あすも続く見込みです。
(呼び出し音)
(呼び出し音)
(藤原)何で電話出ねえんだよ?チッ。
(呼び出し音)
(藤原)ハァー。
ううっ。
(切る音)
(操作音)
(呼び出し音)・
(奈月)もしもし?
(藤原)何やってんだよ?・
(奈月)えっ?何が?
(藤原)「何が?」じゃないよ。
花火。
・
(奈月)今日?だって雨じゃん。
延期じゃないの?
(藤原)雨でもやんの。
片貝の花火。
・
(奈月)えっ?マジ?でもこの雨じゃさすがに中止かと思ったけど。
それで今どこ?
(藤原)えっ?
(藤原)港の入り口だよ。
奈月が家のそばはまずいっつったんじゃんよ。
(球磨子)あっ。
ハァ。
(球磨子)ああー!
(刑事)座席撮ってね。
ハンドルも。
チェンジレバーのところもよく撮っといて。
(小菅)ホトケさんの免許証からゆうべ保護されて入院した白河球磨子が言うように白河福太郎に間違いありませんね。
(岩瀬)っていうことはしらかわやの社長らか。
(小菅)しらかわや?
(岩瀬)知らねえんか?江戸時代から続く老舗の鍛冶屋ら。
俺んとこの包丁全部しらかわやら。
(小菅)へえー。
そうなんですか。
(岩瀬)ずいぶん若えおなごと再婚したんだな。
(小菅)はい。
小菅です。
(岩瀬)スパナ。
(小菅)岩さん。
(小菅)目撃者見つかりました。
(岩瀬)いたってかや。
(小菅)この車に見覚えありますか?
(藤原)ああ。
ああ!これこれ。
雨でナンバー見えなかったけどテールランプこの形。
(小菅)時間は覚えてます?
(藤原)時間っすか?
(操作音)
(藤原)8時半っすね。
奈月に電話してるときだったんで。
(小菅)奈月って?
(藤原)ああ。
彼女っすよ。
あんとき全然電話に出なくて。
(岩瀬)この外車は運転席が左側ら。
運転手の顔は見えなかったんけ?
(藤原)顔はねぇ。
雨だしヘッドライトがまぶしくて。
じゃあ服の色とかどうら?
(藤原)服?あっ。
黄色っぽかったな。
君視力はどれくれえら?
(藤原)1.5っすよ両方とも。
(看護師)白河さんはまだ体調がすぐれませんのでお約束の時間だけは守ってくださいね。
(岩瀬)了解ら。
2つ3つ簡単な質問だけらがね。
(岩瀬)うわ。
いい眺めらねぇ。
(球磨子)ええ。
(小菅)時間もないことですし早速。
(球磨子)はい。
(小菅)運転をされていたのはあなたではなくご主人の白河福太郎さんだった。
間違いありませんか?
(球磨子)間違いありません。
(小菅)岸壁に車が近づいたとき危険は感じませんでしたか?うたた寝をしていたのでそこが港だってことも分かりませんでした。
(小菅)海に落ちて初めて状況が理解できたということですか?はい。
(小菅)そのときのことをできるだけ詳しく教えてもらえますか?それがよく覚えていないんです。
泳いで岸にたどりつくまで何が何だか分からなくて。
そもそも何で港になんか行ったんですって?ゆうべの雨はひどかった。
それも真っ暗な夜ら。
お宅とは逆方向の港に何で行きなさったんだろうと思いましてね。
さあ。
(岩瀬)分からねえことはまだありましてね。
車ん中からねスパナが見つかったんですよ。
いや。
他の工具はね奥さん。
後ろのトランクの工具箱にきっちり収まってるのにスパナだけが車の中らんだ。
主人が何か修理にでも使ったんじゃありませんか?
(小菅)ご主人ね車の修理されるようなタイプじゃなかったみたいですよ。
何が言いたいんですか?海にはまった車から逃げ出すのにフロントガラスを割る必要があるだろうなと。
素手で割れるものでねえしね。
運転してたのホントにご主人らったんですか?奥さんってことはねえかね?フッ。
ハハハハ!ハハハハ。
ハハハハ。
最高ね。
ハハハハ。
私があの人を見殺しにして一人で車から逃げ出したっていうの?ハハハハ。
ハァー。
だったらその証拠とやらを見せてみろよ。
私がそのスパナってのを使ってガラスを割ったって証拠がどこにあるってんだ!?あるんだったらここに出してみろよ!
(看護師)どうしたんですか?いったい。
別に。
あのおなごただ者じゃねえってば。
・
(太田)岩瀬さん。
言われたとおり白河球磨子を調べてみたら前がありました。
何やったんだや?
(太田)7年前に傷害。
5年前には恐喝です。
・
(小菅)岩さん。
白河球磨子。
死んだ亭主の福太郎に生命保険掛けてましたよ。
(岩瀬)幾らら?都合6つの生命保険会社に総額で3億。
(秋谷)岩瀬刑事!ご無沙汰してます。
あれ?おめさん新潟新報は辞めたって聞いたれ。
(秋谷)東京の『週刊リアル』に再就職ですよ。
(秋谷)片貝の奉納花火の取材に来てたもんですからご挨拶に。
『週刊リアル』らか。
なあ?秋谷。
(秋谷)はい。
ネタ欲しくねえかや?
(秋谷)ネタ?ちょっと岩さん。
白河球磨子を身動き取れねえようにすんだって。
保険金殺人の疑いのある女のネタら。
保険金殺人。
(千鶴)やっと着いた。
(原山)おい。
佐原君。
何してるんだ?もたもたするな。
遠慮はいらん。
入んなさい。
(千鶴)あっ。
おおー。
(ベルの音)
(千鶴)ハァ。
疲れた。
・
(鈴の音)
(千鶴)えっ?
(原山)あっ。
それがじいさんとばあさん。
(原山)そして家族。
ちなみにカワイイ天使は俺だ。
ヘヘッ。
(千鶴)天使ってより子泣きじじい?
(たたく音)
(千鶴)痛っ。
じいさんはここいらじゃ有名な弁護士だったんだ。
時々私もこっちで仕事をさせてもらってる。
東京でばかり仕事をしていると息が詰まるんでね。
おおっ。
ホッホ。
久しぶりに来たからな。
部屋の掃除が必要だ。
モップやほうきは納屋にあるはずだから後で教える。
(千鶴)私がやるんですか?それも君の仕事だよ。
離婚の訴訟遺産相続の争い。
仕事は色々あるからね。
(一也)3億!?
