8地球ドラマチック 骨から探る“生きもの図鑑”第3回「“食べる”を支える骨」 2014.08.18

私たちの体を守り支え動かす骨。
骨をよく見ると興味深い事実が浮かび上がってきます。
脊椎動物はさまざまな姿をしていますがある共通点があります。
それは「骨」がある事です。
進化生物学者のベン・ギャロッドは骨の専門家です。
驚いたな。
こんなにたくさんの骨を一度に見られるなんて。
幼い頃から骨に魅了されてきたギャロッドは世界中の博物館や大学の依頼を受けて骨をつなぎ合わせ骨格標本を作っています。
骨は脊椎動物のさまざまな行動と深く結び付いています。
ギャロッドと一緒に骨と動物の生態との関係を探りましょう。
脊椎動物は同じ「骨のある生き物」なのになぜこれほどさまざまな姿をしているのでしょうか。
なぜこれほど繁栄できたのでしょうか。
骨の秘密を探る旅に出ましょう。
今回は頭の骨に注目します。
動物が獲物を捕まえ食べる時に頭の骨がどのような役割を果たしているのかを見ていきます。
これは…驚くべき進化です。
「食べる」事を支える骨の不思議に迫ります。
これはマッコウクジラの下顎の骨です。
歯のある動物の中では世界最大だけあって下顎の骨だけで5mもあります。
歯の長さは20cm。
どれも同じような形をしています。
この歯で獲物を捕まえしとめます。
歯や顎の骨を見ればその動物の生態や特徴を知る事ができます。
地球上には6万種を超える脊椎動物がいます。
それぞれ獲物の捕らえ方や食べ方は異なります。
顎の構造は今からおよそ4億2,000万年前に誕生しました。
動物によって顎の形や大きさが異なるのは獲物に合わせて進化してきたからです。
顎の骨は比較的短い間に進化します。
顎の進化のスピードを理解するためギャロッドは自分の頭の骨の3次元画像を撮影しプラスチックで複製を作る事にしました。
変な気分。
まだ生きているのに自分の頭の骨を見る事になるなんて。
びっくりだ。
ギャロッドは考古学者キャロリン・ランド博士の元を訪ねます。
ランド博士は人間の顎の骨と食事との関係を研究しています。
人間の顎の骨はどのように進化してきたんでしょうか。
頭の骨を用意しました。
古いものからネアンデルタール人クロマニョン人中世のものそして近代のものです。
並べて見ると進化の過程がはっきり分かります。
私が特に注目しているのはこの2つ。
中世と近代の骨です。
人間の顎の骨はこの間にとても小さくなっているんです。
たった数百年のうちに?ええ。
中世が1550年ごろまでですから数百年のうちに変化したわけです。
具体的にはどのように?こちらの中世の骨を見ると上の前歯と下の前歯の先がくっついています。
完全にかみ合っているんです。
ぴったりと合っていますね。
一方近代の骨は上と下の前歯が合っていません。
なるほど。
僕の前歯も合わないけど近代の人の特徴なんでしょうか。
そのとおりです。
こちらの近代の骨の場合上下の歯をかみ合わせると前歯に隙間ができて指が入ってしまいます。
食べ物と関係があるんでしょうか?人類の食生活は随分変わってきました。
昔はもっと硬くてかみづらいものを食べていて。
繊維質の。
ええ。
頑張ってかまなければ食べられないようなものです。
かむという動作によって顎の骨や歯は刺激され成長します。
その結果顔全体も変化していくんです。
ところがかつての繊維質の硬い食事からだんだんと軟らかく粘っこくて甘い食事つまり現代の食事へと変化していったわけです。
加工食品とか。
そう。
昔ほどかまなくてよくなった結果顎を動かす機会が減り顎の骨は小さくなっていったんです。
最近では多くの人は上の歯が下の歯にかぶさっています。
その度合いは食生活によって左右され個人差があります。
もう一つ骨があるんです。
いつも持ち歩いているもので。
この人物はどうでしょう?実は僕の頭の骨です。
すごい!そっくりね。
どうも。
似てるでしょ?3次元画像から復元しました。
顎の骨の観点から見てどうでしょう。
中世と近代のものと比べましょう。
あなたの場合も上の前歯が下の前歯に少しかぶさっています。
なので近代寄りと言えますね。
