(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(五街道雲助)一席おつきあいを願っておきます。
私で最後でございます。
もうしばらくのご辛抱を願っておきます。
このぐらいの辛抱ができないようでは人間どこへ行っても出世ができないという。
(笑い)もっとも今帰ろうと思ってもドアにはみんな鍵がかかっております。
(笑い)私の噺が終わると開くという按配でございます。
もうしばらくおつきあいを願っておきます。
近頃は大変にお遊び場所という所が増えて参りました。
健全なものから不健全なものまでいろいろある訳でございます。
その中で「何を遊ぼうかな」というのがまぁただいまの悩みみたいなもの。
そこへいくてぇと昔は遊びというものは少なかったそうですね。
ただ「遊びに行く」ってぇとこれはもう女郎買いの事だったそうでございます。
いかに遊びが少なかったかこれでよく分かりますけれども。
「全くな〜あんまり遊びが過ぎるからちょいと小言を言って二階に放り込めりゃふてくされて下へも下りてこやしない。
死んだ婆さんも強情だったがあれもまた強情だい」。
「おい孝太郎孝太郎」。
「ハ〜ア〜ハイハイ」。
「なんてぇ返事をしやがる。
お前の声かい?どうだい?たまには下に下りてきてお父っつぁんと話でもしないかい?」。
「冗談言っちゃいけない。
お父っつぁん勘弁して下さいよもう眠くて眠くてしょうがないんですから」。
「何を言ってやがる。
昼間っからゴロゴロしていて何眠い事があるもんかい全く。
じゃあどうだ?たまには町内のお湯屋でも行ってさっぱりとしてそれから寝たらどうだい?」。
「えっ?お湯屋に行ってもよろしいんでごわすか?」。
「急に言葉がはっきりしやがったな。
俺は行っちゃいけねえとは言わねえ」。
「左様でごわすか。
へえじゃあお父っつぁんちょっと行って…」。
「あ〜待ちな待ちな。
うん。
お前はな一旦表へ飛び出すってぇと角兵衛獅子の食もたれじゃねえが帰りゃしねえ。
まぁ時計を見な。
男が町内のお湯屋へ行って体を洗って帰ってくる。
30分もありゃ十分だ。
30分のうちに帰ってくれば良し。
もし帰らない事があったら今度こそ間違いなく勘当という事にする。
それでも構わないかい?」。
「ええ。
よろしゅうございますエヘヘ。
それじゃお父っつぁんエヘッさよなら」。
「何だい?そのさよならてぇなぁ」。
「ハハハいやありがてえねやっと表へ出られたよ。
ええ?半月ぶりぐらいだね。
いけませんよ。
あんな二階の奥のほうに閉じ籠もってちゃね体にかびが生えちまう。
ね?やっぱり表はいいねス〜ッとこの風に当たるだけでも脳が洗われるような心持ちだね。
ええ?しかし親父もあれでいろいろ気遣ってくれてんだいね〜。
俺がふてくされて下にも下りていかなかったらな『どうだたまにはお湯屋へ行ってさっぱりとして寝たらどうだ?』アハッなんて事言ってくれてんだよ気遣ってくれてんだよな。
たまにはこっちも親父に気を遣ってやんねえといけねえな。
何してやろうかね?そうだここは今夜はひとつ早く帰るてぇやつだね。
ええ?30分もしないうちに帰ったら親父喜ぶだろうね。
『何だ伜か。
もう帰ってきたのか』アハッなんてんでな入れ歯フガフガさせて喜ぶてぇ。
そうだ今夜はひとつ早く帰ろう。
とは思うんだいつもねエヘヘ。
ところがこれが駄目なんだよ。
表へ出るてぇとな足が家へ向かなくなっちまうんだ。
里心がつくてぇのはあるけどもね私ゃ外心がついちゃうんだね。
もっとも家へ帰ったって面白くないよ。
親父と奉公人がいるだけだからね。