(一也)そんな保険をあの女は父に掛けていたんですか?ええ。
(結子)でもあの球磨子という女ならやりかねないわ。
(岩瀬)その辺の話を詳しく伺わせていただけねえでしょうか?
(一也)本来この家は私たちの家でもあったんです。
あの女が来るまでは父と一緒に平穏に暮らしていたんだ。
・
(一也)《冗談じゃない!》《いきなりあんな女を連れてきて恥ずかしいとは思わないんですか?》
(結子)《お兄さんの言うとおりよ。
本気なの?お父さん》
(一也)《静香》
(静香)《はい》《おいで。
よし。
行きましょう》
(福太郎)《私は本気だよ》
(福太郎)《役所には婚姻届を出してきた》《今日からこの球磨子は正式に私の妻だ》《何で?どうして一言の相談もなく?》《父さんは一度でいいから自分の人生は自分で決めてみたかったんだ》《それがその人との結婚だっていうんですか?》
(福太郎)《そうだ。
私は生まれたときから200年続くこのしらかわやを継ぐ運命にあった》《だがお前には私とは同じ苦しみを与えたくはなかった》《お前には自分の人生を歩んでほしい》《だから好きなことをやらせた》《待ってください。
それじゃ父さんはこの家を》《このしらかわやが私の代で絶えようと構わないと思ってる》
(一也)あの女の入れ知恵だと感じました。
私はしらかわやを継ぐことはやぶさかではなかったんです。
父が引退を決意すれば今の会社を辞めるつもりだった。
そのことは妻も納得してくれていました。
(岩瀬)白河球磨子は財産目当てでお父さんと結婚したと。
(結子)そんなの決まってるじゃないですか。
父は球磨子に骨抜きにされたんです。
妹の言うとおりです。
あの女がこの家に来て以来父は変わりました。
(結子)何もかも球磨子の言いなりだったんです。
お世話さま。
(看護師)ちょっと待って。
白河さん。
白河さん。
余計なお世話かもしれないけど。
裏口からも出られるわ。
どうして?
(看護師)テレビとか色々正面玄関に来てるの。
他の患者さんの迷惑にもなるし。
ねっ?知らないわよそんなの。
(記者)来たぞ!
(記者)来たぞ。
(記者)鬼くま!
(記者)ご主人を事故に見せ掛けて殺したというのは本当ですか?
(記者)一言お願いします。
(秋谷)鬼くま!3億何に使うんだ?あんた家族はいんのか?いるんだったらせいぜい気を付けんだな。
刑事さんもこんなことで私が参るとでも思ってる?ふざけんなよ!
(一也)おい!どの面下げてこの家の敷居をまたげるんだ?
(結子)そうよ。
お父さんに手一つ合わせないで。
あなたが帰る家はここじゃない!
(一也)何とか言ったらどうなんだ!?何でお宅らがここにいんの?
(結子)何ですって!?私からすればお宅らがこの家に居座ってる方が不思議なんですけどね。
貴様!
(静香)あなた。
・
(小菅)白河さん!
(一也)立て!・
(小菅)警察です。
開けてください。
(静香)直樹。
白河球磨子さんは中にいますれね?
(結子)はい。
(岩瀬)白河球磨子。
白河福太郎殺害容疑で逮捕ら!フダ見せろ。
証拠は?署の方でゆっくり説明すってば。
(記者)出てきたぞ!
(リポーター)白河容疑者が逮捕されました。
(リポーター)白河球磨子が逮捕されました。
(騒ぐ声)
(秋谷)鬼くま!これでお前も終わりだな!てめえら!無実だったらどうなるか覚えてろよ!ふーん。
うーん。
おいしい。
(岩瀬)こいつが何だか分かんな?だんまり決め込もうったって通用しねろ。
おめさんは亭主を乗せた車を海へダイブさせた。
そして事前に用意していたこのスパナでフロントガラスを割って脱出に成功したんだろが。
スパナに指紋は?私の指紋だよ。
フッ。
触ったんだったらあるはずだよね?手袋をしてたんだろが。
じゃあその手袋は?あれ?証拠ないんですか?フッ。
これって不当逮捕って言うんじゃなかったっけ?アハハ。
ふざけんなや!車を運転したのはおめさんらろが。
目撃者もいんだで。
港で運転してるの見られてんだがな。
おめさんは亭主を事故に見せ掛けて殺す目的で海に突っ込んだんだろが。
手袋はそんとき海に捨てたんだろ!だからその手袋ここに出してみろや!あの人に掛けた保険も書類は全部あの人の直筆なんですよ。
2件か3件か保険会社に私と一緒に行って書いたものもある。
これ完全に同意の上ってことじゃありません?掛けた保険の額がでかいっつうだけで保険金殺人を疑われたんじゃ世界中に殺人鬼がうようよいることになりますよねぇ。
フフフ。
じゃあ何でおめだけ助かった?私も必死でしたからね。
あの人を助ける余裕なんてなかった。
それが全てですよ。
(小菅)どうですか?
(署員)間もなくです。
(太田)乗せてください。
(岩瀬)聞こえるか?小菅。
小菅!カメラの準備どうら?
(小菅)確認します。
海上班。
準備完了してますか?
(署員)完了してます。
(小菅)準備OKです。
(岩瀬)了解。
車の方はどうら?
