日曜洋画劇場 特別企画「少年H」 2014.08.17

戦争はいつか終わる。
その時に恥ずかしい人間になっとったらあかんよ。
この夏休みの時期『少年H』をご家族でご覧頂けると嬉しいです。
ぜひ最後までご覧ください。

(子供たち)「守るも攻めるも黒鐵の」「浮べる城ぞ頼みなる」「浮べるその城日の本の」「皇國の四方を守るべし」しかしなかなかなもんやなぁ。
ほんまやね。
うまいもんですなぁ。
(妹尾肇)出来た!
(林クン)うわぁすげえ!
(イッチャン)僕にくれや!ねっ。
(柵野クン)僕や!今度は僕って約束や!あ〜もうただではやれんな。
がめついやっちゃな!
(林クン)何が欲しいんや!双葉山のブロマイドと交換や!
(柵野クン)羽黒山ならどうや?双葉山や!双葉山以外はあかーん!
(男性)ハハハハハハ…どこの子や?妹尾洋服店や。
胸に書いてあるやろ?おい坊主!ローマ字とはしゃれとるのう。
妹尾んちはハイカラやからな。
(イッチャン)アーメンの家やからな。
特別特別!
(イッチャン・林クン)おしゃれ!おしゃれ…!
(ラッパ)また言われたわ。
名札つけて歩いてるのと同じや!
(妹尾敏子)ええやないの。
そんなセーター着てる子他にはおらへんでしょ?そやから嫌やねん。
(妹尾好子)お兄ちゃんミセス・ステープルス先生がアメリカではやってるって言うてたよ。
ここは日本や。
好子は黙っとれ。
お母ちゃん新しいセーターまだ出来へんの?好子に当たらんでもええやないの。
なあ?ほら。
フフ…。
出来上がったとこや。
これなんや?肇の「H」や。
これやったら名前やってわからへんやろ?なんで何かしら刺繍せんと気が済まんのや!お父ちゃんお母ちゃんになんか言うてよ!
(妹尾盛夫)かっこええやないか。
居留地のほうへ行くんやけどあんた一緒に行くか?うん行く行く!そのセーター着たらな。
よし…。

(うどん屋の兄ちゃん)「風の中の羽のように」「いつも変わる…」兄ちゃんこんにちは。
Hか…かっこいいなぁ!「涙こぼし…」
(柴田)ああ妹尾さん。
あっどうも。
柴田さん吉村さん。
こんにちは。
(吉村)なんや?その柄。
(柴田)あっ肇やからHやな。
えっ?なんで肇やったらHやねん?イニシャルやがな。
そんな事も知らんのか?腹立つやっちゃなぁ。
ちょっと自分が大学出の銀行員や思うて偉そうに…。
表出よか?
(柴田)いやもう出とるがな。
ええ天気ですね。
ええ。
おっ…。
これなんて書いてあんねん?肇です肇。

(運転手)次は三宮一丁目三宮一丁目です。
たぶん明日から「H」って呼ばれるわ…。
いいですね。
(ジェームズ)イッツグッド。
ドゥーユーシンクユークッド…メークザプライスアリトルチーパー?オフコース。
サービスさせてもらいますよ。
オーケーゼン。
ウィーガッタディール。
ここや。

(ピエールのフランス語)恰幅のええほうがいいですよムッシュ。
(フランス語)ウィムッシュ。
双葉山に勝てるかもわかりませんね。
(ピエールの笑い声)ここや。
袖はええようやけど肩はどうですか?
(オッペンハイマーのドイツ語)ではもう少し詰めましょう。
腰回りは?
(ドイツ語)ダンケシェーン。
ビッテシェーン。
お父ちゃんようしゃべるんやな。
お客さんが緊張してたら正確に寸法計られへんからな。
肩の力を抜いてもらうために話しかけるんや。
でも不思議や。
色んな国のお客さんと話しとったからなんで話が通じるんやろって思ってたんや。
ジェームズさんとは英語やろピエールさんとはフランス語オッペンハイマーさんとはドイツ語や。
嘘や「ダンケシェーン」以外は全部日本語で話しとったわ。
洋服の事やから向こうの人にもわかるんや。
それに結局は人と人やからな。
国や言葉はあんまり関係ないんと違うかな?ふーん…。
こんにちは。
ハーイH。
ナイスセーター。
バーイH。
明日からやのうて今日からやったな。
(林クン)タコ捕りに行くぞ!
(先生)待て待て待て待て待て!何しとる何しとる!戻れ!戻れ!お前ら奉安殿に最敬礼したんか?
(4人)してません!してへんやろ。
気をつけ。
最敬礼!
(先生)直れ。
よし行ってええぞ。
(4人)さようなら!
(林クン)よーしもうええぞ!
(好子)お兄ちゃん!お母ちゃんが捜しとるよ。
えっ?好子海で遊んでた事言うなよ!ええな!うま〜!みんな手伝って!手伝って手伝って!もう早う!早う!H手拭いぐらいいつも持っとれよ。
あほ。
お母ちゃんに見つかったらなんでハンカチを持ってるのになんで手拭いを入れてるのって怪しまれるわ。
お母ちゃんの考える上を行かんと。
あっ!なんや?この前はヘソの穴の砂を見つけられてばれたんや。
ほら。
お前の母ちゃん探偵みたいやな。
アーメンの家は大変やな。
(3人)アーメンソーメン冷やソーメン!
(3人)冷やして美味しいトコロテン!ケツの穴もよう調べてくれ!完璧や。
(3人)安心せい!あっ痛って〜!太田君ちで勉強してたんや。
ほんまやで。
ほんまやで。
塩辛い。
僕は嘘をつきました。
もう決して嘘をつきません。
お母ちゃんとの約束を守りますから許してください。
アーメン。
(ため息)ええか?お母ちゃんの家はお寺さんやったから嘘ついたら地獄に落ちるいうて厳しゅう言われてました。
またその話…。
ええから聞きなさい。
それがミセス・ステープルス先生たちにお会いしてイエス様の教えを知りました。
人は誰でも罪を犯すけど悔い改め神に祈りを捧げたら罪は許されて天国へ行けます。
あんたは神に捧げられた子なんよ。
その気持ちはようわかるけど汚れなき天使のような子に育てようと思うんは無理やて。
そや!お父ちゃんの言うとおりや!私はこの子をバラケツにしとうないんや。
それだけです。
バラケツにはならへんから堪忍してえな。
家の中では標準語で話すように言っているでしょ。
標準語が話せればどこへ行っても困らないのですから。
僕には難しいわ。
ラジオのアナウンサーの真似したらええんや。
難しい事あらへん。
あっ…。