親父と話をしたって皺と話をしてるようなもんだからね面白くも何ともない。
そこへいくてぇと吉原の花魁はいいねええ?白粉の匂いをプ〜ンとさせといてね俺の膝の上へ手載っけてね『もし若旦那え〜』なんてやつだアハハハ。
あっ行きたくなっちゃったな〜。
まずいねどうも。
今までそのつもりは無かったんだけどもね。
といって30分はきついや源公の人力車が速いったってね30分じゃ行って帰ってくるのが関の山ですよね〜。
向こう着いて『花魁。
来たよ』『まあ〜若旦那かい』『さよなら〜』。
それじゃ面白くはないよね。
せめて猪口のやり取りぐらいしたいじゃないかね〜。
そして勘当はいけません勘当はね〜。
もうしばらく親父の脛をかじっていたいからな〜。
といって花魁には会いたいしね弱ったねどうも。
思いは二つ身は一つときたね」。
「おやこれは異な所でお目にかかりましたな一瞥以来で」。
「何だ竹庵か」。
「何だ竹庵かは恐れ入りましたな。
何だかんだ
(神田)のお玉が池というやつで。
だいぶ沈思黙考のご様子でげしたな。
手前が中身を当ててご覧に入れましょうかな?『吉原へ行って花魁に会いたい』。
なんと図星でげしょ?」。
「これは驚いたね。
近頃人相を見るかい?」。
「伺っております。
大旦那様のご勘気を蒙って蟄居閉門の身とやら。
お気の毒さまでございますな。
ええ。
よく今日は出られましたな?うんお湯屋へ?ハ〜ハ〜ハ〜。
30分?ハハハそれはまたお気の毒な事でげすな」。
「いや笑い事じゃねえんだよどうしても花魁に会いたくなっちゃったんだけどもよ何かいい手だては無いかい?」。
「ウ〜ン左様しからば身代わりの方などはいかがでござるかな?」。
「何だい?その身代わりの方ってのは」。
「若旦那の身代わりを二階に置いといて若旦那が帰ってきたらそこで入れ代わるという。
いかがでげす?」。
「そりゃいいけどもよ親父にすぐ見つかっちまったら何にもならねえぜ」。
「ところが若旦那の声色をよく遣う者がありましてなこれを二階に身代わりに置いておけばよろしゅうござろう?」。
「あ〜なるほど。
誰だい?その声色遣うってなぁ」。
「それは駕篭抜けの方と違っていささかお高くなりましてな伝授料が5円となりますがよろしゅうござるかな?」。
「足元つけ込みやがってまぁ。
分かったぃあとで払うから。
誰だぃ?」。
「さればな貸本屋の善公なる者あれが若旦那の声色をよく遣いましてななにしろ大旦那が間違えたというぐらいもんでな」。
「ヘエ〜そうかい。
あ〜これはいい事聞いた。
うん。
じゃあ早速行ってくらぁ」。
「5円を忘れなきようにな」。
「あああとで払ってやるよ。
あ〜なるほどね。
そういやぁ吉原のおばさんがそんな事言ってたねええ?『善さんがあなたの声色遣うからお気を付けなすったほうがようございますよ』なんか言ってやがったがな。
それがあべこべに役に立とうとは思わなかったねどうも。
エ〜トこの路地を入った奥の長屋だ。
汚え長屋だねどうも。
奥から2軒目左。
ここだ。
いるか?」。
(戸を叩く音のまね)「お〜い善公」。
(戸を叩く音のまね)「いるか〜い?善公」。
「え〜善さんただいまお留守でございますよ」。
「お留守だって声が聞こえるじゃねえ」。
「声が聞こえてもお留守でございます」。
「何を言ってやがる。
アハハ駄目だ駄目だい。
長火鉢の向こうでもって鼻毛抜いてるじゃねえか」。
「あらっ見てやがる。
あの破れだねどうも。
何か貼っときゃよかったな〜。
どうも相すみません大家さんでございましょう。
雨露をしのぐという店賃をためて誠に申し訳ないとは思ってるんでございますがなにしろ手元不如意でございますんでこの月の終いにはド〜ンとお銭が入る事になっておりますんでそうしたらいの一番にお届けに上がりますんでええ。