(太田)OKです。
(岩瀬)岡本検事。
準備が整いましたて。
この実験がうまくいけば白河球磨子がスパナを使って車から脱出したことが立証できますがね。
(岡本)始めてください。
他に予定が詰まってますから。
(岩瀬)はい。
あのタイプの古い車って衝撃でフロントガラスが割れちゃうんじゃないですかね。
(岩瀬)よし。
いくぞ。
(署員)駄目です!衝撃でフロントガラスが割れてしまいました。
スパナは必要ありません。
やっぱりねぇ。
(岡本)誰だ?・
(落ちる音)・
(原山)ううっ。
先生!えっ?ああ。
い…。
ああ!?大丈夫ですか?資料取ろうとしたら。
大丈夫だ。
おおー。
あれ?えっ?ちょっちょっ。
せ…先生。
あっあっ。
脚が。
重い!ああ。
いや。
重いんじゃない。
痛い。
脚が。
あ痛たたた。
ただいま。
(原山)ああ。
踏み台から落ちたくらいで骨折とはな。
年は取りたくないもんだ。
これじゃキャバクラにも行けん。
我慢してくださいよ。
リハビリ入れて半年ぐらいはかかるそうですから。
えっ?そんなにか?私がいてよかったでしょ?さすがだな私。
ああ。
君がいてくれて助かったよ。
白河球磨子の起訴は免れんだろうしちょうど君も仕事が空いたことだし。
白河球磨子?原ちゃんは?原ちゃん?弁護士の原山だよ。
入院してます。
脚の骨折で。
それで私が。
骨折?あんた弁護士なの?まあ一応。
金は払ってあんだ。
なのに骨折って。
その上パシリみたいなやつよこしやがって。
やる気あんのか?お前ら。
私に言われてもねぇ。
長いんです?原ちゃんとは。
傷害でパクられたときに初めて会った。
5年前の恐喝んときもね。
高い金取るだけあって腕はいいから雇ったんだ。
事件が事件ですし下手に引き受けると評判を落とすことになりかねないですし。
私もホントは引き受けたくなかったんですよ。
気にしないでくださいね。
時々思ったこと言っちゃうんですよ。
だから男が寄ってこないんだ。
その髪も何とかしろよ。
化粧もさやれるだけやった方がいいな。
無駄だと思うけど。
私も思ったこと口にするんだ。
悪いね。
あなたはシロですか?シロだね。
ただ真っ白とは言わないよ。
世間にもまれてグレーになった。
だからっていいかげんな裁判すんなよ。
あなたがいいかげんなこと言わないでいてくれたら。
私は本当のことしか言わないさ。
安心しました。
それじゃスパナのことから。
待てよ。
アホな刑事と同じこと聞くのか?でも気になりますよ。
なくていいものが車ん中に残ってたんですから。
じゃあリンゴがあれば何に使ったか疑うってのか?リンゴはただのリンゴだろうが。
まあそりゃそうですけど。
いいか?私がやったっていう証拠は一切ないんだ。
証拠不十分。
裁判になったらそれ以外どうだっていい。
証拠不十分で決着つけろ。
リアルに考えたらそれしか戦いようありませんもんね。
あっ。
でも一つだけ。
事件があった日車の運転は福太郎さんがしていたんですよね?ああ。
本当ですよね?いいかげんにしろよ!老舗かどうか知らねえがあんな見せ掛けだけの財産しかねえじじい殺して何になるってんだ!?生命保険だってな年寄りと結婚した女なら誰だって保険ぐらい掛けんだろうが!どうやったって向こうが先に死ぬ。
一人になったときのために金を残しておきたいと思うのは当たり前じゃねえかよ!?
(係官)静かに!あなた面白いですね。
(鈴の音)
(直樹)フフフ。
フフフ。
こんにちは。
(直樹)穴開いてる。
あっ。
ホントだ。
(直樹)フフフ。
フフッ。
・
(静香)直樹。
ほら。
おいで。
(直樹)バイバイ。
バイバイ。
(一也)あなたは人殺しを助けるつもりですか?はい?
(一也)球磨子の弁護をするということはそういうことじゃありませんか。
(結子)世間で注目を浴びている事件だから名前を売るチャンスだとでも思ったんですか?ああ。
全然そういうことは。
ただアパートの。
(結子)アパート?タイプがまったく違うんですね。
(一也)何のお話ですか?あっ。
その福太郎さんの前の奥さまと球磨子さんが。
何言ってるんですか?違うに決まってるじゃないですか。
すみません。
男の人の好みって似通ったりするので。
いただきます。
(一也)父の通帳です。
これを見れば父がどんな状況に置かれあの球磨子という女がどういう女だったか分かっていただけると思います。
(結子)むしり取られていたんです。
ためたお金から何から。
その通帳から最後に引き出された日付を見てください。
お亡くなりになる3日前。
(一也)そのとおりです。
お分かりいただけたと思いますが人のいい父はだまされたんです。
母を病気で失った父の心の隙間に球磨子は色仕掛けで付け入ったんだ。
揚げ句3億もの保険を掛け何の罪もない父を。
すいません。
遅くなりました。
白河球磨子の弁護を担当させていただきます佐原千鶴です。
(中村)裁判長の中村です。
(中村)同じく裁判官の。
(新津)新津です。
(恩田)恩田です。
(岡本)担当検事の岡本です。
(岸野)同じく岸野です。
よろしくお願いします。
佐原さんとはどっかで以前。
いえ。
(中村)では早速ですが始めましょうか。
まず検察官。
(岡本)証明予定事実としてはこの書面どおりです。
鬼塚球磨子ってご存じですよね?
(ママ)ああ。
保険金殺人の容疑が掛かってんだろ?あの子ならやりかねないねぇ。
怖い女だもん。
(野島)彼女はね銀座に新しい店を出したら今の稼ぎの倍出すよって豪語してましたよ。
笑っちゃいますよね。
(原山)ハハハ。
やっと取れた。
おめでとう。
(原山)へっ。
ふっ。
ほっ。
あっ。
ああー。
今日はもうこれで。
まだまだ。
あと30分。
(原山)えっ?えっ?ううっ。
あのスパナは請求しないんですか?
(岡本)請求するつもりありません。
(中村)弁護人はそれで構いませんか?証拠として請求しないか。
泳ごうとしたら脱ぐ。
何で片方だけ?うーん。
ハァー。
あれ?こういう裁判は向いてるのかもしれんな。
何だ?これ。
(結子)これが父の靴です。
靴がどうかしたんですか?ちょっと気になることがあって。
見せていただいても?
(結子)どうぞ。
終わったら声を掛けてください。
はい。
・
(結子)言い忘れましたが靴はちゃんとしま…。
あなたには無理ですかね。
靴奇麗に使われてたんですねお父さん。
どんなものでも大事に使う人だったんです。
分かります。
傷一つないですもん。
傷ができるような履き方はしないもの。
傷ができたとしてもすぐ修理に出していました。
修理に?まだ何か?いえ。
ちゃんと片付けますから。
お願いします。
はい。
修理か。
ということはあの日に傷が。
ああ。
怒られちゃった。
君はちゃんとおもちゃとか片付けてる?
(直樹)うん。
偉いねぇ。
あっ。
消防車だ。
(直樹)お誕生日のプレゼントにもらったの。
おじいちゃんに。
おじいちゃんって福太郎さん?うん。
そっか。
(おもちゃのサイレン)
(直樹)うーうーうー。
(加藤)出掛けんのか?
