勅を奉じ…。
天正13年7月秀吉はついに関白となり9月には姓を豊臣と改めた。
同じ年官兵衛の父職隆がこの世を去った。
(官兵衛)父上。
間もなくにございまする。
戦なき世はもはや夢物語ではございませぬ。
また大坂へ行かねばならぬ。
(光)はい。
長政。
留守を頼むぞ。
(長政)はっ。
お任せ下さい。
(テーマ音楽)
(蜂須賀)ハハハ。
はなたれ小僧どもがいっぱしの大名面をしとるわい。
(小一郎)ハハハ。
皆兄者に官位を与えられたばかり。
一層張り切るのだぞ。
(一同)はっ。
関白となった秀吉は子飼いの武将たちに官位を与え側近として用いていた。
(秀吉)面を上げよ。
わしは関白として天下を静謐にする事を帝にお約束した。
これからは私利私欲に基づく争いはこの豊臣秀吉が許さん。
各地の大名に争いをやめる事を命ずる。
(一同)はっ。
(蜂須賀)いまだ殿下に従わぬは東の徳川北条九州薩摩の島津。
徳川北条は手を結び守りを固めておる。
島津は九州をおのが手に収めんと豊後の大友を攻め滅ぼす勢い。
(三成)もし従わねば?その時はこのわしが成敗致す。
(一同)はっ!
(善助)次は殿下は九州を攻めるとの噂じゃ。
(太兵衛)先鋒は我ら黒田に相違あるまい。
またただ働きでは…。
(善助)何を言う太兵衛。
(太兵衛)蜂須賀様は阿波小早川様は伊予。
安国寺恵瓊殿までが所領を与えられ大名になったというのに四国平定を先導した我が黒田には何の恩賞もない。
おかしいではありませぬか。
(善助)殿は昨年4万石に加増されたばかり。
恩賞など欲しくないとお断りになったのじゃ。
(九郎右衛門)それだけかな…。
え?殿の事を快く思わぬ者が殿下のおそばにおるのではないのか?何?めったな事を言うではない九郎右衛門。
(秀吉)家康はまだ上洛にうんと言わんか?
(三成)はい。
再三使者を立てておりますが人を食ったような返答ばかり…。
回想
(家康)都の名所は全て見た。
今更行きたいとも思わぬ。
(使者)されど…。
憤慨して攻めてくるというのなら美濃辺りで出迎え一戦交えるまで。
フン。
(三成)やはり攻めるべきでは?官兵衛の申すとおりもう家康とは戦わん。
戦わずして我が軍門に下らせる策を考えるんじゃ。
はっ。
不服か?いえ…。
政に関してはお主ほどの男はおらん。
じゃがいざ戦においては官兵衛の右に出る者はおらん。
あやつは常に先を見る。
このわしの考えを聞かずとも常に先を言い当てる。
そのさまは気味が悪いくらいじゃ。
それゆえ油断ならぬお方でございます。
(おね)お前様。
三成をかわいがるのもほどほどになされませ。
清正や正則の妬みが募るばかりでございます。
(秀吉)分かっておる。
少々よろしゅうございますか?話があります。
何じゃ?
(ため息)茶々殿の事でございます。
何故あれほど執心なさるのか?ほかの側室たちが妬んでおります。
私とてお前様のあまりの熱の上げように少々やけるほどです。
ハハハハハハハハハ!おね!お主にもまだ悋気が残っておったか!アッハハハハハハハハ!笑い事ではありませぬ。
関白にまで上り詰めたこのわしにはもはやこの手に入らぬものなどない。
じゃが…茶々だけは…茶々だけはこのわしに見向きもせぬ。
そこがたまらんのじゃ。
逃げれば逃げるほど追いかけたくなるというものじゃ。
ハハハハハハハ。
(おね)お前様!鼻の下を伸ばしてる場合ですか!大事な事を忘れてはおりませぬか?
(おね)何よりも大事なのは跡継ぎを作る事ではありませぬか?