でもかみ合わせの点ではこちらの人ほど悪くはありません。
よかった。
ウフフ…。
脊椎動物の顎の骨は食生活によって変化します。
ヘビの顎はとても柔軟です。
中には顎が180度開き自分の頭より5倍も大きな獲物を丸飲みするヘビもいます。
ヘビはどうやって巨大な獲物を飲み込んでいるんでしょうか。
顎の関節を外しているんだろうって?実はそれは間違いなんです。
ヘビの上顎と下顎は複数の骨によって構成されています。
更に下顎の骨は左右に分かれています。
左右の骨は伸縮性のある靭帯によってつながっています。
だからヘビは口を大きく広げる事ができるんです。
僕の腕をヘビの左右に分かれた下顎の骨だとしましょう。
輪ゴムが靭帯です。
ヘビが何かを飲み込もうとする時どうなるかというとこのように靭帯が伸びて下顎の骨が大きく広がるんです。
左右の下顎の骨を別々に動かせるようになった事で巨大な獲物も飲み込む事ができるヘビ。
飲み込んだ獲物は数日かけて強力な胃酸で溶かします。
体温を調節できない変温動物のヘビは少ないエネルギーで生きています。
獲物を丸飲みし時間をかけて消化する事でエネルギーの消費を抑えています。
これを可能にしているのが骨なのです。
一方ほとんどの脊椎動物は食べる時に歯を使っています。
歯は主にエナメル質と象牙質という硬い物質で出来ています。
骨よりも頑丈でさまざまな役割を果たしています。
かむ引き裂く砕くそしてかじる。
食べるものによって動物の歯の形や大きさは変化してきました。
例えば肉食動物は獲物をしとめる時や食べる時に鋭い歯を駆使しています。
しかし歯の大きさだけで考えると草食動物にはかないません。
地球上で一番大きな歯の持ち主はゾウです。
ゾウの臼歯です。
かむための歯です。
大きいでしょう?ゾウの臼歯は長さ30cm重さは5kgもあります。
形にも秘密があります。
上の歯と下の歯がかみ合う面には細かい突起があります。
硬い植物をすり潰すためです。
ゾウの臼歯は一生に6回生え変わります。
臼歯がすり減ると新しい臼歯が奥から手前に出てくるんです。
最後の臼歯が抜け落ちるとゾウは食事ができなくなります。
それがゾウの寿命なんです。
ゾウの歯の中で最も大きいのが牙です。
長さ3mを超す事もあります。
ゾウの牙は人間の前歯にあたる歯が発達したもので一生成長し続けます。
牙は力を誇示したり戦ったりする時に欠かせません。
また食べ物を取る時にも役立っています。
一方食べる事と関係なく牙を進化させた動物もいます。
セイウチの巨大な牙は犬歯が進化したもので上顎の骨から伸びています。
長いものは1m以上にもなります。
セイウチは海から陸や氷の上に上がる時この牙を使って1tもある巨体を持ち上げています。
セイウチの長い牙は戦ったり身を守ったりする時にも役に立ちます。
しかし食べ物を取る時には使いません。
セイウチの獲物は海底の貝。
一回の食事で6,000個もの貝を食べますがどのようにして貝の殻をこじあけるのかは長い間謎でした。
研究者たちはセイウチの歯がすり減っている事に気付きました。
大量の貝をバリバリとかんでいれば当然かもしれません。
でも胃の中を調べると出てきたのは70kgもの貝の身だけで貝殻は1つもなかったんです。
研究者たちはセイウチが口を使って貝の身だけを吸い込んでいる事を突き止めました。
吸い込む力を強めるためにセイウチの骨は特殊な進化を遂げました。
口の中を見ると上の部分がドームのようにくぼんでいますよね。
分厚い舌を前に出せるようになっているんです。
歯がすり減っているのは強くかみ合わせているからです。
セイウチは貝を吸い寄せると歯をがっちりと閉じて舌を前の方へと押し出します。
そして舌を素早く引っ込めるんです。
そうすると強力な吸引力が生じ貝殻から身だけを吸い取る事ができるんです。
この吸引力でベニヤ板に穴を開けたセイウチもいるそうです。
脊椎動物の口は食べるものによってさまざまな進化を遂げてきました。
アイルランドダブリンの国立自然史博物館に奇妙な歯がある動物の骨が保管されています。
カニクイアザラシです。
カニクイアザラシはセイウチに近い種で大型哺乳類の中で最も生息数の多い種の一つです。