(友香)映画。
(加藤)ボーイフレンドか?
(友香)違うよ。
(妙子)あなた。
裁判所から。
(加藤)裁判所?
(加藤)ああ。
裁判員としてやる公判の日程だよ。
(妙子)何の裁判?
(加藤)うん?まだ分かんないな。
(加藤)でもこの日程からすると鬼くまの事件に当たるかも。
(友香)マジ?
(加藤)ホホホ。
(妙子)だったらいいわよねぇ。
鬼くまの事件の裁判員なんてすご過ぎ。
アハハ。
だよな。
アハハ。
会社に休みの断り入れるにも鬼くまのだったら都合いいかも。
(妙子・友香)フフフ。
(加藤)アハハ。
(リポーター)3億円の保険金殺人の罪に問われている白河球磨子被告。
注目の裁判員裁判。
第1回公判は今日行われます。
早くも裁判所では30枚の傍聴券を求めて長蛇の列ができています。
あっ。
(廷吏)起立。
(中村)それでは開廷します。
被告人は前へ。
(中村)検察官。
起訴状を朗読してください。
(岡本)はい。
「公訴事実」「被告人は平成23年9月10日。
午後8時30分ころ新潟県西新潟市越後197番地所在の越後港敷地内において普通乗用自動車を運転し殺意を持って同車を同港内海中に暴走転落させ同車助手席に同乗していた夫である白河福太郎当時60歳を海中に落下させて溺れさせ同人を窒息により死亡させて殺害したものである」「罪名および罰条殺人。
刑法第199条」あなたには黙秘権があります。
言いたくないことは言わなくて結構です。
しかし言ったことは全て証拠になりますので注意してください。
被告人は起訴状について何か言いたいことはありますか?ありますよ。
私は主人を殺してなんかいません。
(ざわめき)弁護人の意見は?被告人と同じです。
無罪を主張します。
(ざわめき)
(中村)お静かに。
それでは証拠調べに入ります。
被告人は元の席に戻ってください。
(中村)検察官。
冒頭陳述をどうぞ。
(岡本)はい。
(岡本)被告人白河球磨子。
旧姓鬼塚球磨子は熊本県天草の養護施設で育ちました。
父親は不明。
育児放棄をして施設に預けた母親については現在も行方が分かっておりません。
中学卒業と同時に施設を出た被告人は学校が勧める就職先へは向かわず東京へ出たもようです。
推測の域が出ないのは被告人が黙秘を続けているからに他ありません。
ですので22歳で銀座のクラブを経営するまでの7年間は空白でありますが若くしてクラブ経営に乗り出せた裏にはいわゆる夜の世界の人脈があったことは容易に想像できます。
それは平成16年。
保証金の支払いに絡んだ不動産業者への傷害事件を起こした際被告人の背後に暴力団の存在があった事実からも明白であります。
平成20年7月。
たまたま大学の同窓会の二次会でバーに立ち寄った本件の被害者白河福太郎氏と出会うに至ったのであります。
(木下)《しかしあのころ福太郎の下宿に集まってよう飲んだれな》
(福太郎)《お前なんか自前の歯ブラシ置いてたでねっか》
(木下)《ああ。
そうそう。
大学近いから便利だったんらがや》
(木下)《おい斉藤》
(斉藤)《おっ。
何だ?》《お前覚えてっか?》
(斉藤)《何を?えっ?》《大学3年のころおめ彼女に振られたろうが》
(斉藤)《おうよ。
よく覚えてるな。
参ったな》《福太郎さん》
(福太郎)《えっ?》《大丈夫です?》《あっ》《ちっと酔っぱらっちまって。
えっ?私の名前》《ああ。
さっきお友達がそう呼んでたから》《カワイイ名前だなと思って》《カワイイって。
ヘヘヘ》《お顔もカワイイ。
福ちゃんって感じで》《携帯の番号書いてあるの》《12時には上がれるからよかったら電話して》《いや。
けど私は東京…》《今日別れちゃったらもう二度と会えない気がして》
(岡本)こうして白河福太郎氏に接近した被告人は福太郎氏が16年前に先妻を病気で亡くしたこと。
また西新潟市に代々続くしらかわやの社長であることを知りその財産を狙い婚姻をするものに至ったものと思われます。
勝手に話でっち上げんな!
(刑務官たち)座りなさい。
座って。
誰が財産狙ったって?あの家に財産なんてこれっぽっちもねえんだよ!
(中村)被告人は静粛に!
(刑務官)座りなさい。
(岡本)今思わず突いて出た言葉が被告人の本音であろうと思われます。
(刑務官)こら。
(岡本)しらかわやの経営は決して芳しいものではなく加えて福太郎氏の私財は西新潟市燕本町の土地家屋のみで資産家との結婚をもくろむ被告人の思惑とは懸け離れたものでした。
結果被告人が思い至ったのは生命保険でありました。
保険総額は3億円に上る巨額なものです。
そして事件当日の平成23年9月10日。
福太郎氏を連れ立って昼からドライブに出掛けた被告人は福太郎氏所有の車を走らせ当日午後8時30分ごろ越後港敷地内を時速50キロで走行した揚げ句岸壁の縁を乗り越えて海中に車を沈下させるに至りました。
(岡本)実際に同じ型の車を使って実況見分をした結果海に突入した衝撃によって車のフロントガラスは割れることが実証済みです。
被告人はそのことを知った上で犯行に及んだもので保険金目的で事故を装った極めて凶悪な犯罪であると言わざるを得ません。
検事さん。
スパナはどうしたんだよ?取り調べんとき刑事がご託並べてたスパナだよ。
都合悪くなると引っ込めんのか?以上です。
何とか言ったらどうなんだよ!
(中村)被告人静粛に!
(刑務官)座って。
座りなさい。
おい。
聞いたか?証拠にしてたスパナが消えちゃったよ!これって変だろ?何黙ってんだよ!
(刑務官たち)やめなさい。
何とかしろよ!てめえ弁護士だろ!何とか言ってみろ!ほら!
(中村)被告人は静かにしなさい。
くそ野郎。
(岡本)あなたは事件があった夜越後港の入り口付近に車を止めていた。
何をしていたんですか?
