1趣味Do楽 茶の湯 藪内家“織部も親しんだ茶の魅力”第3回「茶道具の楽しみ」 2014.08.18

戦国時代命を懸けて戦う武将たちの間で心静かに一服の茶を楽しむ茶の湯が盛んに行われました。
武将たちの関心は茶道具にも向かいます。
特に価値の高い茶道具は所有する事がステータスにさえなりました。
最も人気があったのは中国から渡ってきた華やかな茶道具。
その後千利休が考案した渋い味わいのあるものが高く評価されます。
江戸時代に入ると利休の弟子古田織部が好んだと言われる斬新なデザインが一世を風靡します。
それを「織部好み」といいます。
織部好みは流行の最先端を行く独創性にあふれるものでした。
織部から藪内家へと伝わった茶道具は今も大切に使われています。
「趣味Do楽」…今回のテーマは「茶道具を楽しむ」です。
ご指導頂くのは藪内家13世家元を父に持つ若宗匠藪内紹由さんです。
(2人)よろしくお願いします。
茶道具を楽しむ心構えで大切な事は何ですか?亭主がお茶事を催すにあたりどういうふうな気持ちでお道具を組み合わせるかそしてお客さんもそれをどういうふうにくみ取るかという事なんですね。
基本的には作法というのがある。
お茶事の流れとかに対して道具の拝見のしかたとかそういうのもあるんですがこれが絶対一つの答えだという正解はないんです。
ではまずはしっかりとそのお作法を守るところをしっかりと頑張っていきたいと思います。
(2人)よろしくお願いします。
茶道具には数多くの種類があり季節や場面によって使い分けられます。
例えば湯を沸かす時夏は風炉が使われますが冬は畳の下の炉になります。
水指は夏は涼しげなものが選ばれます。
抹茶の入れ物は濃茶では茶入薄茶では棗になります。
また茶碗も濃茶と薄茶では異なるものが使われます。
茶事を催す亭主はこうした茶道具をうまく組み合わせ客をもてなすのです。
ここからは藪内家正教授矢部経子さんに教えて頂きます。
よろしくお願いいたします。
こちらの方こそよろしくお願いいたします。
客は必ず手に取るこのお茶碗なんですが拝見を楽しむ前に注意しなくてはいけない事というのはどんな事でしょうか?お茶碗に限らず拝見させて頂けるお道具全般なんですけれども手に取って拝見する時の姿勢をきちっと決まった形というのがございます。
肘と膝…両肘とも膝にあずけてお茶碗とかお道具類はその手の動く範囲内でご覧頂く。
となると高くはできない。
左右にもそれほど大きくは揺れない。
この低い位置だと落としても…。
落とす事は絶対駄目なんですけれども少しなら衝撃が少ないというところで。
低い位置で拝見させて頂くという事ですね。
薄茶のお茶碗の拝見のタイミングは自分がいただいた直後でしたが濃茶の場合はどういったタイミングになるんですか?何人かの方で飲み回ししますのでそのあとに拝見するという事になります。
1人ずつがいただきながら拝見という事ではありません。
濃茶茶碗を拝見します。
懐紙を敷き茶碗をのせます。
軽く一礼して茶碗全体を拝見します。
次に肘を両膝につき両手で茶碗を取ります。
この時茶碗が懐紙の上から外れないように気を付けます。
土肌や茶碗の足にあたる高台の形に注目しましょう。
このお茶碗の特徴はプツプツとパンケーキの焼けてるひっくり返すタイミングみたいなそういうプツプツとしたのを「かいらぎ」というふうに言いますけれどもそれの状態も大事な事なんです。
拝見するというのは知識がないと楽しめないものなんでしょうかね。
まずは積極的にたくさんのお茶碗を拝見していきたいと思います。
利休織部にはそれぞれが好んだと言われる茶道具があります。
織部の師匠利休は渋い色特に黒を好んだと言われています。
質素で落ち着いた趣があります。
一方織部が好んだと言われる茶碗は大きく歪んでいたり独特な文様が施されたりしています。
このような斬新なデザインの焼き物を「織部焼」といいます。
織部焼の魅力はどう読み解けばよいのでしょうか。
ここからは利休織部剣仲の茶道具に詳しい野村美術館館長の谷晃さんにお話を伺います。
(2人)よろしくお願いします。
今回は特別に美術館のご所蔵品の中から織部焼2点をお持ち頂きました。
こちらどういったものでしょうか?こちらは花入なんですが耳が付いてますので「耳付き」そして底に小さい足が3つ付いてますので「耳付三足花入」と呼んでいます。
どういった特徴があるんですか?普通の花入に比べると形に歪みが結構ある。
普通花入…まあ焼き物丸いものが多いんですがこういう歪みがある。
それから白と緑色の織部独特の釉薬の対比。
そして文様ですね。
こういったところにいわば見どころがあると言えます。
確かに口のところの緑と側面の白の色の対比が鮮やかですよね。
織部焼の特徴の一つです。