しかし主に流氷の上で生息しているため研究はあまり進んでいません。
カニクイアザラシという名前だしこのギザギザした奇妙な歯で当然カニを食べていると思うでしょう。
でも違うんです。
カニクイアザラシは主にナンキョクオキアミと呼ばれるエビに似た甲殻類を食べています。
なんと一日に20kgも消費します。
なぜこんな複雑な歯をしているのでしょうか。
カニクイアザラシはギザギザの歯をザルのようにして使っています。
オキアミを海水ごと吸い込んだあと口を閉じたまま海水を吐き出すとオキアミが歯に引っ掛かって残るという仕組みです。
うっとりしますね。
完璧なかみ合わせです。
一つ一つの歯に細かい突起や裂け目があり上下の歯がぴったりとかみ合っています。
これならオキアミがこぼれ落ちる事はありません。
驚くべき進化です。
顎の骨や歯は動物が食べるものに合わせてさまざまに進化してきました。
頭の骨は食べる物を探す役割も担っています。
頭の骨には周囲の世界を感じ取るための感覚器目耳鼻が集まっています。
ゴリラなど霊長類にとっては目で見る感覚視覚が最も重要です。
頭の骨には眼窩と呼ばれるくぼみがあり眼球はここに入っています。
ぶつけたり潰れたりしないように保護されているんです。
眼球を傷つけては大変ですからね。
眼窩の奥には神経が通る穴があり目で捉えた情報はそこを通って直接脳へと伝達されます。
眼窩の位置は動物によって異なります。
眼窩がどこにあるかによってその動物の生態が分かるのです。
かばんに頭の骨が2つ入っています。
片方はヒツジ。
もう片方はオオカミです。
眼窩の位置を見て下さい。
ヒツジの眼窩は顔の横側それもかなり後ろの方に位置しています。
ヒツジは一日の大半を下を向いて草を食べながら過ごしています。
忍び寄る敵にどうやって気付くのでしょう?実はヒツジは眼窩が後ろに位置しているので周囲がほぼ360度見えているんです。
敵の存在に気付く事もできます。
一方オオカミは食物連鎖の頂点に位置します。
後ろから忍び寄られて襲われる心配はありません。
そのためオオカミの眼窩は顔の前の方に位置しています。
「見える範囲」は狭まりますが左右の「見える範囲」が真ん中で重なっているため立体的にものを見る事ができ獲物までの距離を正確に見極められるんです。
この法則は多くの動物に当てはまります。
目が顔の横側にあるもの。
顔の前の方にあるもの。
追う者も追われる者も自分が優位になるよう進化を遂げたのです。
周りを広く見渡せる動物とものを立体的に捉える事ができる動物。
どちらも競い合って進化しています。
命懸けの攻防です。
眼窩を見る事で他にもさまざまな事を知る事ができます。
眼窩の大きさからその動物がいつどこで狩りをするのか手がかりをつかむ事ができます。
ここにあるのはどちらも霊長類の頭の骨で体のサイズは大きめの子猫くらい。
片方は南米に生息するマーモセットの骨です。
目のサイズは眼窩のサイズと同じくらいなので体の大きさからして妥当なところだと言えるでしょう。
一方こちらはメガネザルの頭の骨。
マーモセットと比べると驚くほど大きな眼窩をしています。
大きな眼窩は夜行性の動物の特徴なんです。
メガネザルの大きな目は夜に狩りができるように最大限の光を取り込みます。
体の大きさに対する目の大きさの割合は哺乳類の中で最大。
目が脳よりも大きいのです。
メガネザルの目がどれだけ大きいかというと人間の目を同じ比率にした場合グレープフルーツくらいの大きさになってしまいます。
巨大な目には問題もあります。
大きすぎて人間のように眼窩の中で眼球を自由に動かせないんです。
この問題に対応するためメガネザルは頭を回転するように進化しました。
左右に180度回転させ真後ろを見る事ができます。
これを可能にしているのが頭の骨と首の骨を結ぶ特殊な関節です。
あらゆる方向を見られるように骨が見事に進化しました。
暗い場所で活動する動物の多くには大きな目があります。
薄暗い海の中で魚を取るアシカもうっそうとした森の中で狩りをするトラも。
眼窩は多くの事を教えてくれます。