(藤原)付き合ってる彼女に電話をしていました。
彼女の名前は阿部奈月っていいます。
片貝の花火を見に行く約束をしてたんすけどすっぽかされて怒って電話してて。
したらその車が港へ入っていくのを見たんです。
(岡本)この写真と同じ白河福太郎氏所有の車が港へ入っていった。
何時ごろでしたか?
(藤原)奈月に電話がつながったときだったので夜8時半ごろです。
(岡本)間違いありませんね?はい。
間違いありません。
すごい雨だったんですけど黄色い服を着た女の人が運転しているのが見えました。
女性が?
(藤原)はい。
というとそこにいる被告人でしょうか?はい。
その人でした。
いいかげんなこと言ってんじゃねえぞ!
(刑務官)座りなさい。
お前の目は節穴か!?
(刑務官)落ち着いて。
おう?
(刑務官)座って。
何か言えや!
(野島)球磨子さんの店で。
あっ。
銀座のクラブですが。
そこでバーテンとして働いてました。
だいたい1年半ぐらいかな。
(岡本)被告人が店を畳んでからは?
(野島)会ってません。
けど事件の2カ月前だったか六本木で偶然出くわしまして。
《秀ちゃん》《しばらくね》
(野島)《また店やるんすか?》《フッ。
うまくいけばね》《そんときは秀ちゃん。
またバーテンやってよね》
(野島)《あっ》
(野島)何だか自信たっぷりで近いうちに大きな金が転がり込んでくるって感じで言ってましたね。
新たな立証?
(中村)岡本検事。
予定外の立証を認めるわけにはいきませんよ。
(岡本)分かっておりますが裁判員の方々に事件の本質を理解していただくためにもぜひやらせていただきたいんです。
(中村)ハァー。
(岡本)これは被害者白河福太郎氏の遺体の爪です。
爪の間から人間の皮膚の一部が検出されDNA鑑定の結果被告人のものであることが判明しております。
(岡本)事件当夜車を運転していたのが被告人本人であるならばこのような状態だったのではないかと思われます。
車中だと仮定したものです。
身の危険を感じた福太郎氏が被告人の肩をつかんで海への突入を阻止しようとしています。
結果福太郎氏の左手の指が被告人の肩に食い込み爪の間に被告人の皮膚の一部が残りました。
それを裏付ける病院のカルテです。
事件後被告人が入院していた病院より入手しました。
ここに入院直後の被告人の肩の部分の記述があります。
左肩内側に内出血を伴う広さ直径2cm程度の擦過傷あり。
(ざわめき)以上です。
(中村)弁護人。
検察側の追加立証について意見は?フゥー。
ありません。
ありませんってどういうことだよ?てめえ誰の弁護してんだよ!?
(刑務官)戻りなさい。
何とか言ったらどうなんだよ?
(刑務官)被告人。
反論しろよ!おい!てめえ弁護士だろ!おい!
(刑務官)座りなさい。
何か言えや!
(刑務官)戻りなさい。
(秋谷)おい!
(仲田)おっおっ。
終わったんすか?
(秋谷)面白くなってきたぞ。
あの2人最悪の関係だぞ。
あれじゃ死刑求刑されたってろくな弁護できねえよ。
おい。
あの弁護士の記事次の号に突っ込むぞ。
どういうことだよ?この3日やり込められてるだけじゃねえかよ!戦いようがありませんよ。
私はあなたが福太郎さんに肩をつかまれたなんて話聞いてません。
話す必要がねえと思ったからさ。
どんなささいなことでも話してもらわないと弁護にならないんですよ。
確かに肩をつかまれたよ。
だけど車が海に入った後の話だ。
私はあの人を助けようとした。
あの人も必死に私の肩につかまった。
そのときの傷なんだ。
ホントですか?ホントに決まってんだろうが!次の公判でそう言え。
検事が言ってることは想像だって。
でもあなたが言っていることを証明することもできません。
はたから見れば同じ推測です。
何だっていいだろうが!証拠不十分に持っていけりゃそれでいいだろうが!あなたって車に残ってたあのスパナみたい。
あっ?意味分かんないってこと。
何?言っちゃあれだけどあなたのような過去を持った女が福太郎さんみたいな真面目な人に近づいただけで世間では財産目当てに違いないって考えるものじゃない。
まして結婚したなんていったらなおさらよ。
保険金詐欺だって騒ぎ立てるに決まってんじゃない。
何が言いたいんだよ!?いいから聞いて。
私が意味分かんないって言ってるのはそこよ。
もし本当に保険金を狙うならあなたみたいに開けっ広げに昔の悪い仲間に会ったりしないもんじゃない?計画殺人なら普通あなたみたいなあけすけな振る舞いはしないってこと。
だって簡単に疑われるじゃない。
そこが意味分かんないのよ。
だから殺してねえっつってんだろうが!初めて会ったときそう思った。
あなたが言ったようにグレー。
シロじゃないけど黒でもない。
だけどあなたが私に本当のことを言ってくれないかぎりグレーは限りなく黒に近づいていくのよ。
あの日どこにいたかってそんなこと聞いて何になんの?裁判のためよ。
今まで気に留めてなかったけどドライブをした場所に意味があるように思うの。
忘れた。
いいかげんにしてよ。
越後丘陵公園の花畑。
月岡温泉の足湯。
それから白山神社。
警察でも話したことだよ。
嘘は駄目よ。
間違いないよ。
何を話したの?えっ?ドライブの間何か話したでしょ?忘れた。
ってより聞いてなかった。
だってつまんないんだもんあの人の話。
あっ。
すいません。
あのう。
1年ぐらい前になるんですけどこの2人見掛けませんでしたか?
(女性)さあ?分かりません。
覚えてるんですか?2人のこと。
(店主)ああ。
あの事件がニュースになったとき思い出したんですって。
ああ。
これはうちに来たお客さんらったなって。
確かにこの2人でした?
(店主)間違いねえがね。
このご亭主の方がまあしきりに天気のことを気にしてたんでよう覚えてんだて。
天気?
(福太郎)《旦那さん》
(店主)《あいよ》
(福太郎)《雨んなると思うかね?》
(店主)《どうらかね。
まあ予報は雨らろもね》《この分じゃ日が高えうちは持ちそうらいね》
(福太郎)《じゃあ夜は雨か》天気。
(店主)はい。
おいしいおいしいところてん。
すいません。
ありがとうございます。
(店主)いやー。
しかしあれらね。
あのご亭主も完全に鬼くまの尻に敷かれてたがね。
早車に乗れなんてせかされてたっけね。
車?奥さんが車を運転してたんですか?