(信徒たち)「主よ御許に近づかん」「登る道は十字架に」
(川口牧師)先日お話ししたように長い事神戸で教えてくださったステープルス先生がアメリカに帰られる事になりました。
(ミセス・ステープルス)皆さんにさよなら言うのは寂しいです。
聖書にも人を差別してはいけないと書かれてます。
神戸の人たち外国人と仲良くしてくれました。
心からありがとう言います。
愛する皆さんに感謝の贈り物です。
(好子)わあ〜ほんまや!あっ1本曲がってる。
よし僕が直したる。
いや〜きれいやねぇ。
ねえ見て。
(フォークが折れる音)あっ!どないしたん?1本折れてしもた…。
あっ…!あ〜もう〜!せっかく頂いたもんをあんたって子は…。
もう…このフォークはあんたのにしなさい。
1本ぐらいのうても刺せるわ。
好子。
スプーン。
味噌汁はやっぱりお椀で食べさせたほうがええんやないか?今からナイフとフォークに慣れといたら将来どこへ行っても恥ずかしないから。
そうかもしれんけど箸も上手に使えるようにならなあかんやろ。
ほんなら明日の朝は箸にしましょ。
はあ〜。
でもステープルス先生はなんで急にアメリカへ帰る事になってしもたんやろ?もしかしたらこの国で起きてる事は外国の人のほうがようわかってるのかもしれんな。
「風の中の羽のように」こんにちは。
「いつも変わる…」
(うどん屋の兄ちゃん・H)「女心」「涙こぼし笑顔つくり」子供が歌う歌じゃないよ。
兄ちゃんがいつも歌うとるから覚えてしもた。
僕はこの歌ものすごい好きやねん。
そんなに好きか?うん!讃美歌と違うて気持ちがウキウキしてくるんや。
レコードを聴かせてやろうか?ほんま?おう。
晩ご飯が済んだらこっそり裏からおいで。
うん!わかった!ごちそうさま〜。
はい。
ほな僕お風呂行ってくるわ。
いってきまーす!
(うどん屋の兄ちゃん)「風の中の羽のように…」兄ちゃん?僕や。
うわ〜!そんなに慌てるな。
コーヒーは好きか?うん。
コーヒー好きや。
ほら。
うえっ…。
フフッ…。
よっと…。
いつも歌ってる藤原義江だ。
義江っちゅうのに男の人やったんか?ああそうだよ。
テノールで有名なオペラ歌手だ。
この歌はオペラ『リゴレット』の中の有名なアリアでアメリカで録音したものなんだよ。
ふーん。
赤いラベルが貼ってあるだろ。
うん。
これは赤盤って呼ばれて普通のレコードよりもうんと高い。
へえ〜。
日本人で赤盤の歌手はこの人だけなんだ。
赤盤か…。
僕これから兄ちゃんの事赤盤の兄ちゃんって呼ぶ事にするわ。
そんな事言うな!
(レコード)その呼び方だけは絶対に駄目だ。
今までどおりうどん屋の兄ちゃんでええ。
ここに来た事もレコードを聴いた事も誰にも言うな。
これは男と男の秘密だぞ。
いいな?うん。
わかった。
(うどん屋の兄ちゃん)うん。
「風の中の羽のように女心は変わるよ」妹尾さんこんにちは。
郵便です。
どうもおおきに。
あんたにや。
ステープルス先生からや。
僕に?すごいやろ?アメリカから届いたんやで。
ニューヨークっていってなこの街はアメリカでいっちばん大きい街なんやで。
へえ〜。
この一番高いビルはなんという建物や?ニューヨークビル…。
オトコ姉ちゃん!
(オトコ姉ちゃん)お洋服を取りに来たんよ。
オトコ姉ちゃんきれいやったなぁ。
南京陥落の祝賀会で女形になって踊ってた。
今でも忘れられへんわ。
(オトコ姉ちゃん)ええわぁ…。
新品にしか見えへんわ。
お友達の結婚式に間に合いますね。
はい。
あのお支払いなんやけどあいにく今…。
ああ出来た時でいいですよ。
ありがとうございます。
映画館に来る事あったらサービスしますよって。
おお〜!ほんま?ほんま?ほんま?約束破ったらあかんで!絶対やで!指きりげんまんや。
(イッチャン・H)指きりげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます!指きった!どうぞ。
よっしゃ〜!何見る?何見る?何見よか…。
『鞍馬天狗』?ありがとうございました。
ありがとうございます。
(2人)ほんなら!今は映画館の映写技師やけどもともとは旅回りの女形の役者やったそうやで。
ふ〜ん。
そんできれいなんか…。
ほんまは役者に戻りたいんやろうけど病気のお母さんを抱えとってやから暮らしも大変やろうなぁ。
こんなご時世にあんな女の腐ったみたいな芸あかんやろ。
不謹慎やで。
あんたが根性叩き直してやらんと。
在郷軍人の上等兵殿。
この一番高いビルはエンパイア・ステート・ビルディングというて102階建てやそうや。
102階?大丸百貨店でも6階建てやのに。
どうやって建てたん?1931年に出来たそうやから昭和6年や。
あんたが生まれた次の年やね。
一つ下の弟やね。
大きい弟やね。
もっとすごい事も聞いたで。
高いビルがあちこちに建ってるだけやのうて街から街へ旅客機が飛び交うてるらしいわ。
え〜?え〜?自動車も公用車より自家用車のほうがぎょうさん走ってるそうや。
(3人)ふ〜ん。
地下鉄が走り始めたんは明治36年1903年やいうから東京よりも27年も前や。
僕が生まれた翌年やな。
父ちゃんの弟地下鉄なん?日本のお兄ちゃんはしっかりせなあかんな。
ウフフ…。
フフフフ…。
すごい国やねんなアメリカって。
(ドイツ語)はがき見ました。
ありがとうございます。
どうぞどうぞ。
妹尾さん…これどう?なんとかなりますか?
(ドイツ語)はい直りますよ。
(ドイツ語)あっ…。
どう?
(ドイツ語)
(ドイツ語)帰りたい…。
大丈夫。
大丈夫です。
この人らは?みんなユダヤ人や。
ナチスドイツから逃げて長い長い旅をしてきたそうや。
この人らの服の修繕引き受けたんや。
運ぶの手伝ってな。