一方視覚以外の感覚に頼っている動物もいます。
ギャロッドは音を聴く聴覚に優れたある動物に会いに行く事にしました。
聴覚がどれだけ優れているのか実験します。
これから3つのブザーを枯れ葉の下にバラバラに隠します。
このリモコンで今隠した3つのブザーを鳴らす事ができます。
押してみましょう。
(ブザー音)自分で隠したのにどこにブザーがあるのかどのブザーが鳴っているのか僕にははっきりしません。
僕は視覚を頼りにつまり目で探そうとしてしまうからです。
一方聴覚を使って瞬時にブザーを見つけられる動物がいます。
(ブザー音)一瞬で見つけました。
カラフトフクロウです。
このカラフトフクロウはブザーを見つけるよう調教されています。
次はどうかな。
試してみよう。
カラフトフクロウにブザーは見えていません。
聴覚だけに頼っています。
お見事!2つ目も見つけたね。
賢いな。
このカラフトフクロウはフクロウやタカの保護と研究をしている施設で飼育されています。
見事な聴覚でしたね。
他の感覚はどうなんですか?カラフトフクロウにとって聴覚は一番重要な感覚だと言えます。
でも視覚も優れていて僅かな動きも捉える事ができるんです。
視覚と聴覚両方を使っています。
カラフトフクロウは北極圏に生息しているためほとんどの場合獲物は雪の下に隠れています。
視覚はあまり役に立たないため聴覚が発達しました。
鋭い聴覚によって雪の下にいるネズミを10m離れた所から見つけ出す事ができます。
カラフトフクロウは体温を保つため全身が毛で覆われています。
丸い顔はパラボラアンテナのような形をしています。
少し角度がついているでしょう?音を集めやすくして小さな音でも聞き取れるようになっているんです。
ずばぬけた聴力を支えているのは顔の形だけではありません。
耳の穴の位置が左右で少しずれています。
これによって音がする「方向と高さ」を探知できます。
より正確に音のする場所を特定できるのです。
さっきからずっとキョロキョロと周囲を確認していますが聞き耳を立てているんでしょうか。
周囲で何が起こっているかは常に感じ取っています。
何か物音がしたり変化を感じたりするとささいな事でも音のする方向に顔を向けて確認します。
そしてそれが重要な事なのか注意すべき事なのかあるいは獲物なのかどうかを判断するんです。
すっかり魅了されちゃいましたよ。
興味が尽きません。
狩りをする様子はまるで空飛ぶパラボラアンテナのようだし。
すごいですよね。
私もいつも驚かされます。
カラフトフクロウは左右の耳の穴の位置をずらす事で音を正しく聞き分ける能力を身につけました。
そもそも動物が音を聞き取るには骨が欠かせません。
骨がなければ音が届いても99%が反射してしまい認識されないのです。
音を認識するのに欠かせないのが耳小骨と呼ばれる耳の骨です。
哺乳類には両耳に3つずつあります。
人間の耳小骨です。
とてももろく体中で一番小さい骨です。
3つの骨にはそれぞれ名前が付いています。
耳の骨を構成する3つの小さな骨。
音は槌骨から砧骨鐙骨へと伝わります。
しかも音は3つの骨を通る過程で増幅されていきます。
3つの骨は音を伝えるだけでなく振動を増幅させる役割も果たしているのです。
それを可能にしているのが骨の硬さです。
耳の骨は他の骨とは硬さが違います。
骨は主に2つの成分から出来ています。
骨に柔軟性を与える有機質のコラーゲンと硬さを与える無機質のリン酸カルシウムです。
コラーゲンとリン酸カルシウムはほぼ全ての骨に含まれています。
しかし耳の骨はリン酸カルシウムの割合が高いため硬いけれどもろいんです。
これが例えば脚の骨だったとしたら体重を支えきれずに砕けてしまうでしょう。
頭の骨の奥深くで保護されている耳の骨だからこそ可能なんです。
この硬さが音を伝えるのに役立っているんです。
3つの小さな骨は鼓膜に届いた音の60%を耳の奥へと伝達します。
実は耳小骨が3つあるのは哺乳類だけ。
ほとんどの脊椎動物は耳小骨が1つしかありません。
哺乳類は地球上で最も鋭い聴覚を備えているのです。
頭の骨はもう一つ重要な感覚を支えています。
嗅覚です。
脊椎動物の頭の骨には必ず鼻の穴があいています。