(店主)んだよ。
《何もたもたしてんのよ?早くしなさいよ》
(福太郎)《はいはい》どうして嘘を!?あの日車の運転は福太郎さんしかしてないって言ったのに。
白山神社から運転したのはあなただったじゃない!ああ。
思い出した。
白山神社から29号線のコンビニまで私が運転してたわ確かに。
コンビニ?ホントにコンビニまでしか運転してないのね?まさかそのまま港まであなたが?あんなめちゃくちゃな目撃証言うのみにすんのかよ?だったらコンビニでなぜ運転を代わったのよ?忘れた。
ふざけないでよ!自信がないならそう言えよ。
弁護士は他にいくらだっているんだよ!だったらやめるわ。
おい。
マジかよ?マジよ。
ちょっと頭冷やそうよ。
もう裁判始まってんだろうが。
やめろって言ったのお宅よ。
頼れんの原ちゃんとあんたしかいないんだよ。
なあ?もう少し付き合ってよ。
何度も言ってるはずよ。
きちんと話すこと話してもらわないと仕事ができないのよ。
花火を見ようって言うから運転を代わったんだ。
花火?田んぼの道で車の中から見たんだ。
そしたらあの人指輪をくれた。
指輪?その指輪は今どこに?
(鈴の音)・
(静香)はーい。
直樹の好きなフライドポテトできたわよ。
(直樹)やった。
(結子)よかったね。
(静香)おなかすいたでしょ。
(一也)揚げたてだ。
(結子)兄さん。
これお願い。
(一也)ああ。
ありがとう。
(静香)いっぱい食べてね。
早く食べたいでしょ。
(結子)食べたいね。
(一也)直樹。
これ何だっけ?これ。
覚えてる?
(直樹)忘れた。
(一也)忘れた?
(静香)えっ?さっき言ってたでしょう?
(結子)すごいね。
(静香)いっぱい食べてね。
(一也)こらこら直樹。
まだ食べちゃ駄目だ。
(結子)みんなで一緒にでしょ。
どうもありがとうございました。
(一也)お線香上げたんなら帰ってもらえますか。
はい。
今日は何かお祝いですか?
(直樹)僕のお誕生日。
そうだったんですか。
幾つになったの?
(直樹)5歳。
そっか。
(直樹)《お誕生日のプレゼントにもらったの。
おじいちゃんに》
(結子)あの。
もう帰っていただけますか?あっ。
はい。
(結子)直樹。
ほら。
(静香)ほら。
見て。
(一也・結子)うわー。
(静香)すごい。
あのう。
一つだけ確かめたいことが。
うーん。
うーん。
えっ?
(原山)どうした?うん?事件当日球磨子が福太郎さんにもらった指輪です。
これが事件と何か関係が?分かりません。
質屋に見てもらったら1万円程度のものだそうです。
1万?白河福太郎は球磨子にかなりの金をつぎ込んでるんだろ?なのに1万の指輪とはな。
そう思いますよね。
あの事件の3日前福太郎さんは200万円預金から引き出してるんです。
(一也)《その通帳から最後に引き出された日付を見てください》だからてっきり200万円の指輪だと思ったんですよ。
でも違うとしたら200万はいったい何に使ったんだろ?あの日のドライブで金を使った可能性はないのかね?ありません。
月岡温泉や白山神社を回って最後は花火を見物しただけですから。
ああ。
あの日は片貝の奉納花火の日だったな。
ほら。
あの写真も奉納花火のだよ。
それそうだったんですか。
そんじょそこらの花火じゃないぞ。
とてつもない四尺玉の大花火が打ち上がるんだ。
五穀豊穣無病息災を祈願する花火もあれば還暦の祝いのもある。
還暦祝いの花火?個人でも奉納する花火が買えるんだよ。
出産の祝いとか就職祝いとかな。
へえー。
またあのアナウンスが泣けるんだ。
アナウンス?奉納する人の名前と思いのこもったメッセージが読み上げられるんだ。
安い買い物じゃないし一生のうち何度も打ち上げることはできん価値ある花火だ。
もしかして。
うん?おい。
おい!今度は何だ?黙って行くんだからな。
(梅野)これが去年の奉納花火の番付でっせ。
ありがとうございます。
あった。
白河福太郎。
(梅野)三尺玉だね。
大きいがね。
200万ぐらい?
(梅野)ああ。
あの。
去年のこの花火のビデオとかありませんか?あっ!?痛っ!?痛っ。
あー。
ああ。
とうとうブレーキ壊れちゃった?ああー。
こいつか。
白河さん。
弁護士の佐原です。
白河さん。
・
(静香)いったい何時だと思ってるんですか?夜分に申し訳ありません。
お願いしたいことがありまして。
(静香)ちょっと。
(一也)まだ分かってないんだな。
私たちがなぜあの女の弁護士に協力しなきゃならないんだ?帰らないと弁護士会に連絡するぞ。
ちょっと待ってください。
真実のためなんです。
真実?はい。
真実のためにどうしても協力していただきたいんです。
このとおりです。
お願いします。
(リポーター)公判4日目になりました。
今日は弁護側が何を立証するのか?無実を勝ち取ることができるのか?今日も大勢の人が裁判所に詰め掛けています。
ここに前回検察官が提出した証拠があります。
越後気象台から取り寄せた事件当日の正確な雨量データです。
1時間におよそ40mmの雨でした。
この雨の中止めた車から時速約50キロで走行していく車の運転席に誰が乗っていたかを判断するのは極めて困難な状況であるといえます。
ですがあなたは女性が運転していたと証言をした。
そんなこと言われたってそう見えたんだから。
ええ。
そう見えた。
確実に見えたのではなくそう見えたと思った。
そうですね?いや。
俺は見たんだって。
雨はすごかったけど女が車運転してました。
服の色は?黄色です。
薄い黄色っていうか。
顔は?顔は見てません。
髪は?えっ?髪の毛です。
被告人と同じ髪形でしたか?
(藤原)たぶんそうです。
たぶん?