(運転手)山手上澤回り須磨行き…。
なあちょっと臭ない?あっち行こう。
(男性)おい!車掌さーん!この電車タヌキ乗しとんか?臭っ!臭い!
(咳込み)ふう…向こうの人は体臭がきついねぇ。
動物園の檻の中に入ってるみたいや。
いつも人を差別してはいけません言うてるお母ちゃんの愛はどこ行ったんや?差別なんかしてへんよ。
長い事汽車の旅をしてきとってやもん。
どこから来たん?ポーランドや。
ポーランドってどこや?ここやな。
ここからシベリア鉄道に乗ってずーっときて…遠いなぁ…。
ウラジオストクを通ってやっと神戸にたどり着いたんや。
(好子・H)ふーん。
神戸からどこ行くの?大阪商船のマニラ丸に乗ってまたずーっとや。
ずーっときて40日かけてアフリカの南の端っこにある…。
あった。
ケープタウンいうところまで行くそうや。
(盛夫の声)そのあとは歩いたりラクダに乗ったりしてアフリカ大陸を北へ北へ向かってエジプトからパレスチナへ行くんや言うてたな。
(汽笛)行こか。
なああの人ら無事にたどり着けるんやろか?日本がドイツと同盟を組んでる以上ドイツが嫌うてるユダヤ人をかくまうわけにはいかんのや。
(汽笛)おはようございます。
あっ…。
せっかくのポスターがこんなんではあきませんな。
お仕事ですか?ええ。
服を届けに。
(駅員)鷹取鷹取です。
1番線は三宮大阪方面の…。
あっ…すんません。
失礼。
(駅員)三宮大阪方面の列車間もなくの発車です。
ご利用の方はお急ぎください。
いってきまーす!兄ちゃん僕や。
(うどん屋の兄ちゃん)今日は駄目だ。
東京から友達が来てる。
当分ここには来るな。
いいな?うんわかった。
またきっとやで。
(戸の開く音)
(警笛)
(刑事)窓から逃げたぞ!
(警笛)
(刑事たちの声)
(警笛)
(刑事)こっちや!こっち回れ!
(刑事)おったぞ!あそこや!待てや!待たんかい!上や!上だ!みんな回れーっ!電気つけたらあかん!
(好子)どないしたん?警察の捕り物や。
怖い…。

(刑事)おとなしゅう捕まらんかい!
(刑事)逃がすな!
(刑事)挟み撃ち!捕まえたぞー!なんで?なんで兄ちゃんが捕まったんや?兄ちゃんが何をしたんや?お父ちゃん!わからん。
今日はもう寝。
兄ちゃんはどうなるんや?寝るんや。

(柴田)やっぱりアカやったな。
(吉村)わしゃずーっとそう踏んどったんや。
もうあいつは帰って来おへんな。
思想犯はな一番きつい最前線へ送られんねや。
まあお国のために戦うて散るんやからちょうどええ罪滅ぼしや。
ああそうや。
なあアカって何?思想犯って?上がり。
共産主義者いうて日本の政府と考え方が違う人たちや。
なんで考え方が違うたらあかんの?人はみんな考え方が違うて当たり前や。
せやけど今は国民が一丸とならないかん時やから厳しゅう取り締まられるんや。
兄ちゃんのところへ遊びに行ってた事は人に言わんほうがええよ。
父ちゃん知ってたんか?僕やないよ。
僕は兄ちゃんの事誰にも言わへんかったで。
ちゃんと約束守ったで。
あんたが約束を守ったのはようわかってる。
ひょっとしたら兄ちゃんが親しくしてた仲間に密告されたのかもしれん。
捕まった人が拷問されて仲間の名前を言わされる場合もあるから…。
あんたもこれからは気をつけなあかんよ。
僕が何を気をつけるんや?絵を描いてるやろ?軍艦の絵なんか描いて友達に配ったらあかんで。
スパイ行為とみなされるかもわからへん。
なんで絵を描いたらスパイなんや?何が軍機保護法に触れるんか僕にもわからん。
高いところから見下ろして街の絵を描いたり写真に撮ったりするのも禁止やそうや。
自分の家の屋根登っただけでもあかんの?あかん。
今は我慢するんや。
「涙こぼし笑顔つくりうそをついてだますばかり」「風の中の羽のように女心…」どないすんの?そうやなぁ…。
どないしたん?
(ため息)「我が国の服装文化はあまりにも欧米を模倣し自主性に乏しかった。
その事を反省し今後は日本独自の国民服を生み出し世界の水準を抜く新服装文化を確立すべきである」「各自の持てる技術を生かし協力されん事を望む」国民服を広めるために協力しろと言うとるんや。
軍服みたいやね。
うちは紳士服の仕立て屋なんよ。
ただでさえ仕立ての注文が減ってんのに…。
こんなん着る人おらんわ。
それにうちは外国のお客さんが多いから大丈夫や。
外国の人は洋服着てもええんやろ?そうやなぁ…。
(業者)これまとめて奥に持って行ってくれ。
はい。
(業者)売りもんになるもんやさかい丁寧にな!
(業者)はーい!
(フランス語)ピエールさん…お店やめられるんですか?残念ですね。
近頃はレストランに食べに来る人も少のうなったし材料も思うように手に入らんから無理もないわ。
でもフランスへ帰る前に記念に僕の洋服を仕立ててほしいと言うてくれた。
ジェームズさんもアメリカに帰ってしもうたしこの服が僕の最後の仕立てになるかもしれんなぁ。
最高の服を作ってあげてね。
うん。

(ラジオから流れるチャイム)
(ラジオ)「臨時ニュースを申し上げます」「臨時ニュースを申し上げます」「大本営陸海軍部12月8日午前6時発表」「帝国陸海軍は本8日未明西太平洋においてアメリカイギリス軍と戦闘状態に入れり」「帝国陸海軍は本8日未明西太平洋において…」大日本帝国ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!
(ラジオ)「12月8日午前6時発表」「帝国陸海軍は…」あんなに高いビルがいっぱいそびえてるアメリカに勝てるんやろか…。
そんな事外で言うたらあかんよ!勝てると思うから…やるんやろ。
自動車かて飛行機かて日本よりぎょうさんあるんやで!何か考えがあるんやろ。
考えってなんや?お父ちゃん…。
僕にわかるわけないやろ!
(ラジオ)『軍艦行進曲』
(一同)「きよしこのよる」「ほしはひかり」「すくいのみこ…」
(ガラスが割れる音)誰や!!
(川口牧師)待って待って!かまへんかまへん。
続けて。