そういう訳で今日のところはどうぞご勘弁を願っておきます」。
「何を言ってやがる大家じゃねえ」。
「米屋さん?ただいま言ったような訳でございますんでどうかご容赦を願っておきます」。
「米屋じゃねえやい」。
「魚屋さん?」。
「魚屋じゃねえやい」。
「八百屋さん?」。
「八百屋じゃねえやい」。
「炭屋さん?」。
「炭屋じゃねえやい」。
「蕎麦屋さん」。
「方々に借金があるんだねこの野郎。
そうじゃねえや善公俺だ俺だい」。
「あなたさっきから気やすいよ。
人の事善公善公って。
ね〜。
私のことを善公と呼びつけにできるのはここの大家さんか若旦那ぐらい…。
あっ若旦那でございますか?」。
「そうだよ。
誰だと思ってるの?」。
「どうも相すみません。
ええ。
ここのところ人の声を聞くてぇと借金取りに聞こえてしょうがないんでございます。
ええ戸に閉まりはしてございません。
でもいきなり開けようったってそうたやすく開く戸じゃございません手前の言うとおりにやって頂きます。
よろしゅうございますか?まず左の上のほうを見て頂きますとへっこみがございますそれを拳骨3つばかりボンボンボンと殴って頂く。
殴った?はい。
じゃあ今度右の下のほうを見るってぇと破れがございましょ?それを足でもってボ〜ンと1つ蹴っとばして頂く。
蹴っとばした?はい。
じゃあ戸を持ちましたらば右を向こうに押すような左を手前に引くようなつもりでウンと上に持ち上げといてズ〜ッと半分行ったところで下にト〜ンと下ろしてザア〜ッと。
アハハ開いたでしょ?」。
「箱根のからくり箱みてえな家だねおい」。
「まぁお上がり。
座布団代わりに新聞紙を」。
「要らねえやそんな物。
久しぶりだな」。
「久しぶりたってね若旦那はご謹慎ってぇ事は私も知ってたんですよ。
見舞いに行こうと思ったけど行けないよ。
お宅の大旦那に嫌われてるから。
『家の伜がこんなになったのはみんなお前さんのせいですよ』かなんか言われてね。
見舞いにも上がりませんでいえ。
今日はよく出られましたな。
へえへえ。
お湯屋へあ〜なるほど」。
「ところがよ表へ出たらどうしても会いたくなっちゃってよ」。
「うれしいなどうも。
私も若旦那に会いたいな〜と思ってたの」。
「何を言ってやがる。
お前じゃねえやい吉原の花魁によ」。
「おっなるほど半月ぶりでございますからなエヘヘ。
ええよろしゅうがすええそれじゃあ手前がお供をして」。
「ウ〜ン供はいいんだよ行くのは俺行かないのはお前」。
「あっそうですか。
じゃあ何だって私の所へ来たんでございますか?」。
「実はよちょいとお前に頼みがあって来たんだけどね」。
「臭い臭い水の臭いがする水くさいてんだよ若旦那。
私が今こうやって貸本屋やってられるのは誰のおかげだと思って若旦那あなたのおかげじゃありませんかね〜。
何でも言っておくんなさいまし。
もう若旦那のためだったら命だって要らねえんでございますから」。
「うれしい事言ってくれるねおい。
ちょいと小耳に挟んだんだけどよお前俺の声色がうめえってね」。
「何を若旦那今更本当に。
うまいなんてぇもんじゃないね?大旦那さんが間違えたんだ」。
「そうだってね。
どこで?」。
「ほらほら向島の植半さんの二階お花見の会があって若旦那は用事で来られないてぇ時だ。
うん。
さんざ余興が出ちゃってだんだん座が白け始めた。
そこでもって私が若旦那の声色を遣うてぇとこれがワンワンとうけたんだ。
ああ。
ところが隣座敷に来てたんだね大旦那がいきなり唐紙をガラリと開けるてぇと『伜。