(藤原)だってさ。
服の色の印象で女性だと思ったんじゃありませんか?あなたも印象だけで目撃証言をしたにすぎないんじゃないかとお尋ねしているんです。
見たんだって。
マジで。
うん。
ではあなたが被告人の乗っている車を見た場所の街灯の色は何色でしたか?街灯?道路の街灯です。
オレンジ色?そのとおり。
オレンジ色の街灯です。
ここである実験をしてみたいと思います。
(中村)実験がどんな結果であれ証拠にはなりませんがいいですね?はい。
裁判員の皆さんに見ていただきたいんです。
藤原さん。
振り向いて結構ですよ。
ここに40mmの雨が降っていたと仮定します。
あなたには何色の服を着た人に見えますか?黄色です。
薄い色の。
では男性でしょうか?女性でしょうか?藤原さん。
いかがですか?分からなかったら分からないとおっしゃってください。
分かりますよ。
女の人です。
結構です。
出てきていいですよ。
(ざわめき)残念ながら男性でした。
正常な明かりをつけます。
(一同)白だぞ。
白。
(加藤)白。
すでに皆さんお分かりのようですね。
藤原さん。
あなたが運転席で見たのは薄い黄色のワンピースを着ていた被告人ではなく白い服を着ていた白河福太郎さんだったんです。
以上です。
(岡本)弁護人に伺いたい。
車を運転していたのが白河福太郎氏であるならばなぜあのようなことが起きたのか?無理心中だったんです。
無理心中?事件を引き起こしたのは福太郎さんだったんです。
現場にはスパナと福太郎さんの片方だけの靴が残されていました。
その2つの謎。
私は解くことができました。
ここに現場に残っていた福太郎さんの靴。
そしてスパナとまったく同じものを用意しました。
この2点が無理心中にどのように使われたのか示してみたいと思います。
心中を決意した福太郎さんは途中被告人に気付かれブレーキを踏まれるのを恐れました。
そこで福太郎さんはブレーキを効かなくするために自分自身の左足の靴を使いました。
ですがこれだけでは不十分でした。
どうしても5mmの隙間ができてしまいブレーキを完全に踏み込めなくすることができなかったんです。
このスパナの厚さは5.1mmです。
もし仮に車の中で被告人に見つかって不審がられたとしてもスパナであれば言い逃れができると福太郎さんは思ったのかもしれません。
そして。
これで完全にロック状態になりブレーキは踏み込めなくなります。
福太郎さんの靴のかかとにあるこの擦れたような傷痕はこのようにスパナを差し込んだときに出来上がったものだったんです。
あらためて正式な鑑定が行われればこの傷痕とスパナの形状は一致するはずです。
鑑定が行われればの話ですが。
理由は何ですか?無理心中というならばそれなりの理由があるはずだ。
白河福太郎氏がなぜ心中をしようと思ったのか?それについては被告人への質問で明らかにします。
白河福太郎さんが被告人と共に無理心中をしようとした理由。
それは被告人白河球磨子への愛だと思われます。
被告人は福太郎さんのそんな気持ちに気付いていましたか?答えたくありません。
そうですか。
でもご主人福太郎さんは被告人の言うことなら何でも聞いてやろうとしました。
被告人はそんな福太郎さんを利用し結婚したわけですか?利用?何度も言うようにあの人は金を持っちゃいなかった。
財産は土地と家だけ。
それで何を利用しようとしたっていうんだ?《あんた。
この家と土地以外金何も無いじゃない!》《何とか工面するよ。
だから私を信じてくれ》《球磨子。
愛してるよ》《何が愛してるだ。
人だましといて》《金無いなら死んでよ》《死んでくれ。
死んでくれたら》《好きにしてくれ》《んっ!》
(せき)福太郎さんが多額の保険に入っていたのは被告人のためだった。
そうよ。
どう考えたってあの人の方が私より先に死ぬだろ。
そんとき私が困らないようにするのがあの人の役目でしょうが。
確かに福太郎さんはそう思っていたのかもしれません。
福太郎さんはあなたに殺されてもいいと覚悟もしていた。
覚悟?誰があの人を殺そうとしたって?ええ。
そんな証拠はありません。
でも福太郎さんはあなたになら殺されてもいいと思っていた。
あなたを心の底から愛していたからです。
でもその愛は次第にあなたを独占したい思いへと変わっていった。
自分が死んだ後別の男性にあなたをとられることが我慢できなくなっていったんです。
そして永遠にあなたを自分だけのものにできる方法を福太郎さんは見つけた。
それが去年の9月10日。
片貝の奉納花火が打ち上がる夜に無理心中をするというものだったんです。
勝手に言ってろ。
全部想像だろうが。
だとしたらなぜあの日花火を見に福太郎さんはあなたを連れていったんですか?知らねえよ!いつまでこんなくだらない話に付き合わなきゃならないんですか?裁判長!福太郎さんは奉納花火を買っていたんです。
あなたに贈る花火をです!福太郎さんは心中決行の3日前最後の貯金ともいえる200万円を引き出し奉納花火を購入しています。
夜空に打ち上がる花火をあなたと最後に眺めたい。
そう願って。
ここで見ていただきたいものがあります。
(アナウンス)続きまして西新潟市の白河福太郎さま奉納。
「妻よ。
とわに君との愛を誓う。
その旅立ちを祝して」これは福太郎さんの遺書でもありました。
聞こえなかったよ。
そんなのあそこから。
そうかもしれません。
でも聞こえる場所にいたとしてもあなたは聞こうとはしなかった。
《フフッ》・
(花火の音)
(花火の音)ですが福太郎さんはそんなことはどうでもよかったのかもしれません。
あなたは永遠に自分だけのものになると信じていたんですから。
《はっ!?キャー!》
(悲鳴)《ハァハァハァ…》《ああー!》
(結子)嘘よ。
お父さんがあんな女と一緒に死のうとしたなんて。
今お話ししたことは推論でしかありません。
福太郎さんの本当の気持ちは私には分かりません。
でも最後にもう一人福太郎さんについて話していただきたい人がいます。
・
(ドアの開く音)福太郎さんのお孫さんで直樹君です。
直樹君の誕生日は9月23日ですが福太郎さんは昨年心中決行の前日9月9日に彼に誕生日プレゼントを渡しています。
そのとき福太郎さんが直樹君に言ったこと。
それが福太郎さんの覚悟を物語っています。
おじいちゃんのために本当のことを話してくれますか?
(直樹)はい。
直樹君に誕生日プレゼントをくれたときおじいちゃんは何と言いましたか?