(一同)「みははのむねに…」気にせんでええの。
私らは悪い事してへんのやから。
敵国の神様を拝むのがあかんのやろ?学校の先生が天皇陛下はアラヒトガミいう神様や言うとってやった。
神は天にましますわれらの父ただ一人です。
聖書にも書いてあるでしょ?キリスト教の信者にとってはイエス・キリストやけど他の宗教ではまた別の神様や。
それぞれが信じる神様があってええんや。
あんたは…邪宗教の神様を認めるん?他の人が信じてる宗教を邪宗教や言うとったら他の人からもキリスト教は邪宗教や言われてしまうで。
他の人が信じる宗教も認めんと。
あんたはいつから信仰を失うたん?そんな人やと思わんかった。
ええか?これは大事な話やから聞いてほしい。
これからキリスト教への弾圧はもっともっと激しゅうなってくると思う。
クリスチャンやいうだけで満州へ行かされたり監獄へ入れられた人もおるいう話や。
そんな…おかしいわ。
でもむきになって逆ろうたらあかんで。
江戸時代の隠れキリシタンみたいに踏み絵を踏まされて調べられるん?私は絶対に踏まへんよ!そうやないんや。
踏んでもええんや。
信仰は自分の心の中にある。
それを守るんはむきになって正面から抵抗するだけやないという事を知っといてほしいんや。
ええな?あんたらもやで。
(ラジオ)「アメリカの東亜侵略の前進根拠地たるウエーキ島を攻撃中なりし帝国海軍部隊は勇猛果敢なる攻撃をもってその本防御線を突破」「ただちに敵を降伏せしめその武装を解除しウエーキ島全島の占領を完了せり」さすが皇軍や。
たいしたもんや。
当たり前やがな。
アメリカぎょうさん船持っとっても大和魂がないからな。
じき降伏しよんで。
何事も精神力が大事やからな。
そや。
あっおめかししてメリークリスマスやな?めでたい事が重なりますな。
ハハハ…。
はい好子。
ありがとう。
あんた最近よう新聞読むねぇ。
書いてある事わかるん?お母ちゃん僕もう5年生やで?フフ…そうやね。
H!H!イッチャンどないしたんや?しゅ…出征や!出征?誰が?オトコ姉ちゃんや!ええっ?
(オトコ姉ちゃん)待ちに待った召集令状が来ました。
不肖下山幸吉…。
皇国のために一命を捧げ立派に戦って参ります。
(吉村)下山幸吉君ばんざーい!
(一同)ばんざーい!ばんざーい!ああ…。
(泣き声)お母さんお母さん…。

(町人たち)「勝ってくるぞと勇ましく」
(軍人)前へ進め!
(町人たち)「手柄立てずに死なりょうか」「進軍ラッパ聞くたびに瞼に浮かぶ旗の波」「土も草木も火と燃える」オトコ姉ちゃんに兵隊なんか似合わんなぁ…。

(町人たち)「進む日の丸鉄兜」あのお母ちゃん病気やのに一人ぼっちになってしもうてどないするんやろう?戦争が終わって早よう帰って来られたらええなあ。
お父ちゃんも兵隊さんに行くの?お父ちゃんは徴兵検査で丙種やったから大丈夫や。
体が小さいし歳やから兵隊さんには向かんの。
よかった。
下山幸吉の行方を知ってる奴はいるか!下山幸吉?オトコ姉ちゃんや!彼は出征されましたが。
来ておらんから捜しているのだ!家にも帰っておらん!姿を見たらすぐに通報するように!知らせなければ泥棒をかくまうよりも罪が重いぞ!いいか!よし来い!いくぞ!ボール!
(柵野クン)どないしたんやピッチャー。
ストライク入らんぞ!ピッチャー言うたらあかん事になるらしいで。
なんて言うねん?投手やろ。
ストライクはよし。
ボールは駄目。
スカ屁みたいで力が入らんな。
Hもあかんのと違うか?Hは英語やろ?そうやな。
そうや!Hは英語だけやのうてドイツ語にもある字や。
ハイル・ヒットラーの「ハイル」はHから始まっとる。
ならええやないか。
ドイツは味方やから。
なっ。
(イッチャン・柵野クン)そやな。
(林クン)おお〜ええぞええぞ!回れ回れ!ああ〜!ええ当たりやったのにな…。
どないしたんや?H。
腹痛なってきた…。
また変なもん食うたんと違うか?Hはなんでも食べてみるからな。
今日はもう帰るわ。
ショートがおらんようになるわ!あ…遊撃手がおらんようになるわ。
(林クン・イッチャン)あ〜…。
どないしたんや?
(警察官)行くぞ。

(始業ベル)こらっ!貴様!奉安殿に最敬礼したか?してません!
(先生)気をつけ。
足開いて。
歯ぁ食いしばれ!
(校長先生)この校庭で長い事皆さんと共に学んでおった二宮金次郎さんも出征される事になりました。
兵隊さんの弾丸になるのです。
みんなで二宮金次郎さんの武運長久を祈って万歳三唱を致します。
二宮金次郎さんばんざーい!
(一同)ばんざーい!ばんざーい!
(一同)ばんざーい!
(校長先生)ばんざーい!
(一同)ばんざーい!二宮金次郎さんまで弾にするやなんてほんまに日本は大丈夫なんやろか?Hそんな事言うたらまたやられるで。
痛っ…。
なんやこれ?アーメンや。
あいつんちアーメンやからな。
せやせや。
ハハハ…。
来た!うわっ来た!誰が描いたんや?誰や!H気にせんとき。
誰やねん!誰なんや!やかましいなぁ。
(轟音)うるさいわぁ。
(轟音)なんやの?敵機や!敵機やー!爆撃機や!敵機が飛んできたでー!どうしました?なんや見た事ない飛行機が飛んでいった言うて…。
えらい低空飛行やった言うて。
アメリカの爆撃機や!あれはアメリカの爆撃機やで!んなあほな。
アメリカの爆撃機こんなとこまで飛んでくるかいな。
(空襲警報)敵の爆撃機や!えらいこっちゃ…。
(空襲警報)
(ラジオ)「空襲なんぞ恐るべき」「護る大空鐵の陣」あっ!お父ちゃん帰ってきたで!ほんま?うん。
ただいま。
(H・好子・敏子)おかえり。
ほな私ら教会に行ってくるね。
気ぃつけてな。
あっ消防署の沖野署長に新調の洋服を持って行ったんやけど空襲警報が鳴ってすぐに出動したそうや。
兵庫駅の南側の松原通りで焼夷弾が4発落とされたんやて。
そやからお祈りに行くねん。
ああそうか。
行こう。
いってきまーす。
いってらっしゃい。
お母ちゃんと好子に心配させとうなかったから言わんかったけど一人亡くなったんやて。
死んだ人がおったの?うん。
そんな事新聞に書いてへんよ。
新聞が何もかもほんまの事を書くとは限らんよ。
なんで?国は都合の悪い事は知らせとうないんや。
新聞社かて国に協力する姿勢を見せとかんと潰されるからな。
ほんなら大本営発表で戦争で勝ってるって言うてるのも嘘なんか?割り引いたほうがええかもわからんなぁ。
なんでしょう?
(松木刑事)妹尾盛夫やな?はい。
(小野刑事)聞きたい事がある。
同道してほしい。
お父ちゃんなんもしてへんよ!うっ…。
大丈夫や。
お母ちゃんと好子に急な仕事が出来たよってに三宮へ行った言うといてくれ。
頼んだで。