鳥のくちばしにも鼻の穴はあります。
穴があいている場所は目や耳の穴と同様さまざまです。
キーウィの場合くちばしの先端に鼻の穴があいています。
ここに穴があるのはキーウィだけ。
夜行性で目があまり見えないため嗅覚を使って食べ物を探します。
くちばしで地面をつつき土の中にいる虫や木の実などをかぎ分けます。
くちばしの先端に鼻の穴があり地表から15cm下にいるミミズもかぎ取る事ができます。
獲物を探しやすいように骨が驚くべき変化を遂げました。
鼻の穴の位置の他に頭の骨には嗅覚を支える構造があります。
ギャロッドはイギリスオックスフォード大学の自然史博物館を訪れました。
鼻の中を見ると小さな骨が入り組んでいるのが分かります。
これは鼻甲介と呼ばれる骨です。
鼻甲介が大きい事からこの動物が鋭い嗅覚を持っている事が分かります。
これはホッキョクグマの鼻甲介です。
ホッキョクグマの視力は人間とほぼ同じですが嗅覚は100倍以上優れています。
嗅覚を頼りに20kmも先にある動物の死骸までたどりつく事ができるといいます。
アザラシが呼吸のために氷に開けた穴や分厚い氷の下に隠れたアザラシの子供も鋭い嗅覚でかぎ分けます。
広大な場所で獲物を探すには鋭い嗅覚が必要なのです。
この並外れた嗅覚を支えているのが鼻の奥にある骨鼻甲介です。
鼻甲介の表面は感覚細胞に覆われています。
この感覚細胞が匂いをキャッチして脳に情報を送ります。
ホッキョクグマの鼻甲介が入り組んでいるのは大量の感覚細胞を備えられるように表面積を増やすためだと考えられています。
ホッキョクグマの並外れた嗅覚も骨のおかげなんです。
骨は嗅覚を発達させるために進化しました。
変わった形の鼻の動物。
ハイチソレノドンです。
カリブ海のイスパニョーラ島にしか生息していない珍しい哺乳類です。
ギャロッドはこの動物の標本を見るためロンドン動物学会のサム・タービー博士を訪ねました。
これはハイチソレノドンという動物です。
哺乳類で主に虫を食べています。
トガリネズミの仲間で今から7,600万年前つまり恐竜の時代に誕生しました。
鼻が曲がっていますが折れているわけじゃないんですよね。
どうして鼻が曲がっているんでしょう?理由は分かりません。
ソレノドンは絶滅の危機にさらされていて研究も進んでいないんです。
分かっているのは夜行性だという事。
そして長く伸びた鼻で獲物をかぎ分けているという事です。
ソレノドンが食べるのは主に虫。
長い鼻を使って地面の割れ目や隙間を探ります。
獲物を見つけると地面に鼻を突っ込んで捕まえるのであちこちに鼻であけた跡が残っています。
長く頑丈でしなやかな鼻はどのような構造になっているのでしょうか。
標本をエックス線で撮影して骨の様子を調べます。
今までに撮影した事は?いいえ今回が初めてです。
結果が楽しみです。
ええ。
白い部分が骨周りの灰色がかった部分は皮膚や筋肉などです。
鼻はこの辺りですね。
ソレノドンの鼻がしなやかなのは恐らくこの部分のおかげでしょう。
何だと思います?骨ですね。
当たり。
とても特殊な鼻の骨です。
へえ。
このような骨があるのは恐らくソレノドンだけです。
関節の部分を見ると片方はボールのように丸くてもう片方は丸くくぼんでいます。
ぴったりとはまっているでしょう。
本当だ。
この骨が大きくて重たい鼻を支えると同時に自由に動かす役割も担っているんです。
この小さな骨がソレノドンの生態に深く関わっているという事ですね。
狩りの方法や食べ方も…。
そのとおりです。
エックス線撮影で確認できて本当によかったです。
長年研究をしてきましたが一度も見た事がなかったので。
視覚聴覚そして嗅覚。
骨と感覚の話はまだ終わりません。
ある動物は獲物を探す時にかなり変わった方法で骨を利用しています。
マダガスカルに生息するサルアイアイの骨です。
アイアイは夜行性のサルです。
夜に狩りをするため大きな目があります。
最大の特徴は独特の前足です。
アイアイの指はとても変わった形をしています。
特にこの中指。
とても長くて針のように細いでしょう。
先はかぎ爪になっています。