(秀吉)分かっておる。
我が子に跡を継がせたいと仰せだったはず。
そのための側室です。
一人のおなごばかりに執心してはなりませぬ。
(ため息)私が産んでいればこんな苦労はなかった…。
おねそれを言うな。
たとえ子はなくともお主が天下一の女房であるという事には変わりはない。
は〜お前様…。
茶々…。
お前様!茶々殿退屈ですか?何じゃ面白くないか?この舞はな天下一の名高き舞じゃぞ。
(茶々)眠くなりましたゆえご無礼致します。
(茶々)もしやそなたお伽衆の?
(道薫)道薫と申します。
荒木村重…。
その名はとうに捨てておりまする。
全く頑固なおなごじゃ。
何をやってもにこりともせん。
手を尽くして用意した能や舞もつまらぬと言う。
(道薫)それはお困りでございますな。
(秀吉)じゃがなたった一つだけ興味を示したものがある。
(道薫)何でございましょう?貴様じゃ道薫。
(三成)有岡城の話を聞きたいとの仰せにございます。
お主にとって思い出したくない事もあろうが。
ハハハハハハハハハハハハ。
どうじゃ話してやってくれぬか?それがしはお伽衆でございます。
殿下のご所望とあらば何なりと。
そうか。
頼んだぞ道薫。
(キリシタンの歌声)
(右近)官兵衛殿。
立派な南蛮寺が出来ましたな。
(右近)はい。
おかげさまで布教のお許しも頂き信徒も増えております。
この歌…だし様が…。
(右近)「InParadisum」という神デウスをたたえる歌でござりまする。
有岡城の土牢でよく耳にしました。
だし様は常に村重様や周りの方の心安らかならん事を祈り続けておりました。
もう6年になりますか…。
(右近)はい…。
(泣き声)あの時有岡から逃げ出しただし様のお子はどうなったのか。
生きておれば確か8つ…。
九郎右衛門。
はっ。
九州に放ったお主の手の者に島津のほかに不審な動きはないか警戒を強めるよう伝えよ。
かしこまりました。
見ぬ顔だ。
新たに雇ったのか?はっ。
女房子どもを炭小屋に住まわせております。
新吉!はっ。
殿にご挨拶じゃ。
はっ。
新吉と申します。
うむ。
しかと励め。
はっ。
あの男どこかで見たような…。
(さと)お帰りなさいませ。
(新吉)うむ。
(新吉)又兵衛いつまでやっておる。
食事だ。
有岡城の事を?茶々様のご所望で…。
面白いお話をするのがそれがしの役目でございます。
あれ以来それがしの時は止まったまま…。
官兵衛殿そなたに見届けて頂きたい。
(九郎右衛門)殿。
どうした?連れてまいれ。
はっ。
道薫殿あなたにお目通りを願っている者がおりまする。
それがしに?
(九郎右衛門)こちらじゃ。
殿…。
鉄砲組谷崎新吉でございます!
(九郎右衛門)この者らは有岡城で荒木様にお仕えしていた者にございます。
(新吉)このさとは奥方だし様の侍女でございました。
(さと)お久しゅうございます!
(新吉)ご挨拶せよ又兵衛。
(又兵衛)はい。
初めてお目にかかります。
又兵衛にございます。
この子は荒木様とだし様のお子でございます。
(新吉)殿が関白殿下のお伽衆になられたとお聞きし勝手ながら黒田様のお屋敷で働いておればいつか殿にお会いできるのではないかと…。
殿!これをご覧下さい。
お見覚えがあるはず。
だし様がいつも持っていらしたキリシタンのお守りでございます。
父上…。
それがしに子などおらぬ。
ごめん。
(新吉)殿…。
(さと)殿!
(新吉)殿!
(雷鳴)
(右近)そうですか無事生きておいででしたか…。
しかし実の子を目の前にしても知らぬと…。
さような事を…。
だし様は右近殿の勧めでキリシタンになったとおっしゃっていた。
あの方は際限のない戦いに苦しむ村重様のお心を救いたいと考えていたのでございます。
それがデウスにおすがりするきっかけでございました。
有岡城の土牢に押し込められた私をいつも気遣って下さった。
だし様とてつらい事ばかりであったはずなのに…。
苦しい時ほど隣人を大切に思うのでござりまする。
デウスの御教えにございます。
(道薫)信長様に重用されるほどにうれしさと苦しさそして恐ろしさが体に宿っていました。
それからは敵を根絶やしにする事を何とも思わぬ信長様のやり方に嫌気がさしていったのです。
そうして謀反を起こしたのが今から7年前天正6年10月の事でございます。
官兵衛様を1年もの間牢に幽閉したのもそれがし。
足が悪くなられたのはそのせいでございます。
恨んでおるか?いいえ…。
(茶々)道薫。
伯父信長様は恐ろしいお方。
勝てると思ったのですか?
