溶けて赤と青の絵の具が混ざり合って紫のお湯が出たんだ。
(晴美)へえー。
不思議ね。
(子供)全然分かんない。
(子供たち)ゼラチンって何?ゼラチンって何?ゼラチンというのは…。
(子供)紫色のお湯が出たの?
(晴美)ねえ?手品みたいよね。
(子供たち)おじさん手品の人!?近づくな。
(子供)ハトとか出して。
近づくな。
(子供)ハトとか出して。
かゆい。
(子供)ハトとか出して。
(綾音)私中学のとき湯川君のこと好きだったのよ。
それは知らなかった。
申し訳ない。
アプローチしたのに全然気付いてくれなかった。
アプローチ?教会の日曜礼拝に誘って振られたわ。
ああ。
あのころから君はクリスチャンだったな。
あのとき湯川君こう言ったのよ。
ガリレオ・ガリレイが唱えた地動説をいまだに認めていない宗教を僕は受け入れるわけにはいかない。
びっくりしちゃった。
それは正しい理屈だ。
ローマカトリック教会がガリレオに謝罪したのは1992年。
そして地動説を公式に認めたのは何と2008年だ。
ガリレオが死んでから350年もの時間がかかってしまった。
でもガリレオは救済されたわ。
時間はかかったけど。
救済には時間がかかるの。
救済?どうして子供たちにあの実験を見せたの?僕が今最も興味のあることを題材にしただけだ。
それは私の夫が亡くなった事件?ああ。
あの電気ポットの実験は事前に仕込まれていた絵の具が時間がたって水に溶けだしたってことよね?そのとおり。
つまり絵の具を夫を殺した毒物と置き換えると。
犯人がやかんにヒ素を仕込んだのは君のご主人がテレビ会議で元気な姿を見せていた午前10時すぎから連絡が取れなくなった午後4時すぎまでの間。
警察はそう考えている。
しかし本当にそう決め付けていいのだろうか?ヒ素がそれ以前に仕込まれていた可能性はないのか?僕が最初に立てた仮説はあのゼラチンを使ったトリックだ。
しかし犯人はあの方法を使ってはいない。
なぜならゼラチンの成分が必ずやかんに残ってしまうからだ。
ではどうしたら2杯目のコーヒーだけにヒ素が溶けだす仕掛けができるのか?私がそんな仕掛けをしたって?私を疑ってるの?私が夫を殺す理由がないわ。
僕は犯人にも犯行動機にもまったく興味はない。
ただ…。
ただ?あれは確か中学3年のクリスマス直前だった。
君が僕を日曜礼拝に誘ったときこんな話をしたんだ。
私はバラの花が嫌いだ。
どんなに奇麗な花でもとげがある花は好きにはなれないと。
そう言ったんだ。
ところが今は君の家にはたくさんのバラが咲いている。
今は好きになったのよ。
とげだらけの花を?それが私を疑う理由になるの?ならない。
バラは嫌いだったが夫が好きだから今は自分も好きになった。
そういうこともあるだろう。
だが僕たち科学者は目の前で起こっている事象に違和感を感じたらその違和感の正体を突き止めたくなる。
その根本を疑ってみたくなるんだ。
妻が愛する夫を殺されて悲しみに暮れている。
その構図さえも。
根本から。
(義之)《綾音。
覚えてるよね?あの約束》《約束?》《1年以内に子供ができなかったら別れるって約束》美しい。
この十字架の縦横の比率はほぼ黄金比に等しい。
もし美しい完全犯罪というものが存在するのならその美しさはこの十字架に近いのかもしれない。
(綾音)救済には時間がかかるの。
(湯川)救済?2014/08/21(木) 14:57〜15:53
関西テレビ1
ガリレオ #10[再][字]【第2シーズン初再放送!福山雅治 吉高由里子 渡辺いっけい】
「最終章・聖女の救済−前編−愛という名の完全犯罪!!」
福山雅治 吉高由里子 渡辺いっけい 澤部佑 ク・ハラ 天海祐希 ほか
詳細情報
番組内容
帝都大学の湯川学(福山雅治)を訪ねた岸谷美砂(吉高由里子)は、会社社長が毒殺された事件について話し始めた。
被害者はエムシステムズの社長・真柴義之(堀部圭亮)。事件当日、自宅で仕事をしていた義之は、朝10時のテレビ会議までは元気だったが、夕方4時の会議の際に連絡が取れなくなり、自宅のダイニングで倒れているところをかけつけたホームセキュリティー会社の社員に発見されていた。義之が飲んでいたコーヒー
番組内容2
から猛毒の亜ヒ酸ナトリウムが検出されたことから、計画殺人の可能性が高かった。朝10時の会議の際に義之がコーヒーを飲んでいたこと、セキュリティー会社の在宅警備システムがセットされており、義之が外出していないことから、犯人は、義之が自分で入れていたコーヒーの1杯目と2杯目の間に家に侵入し、毒物を仕込んだというのだ。そして、午後2時過ぎに、ひとりの訪問者があったこともわかっていた。しかし、その日は昼過ぎ
番組内容3
から雨が降っており、女性と思われるその訪問者の顔は、傘で隠れてわからなかった。
話を聞いていた湯川は、傘の女性を探せばいいだけだ、と美砂に告げた。すると美砂が、事件当日は北海道に里帰りしていた義之の妻が、湯川の中学時代のクラスメイト・綾音(天海祐希)であることを打ち明ける。
義之の葬儀会場を訪れた湯川は、綾音と20数年ぶりの再会を果たす。そこで湯川は、警察の捜査に協力することを綾音に告げ…。
出演者
福山雅治
吉高由里子
澤部佑(ハライチ)
渡辺いっけい
ほか
スタッフ
【原作】
東野圭吾
【脚本】
福田靖
【企画】
鈴木吉弘
【プロデュース】
牧野正
【演出】
西坂瑞城
澤田鎌作
【音楽】
福山雅治
菅野祐悟
『ガリレオ オリジナルサウンドトラック』(ユニバーサルミュージック)
【主題歌】
KOH+『恋の魔力』(ユニバーサル J)
【制作】
フジテレビドラマ制作センター
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32724(0x7FD4)
TransportStreamID:32724(0x7FD4)
ServiceID:2080(0x0820)
EventID:15429(0x3C45)