もちろん他の色を使う場合もありますけれど。
逆にお隣にある茶碗なんですけどこのお茶碗はほんとに端正な形で歪みも少ないですね。
そうです。
歪みがあるものが多いからといって織部焼の全てが歪んでるわけではありません。
これは当時発行されていた暦のデザインを茶碗に取り込んでるんですね。
その書いた文字とか絵が織部自筆だと言われてるんです。
こちらがですか?そうなんです。
お持ち下さい。
おっどっしりとした感じが。
ええ。
かなり焼き締まってますので少し重みを感じます。
横側面には細かい文字がたくさん書いてますね。
ご覧なって分かるかと思いますが日にちがまず書いてありますね。
「三日」とか「二日」とか書いてあります。
その下ちょっと読みにくくなってますが干支が書いてありまして。
デザインとしてこういう暦を茶碗に取り込んだというのはこれが多分初めてのものだと思います。
ですからこれでお茶を飲んだ人はさぞかしびっくりしたんじゃないかと思いますね。
江戸中期以降になりますとこういうものをマネして暦を描く茶碗が流行するんですね。
町の人たちがそれをお歳暮のお使い物にしたりあるいは新年のお茶会にそれを使って飲むとかという事をしたようです。
そういったエピソードやお話を伺うとまたいろいろな面白さが出てきますね。
そうですね。
茶道具というのは単に芸術的に優れてるかとかあるいは技術的にどうかというよりその茶碗が生きてきたそのストーリーあるいは物語あるいはエピソードというものも楽しみの一つであり価値の一つになるわけなんですね。
利休剣仲織部の間柄をしのばせる茶道具があります。
「鉈鞘」と呼ばれる花入です。
きこりが鉈の鞘として使っていたものを利休が見つけて花入にしました。
利休はこの花入を剣仲に贈りました。
ある日剣仲を訪ねた織部はこの花入れを大変気に入りこっそり持ち帰ってしまいました。
後に剣仲に怒られた織部はこのわび状と共に鉈鞘を返します。
決まりが悪かったのか「自分は足の筋を痛めたので息子に届けさせる」と書きました。
この手紙は「筋痛みの文」と呼ばれ藪内家に残っています。
剣仲が大切にしていたものを勝手に持っていけば怒られるのは分かりそうなものですがそれだけ鉈鞘を気に入ったと考えられます。
利休剣仲織部それぞれの茶道具へのこだわりがかいま見えるエピソードです。
ここからは若宗匠にも加わって頂きます。
藪内家に伝わる織部ゆかりの茶道具の一部をお持ち頂きました。
ご紹介頂けますか?まずこれお濃茶の茶碗なんですけども藪内では大体5人か6人で一椀の濃茶を頂くというふうになってるんです。
ちょっといびつな形をしてますが「是界坊」という銘が付いてます。
お持ちになって下さい。
よろしいですか?あっ思ったより軽いですねはい。
す〜っと手になじむような感じで。
是界坊っていうのは中国にいたとても力の強い天狗の事を言うようですね。
ですからこの茶碗の持ってる雰囲気力強さから是界坊が連想されて名前となったんだと思います。
そしてそのお隣にあるこちらも面白い絵が入ってますね。
ちょっとお茶碗入れ替えてみましょうか。
随分手の長い猿ですね。
これは何をしようとしてるところですか?水面に映ってるお月さまをお猿さんが手を伸ばして取ろうとしてるんですね。
月をですか?でも月は描かれてませんね。
お茶碗全体を持って拝見なさって下さい。
全体…横もですか?横側もご覧になって下さい。
これが水面ですね。
そうですね。
渦巻きのような形があって…。
あっここに月があるんですね!そうなんです。
お客には最初この月しか見えてませんけども薄茶を味わったあとにこの親子猿の絵柄が出てくるんですね。
器に込められたいわゆるサプライズですよね。
そしてこちらの香入も見事ですね。
この香合はね織部が自分の抱えている職人さんが作って一番いいものが出来たと。
それを自分の袂に入れて剣仲のもとに持ってきたといういわれのある香合なんです。
「袂香合」と呼んでます。
緑色の釉薬と白の対比ですとかそれから梅鉢紋と言われる模様それから周囲にある籬紋いろんな織部の特徴がこの小さなものに込められている。
いかにも織部好みといいますか当時の流行をよく表現している香合ではないかと思います。
よく茶の世界ではごちそうという事を言いますけどそれは文字どおり食べる物ではなくてこういう使われる道具がすばらしいものがたくさんある事をごちそうだと言うんですね。
ですから今日はまさしく織部にちなむ名器それが3つもそろってもうごちそういっぱい頂いたおなかがいっぱいになったそういう感じがしますね。
今回は茶道具の楽しみ方を教わりましたがほんとにこの織部という方が道具を通していかにお客様を楽しませようその志というか熱意のようなものを感じましたね。
そうですね。