(道薫)勝てる見込みがなければ謀反など起こしたり致しませぬ。
しかし高山右近が裏切った事で我が謀に狂いが生じたのでございます。
殿下もうこの辺で…。
かような話を続けても意味がありませぬ。
そうじゃな。
道薫もうよい。
(茶々)聞きとうございます!妻や家臣を見捨て何故一人生き長らえているのかそれを聞きとうございます。
死にたくても死ねないのでございます。
それならばと開き直りました。
生き恥をさらして生きていくほかないと。
私にはもはや人の心はありませぬ。
私は乱世が生んだ化け物でございます。
化け物…。
(道薫)茶々様。
それがしもあなた様に伺いとうございます。
父母を殺されながら何故仇のもとで生き長らえておられるのです?控えよ!
(道薫)あなた様も私と同じ化け物でございます。
ここには化け物しかおらぬ。
道薫!
(道薫)天下惣無事など絵空事にございます。
誰が天下を取ろうとこの乱世が終わる事などありませぬ。
貴様!どうぞこのような首でよければお討ち下され!えいっ!アハハハハハハハハハハハハハ!ハハハハ…。
望みがかないましたな道薫殿。
この男は死にたいのでございます。
されど自ら命を絶つ事はできぬ。
それゆえの悪口雑言。
(茶々)殺してはなりませぬ!
(茶々)生き恥をさらし生き続ける事こそこの男が受けねばならぬ報い。
こやつをどこぞへ閉じ込めておけ!
(三成)はっ。
(キリシタンの歌声)
(右近)官兵衛殿。
何故道薫殿をお救いになられた?道薫殿には生きてもらいたかった。
ここで死なせてはならぬ。
そう思っただけの事。
(右近)あなたはあの方の魂を救おうとなさったのです。
生きてこそいつかあの渇ききった心が潤いを取り戻す日が来る。
私はそう思います。
あなたはどうですか?官兵衛殿。
何故ここへ参られるのか…。
あなたの心は何を求めているのですか?門はいつでも開いております。
申し訳ございません。
よい。
続けよ。
はっ。
お〜うまいものだ。
見てもよいか?はい。
どれも大したものだ。
お沙汰が出たようで…。
所払いでございます。
大坂から出て二度と近づいてはならぬと…。
死ぬ事は許されませなんだ。
大坂を出ていく前に会って頂きたい者がおりまする。
善助。
(善助)はっ。
この子は尋常ならざる絵の名手。
長じて絵師になりたいらしい。
そうだな?はい。
又兵衛。
父上にお渡ししたいものがございます。
よく似ておる…。
だし…。
すまなかった…。
(利休)道薫。
堺にある庵で茶の湯三昧の日々を過ごすがよい。
(道薫)かたじけのうございます。
官兵衛殿。
いや官兵衛!わしはもう一度生きてみせる。
御身大切に。
又兵衛。
絵が好きならその道を究めるがよい。
はい。
では。
道薫こと荒木村重は翌年の天正14年堺でその生涯を閉じた。
その息子又兵衛は長じて岩佐又兵衛と名乗り後世に名を残す絵師となった。
右近殿…。
門は開いておりましょうか?アーメン。
(一同)アーメン。
今日からシメオンとお名乗りなさい。
シメオン…。
キリシタンに!?ええ。
高山右近様に誘われて…。
しかしキリシタンになったからといって何か格別変わった訳ではなく…。
あ〜南蛮寺に行かれるぐらいで殿はいつもどおりの殿でございます。
あ…。
(お福)何故キリシタンになど…。
お方様黒田家はどうなってしまうのでしょう?どうにもなりませぬ。
以前殿はおっしゃっていました。
有岡城に幽閉されていた時どこからかキリシタンの歌が聞こえてきて生きる力を得たと。
高山右近様は立派なお方と聞いています。
そのような方のお導きでキリシタンになられたのなら案ずるには及びませぬ。
はあ…。
四国攻めに対する恩賞のお礼言上のため小早川隆景が安国寺恵瓊を伴い大坂城を訪れた。
(秀吉)ハハハハハハハ。
(隆景)これは見事な!