用事を頼んどいたのにこんな所で何をしてんだ』っていう大変な見幕。
ね〜。
見るてぇと若旦那がいないでしょで私がこういう形をしてたエヘヘ。
ばつの悪そうな顔してましたよ『ばかな事しなさんな』かなんか言ってね。
あれからこっちまたしくじっちゃったんだよ。
ええ。
でも実のお父っつぁんが間違えたてんだから大層なもんでござんしょう?」。
「そうかい。
そこを見込んで頼みがある。
うん。
実は親父から時間を30分しかもらってねえんだ。
ええ?30分じゃ源公の車が速えったって行って帰ってくるのが関の山だよ。
な〜。
だからお前に二階でもって俺の身代わりをしてもらってよ親父に何か聞かれたらその得意の声色で答えてもらってで俺が遊んで帰ってきたらそこで入れ代わるってんだ。
どうだい?」。
「ハハハハ駄目です。
そりゃいけねえよ若旦那」。
「どうして?」。
「どうしてったってほらうまくいきゃようござんすよ。
もし見つかってごらんなさいよただでさえ私ゃ大旦那に嫌われてんですよね?『何てぇ事をするんだ』ってんで胸ぐらなんか掴まれてねまたお宅のお父っつぁんってなぁ腕っぷしが強いんだよ。
以前柔術をやってたてんね?バ〜ンてんで庭へ投げられてズシ〜ンと落ちないよ。
お宅は池があるから池の中へドブ〜ンとはまっちまってこの陽気だよ私ゃ風邪ひいちゃいます。
ええ。
あ〜そりゃいけません」。
「そんな事言わないでよどうしても会いてえんだからさ」。
「あ〜駄目ですいけません」。
「今俺のためなら命も要らねえってそう言ったじゃねえ」。
「命は要らねえでも風邪はひきたくない」。
(笑い)「な〜そんな事言わねえでよ。
ほらいつもただ頼まねえじゃねえかおうお前の欲しがってたあの縞の羽織があったろ?あれに3円つけてどうだい?」。
「やりましょう」。
(笑い)「早いな」。
「早いったってね若旦那のためだったら命だって要らねえ」。
「調子がいいや。
じゃあ早速頼まぁ」。
「頼むはいいけどもね若旦那大丈夫だろうね?何か変な事聞かれたりしねえだろうね?」。
「大丈夫だよいいかげんに誤魔化して答えときゃそれでいいんだい。
おっそうでねえやそりゃお前いい事聞いたよ。
うん。
実は俺はこの間親父の代わりに運座行ったんだよいや何か俳句に凝っててよその会だってよ。
その会に俺は代わりに行ってそのあとすぐ謹慎を喰らっちゃったからまだその話をしてねえんだ。
事によるてぇとその事を聞くかもしれねえぜ」。
「いけないよ若旦那そういう事端に言っといてくれなくちゃ。
何なんざんす?」。
「どうって事はねえんだい。
『抜きは出たか?』と聞かれたら『抜きは出ました』と言う。
で『巻頭の句は?』と聞かれたら『親の恩夜降る雪に音もせん』。
で『巻軸の句は?』と聞かれたら『大原女も今朝新玉の裾長し』とそう言っときゃそれでいい」。
「それでいいって若旦那知ってるからペラペラ出てくるんだよ。
私ゃ知らねえんですからね。
うん。
そこに硯と紙がありますんでちょいとそれに書いて下さいよ。
四角い字はいけませんよ私ゃ仮名しか読めませんから」。
「嫌な貸本屋だねお前は」。
(笑い)「ようこんなとこでどうだ?」。
「へい受けましょう。
これさえありゃどうという事はございません。
ええ。
それじゃ参りましょう」。
「いいのかい?閉まりしないで」。
「ええよろしいんでございます。
泥棒が入りゃ何か置いてく家でございますから。
ええ。
その代わり向こうへ行ったら私のこれによろしくお伝えを願いますよ」。
「おう分かった分かった。
シイ〜ッ」。
「おい。
ここ」。
「いやまぁまぁ」。
「何だこっちへ来い」。
「ほら分かった分かった。