お茶事というものを通じてねお道具を拝見して頂くとまた余計楽しみが増えてくるのではないかと思うんです。
お茶道具というのはあくまで使ってこそ意義があるものなのでどういう思いで亭主が出してるかお客さんはどう受けるかそれを私は一番楽しみにしてるんです。
茶の湯はよく「五感で感ずる」と言いますけれど道具を鑑賞する場合やはり手の上にのせて感ずるまあ触覚プラスアルファというものが非常に大事だと思います。
今日はほんとにどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
ふんわりと滑らかな抹茶。
その魅力を科学の目で考えていきます。
まずお点前の動きを詳しく見ます。
用意したのは抹茶を溶かしたお湯を遠心分離機にかけた上澄み。
透明になり茶せんの動きが見えるようになります。
藪内流のお茶を学んで30年以上になる姫野泰子さんに点てて頂きます。
ハイスピードカメラの映像です。
茶せんの動きにより空気を抱き込んだ泡が生まれそれが次々と表面に上がりたまっていく様子が分かります。
次に下から見てみます。
茶せんが底をなで穂先がさまざまな方向を向いています。
初めて茶せんを持った初心者と比べると初心者は底に触れずに茶せんを回転させていて姫野さんに比べてあまり空気の泡が入ってきません。
通常の抹茶を点ててみると姫野さんの抹茶はきめ細かい泡が並ぶのに対し初心者は泡の大きさがバラバラでその泡もすぐに壊れてしまいました。
茶せんの動きや抹茶の泡立ちについて論文を発表した事がある…お点前に加え抹茶自体の性質にも口当たりの秘密があるのではないか。
訪ねたのは大手総合飲料メーカーの研究所。
研究室長を務めていた沢村信一さんに伺います。
お抹茶を頂いた時にほんとに豊かな風味がするんですけどもなぜああいう風味が出てくるのか今日は教えて頂きたいんですが。
まずこちらは何ですか?これは同じ原料を粉砕器が違う形で粉砕した抹茶になります。
同じ種類の茶葉をお点前で使う抹茶をひく石臼金属の球で茶葉を粉砕するボールミルそして圧縮した空気で茶葉を粉砕するジェットミルでそれぞれ粉末状にしたものです。
見た目はほとんど違わない3種類を紙の上に伸ばしてみます。
お〜はみ出そう!すごく伸びますね!粒の大きさによって伸びが違います。
粒子の大きさを測定する装置にかけ抹茶の性質をより科学的に分析します。
横軸が粒の大きさ縦軸がその大きさの粒の量を示します。
石臼でひいた抹茶は粒の大きさが1マイクロメートル未満から100マイクロメートル以上と幅広くなっています。
さまざまな大きさの粒がある事が味わいにつながっているといいます。
20〜30マイクロというところより大きいと舌でざらつきを感じると言われています。
本来こういう大きい粒子があるとザラザラして飲みづらい感じがするんですけど…石臼でひいた粒は大小さまざまなのに対しジェットミルで粉砕したものは7マイクロメートル前後の同じような大きさでそろっている事が分かります。
実際味わいはどう違うのでしょうか。
まず粒が細かい方からいただきますね。
非常にサラッと滑らかな感じがしますね。
こちらが石臼。
いただきます。
う〜ん!同じお茶なんですよね?はい。
やっぱり石臼でひいた方が食感があるというか適度に舌に絡みついてくる感じがありますね。
こんなに違うものなんですね!びっくりしました。
私としては…古くから使われてる道具が一番いいというのが非常に面白く感じました。
2014/08/18(月) 21:30〜21:55
NHKEテレ1大阪
趣味Do楽 茶の湯 藪内家“織部も親しんだ茶の魅力”第3回「茶道具の楽しみ」[解][字]

戦国武将たちが熱中した「武家の茶」の伝統を受け継ぐ、藪内家(やぶのうちけ)の茶の湯を学ぶシリーズ。第3回は、茶道具の拝見の仕方と、古田織部ゆかりの茶道具の魅力。

詳細情報
番組内容
戦国時代の武将たちが熱中した「武家の茶」の特徴を色濃く残す、藪内家(やぶのうちけ)の茶の湯を学ぶシリーズ。第3回は茶道具を拝見する作法に加え、千利休の弟子で武将の古田織部が好んだという、斬新なデザインの“へうげた(=ひょうきんな)”茶道具の数々を紹介。織部から藪内家に伝わる貴重な名品も次々登場。“織部好み”の茶道具の魅力に迫る。ミニコーナーでは、抹茶の味わいの秘密を科学的に検証する。
出演者
【出演】茶道藪内家 若宗匠…藪内紹由,野村美術館学芸部長…谷晃,【アナウンサー】原大策,【語り】杉浦圭子

ジャンル :
趣味/教育 – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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