闇夜に浮かぶ赤。
触れればやけどしそうな絵です。
今日の「アートシーン」は奥深い赤に染まる美術館へとご案内します
広島県北部にある山あいの町三次市。
ここは戦後を代表するある日本画家のふるさとです
2003年に90歳で亡くなった奥田元宋。
誰よりも赤を探求した画家です
やはり赤が飛び込んできますね。
学生時代元宋に絵を見てもらった事があるという…
ああやっぱり赤が主張してきますよね。
元宋84歳の作…
本当にすごい。
すごい絵だと思います。
というのはこうやって見て頂いたら分かると思うけど「普通これ日本画って言わない」と言う人も出てくるぐらいもう本当に絵の具が粒子を…何て言うんでしょうザラザラした粒子を主張しながらものすごく強い説得力で訴えかけてきますよね。
これは絵の具盛り上げたんじゃなくて気持ちを塗り込んでったんだと思うんですよ。
「日本画ってこんなに強い絵が描けるんだぞこんなに人の魂を揺さぶる事ができるんだぞ」という事を命懸けで証明していった作品ですよ。
まるで燃えてる感じが私はある意味で言うとこれ先生の怒りみたいなもの感じるんですよ。
それが先生のこれだけのものすごいエネルギッシュな作品をほんとに高齢になられてもずっとお描きになっていたそこに私はとても感動するわけです。
魂を揺さぶる元宋の赤。
その境地にたどりつくまでには長い模索の歳月がありました
美術館にはその原点を物語る貴重なスケッチが残されています
若い頃から引かれていた自然の風景。
そこには元宋の特徴がよく表れているといいます。
輪郭線をほとんど引かずまるでパレットに絵の具を並べたようです
(村上)これは多分厳島神社を描かれた時の周辺の瀬戸内海の様子だと思いますがね。
夕日が沈むところでしょうかね。
夕日が沈む空と海を色のグラデーションだけで捉えようとしています。
線を大切にする日本画でありながら色で自然を描こうとしたのです
初期の頃の作品と言ってもいいのが…。
う〜んなるほどですね。
赤と出会う前の作品ですよね。
お若い頃のですよね。
昭和29年ですよね。
40代ぐらいの作品ですよね。
不思議だなと思ったんですけどもここに描かれたモチーフというのはあそこには家があって営みがありますよね。
でも人を描かないという事がすごい不思議に思ったんですけど。
人を描かなくても人の気配がこんなに出てるじゃないですか。
人々が大切に慈しみながら野菜を作ったりしているそういうものが全部手に取るように伝わってくるじゃないですか。
また人が入ってないからこそ逆に自分が人としてこの絵の中に入っていくというか。
美術って見えないものを見えるようにする事なんですよね。
だから見えるものを見えるように描くんじゃなくて見えないものを見えるようにするのがビジュアルアートなんですね。
子供たちがこの空を見たらほんとにこれから夏の始まりだって思うしこの海を見たら海の音まで聞こえてくる。
まだ何となくひんやり冷たいんですよ海がね。
そんな温度感も伝わってくる。
吹く風もあるしそして日ざしがあって汗もかく。
しかし木陰にちょっと座って1杯水筒に入った水でも飲んだらおいしいだろうなというそういう生きてる実感も感じる。
自然が与えてくれるすばらしさもまた同時にその怖さもそして厳しさもその優しさもそういうもの全てを私たちはその中で生きているんだという事がこの絵が私たちに伝えたい事なんだと私は思ってとても感動的なんですよ。
元宋が赤に目覚めたのは60歳を過ぎた頃。
妻を突然の病で亡くし旅に出た時の事
秋の渓谷で紅葉が強風に舞い上がる光景に心を奪われました。
元宋の言葉です
次はどんな赤と出会えるのか…。
うわ〜!すごいですね。
う〜ん…。
これは…。
美術館の最も大切な部屋を飾る対の大作。
1枚の横幅が6mに及びます。
赤に染まるこちらの作品が立山連峰を描いた…
75歳大作を描けるのは80歳までと語っていた元宋が全勢力を傾けた最高傑作です
この2つの対の作品は何か崇高なものを描こうとしているように見えますね。
ある神秘感だと思うんですね。
その神秘のベールに手がかかったという作品なんだと思うんですよ。