押しちゃ駄目だ押しちゃ」。
「誰だい?そこに居るのは」。
「駄目駄目駄目だ。
もう私帰る」。
「帰るってここまで来て帰るってやつは無え」。
「今までやるつもりだったんだ。
大旦那の声聞いちゃったらもういけませんもう帰る」。
「何だよここまで来といて。
じゃあ羽織と5円でどうだい?」。
「やりましょう」。
「じゃあ早く」。
(笑い)「そうすぐに声は出ないんだよ若旦那」。
「誰なんだい?」。
「え〜お父っつぁんただいま帰りました」。
「孝太郎か。
早かったな〜。
まだ20分と経っちゃいないじゃないか。
いや〜感心感心」。
「ほら若旦那あれでしょう?これですよアハッ。
え〜お父っつぁんただいま帰りました」。
「お帰りお帰り。
お前がそうやって早く帰ってくるんだったらなお父っつぁんいつだって表へ出してやるんだ」。
「アハッまるで分からない。
これですよ若旦那。
ね?え〜お父っつぁんお休みなさい」。
「はいはいお休みよ。
湯冷めしないように寝ちまいなよ」。
「まけてはならない5円の値打ちはありましょう?え〜お父っつぁんうまいでしょ?」。
(笑い)「何がうまいんだ?」。
「え〜お父っつぁんお休みなさい。
えっ?若旦那行きますか?じゃあきっと帰ってきて下さいよ。
ね?へい行ってらっしゃい」。
「何だい?その行ってらっしゃいってのは」。
「え〜お父っつぁんお休みなさい。
こらぁえらい事請け負っちゃったがねどうもね。
ええ?。
ハア〜ッ立派な部屋だねどうもええ?布団が敷いてありますがね絹布の二枚重ね豪気なもんだねどうも。
枕元に本が置いてあるね。
若旦那どんな本読んでる?ええ?『学問のすすめ』?」。
(笑い)「難しい本読んでんだね若旦那。
これ長火鉢欅ですよこれね豪気なもんだねどうも。
あ〜落としもいいし銅壷もいいやこれね。
あ〜薬缶がこれ錫ですよ。
取っ手にね瑪瑙が入ってるなんざおつなもんだねこりゃどうも。
うん?オ〜ッ燗がついてんだこれは。
オ〜ッすっかり支度がしてあんだよこれ。
ありがてえありがてえ。
これならつなぎやすいてぇもんだ。
早速頂こうじゃねえか。
どれどれ。
何なんだよ」。
「うん。
上燗上燗。
ね〜。
これならつなげるてぇやつですよ。
ああ。
若旦那どの辺まで行ったかな?あの源公の車ってなぁ速いからね。
源公てぇのはね他の車抜くのがうまいんだよ。
あれ商売だからなかなか抜かせるもんじゃないんだけど抜いてっちゃうんだな〜。
あれこつなんだよね前に車があるてぇとねドロドロドロドロってんでソ〜ッと後ろへつけるのええ?『この辺だな』と思った所でもって『アラヨ〜ッ』ってぇと前の車がフッと驚いたところを『ララララララララ〜ッ』て抜いていくんだな。
あれひとつこつなんだようまいんだよあれがな。
ドロドロドロドロドロ『アラヨ〜ッララララララララ〜ッ』。
ドロドロドロドロドロ『アラヨ〜ッララララララララ〜ッ』」。
(笑い)「何を騒いでいるんだい?」。
「え〜お父っつぁんお休みなさい。
あっどうも騒いじゃいけないんだ騒いじゃね。
驚いたねどうも」。
「若旦那帰ってくるだろうね?ええ?帰ってこなかったら大変だよここに雪隠詰めですよ。
うん。
またあの若旦那ときたら女に甘いからね。
すぐ鼻の下伸ばしちゃうんだからな。
『ね〜若旦那今夜は泊まってってくれるんでしょ?』『あ〜駄目なんだよ善公が身代わりだから泊まれない』『そんな事言わないで善公なんざは構やぁしないやねあんな者死んだって構やぁしないやね』『ウ〜ンそれもそうだなじゃあ泊まっていこうか』言いかねないよ若旦那はな。
またあの女も女だよ。
すぐ悪止めしやがんだよ。
半分鼻にかかったような声出してね『ね〜若旦那〜いいんだろ〜?も〜うアウ〜ン』」。