アイアイは木の幹に潜む幼虫を食べています。
指で幹をたたきその反響を利用して幼虫を探します。
1秒間に10回もたたく事ができます。
ものすごいスピードです。
アイアイは幹をたたく事で返ってくる音の反響を捉え幼虫の在りかを特定します。
音の反響を利用して狩りをするのは霊長類ではアイアイだけです。
幼虫を見つけると幹をかじって穴を開け長くとがった指を突っ込んで幼虫を探します。
アイアイは指の関節も独特です。
人間の股関節のように片方が丸くもう一方はくぼんでいます。
この関節のおかげで指で幹の中を自由に探る事ができます。
幼虫を見つけると同じ中指を使って引きずり出して食べます。
指の骨が進化した事でアイアイは他の動物には見つけられないごちそうにありつく事ができるようになりました。
骨の進化によって更に広範囲で音の反響を利用している動物がいます。
マッコウクジラは哺乳類の中で唯一水深3,000mまで潜る事ができます。
ほぼ真っ暗闇の深海でマッコウクジラは音の反響を利用して獲物を探します。
それを可能にしているのが骨です。
大きな頭ですよね。
マッコウクジラの頭の中には特殊な油が詰まっています。
マッコウクジラは頭の前の方この辺りからカチカチという音を後ろに向かって発します。
音は脳の油の中を通りこの部分に到達します。
クジラの額の辺りです。
そしてここから外に向けて音を放ちます。
カチカチというこの音は10km先まで届きます。
音が獲物にぶつかるとはね返ってきます。
はね返ってきた音反響を捉えるのは今度は下顎の部分この辺りです。
マッコウクジラの下顎の骨は特殊な進化を遂げました。
骨の内側が空洞で中にゼリー状の脂肪が詰まっているんです。
捉えた反響は下顎の脂肪の中を通ります。
そして耳に到達し最終的に脳に伝わります。
この反響をもとにクジラは周囲の世界を立体的に認識する事ができます。
この仕組みを支えている骨は他にもあります。
首の骨頸椎です。
マッコウクジラには人間と同じく頸椎が7つあります。
しかし人間とは異なり7つが結合し一つの大きな骨になっています。
頭全体をしっかりと固定しているんです。
つまり頭部を一定の状態に固定する事で反響をできるだけ正確に捉えられるよう骨が進化したんです。
音を発しその反響を捉えるのに頭がグラグラと揺れていては困りますからね。
巨大な頭ならではの工夫です。
マッコウクジラがすごいのは大きさだけじゃないって事です。
複数の骨の進化が可能にした高度な感覚。
巨大な顎の骨。
そして見事な歯。
マッコウクジラは骨が進化した事で優れた狩猟能力を獲得しました。
動物の骨は狩りをし獲物を消化できるように常に進化しています。
自分の頭よりも大きな獲物を飲み込み貝の身だけを吸い取り暗い夜に狩りをし遠くの獲物の臭いを嗅ぎ分け雪に隠れた獲物にありつく。
環境に適応し進化した骨が「食べる」事を可能にし動物の命を支えているのです。
2014/08/18(月) 00:00〜00:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック 骨から探る“生きもの図鑑”第3回「“食べる”を支える骨」[二][字][再]

獲物をとり、食べる。動物が生きるために欠かせない行動を可能にしているのは骨だ。骨から動物の生態を探るシリーズの3回目。食べることを支える骨の秘密に迫る。

詳細情報
番組内容
食べるものに合わせて大きさや形を変化させた歯。最大の歯はゾウの臼歯で、長さ30センチ、重さ5キロになる。かたい植物を食べ、すり減るため、一生に6回生え変わる。夜に狩りをするメガネザルは最大限の光を取り込めるよう、眼窩(がんか)が大きくなった結果、目が脳よりも大きい。カラフトフクロウは雪の下の獲物を捕まえるために聴覚が発達。左右の耳の位置が違うことで音がする場所を正確に特定できる。(2014年英国)
出演者
【語り】渡辺徹

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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