(柱時計の音)三宮のどこ行く言うてた?知らん。
(駅員)鷹取鷹取です。
2番線は明石姫路方面の列車です。
(駅員)2番線から明石姫路方面行き間もなくの発車です。
肇君こんな遅うにどないしたんや?なんでもない。
この指で糸縫うとんのやな。
ああ?その糸で外国人とも繋がっとんのやろ!!うっ…!うう…。
(松木刑事)その糸の端っこちょーっとつまませてくれたらええんや。
うう…!悪いようにはせんから正直に言うんや。
なっ?ですから…私は洋服屋です。
洋服の注文のお付き合いしかありません。
おお大丈夫か?
(児童)誰が書いたんや?
(児童)俺知らんで。
俺も知らん。
俺が来た時から書いてあったで。
スパイってほんまか?ほんまらしいで。
アーメンのうちはみんなスパイらしいで。
それほんまか?ほんまや。
(児童)話しもしたらあかんねや。
(児童)せやせや。
(児童)来た!おはよう!おはよう!H話があるんや。
だいぶ前からお前んちはスパイ一家やという噂が広まっとったんや。
誰がそんな噂言いふらしたんや!それは俺にもわからん。
けどお前がアメリカの写真を持ってるってもっぱらの噂なんや。
アメリカの写真?お前んちはアメリカ人と手紙のやり取りをしていて日本の情報を教えてるって言われてるで。
そんな事してへん!ただ絵はがきを…。
H…。
どないしたんや?H。
(戸の開く音)ただいま。
(戸の閉まる音)どこ行っとったん?すまんなあ遅うなってしもうて。
西村さんのとこへ行ったら佐藤さんや野田さんもおってなあ。
ちょっとした寄り合いや。
泊まっていけてうるそうて。
なんや…そやったん。
あっええよ。
なんか食べる?ええわ。
ほな…お茶でもいれてくれるか?うん。
あんたあのニューヨークの絵はがきまだ持ってるか?ちょっとだけ貸してくれへんか?明日も行かなあかんのや。
やっぱり…これのせいでお父ちゃん連れていかれたんやね。
心配せんでええ。
見せたら…大したもんやないいう事がわかるはずや。
大した事ない。
どこに行くんや?イッチャンを締め上げるんや!お父ちゃんの敵を討つんや!やめとき!絵はがきを見せたんはイッチャンだけや!僕の机にもスパイって書いてあったんや!イッチャンがみんなに言いふらしたんや!その絵はがきをイッチャンに見せたんは誰なんや?あんたがイッチャンに見せなんだら他の人にしゃべる原因も作らんかったんやないか?僕はアメリカいう国はすごいんやぞって教えたっただけや!ほんなら…イッチャンもそう言うたんやないか?イッチャンも…あんたから聞いた事をそのまんま…友達にしゃべっただけと違うんか?犯人捜しなんかしてもつまらへんよ。
あんたまで…嫌な人間になってしまうで。
むしろイッチャンのほうこそこんな事になってしもうて一人で困ってるんと違うか?座り。
ええか?よう聞くんや。
この戦争がどうなるか…お父ちゃんもわからん。
自分がしっかりしとらんと…潰されてしまうで。
今何が起きてるんか…自分の目でよう見とくんや。
色々我慢せなならん事があるやろうけど何を我慢してるんかはっきりしとったら…我慢出来る。
戦争はいつか終わる。
その時に…恥ずかしい人間になっとったら…あかんよ。
イッチャン…堪忍や。
絵はがきを見せたんは僕や…。
アメリカの事教えたんも僕や。
アメリカと戦争になったんが悪いんや。
イッチャンはなんも悪うない。
そやから僕は怒ってへん。
イッチャンとはずーっと友達や。
Hお前はひと言多いんや。
落書きぐらい僕が消したる!何回でも何回でも消したる…!僕もずーっとずーっとHと友達や!さすがにもうこれは着られへんなあ。
当たり前や。
中学に着ていけるか。
どないや?ちょうどええか?うん。
こんな上等な学生服着てる奴他にはおらへんわ。
「馬子にも衣装」やね。
(行進する音)
(田森教官)中学校は軍人を育てるための予備校であると心得よ。
お前たちを天皇陛下の御為に命を捧げる立派な兵士にしてやる!第1班配置につけ!
(第1班)おう!
(田森教官)この訓練は対戦車地雷作戦である!すなわち壕に潜んで敵の戦車を待ち伏せ戦車が来たらば素早く飛び出しこの地雷で戦車を破壊せしめ再び壕に退避する。
敵必殺の精神で果敢に行動せねば自らも爆死する事になる!用意…突撃!!
(2人)うおーっ!うおーっ!邪魔や!あかんわ!わああーっ!こっちちゃう!そっちや!わーっ!わっわっ!うおーっ!うわあっ!わあっ…!わーっ!わーっ!わーっ!ハハ…。
あ〜あ。
二中は小磯良平や東山魁夷が卒業した学校やろ。
そやから僕は来たんや。
せやのに農作業と軍事教練ばっかりで…。
(横田)しっ!妹尾肇やな。
はい!ええ服を着とるな。
父が洋服屋なので作ってもらいました。
米英の毛唐どもと親しゅうしてた父親か。
全部わかっとる。
親に言うとけ。
キリスト教はやめて仏教徒になれとな。
はい。
それはなんや?絵画の勉強をしております。
絵や音楽は戦争の役には立たん。
よこせ。
はい。
これはなんだ?女の裸ではないか!それはマネの模写であります!真似の真似とはなんだ?日本語も正しく使えんのか!マネとはフランスの画家エドアール・マネの事であります。
教官殿はご存じない…。
教官を馬鹿にするのか!戦場で兵隊が戦っているという時にこんな絵を描いている奴は非国民だ!フン!フン!
(久門教官)おっ。
マネの『オリンピア』やな。
君が描いたんか?よう描けとる。
なかなかのもんや。
田森教官もうええでしょう?大丈夫か?お前はひと言多いんや。
2年の杉田や。
1年の横田であります!妹尾であります!久門教官殿が呼んでおられる。
来い。
(杉田)失礼します!
(杉田)連れて参りました!
(久門教官)うちの教練射撃部に入らんか?教練射撃部…ですか?
(杉田)お前田森教官に目をつけられとる。
ここに入ったら田森教官も手が出せん。
(横田)これは本物の銃でありますか?もちろんや。
まあ実弾を撃てるのは少しだけやけどな。
ここにあるやつや。
ちょっと触ってみるか?軍のために生徒を狙撃手にする部ですか?僕は…いざという時命を守るのに役立つ事を教えとるつもりや。
自分の教えた生徒が不注意で死ぬような事させとうないからな。
ああ…杉田直しといたで。
忘れんうちに渡しとくわ。
ありがとうございます!僕はもともと時計屋でな。
時計も銃も人間も同じや。
ちゃんと油さしてやらんと精神力だけでは動かん。
そんな…!本物の鉄砲を撃つやなんて…。
練習するだけや。
それで目をつけられんで済むんやったらやったほうがええよ。
あんた…!あんたもやで。
私?柴田さんから隣組の組長をやってくれへんかって頼まれとるんやろ?ああ…その事ね。
今の組長さんお歳やさかいリウマチがひどうて防空訓練やら配給の手配やらでけへんのやて。
そやけど私組長なんか無理やわ。
隣組で頑張ったら近所の人からキリスト教徒やと後ろ指をさされずに済むんやないか?あんたの信仰を守るためにもやったほうがええよ。
それもあんたがいっつも言うてる人への愛とちゃうか?クリスチャンの生き方見てもらうええ機会かもしれんけど…。
ちょうどええから僕からも言うておきたい事があるんや。
ん?僕な…消防手になろうと思うとんや。
消防手!?えっ!?署長の沖野さんから誘われたんや。
若い人が兵隊にとられて欠員が出たよって来てほしい言われた。
洋服屋やめるん?そうやなあ…。
公務員は二重の仕事をしたらあかんという規則があるからなあ。
そやけど消防手は一日おきの24時間勤務やからミシンを表通りから見えん2階に移したら非番の日に修繕とか仕立て直しぐらいは続けられるかもしれん。
それやったら私も隣組頑張るわ!うん。
でもお父ちゃん消防手なんか出来るの?馬鹿にせんとき。
(沖野署長)今日から入署する妹尾隊員や。
妹尾隊員前へ!本日より着任します妹尾盛夫です!よろしくお願いします!
(隊員)頑張れ貸衣装!
(隊員たちの笑い声と拍手)
(好子)お兄ちゃん代わって。
(戸の開く音)ただいま。
おかえり!おかえり。
おかえり。
フフ…。
フフフ…。
何がおかしいんや?隠れキリシタンの変装か?
(敏子・好子)アハハ!よし…!見ときや!
(階段を駆け上がる音)そない根詰めんと…これでも食べ。
どないや。
ぴったりや!ほんまや!すごいなあ!いや〜さすがに職人やねえ。
フフ…。
(隊員)始め!
(隊長)はよせい!ううっ!
(隊員)もたもたすんなタコ!うっ…うっ…。
(隊員)しっかりやれー!
(隊長)急げ急げ!気合い入れろよ!
(沖野署長)ほら白い歯を見せるんじゃない!
(隊長)日暮れてまうやないか!はよせい!ボケ!
(久門教官)はい急げ!急げ!
(久門教官)かかとを上げるなかかとを!
(久門教官)構え!撃てー!
(銃声)
(一同)やーっ!
(久門教官)突っ込め!
(一同)やーっ!もっと早う!水をこぼさんようにね!銃後の護りは婦人の手やからね!
(隊員)始め!放水始め!放水始め!うおっ!あっ…!
(沖野署長)妹尾隊員!立たなあかん!はい!!
(ラジオ)「襲来する敵機との戦いもまた激化の一途をたどっております」「1億特攻隊たれという年頭の首相の言葉を待つまでもなく一瞬の予断も許さぬ…」ほらご飯やで。
はい。
(ラジオ)「特攻の精神をもって出陣するべきはまさしく今であります」
(空襲警報)またや。
「ここで番組を一時中断します」「近畿地区近畿地区警戒警報発令」「近畿地区近畿地区警戒警報発令」
(空襲警報)
(轟音)神様どうぞ私たちをお守りください。
神様どうぞ私たちをお守りください。
神様どうぞ私たちをお守りください。
神様どうぞ私たちをお守りください。
神様どうぞ私たちをお守りください。
おかえり。
おかえり。
昨日のはすごかったみたいやね。
軍需工場やったん?うんそうや。
なんやサイレンの音にだんだん慣れてきてしもうたね。
慣れたらあかんよ。
神戸もいつやられるわからん。
(好子)チョコレート…ちょうだい…。
おいしい…。
好子の疎開を決めといてほんまによかった。
焼けた工場にぎょうさんあってなあ。
早う食べんと腐るから持って帰ってください言われたんや。
盗んできたんやないで。
好子の疎開に合わせたみたいなごちそうやねえ。
なんや最後の晩餐みたいやな。
そんな事言うたらあかん!最後やなんて…なんちゅう事言うの!うっ…うっ…。
好子泣いたらあかん。
じきに帰ってこられるから。
な?食べ。