(笑い)「猫でも紛れ込んできたのかい?」。
「え〜お父っつぁんお休みなさい」。
「いや。
お休みなさいじゃない。
お前起きてんだったらちょうどいいやお前に聞きたい事があるんだがな」。
「ハッえ〜何でございましょうかな?」。
「お前お父っつぁんの代わりに運座に行ってくれたんだな?」。
「運座?あっちょっとお待ちを願います。
ほらあれですあれです。
エヘッこれさえありゃエヘヘ。
へいおいでなさい」。
「何だい?そのおいでなさいってのは」。
(笑い)「抜きは出たかい?」。
「ええ?」。
「抜きは出たかよ?」。
「栓抜きでございますか?」。
(笑い)「何言ってやがる。
巻頭の句は何だったぃ?」。
「かんとう…。
あっ巻頭の句で。
ええ。
巻頭の句はでございますなえ〜『親の恩夜降る雪に音もせん』でございますな」。
「うん。
『親の恩夜も降る雪に音もせん』。
ウ〜ン真青さんうまいもんだな。
で巻軸は?」。
「卵でございますか?」。
(笑い)「そらぁ半熟だよ。
巻軸の句は何だったぃ?」。
「かんじ…。
あ〜巻軸ね。
ええ。
巻軸の句はでございますなええ『おはらめもあらたまのすそながし』でございますな」。
「なんか読んでるようだなお前は」。
(笑い)「『大原女も今朝新玉の裾長し』。
ウ〜ン宗匠うまくまとめたもんだな」。
「え〜お父っつぁんお休みなさい」。
「はいはいお休みよ。
それからもう一つお前に聞きてぇんだがな」。
「ええっ?ええっ?いえもう無い訳でございますがな」。
「何だい?その無い訳てぇのは。
運座の帰りに無尽に行ってくれたんだな?」。
「知らねえよそんな事。
へえ?」。
「無尽に行ってくれたんだろ?」。
「そのようでございますね」。
「何だ?ようでございますねてぇのは。
お前が行ったんだ」。
「ええええ。
行きました」。
「あれはどこに落ちたぃ?」。
「へへえ?」。
「どこに落ちたよ?」。
「神社の銀杏の木へ」。
(笑い)「雷じゃねえやばか野郎。
どなた様に落ちたんだ?」。
「知らねえってんだよ。
あれはあの〜…さんでございますね」。
「どなただい?」「ですからあの〜…さんでございます」。
「分からねえ。
山田さんか?」。
「山田さんでございます。
誰が何といっても山田さんでございます。
え〜お父っつぁんお休みなさい」。
「そうか山田さんに落ちたのか。
うん。
それからもう一つお前に聞きてえんだがなあの〜若宮町のおばさんが来た時にどこかの土産だってんで干物を置いてったようだな?」。
「知らねえ。
へえ?」。
「あれは何の干物だったぃ?」。
「魚の干物でござんしょう」。
(笑い)「当たり前だ野菜の干物てぇのはあるかい。
大きかったようだから聞いてるんだ」。
「鯨の干物でござんしょう」。
「そんな干物があるかい」。
(笑い)「ムロアジの干物じゃなかったのかい?」。
「あ〜左様でございます。
ムロアジの干物でございます。
え〜お父っつぁんお休みなさい」。
「お前あれどこにしまったぃ?」。
「お父っつあん。
もう助けると思ってお休みなさい」。
「何だい?その助けると思ってお休みなさいって。
どこへしまったんだ?」。
「あの〜大丈夫な所へしまいました」。
「大丈夫な所ってどこへしまったんだ?」。
「ですからあの〜箱の中でございますな」。
「どこの箱だい?」。
「あっ下駄箱へ」。
(笑い)「ばか野郎干物を下駄箱へしまう奴があるか」。
「あの〜なんでございます干物を入れる干物箱でございますな」。
「干物箱?そんな箱が家にあったかな?お前ひょっとしてあれ鼠いらずに入れたんじゃねえのか?」。