(直樹)僕のお誕生日にはいないかもしれないから先に渡しとくねと言いました。
以上です。
おい待てよ。
余計なまねしやがって。
(刑務官)おい。
おとなしくしなさい。
証拠不十分ってだけでいいってあれほど言っただろ。
無理心中?あんなものが通ったら保険が入ってこねえんだよ。
3億だぞ3億。
そうね。
確か加入して3年よね。
自殺でも保険金が下りるの。
あと1週間後だったらよかったのよね。
あんた分かってて。
福太郎さんはきっとあなたに自殺に見せ掛けられて殺されたくはなかったのよ。
だから自分で。
いいじゃない。
あなたは生きてる。
それだけで十分でしょ。
(重美)参ったわ。
目撃証人の証言も印象論。
確かにあの弁護士の言うとおりかもね。
(田代)毎日垂れ流される情報をうのみにしたら誰だってそうなりますよ。
私たちだって。
ねっ?
(加藤)ええ。
(田代)心中か。
ホントのところはどうなんでしょうね?
(重美)スパナと靴は心中を図った証拠でしょ?
(重美)靴の傷痕がスパナのものと一致してるそうですから。
(田代)そうなんですけど何かこう釈然としないんですよね。
こういう場合どうなんですか?きちんと証拠として取り調べられた証拠だけを基に判断してください。
あの。
分かりやすく言うとそれって?刑事裁判には鉄則というものがあります。
鉄則?
(中村)主文。
被告人は無罪。
(ざわめき)
(中村)本件は疑惑は残りますが確たる証拠はありません。
(秋谷)危うく冤罪事件に発展しそうになったわけですがいかがですか?
(岡本)しっかりと調査し報告いたします。
初動捜査を見誤ったという認識でよろしいですか?それも精査した結果報告します。
今のところ話すことは何もありません。
お世話になりました。
(原山)いやいや。
こちらこそ。
君には感謝してる。
来月には東京へ戻るんだ。
飯でも食おう。
いいですね。
あっそうだ。
えっ?これ。
ほう。
何だ?長生きしてもらいたいからね。
長寿のお守り。
へえー。
ほう。
ハハハ。
屋久島楽しんできてね。
先生。
ああ。
どうかね?君も来るか?せっかくなんですけど遠慮します。
やりたいことあるんで。
何だか知らんがライフワークか。
ああ。
報酬は振り込んでおいたよ。
またアパートの家賃滞納せんでくれよ。
あっ。
あれもらってってもいいですか?あれっていうと。
自転車。
名前付けたんで離れ難くて。
名前?成田屋っていうの。
・
(ベルの音)やっぱ保険下りないんだってさ。
ったくどっかの誰かにあんな高い金払ってこれだ。
無罪じゃないそれで。
まさかそれで東京帰んじゃねえよな?逆算するといい感じに公演に間に合うのよ。
公演?歌舞伎が好きなの。
特に海老蔵。
かかかかかかかか!この1年我慢しっ放しだもん。
思いっ切り見まくる。
フッ。
だから金が無えのか。
福太郎さんが無理心中しようとしてたことホントは知ってた?1万円の指輪あなたが見抜けないわけないもん。
指輪をもらった時点であなただったら福太郎さんが200万円を何に使ったのか気付いたはず。
奉納される花火の中で指輪をもらったんだもの。
また得意の想像かよ。
ううん。
あなたたち2人が花火を見た場所を調べてみたの。
聞こえるんだな。
あの場所からぎりぎり。
あのアナウンス。
「妻よ。
とわに君との愛を誓う。
その旅立ちを祝して」もしかして賭けに出たの?福太郎さんが心中しようとしてることに気付いていて。
でもうまくいけばその方が事故に見えるかもしれない。
だから福太郎さんが靴やスパナで細工してるのを知っても止めなかった。
3年たって保険が下りるようになって事故や自殺に見せ掛けて殺すより証拠不十分に持っていきやすい。
そう思って。
でもそれって下手したらあなたも死んでたかもしれない賭けよね?何かすごいよね。
お宅。
2014/08/18(月) 14:57〜16:47
関西テレビ1
松本清張没後20年 疑惑[再][字][多]
シロかクロか!?弁護士・佐原千鶴(常盤貴子)と容疑者・白河球磨子(尾野真千子)が“夫殺し疑惑”の裁判を舞台に女と女の対決!!松本清張の超名作サスペンス
詳細情報
番組内容
ある嵐の夜、1台の車が猛烈な速度で港に入っていき、スピードを緩めることなく岸壁を乗り越え、海の中へと消えていった。しばらくして1人の女が海面へと浮上してくる。女の名前は白河球磨子(尾野真千子)。旧姓鬼塚。新潟にある老舗鍛冶屋「しらかわや」社長、白河福太郎(柄本明)と結婚して間もない後妻だった。岸壁まで泳ぎついた球磨子は生きている実感を噛みしめるように絶叫する…。
翌朝、現場検証でフロントガラス
番組内容2
の割れた事故車が引き揚げられた。車中で福太郎の遺体を発見、助手席にはスパナと靴が残されていた。間もなくして事故の目撃者、藤原好郎(田中幸太朗)が名乗り出てくる。藤原の話から、運転していたのは球磨子らしいことが判明、さらに彼女に前科があったこともあり、“この事故は保険金殺人である”とマスコミが騒ぎ立てるようになる。
一方、東京で弁護士をしていた佐原千鶴(常盤貴子)は、先輩弁護士の原山正雄
番組内容3
(竜雷太)に呼び出されて新潟を訪れた。千鶴は東京で住んでいたアパートの家賃を滞納するたび原山に立て替えてもらっていたこともあり、原山の家に居候しながら彼の弁護案件を手伝うことになったのだった。
物的証拠と証言が集まったことで、球磨子は夫・福太郎殺人容疑で逮捕される。そんな折、原山が自宅で転倒、足を骨折してしまい、原山がやるはずだった“鬼クマ裁判”を急きょ、千鶴が担当することになったのだが…。
出演者
佐原千鶴: 常盤貴子
白河球磨子: 尾野真千子
岩瀬厚一郎: 松重豊
加藤妙子: 西田尚美
・
原山正雄: 竜雷太
・
加藤善浩: 近藤芳正
白河福太郎: 柄本明
ほか
原作・脚本
【原作】
松本清張「疑惑」
【脚本】
吉本昌弘
監督・演出
【編成企画】
水野綾子
【プロデューサー】
千葉行利(ケイファクトリー)
高橋史典(ケイファクトリー)
【演出】
国本雅広
制作
フジテレビ
【制作著作】
ケイファクトリー
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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