(伯父)盛夫さんもう時間やから。
はあ…。
(伯父)好子。
好子。
(伯父)さあおいで。
(駅員)2番線は明石姫路方面の列車です。
おっちゃんおばちゃんの言う事よう聞いてな。
はがき書くんやで。
なんでもええから。
よろしゅう頼んます。
(伯父)はい。
大丈夫。
大丈夫や。
(駅員)まもなく明石行き発車しまーす!
(汽笛)
(男性)しっかりな!
(男性)絶対帰ってこいよ!
(女性)元気でね!
(男性)しっかりな!
(女性)待ってるで!
(男性)頑張れ!お前は立派な男や…!
(人々の見送りの声)
(汽笛)
(生徒)頭左!
(生徒)直れ!
(横田)とうとう学校も迷彩か。
こんなんで爆撃機から見つからんと本気で思とんか?1組の炭山や!みんなちょっと聞いてほしい。
大島さんが爆撃で亡くなった。
二中生で初めての犠牲者になったんや!苦しい時こそ国民が一つになる事が大事なんやと思う!国を守るために命を捧げる事は日本男児の本懐や!
(炭山)勝つか負けるかやない!自分がどれだけ日本のために尽くせるかや!そうやろ?
(一同)そうや!
(炭山)俺はいざとなったら生き残るより敵を1人でも2人でも刺し殺してから玉砕する!二中生の大和魂を見せてやろうやないか!
(一同)おおー!
(拍手)次の組や。
(2人)おお!何か言いたい事あるんか?別に。
お前は玉砕出来るのか?玉砕するんは日本の作戦が悪いからやないんか?なんやと?新聞もラジオも嘘ばっかりやで!僕らは本当の事を知らされんでどんどん人が死んでってるんや!貴様の非国民精神をたたき直してやる!
(横田)あっもうやめ!やめ!もうあかんて!やめ!
(生徒)もうええて!
(横田)あかんて!
(空襲警報)神戸や!神戸に来るで!僕は行かないかん!いってらっしゃい…。
うん。
あんたはお母ちゃんを守るんや。
ええな?頼んだで!わかった。
(空襲警報)
(ラジオ)「…軍管区情報中部軍管区情報」それなんや?隣組から預かった国債や。
そんなんどうでもええわ!水張っとかな!
(ラジオ)「B‐29大編隊にしていずれも高度低くなお後続敵機ありて連続侵入を企図しあり」
(点呼)1!2!3!4!5!6!7!8!9!
(隊長)出動!乗車!
(隊員たち)よし!
(照明弾の投下音)
(照明弾の投下音)
(隊員)来た!
(照明弾の投下音)今日はいてもうたれ!出動!
(一同)よし!
(爆発音)空襲や!はよ逃げ!空襲や!花火みたいできれいやな…。