多分白の作品で…これはこれで大変見事な作品なんだけどもう一つ何かやりたくてでもその何かというのはこの赤い色を見て何かを描きたいと思ったと思うんですよ。
単にきれいに錦鯉とか芸子さんを描くんじゃなくてもっと力強くてもっと心の奥底に眠る叫びのようなものや根源的な神秘のようなものそれを多分確信された瞬間が私はこの絵のような気がするんです。
でないと山までここまで赤く染まるという事今まで日本画が触れた事のないある深層深いところにドアノブに手がかかって開いたそういうものなんじゃないかなと思うんですよね。
赤い色を選択した事によって普通客観的に見るとその表現が狭まっていくっていうふうにも見えるんですけども。
そうじゃないんですよね。
赤が先生を選択したんですよ。
私を使えと。
先生と赤との死闘というかね。
一人の画家が画面に魂を吸い取られていった瞬間だと思います。
こちらが「輪廻の谿」という題名が付いた作品で。
最晩年の作品です。
赤に染まる2本の老木。
紅葉に覆われた谷。
その向こうに名峰大山がそびえ立つ「輪廻の谿」。
実はスケッチの段階では手前の老木は描かれていませんでした
何でここにこういう老木を入れるのかなという事なんですよ。
なるほど。
枝があって枝が全部右上を向いてるじゃないですか。
もっと光をじゃないけど…。
そうですね向かってってますね。
太陽に向かってこうやって…。
決して近くないですもんね。
ゴールがまだ遠くにある。
全然距離は埋まってない。
むしろ遠のいてますよ。
だってあの月でも何でも今まで先生がお描きになった中で一番小さいじゃないですか。
つまり追えば追うほど遠のいてくと。
距離は縮まらないどころかどんどん距離が空いていくと。
焦りではないと思うんですね。
この絵そんなに焦りが出てるとは思わない。
そうじゃなくてある達観ですかね。
だから「輪廻」なんですかね。
一つは自分もまた生まれ変わっても絵を描いてくんだって意識もあったのかもしれませんしもう一つはここの夕日に染まっているこの森は春になって花が咲いて夏になって緑秋になって冬になってそしてまた春が来るというず〜っと繰り返していくという事を永遠に続けていくと。
その中に自分はほんの一瞬の存在だったけれども自分はこのとおりもう枯れ木のようになってしまって自分は命を終えるけれども自分が追い求めた芸術は長しされど人生は短しと。
これは先生の人生の最後の光の当たるドラマチックな一つのクライマックスじゃないでしょうか。
先週放送の「アートシーン」で一部誤りがありましたので訂正します
新発見の長澤蘆雪の絵巻物など生き物たちのさまざまな絵を展示しています。
その中に伊藤若冲の作品鳥や獣たちをカラフルに描いた「樹花鳥獣図屏風」があります。
先週の番組でこの作品を別の作品の画像と間違って放送しました。
正しくはこの画像です。
おわびして訂正いたします。
2014/08/17(日) 20:45〜21:00
NHKEテレ1大阪
日曜美術館 アートシーン ▽特別編 奥田元宋・小由女美術館[字]
今回はを広島県にある「奥田元宋・小由女美術館」探訪。奥深く強烈な“赤”で知られる日本画家・奥田元宋(げんそう)。傑作の数々を千住博さんとともに堪能する。
詳細情報
番組内容
今回は“赤に染まる”美術館を探訪する。広島県にある「奥田元宋・小由女美術館」。館内を飾るのは、日本画家・奥田元宋(げんそう)の傑作の数々。その特徴は何と言っても“赤”。月明かりを浴びる山々を始め、雄大な自然の風景が、「元宋の赤」と呼ばれた、強烈で奥深い“赤”で描かれている。現代の日本を代表する画家・千住博さんとともに、元宋の世界を体感する。
出演者
【司会】井浦新,伊東敏恵
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
情報/ワイドショー – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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