見直そうとしています。
豊かな自然の懐に抱かれて人々は今日も島の恵みと共に生きています。
飛騨の小京都と呼ばれる岐阜県高山市。
江戸時代の面影を残す町並みです。
(黒谷)ん…すてきですね。
やってきたのは黒谷友香さん。
この町にお目当てのイッピンがあります。
なんなのこのオシャレ感!でも全部すてき!ここは飛騨の家具を展示するギャラリー。
高山では椅子やテーブルなど「脚物」と呼ばれる家具が盛んに生産されています。
おやじになるねこれね。
実は黒谷さん自分で椅子を作ってしまうほどの家具好き。
え〜すご〜い!こんな丸くできない私自分で作るとき。
これとかすごいの丸いのここ。
きれいです。
私の作る椅子ってまっすぐみたい!そう。
飛騨の家具は無垢材を曲げて作る緩やかなカーブが特徴。
かわいいなぁ。
こちらは30年前に発売され今も根強い人気を誇るロングセラー。
2年前に発表されたダイニングチェア背もたれから肘掛けまで大胆な曲線が目を引きます。
これはですね「曲げ木」という技術が使ってありましてですから飛騨の家具はこういったその木を曲げて作るという技術にたけてまして。
え〜!どうやって?洗練された形!そして美しい木目!豊かな木の表情を生かすために受け継がれてきた飛騨の家具の技です。
高山市を中心とする飛騨地方。
椅子やテーブルなどの脚物家具の生産量は日本でもトップクラスです。
曲げ木の秘密を探るため黒谷さん早速工場を訪ねました。
こんにちは。
こんにちは。
こちらで家具を作っていらっしゃるんですよね。
はい。
ぜひ拝見したいんですけど。
はいご案内します。
お願いします。
どうぞ。
ここから入るんですか?はい。
お〜。
創業90年。
飛騨を代表する老舗家具メーカーです。
見せてもらうのは椅子の背もたれの加工。
これがですね椅子の材料。
背中の部分になるんですけれどちょっと持ってみてください。
わ〜重い。
非常に重くて堅いんですけど。
そうですね。
これを今から曲げますので。
曲げ木職人の後藤くんです。
よろしくお願いします。
後藤です。
よろしくお願いします。
「曲げ木職人」っていう職人さんがいらっしゃるんですか?そうですね。
ここは3人の職人がおりまして彼は中堅ですね。
そうなんですか。
よろしくお願いします。
職人歴4年の後藤文孝さんです。
使うのは1時間蒸したナラ材。
水分をたっぷりと含みホカホカ。
その木をこちらの器具にはめ込み固定します。
わ〜何をしてるの?何をやってらっしゃるんですか?
(機材を落とす音)あれあれ?
(森野)ちょっと緊張してますね。
アハハハハ…。
中堅頑張れ!プレス機で一気に曲げていきます。
わっ!あんなグニュグニュ曲がって一気に曲がっていって割れないんですか?
(森野)割れないんですね。
曲がり具合を確認してものの1分ほどで完成。
これで完成ですか?