(爆発音)
(2人)わあっ!!落ちた…!はあっはあっはあっ…やーっ!お母ちゃんそっち任したで!ああ…!キャー!!大丈夫や!大丈夫や!早う!うわーっ!うわーっ!ああっ!ああっ!キャーッ!キャーッ!!お母ちゃんもう誰もおらへん!逃げるで!わかった!お母ちゃん2階上がってきて!何?お願いはよ来て!あんた…!うっ…!あんた…!うん?代わって!えっ?ううっ!行くで!あかんあかん!駒ヶ林も燃えとんや!海には出られへんど!ほら行くぞ!こっちや!あかん!もう置いていこう!待って!お腹に巻いた国債がずり落ちそうや!あほか!焼け死んだら国債もクソもないわ!走るで!あかん!ああっ!わあーっ!お母ちゃん一か八か原っぱへ走ってみる!はあっはあっはあっ…。
ああっ!お母ちゃん!お母ちゃん!何しとんのや!お祈りをしてたんや。
しっかりしてくれ!火の回りより早う走らんと助からん!ええか?走れるな?走れるわ!お母ちゃんはマラソンの選手やったんやで!行くで!待って!待って!
(波音)お母ちゃんは?大丈夫や。
教会が焼け残っとったからみんなとおる。
そうか。
あんたは?怪我はないか?よかった。
あほな事したわ…。
バケツの水で火を消すて…。
みんなとっとと逃げとったんや。
僕のんだけや残ったんは。
そや。
僕ミシン助け出そうとして2階から下ろしたんやけど結局置いてきてしもた。
どこに置いた?はあ…はあ…はあ…。
はあ…。
(玉音放送)「遠キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ」「爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ」
(ラジオ)『君が代』
(生徒)ああっ…!負けるなんて嘘や!ちくしょう!
(炭山)泣くな!泣いたらあかん!そんなあほな事あらへん!負けたやなんて…そんなはずあらへん!もしそうでも…俺は上陸してくる敵兵を1人でも2人でも殺してから死ぬ!死ぬ事は覚悟しとるんや!ああーーっ!!
(杉田)ちゃんと戸閉めとけ。
杉田さん…!まさか上陸してくるアメリカ兵と…。
あほ!炭山みたいな連中が持ち出さんようにするためや!よかったですね!戦争が終わってほんまによかった!
(横田)お前も知っとるやろ!杉田さんのおっちゃんは戦死通知だけで遺骨も戻らへん。
おばちゃんは空襲で重体や。
(杉田)もうやめといてくれ!
(杉田)堪忍…してくれ…。
(杉田の泣き声)この戦争はなんやったんや!この戦争は一体なんやったんや…!
(駅員)鷹取〜!鷹取〜!お母ちゃん!あっあっあっ…!痛い…。
(駅員)鷹取〜鷹取です。
好子!大丈夫か?重たいなあ。
これなんや?お土産のお米や!えっ!ほんま?ああ〜そうか…。
おかえり!お母ちゃん!あっこんにちは。
こんにちは。
(女性)こんにちは。
ここが戦災者住宅やの?やっと抽選で当たったんやで。
ここやで。
ほら。
うまい!白米なんか久しぶりや。
好子に感謝やね。
フフ…。
お父ちゃんのミシン直んの?そうやなあ…。
やってみたけどどうやろうなあ。
ここでお店やったらええんや。
そうやなあ…。
(子供)ええにおいや…。
(子供)お米のご飯炊いてるみたいや。
(子供)お米のご飯食べたいなあ。
(母親)やめなさい!
(母親)うちはお米なんか買われへんやろ!
(子供)もうお腹すいた…。
(子供)お腹すいた…。
(母親)辛抱や!我慢しなさい!何するんや?一度あげたらくせになるで。
それが愛やと言うつもりか?好子がせっかく持ってきてくれたんや!少ししかないんや!よそにくれてる場合か!「与うるは受くるより幸いなり」。
使徒行伝第20章の35節や。
きっと喜んでもらえるわ。
お父ちゃんはどう思うんや?うん…。
どう思うんや?そうやなあ…。
そうやなあってどういう事や?
(母親)いいや〜!そんなつもりじゃなかったんですよ!どうぞ。
(母親)いや〜すんません!ほんますいません!ほらあんたたちもはよ来てあいさつして!ありがとうやろ?
(子供たち)ありがとう。
いいえ。
(母親)よかったなあ。
あーっ!ちょっと待ち。
三宮の西村さんがお米を分けてくれるそうやから明日一緒にもらいに行かへんか?な?
(喧噪)安いで安いで!アメリカ兵は陽気やな。
(喧噪)相変わらずべっぴんさんやのう。
うまい事言うてほんま!お金あんの?もう〜!あるわ!
(クラクション)
(柴田)おっ!なんや?
(柴田)アメリカさん大したもんや。
(吉村)えらいもんやなジープや。
歩いてばーっかりの日本軍とえらい違いやなこれ。
ヘッローヘッロー!ヘッロー!あかんあかん。
こんな下手…下手くそな英語では通じひんがな。
ヘローウ!ハウドゥユードゥ?おお!こっち見よったがな!わしの英語が通じてるがな!ちょっと大学出た思うて偉そうに…ほんまに…!表出よか?もう出てるけどね。
(拍手と歓声)
(共産党政治家)ところが今の政府それに対しなんら対策を講じない。
一体このような無為無策の政府を野放しにしてよいのでありましょうか!
(一同)そうだー!!
(拍手)この荒れ果てた…。
教官殿。
何をされとるんですか?
(共産党政治家)誰がやったんか!軍閥財閥がやったんじゃありませんか?
(一同)そうだー!!やあ妹尾君…。
教官殿なんてやめてください。
共産主義に転向されたんですか?これからは民主主義の時代ですから。
私は実家の質屋に戻りまして屋台で質流れ品を並べてます。
そんならみんなに質に入れるなら田森質店へとでも言うときましょか?ぜひお願いします。
(共産党政治家)今こそ立ち上がろうではありませんか!
(拍手と歓声)今こそ団結の時であります!
(拍手と歓声)ワカメやで。
ワカメ?昔海に潜った時に見たんや。
ぎょうさんのワカメが潮の流れに任せて右に左にゆらゆら揺れとった。
あれとおんなじや!みんななんにも知らんと戦争しとったんや。
今になってどないしたらええんか戸惑っとんやろ…。
なんであいつらの肩を持つんや!あいつらはみんな大日本帝国万歳!って叫んでた奴らや!
(聴衆の拍手と歓声)ほら炊けたよ。
(物音)どうしました?なんでもええから食いもんを…。
食いもん…。
(咳込み)ちょっと…待っててくださいね。
(咳込み)またそんな事する!あの人はあんたよりお腹をすかせてる。
ちょっとだけ分けてあげよう?腹減ってる人を助けてたらきりがないで!隣も見てみい!もうくれるもんやと思うてんで!どないするんや!これからずっとあげ続けるんか!私は田舎でずっとお米食べてきたから私の分お兄ちゃんに食べさしてあげる。
好子の分まで食べとうない!僕はそんな事を言うてるんやないんや!
(戸の開閉音)なんでお母ちゃんを止めんのや。
これをどう思うてるんや!なんで黙ってるんや!前みたいに父親らしい事言うてくれよ!お父ちゃんはいつも正しかったやないか。
間違ってたのは他のみんなや!そやのに…!みんなええようによろしくやってるわ!お父ちゃん!!なんか言うてくれよ!お兄ちゃんなんか死んでしまえ!うわああ〜!ああ〜っ!
(好子の泣き声)どないしたん?
(好子の泣き声)あんた…!
(好子の泣き声)もう待てんのや…。