(恵瓊)は〜!かようなものは見た事がありませぬな。
さすが関白殿下!
(三成)この黄金の茶室は組み立て式になっております。
組み立て!?
(秀吉)さよう!どこへでも運べるんじゃ。
ハハハハ…。
利休のわび茶もよいがわしはこのような派手なものが大好きじゃ!ハハハハハハ…。
もはや殿下のご威光は亡き信長公をはるかにしのいでおいでです。
ありがたきお言葉。
フフフフフ。
さあ茶をたてますゆえ中へ。
島津は何と?天下惣無事。
戦はやめよという関白たるわしの命に従う気はないらしい。
では…。
九州攻めの支度をせよ。
はっ。
殿下のご出陣に備え地ならしをしておきまする。
(秀吉)官兵衛。
お主には苦労ばかりかけるのう。
何を仰せでございますか。
それがしは務めを果たしているまで。
殿下は黒田様の事を案じているのでございます。
四国平定の折には恩賞も与えず不満があるのではないか?めっそうもない。
それがしの方からご辞退申し上げたはず。
(三成)今度こそ恩賞を頂けますぞ。
九州攻めが終わった暁には黒田様に満足頂けるような大きな領地を…。
ありがたき幸せ。
されどそれがしは領地が欲しくて働いている訳ではございませぬ。
領地が要らぬと?ならば官兵衛。
お主は何のために働いておるんじゃ?殿下のもと天下が静まる事のみを望んでおりまする。
無欲な男ほど怖いものはないのう。
九州攻めを前に官兵衛と秀吉の間に綻びが生じようとしていた。
吉川様のそのお命官兵衛に下され!くれると言うならもらっておく。
小六!お主どんな手を使ったのだ?侍女かと思って…。
侍女!?殿下も惹かれておられるのじゃ。
何!ならばどうすれば?勝負はこれからだ。
もうすぐ黒田官兵衛が来る。
あの男が必ずなんとかしてくれる。
天正11年秀吉は大坂城築城に取りかかり官兵衛はその総奉行に任命されます
秀吉から官兵衛へ宛てた書状には石材の確保や運搬の注意などが細かく示されています
完成した大坂城は天下無双の名城とたたえられるほど絢爛豪華なものでした
城の北西に位置する天満。
この地に黒田家の屋敷があったと伝わります
官兵衛がキリスト教に入信しシメオンの名を持ったのもこのころだったといわれています
人々を驚嘆させた大坂城。
天下統一は目前に迫っていました
2014/08/17(日) 20:00〜20:45
NHK総合1・神戸
軍師官兵衛(33)「傷だらけの魂」[解][字][デ]
秀吉(竹中直人)のおとぎ衆となった道薫(田中哲司)は昔語りの席で茶々(二階堂ふみ)や秀吉を「化け物」と罵倒し死のうとするが、官兵衛(岡田准一)の機転で救われる。
詳細情報
番組内容
秀吉(竹中直人)は関白となり、更に姓を豊臣に改める。秀吉のお伽衆、道薫(田中哲司)と亡き妻「だし」との幼い息子を見つけた官兵衛(岡田准一)は親子を引き合わせるが道薫は逃げる。茶々(二階堂ふみ)の望みで城を捨て逃げた過去の話をするよう秀吉に命じられた道薫は居合わせたすべての者を「化け物」と罵り、殺されることを望むが官兵衛に止められる。やがて、官兵衛は右近(生田斗真)の勧めでキリシタンに興味を示す。
出演者
【出演】岡田准一,中谷美紀,寺尾聰,松坂桃李,鶴見辰吾,生田斗真,田中哲司,二階堂ふみ,濱田岳,速水もこみち,高橋一生,田中圭,山路和弘,阿知波悟美,ピエール瀧,嘉島典俊,近江谷太朗,阿部進之介ほか
原作・脚本
【作】前川洋一
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – 時代劇
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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