(森野)はい見事曲がりました。
あっという間に曲がりましたけど。
すごい!ここ触っても大丈夫ですか?大丈夫ですよ。
ちょっと暖かい…。
あったか〜い!ちょっとぬれてる。
でもどうして力を加えても木は割れないのでしょうか?その秘密は木を固定するこの器具にありました。
器具で固定しないで曲げると木の外側が伸びていきます。
木の繊維が大きく引っ張られる状態です。
結果はご覧のとおり。
木は引っ張られる力に弱いので折れてしまいます。
そのため器具で両端を固定。
外側が引っ張れることなく曲げていけます。
しかし一方内側には力がかかり繊維が縮められてしまいます。
この縮み具合を微妙に調整するのが職人の腕の見せどころ!これってシワなんですか?はい。
両端を締めつけすぎて出来たシワ。
これでは商品になりません。
それではもう一度職人がどんな作業をしているのか見てみましょう。
板には一枚一枚個性があります。
木目や節など最初に特徴を見極める必要があります。
木の個性をつかんだら…。
折れたりシワが出たりしないよう締め具合を調整します。
ボルトによって0.数ミリ単位で締め幅の調整ができます。
曲げる瞬間にも職人技が。
足のペダルでプレスのスピードをコントロール。
材によって堅さが違うので曲げるとき適切なスピードで力を加えることが求められるのです。
短い作業時間にこれだけのポイントがありました。
すごいなこうやって作ってるんだ。
なんかもっとボタン1つでこうビューってここまで行きたかったらその設定をしておいてやるのかなって思っていました。
どんな加工でも一枚一枚違うので。
一枚一枚違うんですね。
その微妙なさじ加減ひとつでできがね。
そうですね。
失敗から学ぶしか…。
そうなんですかやっぱり。
ええ。
やっぱりすごいです。
中堅っておっしゃってましたけどそんな全然です。
まだまだなんです。
いえいえいえいえ。
曲げ木の難しさが分かったぐらいだと思ってますので。
このあと一晩乾燥させ型を外せば完成です!曲げ木の技で作られたダイニングチェア。
流れるような木目の美しさ。
更に曲げ木には家具に欠かせないもう一つの特徴が。
それは強度。
板から曲線状に切り出した材と比べてみましょう。
それぞれに負荷をかけてみると…。
切り出した材は300kg足らずで割れてしまいました。
一方曲げ木は…。
なんと700kg以上持ちこたえました!割れ方にも違いが。
「切り出し材」は繊維が分断されているので裂けるように割れてしまいます。
一方「曲げ木」は全ての繊維がつながっているため完全に割れることはありません。
見た目の美しさだけでなく強度の点でも優れた技術だったのです。
曲げ木の技術はおよそ100年前ヨーロッパから日本に伝わりました。
飛騨で作られた最初の椅子にもその技は使われています。
職人たちは長い時をかけてこの技を磨いてきました。
曲げ木一筋40年。
職人の…現代の職人にとって最も難易度の高い技の一つそれが1本の長い木材に連続した複雑なカーブを作ること。
型に材をはめ込み回転させながら力を加え曲げていきます。
ここでも大切なのは木の固定。
沢田さんの手にかかれば1本の木がこんな曲線に。
曲線が複雑であればあるほど材にひずみが生じます。
それをハンマーでたたいて調整。
沢田さん何かに気づきました。
この部分が歪んでいるのが分かりますか?木にかかる余計な力を逃がさないと折れてしまいます。
ハンマーでたたきながら再度調整。
材にはそれぞれ癖があるため一筋縄ではいきません。
高度な曲げ木技術が可能にした「飛騨の家具」の優雅なフォルムです。
豊かな森に囲まれた飛騨・高山。
古くから木工の技術が培われてきました。
椅子やテーブルなどの洋風家具の生産が始まったのは大正時代の事。
そのほとんどが海外への輸出用でした。
高度経済成長期。
西洋式の生活スタイルが広まっていくとともに国内の販路が拡大。
洋風家具の一大産地へと成長していきます。
次に訪ねたのはユニークなテーブルを作っているという家具職人。
こんにちは。
こんにちは失礼します。
こんにちは!いらっしゃいませ。
職人歴38年…こちらで手作りの家具を作ってらっしゃると聞いたんですけど。
はい。
こちらです。
はい。
わ〜!え〜!これ全部手作りで?
(関西)はい。
40種類近くある家具はデザインから仕上げまで全て関西さんが手がけます。
中でも一番人気がこちら。
ちょっと面白い形をしていますが。
なんかこのテーブルどうして四角くないんですか?なんかさやえんどうみたいな。
そら豆の形です。
そら豆だ。
そうです。
どうして豆の形にこだわってらっしゃるんですか?