(書く音)うっ…。
くっ…!うっ!ううっ…!
(機関車の走行音)
(汽笛)
(走行音)
(汽笛)うううう…!うううっ…!うううう〜っ…!
(喧噪)はい。
サンキュー。
はいはい。
おお妹尾やないか!ひどい顔やな。
ちゃんと食べてるか?米兵相手に商売ですか?ああ。
僕は時計屋やからな。
これまだ…動くやろか?とにかく錆をきれいにして油をさしてみる事や。
1時間近うかかるけどよろしい?
(客)あんじょう頼んます。
はい。
(喧噪)ちょっとここを押さえてくれるか?ベルトの材料が見つかったんや。
お父ちゃん…堪忍…してや…。
僕のほうこそ堪忍や。
僕も…弱い人間や。
すっかり参ってしもうてた。
なんでこんな事になったんか…。
自分に出来る事はなかったんか…。
これからどうすればええんか…。
でも…もう終わりや。
くよくよするのは…終わりや。
なあ?また…初めっからやり直しや。
あんたは…これからどうするつもりや?一人でここを出てやってみたい。
お父ちゃんが洋服屋になろうと思うて一人で広島から神戸に出てきたのも15の時やった…。
あんたももう…独り立ちしてもええ歳や。
な?ええか?これからこの国を生き返らすんはあんたらやで。
自分の目で見て耳で聞いて…信じるんは…自分やで。
ええな?お父ちゃんも頑張る!うん。
ほないってきます〜。
気ぃつけてな。
は〜い。
「風が吹いたらまわしましょ」「それ1回2回3回4回5回6回7回8回」ありがとう。
フフ…おおきに。
(拍手)「風の中の羽のように」「いつも変わる女心」もうやめ!日暮れる!はい!そやけどお前ほんまに学校卒業出来るんか?わかりません。
けど卒業出来んかったら学校辞めますわ。
ふうん…。
まあそん時はうちに来るか?雇ってくれるんですか?うちは絵描きが作った看板屋やからなあ。
まだ油絵なんか売れんけんど復興したら絶対売れるようになるで。
あの…この鳥なんちゅう鳥ですか?知らんと描いとったんか?フェニックス言うんや。
フェニックス?焼け死んでも必ず生き返る鳥。
そやから「不死鳥」言うんや。
不死鳥か…。
ふう〜ん…。
それはいいですね!うん…!いいですよ!
プレゼントのお知らせです
山田洋次監督松たか子主演せつなくもミステリアスな物語『小さいおうち』のDVDを30名様に
さらに藤原竜也主演騙し合いの一発逆転劇『サンブンノイチ』のDVDを30名様に
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2014/08/17(日) 21:00〜23:19
ABCテレビ1
日曜洋画劇場 特別企画「少年H」[デ][字]

テレビ初放送!「少年H」。水谷豊・伊藤蘭主演、豪華キャストで贈る感動作。今だからこそ見たい!激動の時代を愛と信念で生き抜いた4人の家族の物語。

詳細情報
◇番組内容
昭和初期の神戸。胸に名前の頭文字「H」と刺繍されたセーターを着た少年・妹尾肇は、洋服の仕立屋を営む父・盛夫(水谷豊)とクリスチャンの母・敏子(伊藤蘭)、妹・好子の家族4人で平和な日々を送っていた。仕事柄、外国人との交流が多い盛夫は、自分の目で見て考えることの大切さをHに教えていく。そんな中、時代は急速に軍国化の道を突き進み、次第にHの家族や周囲の人々にもその影響が及び始める。
◇出演者
水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、原田泰造、佐々木蔵之介、國村隼、岸部一徳
◇原作
妹尾河童『少年H』(講談社文庫刊)
◇監督
降旗康男
◇脚本
古沢良太
◇音楽
池頼広
◇おしらせ
☆番組HP
 http://www.tv-asahi.co.jp/nichiyou/

ジャンル :
映画 – 邦画
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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