昔むかしとある山寺に和尚がひとりで暮らしていた。
ここのあたりでは山火事も多く人も寄りつかない。
そんななかでも和尚はひとり掃除もろくにせず一日中昼寝をして暮らしていた。
も〜し!も〜し!おおもう夕暮れか。
どなたかいらっしゃいませんか?客とは珍しいな。
何か?道に迷ってしまいました。
どうかひと晩泊めていただけませんか?
(お腹のなる音)和尚は小僧を泊めてやることにした。
こんなにうまい粥は初めて食べました。
ただの白粥だたくさん食べなさい。
ありがとうございます。
おかわりお願いします。
お前さんどこから来なすった?あ…。
まぁ言いたくなければそれでいい。
人には言えないこともあるだろう。
さぁ早く食べなさい。
もう少し寝る。
小僧が泊まっておるんじゃった。
おお〜!これがうちの庭か!?おはようございます和尚様!掃除してくれたのか?はい泊めていただいたお礼です。
すまんのう。
しかし一度きれいになってしまうとこれからも掃除をせねばならん。
ちと困ったのう。
では掃除でも何でもやりますから置いていただけませんか?しかしこの寺は貧乏だし学問やお経を教えるのも億劫でな。
いえいえ。
ここに置いていただけるのであればそれだけでありがたいです。
そう言うので和尚は小僧にいてもらうことにした。
のんびり暮らしたいと言うわりには小僧はよく働いた。
和尚様!ん?風呂を沸かしました。
どうぞお入りください。
なに?風呂!?はぁ〜何年ぶりじゃろうか。
私は風呂に入ったことがありません。
なに?ではこのあと入りなさい。
あれ?和尚様はこんなに色が白かったんですね。
おお全部垢じゃ。
すると私も…。
はぁ〜!
(2人)ごちそうさまでした!すっかり色白になったな。
はい!ハハハハッ!ハハハハハハッ!和尚様。
ん?昼寝とはこんなにいいものなんですね。
年寄りじみたことを言うのう。
こんなに幸せな日々はありません。
2人はとても気が合い毎日のんびりと暮らした。
小僧は風呂を沸かし掃除も欠かさなかったのでお堂も和尚もピカピカになっていった。
この手紙を隣の村まで届けて返事をもらってきてほしい。
はい。
いってきます!村へ行って帰ってくるのに大人でも半日かかる。
和尚はのんびりと待っていた。
すると…。
和尚様戻りました。
えっ?えぇ〜!?こちらがお返事です。
まだ昼飯前の時間じゃが…。
不思議なことに小僧はすぐに返事をもらって帰ってきた。
《そういえばこやつが働いている姿を見たことがない。
いったいいつどのように用を済ませているのか…》どうなさいました?あっいや…。
この風では庭の落ち葉もひどかろうと思ってな。
では明日は早起きしましょう。
翌朝和尚は小僧が働いてるところを見ようと早く起きた。
まだ眠っておる。
空が明るくなった頃やっと小僧は起きてきた。
ん?何じゃあれは。
小僧が葉団扇を扇ぐと庭の落ち葉はクルクルと舞い上がり天に渦を作って昇っていった。
小僧の姿はなんと天狗に変わっていた。
(2人)ごちそうさまでした。
お前さんなぜ小僧の姿になってやってきたんじゃ?ご覧になったか…。
我々の世界の厳しい戒律に疲れ和尚のようにのんびり暮らしたかったのです。
しかし正体が知られてはそれもかないませんな。
行ってしまうのか?はいお世話になりもうした。
お礼にこのあたりに火事が起こらぬようにしてしんぜよう。
ついては鼻高の像を彫って祀ってくだされ。
和尚は深く後悔した。
もう二度と小僧との楽しい日々は戻ってこないのだった。
和尚は天狗の姿をまぶたに描いて像を彫りはじめた。
ふぅ…。
はい和尚様ありがとう。
こんなに働いたのは生まれて初めてだ。
この像は鼻長像と呼ばれ信仰を集めた。
そしてそれ以来この土地には火事が起きたことはないという。
昔山のふもとに弥助という木こりがいた。
熊のように丈夫な体で山や谷を庭のように歩き回っていた。
代々木こりの家系の弥助は山にはどれだけ恐ろしいことがあるか身をもって知っていた。
それは弥助がまだ若い頃木こりの仲間と山に入ったときのことだった。
いけない木を切ってはいけない。
なんだ?誰だ?誰だおぬし。
この谷の柳の木だけは切ってはいけない。
どうかどうか頼みます。
霧が晴れると女の姿はなかった。
弥助は仲間のところへ急いだ。
追いついた弥助がそこに見たのは…。
なんという立派な柳の木だ。
どっちから切るか。
太いほうから切ろう。
女:切ってはいけないみんな待ってくれ。
弥助は仲間を止めようとしたが木を切らぬ木こりがあるものかと笑われた。
そのとき同じく木こりだった父の遺言を弥助は思い出していた。
山に入ったら風の音を聞け。
木の声に耳をかたむけろ。
山で無理をしたら命をとられる。
(木を切る音)
(木が倒れる音)その夜みな山小屋で深い眠りにおちていた。
弥助をのぞいて。
弥助は酒を口にしてもまったく眠れなかった。
(足音)昨日谷で見た女が立っていた。
弥助の体は石になったかのように重かった。
声を出すこともできずただ女を見ていた。
《ななにを…》お前を見込んだからこそ頼んだのにな。
決して木を切ってはいけないと。
あっ…ああ〜っ!でもお前は切らなかった。
助けてやろう。
だがこのことを他の人間に話したらそのときは…。
ひぃ〜っ!朝になって弥助は小屋を飛び出した。
仲間はなんとみな舌を抜かれていた。
それから50年の月日が流れた。