(関西)親しみやすいっていうのはありますね。
野菜をベースにして。
え!野菜をベースに?へぇ〜。
足元なんかはちょっと女性には失礼なんですけど大根を…。
大根でしょ!私今言おうかと思ったんだけど。
まさか大根足とかけてるとか思わない。
やだぁ!このそら豆型のテーブル。
30年前に自分の作業台として作ったものが第一号。
客からの要望に応えていくうちに人気のシリーズになったといいます。
はぁ〜。
このカーブも気持ちいいですね。
すっごい!何なのこの気持ちよさっていうぐらい。
ずっとこうやってたいっていう。
すご〜い。
どうやってこんな?手がんなでこういう所をゆっくりと削って…。
こうやって。
はい。
形を成形していきます。
やっぱり手で作る家具ってなんかぬくもりが伝わってきますよね。
機械的に作っていくものだとどうしてもこう同じような形のものになってしまいますけど手で作るとやっぱり若干の違いが出てくるもんですからそれがひとつの味になってきてますけれども。
どうぞ。
おじゃましま〜す!温かい丸みが持ち味の家具。
工房を見せてもらいました。
さっき見たテーブルのそら豆テーブル。
関西さんが得意とするのはかんなによる成形。
見慣れない形のこのかんな。
「反り台がんな」と呼ばれるものです。
曲線がすぐ来るから難しくないですかこれ?ええ。
まぁそれでこういう反り台がんなを使うんですけど。
はい。
反り台がんな?はい。
例えばこういうまっすぐで同じようになってるかんなだと。
あ違う。
普通のかんなに比べて台が曲線状になっています。
反ったかんな台によってくぼみのある面を削ることができるのです。
関西さんのテーブル作りに欠かせません。
普通のかんなを当てると…。
当たらないですね。
ここ浮いちゃいますもんね。
でこういう反ったかんなを使います。
工房には50種類以上ものかんなが。
板の凹凸や曲がり具合によって使い分けます。
こちらは「南京がんな」と呼ばれるもの。
連続した曲面を削りだすのに使います。
ちょっと持ってみてもいいですか。
はいどうぞ。
家具を作る時かんながけもするという黒谷さん。
試しに使わせてもらいました。
この辺でいいですか?はい。
お〜!おっ!フフフフ…。
え〜なんでこんなちょびっとしか?こんなに刃がいっぱい…。
そうか!当たってる面が…?はい。
そうなんだ。
そうですね。
わっ!難しい。
全然私…。
もっと出来ると思ったのに。
なんかこれ以上やるとフフフ…。
いえいえ。
すごいことになりそうなのでちょっとバトンタッチ。
もう違う!当然だけど違う。
でこう…。
きれい!きれいな木屑!ちょっと待って関西さん。
ほら見てください。
私がやるとこういう感じになるんですよ。
だけどこういう感じ…。
フフフフ…。
すいませんでしたって感じです。
長くきれいなかんな屑が出る秘密とは?ハイスピードカメラで見てみると…。
かんなが曲面に沿っていつも一定に当たっています。
関西さんの指にご注目!常に木に添えてガイドにしています。
そのためカーブに一定に刃を当てることができ長いかんな屑が出るのです。
ここでは右手の親指に注目。
持ち方によってガイドとする指は変えますがカーブにしっかりと添えられています。
お〜気持ちいい!最初っから私のものって感じがするフフフフ!すご〜い気持ちいい!絶対痛くないもん。
全然。
かんなを駆使して作る丸みのある家具が出来上がりました。
テーブルの表情がいつ見ても違う感じがして…。
そうですね。
飽きがこなくていいですよね。
はい。
人の顔も左右対称ってことはほとんどないです。
やはりちょっと変化があった方が素材感がよく分かるっていうか。
そういうテーブルでね仲良く団欒するとかすてきですね。
お客さんのとこでいつもはなかなかあれだったんだけどテーブルを入れることで家族がいつもそこに集まってくるという。
いいお話ですね!関西さんの支える力が花咲くって感じですね。
本当にあの生活を楽しんで頂ければ私たちは道具作りですので愛される道具ができればそれにこしたことはないと思って。
今飛騨では新たな家具作りの挑戦が始まっています。