「あ〜左様でございます鼠いらずでございます。
ええ。
え〜お父っつあんお休みなさい」。
「ばか野郎お前気が付かねえか?あの鼠いらず2〜3日前から鼠がガタガタやってらぁ。
あれだけの干物を鼠に引かれちまうのはもったいねえお父っつあん所の茶箪笥にしまっとくからなお前すまないがその干物をお父っつあん所まで持ってきてくれないかい」。
「ばかな事を…。
持ってける訳ないじゃないの。
え〜お父っつあん持ってくのは実はあれなんでございますよ」。
「何だい?」。
「ええその持ってくのはそりゃちょっとそれができないんでございますが」。
「分からねえな。
どこか具合でも悪いのか?」。
「具合が悪い。
急にお腹がさし込んで参りましてな」。
「ばか野郎。
湯に行ってよく温まらねえからそういう事になるんだ。
待ちな今お父っつぁんが薬を持ってってやるから」。
(笑い)「もう治りました」。
「治ったら干物を持ってきな」。
「また痛くなりました」。
「しょうがねえ全くまぁ。
『無い子に泣きを見ねえ』ってぇが全くだよ。
ね?あんな道楽者を置いて先に逝っちまった婆さんが恨めしい」。
「上がってくるよおい。
おい逃げ場が無えじゃねえか。
ウワ〜ッハッくわばらくわばらくわばらくわばら」。
「さぁ伜薬を持ってきてやった…。
何してんだ?そんな所でええ?頭から布団引っ被って。
腰から下がまる出しじゃねえか。
『頭隠して尻隠さず』ってなぁお前のこった全く。
汚ねえ足の裏してるなおい。
本当に湯に行ってきたのか?手前は。
あらっ?いつの間にこんなけつっぺたにひょっとこの彫り物なんざ彫りゃがって」。
(笑い)「油断も隙もありゃしねえ。
まぁ小言はあとださぁ薬を持ってきたからお前これをちょいとのめ…。
薬を持ってきたからのみ…。
おう。
何だって中で押えて…。
おう。
そうかお父っつぁんと力比べをするつもりだな?よしよしまだお前なんぞに負けるもんじゃないぞ。
さぁ勝負だぞ。
さぁそらっどうだ?イヨッそらっ…。
どうだ?」。
「ダア〜ッ」。
(笑い)「お前は孝太郎じゃないな」。
「いえ。
そんな事はありません孝太郎でございます。
ええ。
お父っつぁん」。
「何がお父っつぁんだ」。
(笑い)「お前は善公だ」。
「どうも善公でございまして昨年中はいろいろとお世話になりまして…」。
(笑い)「本年もよろしくおつきあいを願っておきます」。
「ばか野郎。
夜中に年始に来る奴があるか。
あっお前家のばか野郎に頼まれた」。
「そう実はお宅のばか野郎に頼まれまして」。
(笑い)「何だ?お前までばかてぇなぁ」。
「お〜い善公善公。
忘れ物忘れ物用箪笥の引き出し紙入れ忘れちゃったぃ。
善公」。
「あのばか野郎忘れ物して戻ってきやがって。
やい。
お前のような奴は勘当だ。
どこへでも好きな所へ行っちまいな」。
「あ〜善公は器用だ親父そっくりだ」。
(拍手)2014/08/17(日) 15:45〜16:15
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「干物箱」[解][字]
落語「干物箱」▽五街道雲助▽第660回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「干物箱」▽五街道雲助▽第660回東京落語会
出演者
【出演】五街道雲助,斎須祥子,金近こう,瀧川鯉○,三遊亭遊松,柳家小はぜ
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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