年老いた弥助は山へ行けなくなり一日中ぼんやり山を眺めて過ごしていた。
弥助じい晩飯もってきたよ。
ああ。
所帯をもたなかった弥助の面倒をみていたのは隣に住む遠い親戚の女房だった。
毎日食べ物を運んできては弥助を見舞った。
ねぇアンタ弥助じい近頃とても機嫌がいいんだよ。
よく笑い声が聞こえるし客でもあるのかねぇ。
バカ言え。
じいに客なんてもう何年も来たことねえだろ。
昔の夢でも見てんじゃねえのか。
誰かと話してるような気がするんだけどねぇ。
ハハハ年寄りをからかうんじゃないよ。
弥助じい。
あれ1人かい?話してるから誰かいるのかと思ったよ。
1つでよかったね。
その娘は女房の目には見えなかった。
毎日訪ねてくるその娘に弥助は過ぎ去った日のあれこれを話すのが楽しみになっていた。
(弥助)お前さんを見ているとあの美しい柳の木の女のことを思い出す。
聞いてくれるかあの時のことを。
弥助は仲間の命を奪われたあの恐ろしい夜の話を娘に聞かせた。
柳の木を切ったわしらは罰を受けたんじゃ。
山に入ったら木の声に耳をかたむけなければならん。
しかしわしはあの女の美しさが今でも忘れられん。
その女最後に何て言ってたか覚えてるの?もし他の人間に話したらそのときは…弥助は柳の木との約束を破ったために仲間と同じように命をとられた。
しかしその顔は実に幸せそうだったという。
舌を抜かれていたというのに。
このことを他の人間に話したら…昔とある山里にお駒という少女がいた。
アハッ。
お〜いお駒一緒に遊ばないか?ほっとけほっとけどうせまたボーッとしてるだけだ。
お駒は同じ年頃の子供たちとは遊ばず魚や草花に話しかけたりぼんやりと川面を眺めているような少女だった。
そんなある日のこといつもどおりお駒が川べりにいると…。
キャーッ!あっあれを見て!大変だ!お〜い大変だお駒が鷲にさらわれた!なにお駒が!?お駒!お駒!その後も村中総出でお駒を捜したがとうとう見つからなかった。
うぅ…この寒いなかお駒はいったいどうしてるか。
これだけ捜してもいないなんてもしかしてもう…。
信じて待つしかないきっと帰ってくる。
しかしお駒は帰らず両親は半ば諦めていた。
ところがお駒は生きていたのだった。
鷲にさらわれた日のこと…。
あっあれ〜!うわぁ〜っ!うわぁ〜っ!ハァハァハァ…。
やぁ起きたか。
私はこの淵に住む鮭の大助というものだ。
おらお駒だ。
おらを助けてくれたのか?体の傷が癒えるまでここで休んでいくがいい。
お駒は助けてくれた大助の世話になることにした。
キャーハハハ!わぁ水の中って気持いいな。
はい。
お駒お前の両親も心配しているだろう。
そろそろ家に帰らないといけない。
おらもっと大助といたい。
もう少しここにいる。
2人はそれからも仲むつまじく暮らした。
そして10年の月日が流れた。
父ちゃん。
うん?その泣きぼくろ…お前お駒か?はい。
生きていたのか!今までどこにいたんだ?話はあとだ早く母ちゃんに顔見せてやらなきゃ!よかったよかった!生きていてよかった。
母ちゃん心配かけてごめんな。
いったいどこで暮らしていたんだ?おら何も覚えていない。
それじゃどうやってあの場所に戻ってきたんだ?父ちゃんもういいじゃないか。
こうして元気に帰ってきてくれたんだ。
そのうち思い出すさ。
なっ!お駒の10年を不思議に思いながらも両親は娘が帰ってきたことを喜び失った時間を取り戻すように暮らし始めた。
お駒!お駒!お駒!またどっかに行っちまったのかと思った。
心配させないでおくれ。
いったい何をしてたんだ?おら川を見てた。
もうここに来ちゃダメだわかったな。
それからしばらくしてお駒を嫁にほしいという青年がやって来た。
どうかお駒さんを私の妻に!お駒はずっと行方知れずでやっと帰ってきたばかりなんだ。
知ってます。
お前さんどこの人間だ。
それは申せません。
素性の知れない人間に大事な娘をやるわけにはいかない。
帰ってくれ!私は諦めません!青年は言葉どおり毎晩お駒のもとを訪れた。
しかしそのたびにお駒の父が追い返すのだった。
そんなある日のこと青年がどこから来ているのか気になったお駒の父はこっそり後をつけた。
なっ!なんてこった!お駒!あの男人間じゃない鮭だ!鮭なんだ!何をバカなことを夢でも見たんだろう。
違う!はっきりこの目で見たんだ。
父ちゃんの言うとおりだ。
あの人はおらを助けてくれてずっと一緒に暮らしてきた鮭の大助だ。
お駒は今までのいきさつを語った。
おら大助と一緒になりたいんだ。
その前にどうしても父ちゃんと母ちゃんに会いたかった。
お前それで幸せなのか?うん。
どうか許してください。
お駒行かないでおくれ。
お駒あぁ…。
それ以来鮭の妻になった娘を憂いお駒の家では決して鮭を食べなかったという。
2014/08/17(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「火除け仏」
「柳のたたり」
「鮭を食わぬ家」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】湯浅康生
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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