戦後建築用にと植えられた杉。
近年は使われることが少なくなりました。
その杉材を使って椅子を作ろうというのです。
メーカーや森林組合などが共同で11年前から開発を進めています。
そこから生まれたのがこのスタイリッシュな椅子!実は杉材は加工しにくく椅子などに用いられたことはあまりありませんでした。
それを可能にしたのが飛騨に伝わる「あの技」でした。
こんにちは!いらっしゃいませ。
杉材の特殊な加工を行う工場。
(岡田)いいでしょ!プロジェクトのリーダー岡田贊三さんです。
杉材は椅子に用いる木材として弱点があるといいます。
ちょっと見ていただくとこの杉はやわらかいんですよ。
ちょっとこう爪で傷つけて見てください。
簡単に傷ついちゃうでしょう。
本当だ。
なんかスポンジみたい。
そうですね。
結構ぐ〜ってやったら…。
ですから家具なんかに使うと傷がつきやすかったり早く割れたりするというようなことから…やわらかくすぐに傷がついてしまうので椅子に使いにくいのです。
やっぱり地元にそんな資源があるのになんとか地場産業としてその杉を使いたいという思いから使える方法はないかということでいろいろ研究してきました。
杉材は圧縮すれば堅くなることが知られていました。
そこで曲げ木の技を用い圧縮しながら曲げることはできないか…。
岡田さんたちはそう考えました。
杉材はもともと割れやすいのですが二枚重ねにすることで圧力に耐え曲線を作ることができます。
じっくりと圧縮。
2時間かけて成形します。
堅く引き締まった杉材の背もたれが出来上がりました。
出来たてですから温かいですよ。
あホントだ!え!これ2枚を…。
そうなんです。
1枚だと割れちゃうんで2枚重ねて貼るときれいに貼れるんですよね。
へぇ〜。
ぜひ表面を爪でやってみてください。
あホントだ。
さっきみたいに沈んでいかないですね。
全然違う!我々の自慢の技術です。
「曲げ木」の技術を応用し杉材に新たな活用の道が開けました。
イタリアの有名な工業デザイナーにデザインを依頼。
洗練された家具の誕生です。
地域産業といいますか地場産業というものはやはり地域の資源をそして伝統的な技術とそして新しい技術を組み合わせて築き上げた歴史が私たちあるわけですね。
これがこれから受け入れられていけば日本の山林もまた生き返ってくるだろうと思うし地域の活性化にもつながっていくんじゃないかなぁとそんな思いでやっています。
高山市内の小学校。
子どもたちが日々勉強する机や椅子には地元の杉材が使われています。
子どもたちに木に親しんでもらいたいと全ての小中学校に贈られました。
(子どもたち)少し重い。
心地よいです。
冬は寒いので机とか椅子が温めてくれるので使いやすいです。
(先生)分かる人?
(生徒たち)は〜い!出会ったのは木を見極めそこに命を吹き込む飛騨の職人たち。
きょうも個性豊かな家具を作り続けています。
2014/08/17(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「カーブが生みだす木の表情〜岐阜 飛騨の家具〜」[字]
今回は「飛騨の家具」。スタイリッシュなイスや、ユニークな形のテーブルなど、豊かな個性が大人気。木の表情を最大限に生かし家具を作るワザを、黒谷友香が徹底リサーチ!
詳細情報
番組内容
今回は岐阜県の『飛騨の家具』。スタイリッシュなデザインのイスや、ユニークな形のテーブルなど、個性豊かな製品が大人気。木の表情を最大限に生かしつつ家具を作る秘密を、DIY好きの女優・黒谷友香が徹底リサーチ!イスの背もたれに大胆なカーブを作る『曲げ木』の職人や、特殊なカンナで家具に独特の温かみを作る職人。そして家具に向かないとされる杉材を丈夫な家具に変えるワザなど、飛騨地方に息づく家具作りに肉薄する。
出演者
【リポーター】黒谷友香,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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