日本の話芸 落語「表札」 2014.08.16

50歳の比較的若い方から気を付けて頂けたらと思っております。
どうもありがとうございました。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(桂米助)ようこそいらっしゃいまして。
まぁそれにしましても女性の方々というのはですね結婚しますと人格が変わりますね本当に。
ね〜。
家なんかも結婚してもう40年近くなるんですが新婚当時なんかそりゃそりゃかわいかったですよええ。
私が「出かけるよ」つったらわざわざ玄関まで出てきて…。
(笑い)かわいかったですよ〜。
ね〜。
もう40年経つと今日なんかもそうですよ。
私が出かける時に玄関なんか出てこないですからね。
「行ってくるよ」っつうと奥から「おう」です。
(笑い)ね?で私5階のマンションに住んでますから5階からス〜ッとエレベーターで下りましてパッとドア開けて玄関出ようと思ったら「いけねえ携帯電話を忘れた」ってんでちゃんと戻りましてピンポ〜ンって押したらもう留守なんです。
(笑い)私が出かけるのを待ってたんですね。
戻るのに1分35秒しかかかってないんですよ。
まぁ私が出かけるのを待っていたってそういうような感じがしたりなんかしまして。
でも昔からよくね「子を持って人の恩を知る」なんて事を言いまして子供ができて初めて親のありがたさが分かるんだそうでございますけどもしかしながらね女房と違って子供ってぇのはかわいいもんですね。
特に自分の子供ですと特にかわいかったりなんかしましてね。
他人が見るとどう見てもこんなもう救いようのないようなブスでもね自分の子供ですとこれがオードリー・ヘップバーンに見えたりなんかするというね不思議なもんがあったりなんかする訳ですけども。
で何人か子供が生まれましてで学校の成績のいい子供と悪い子供ができたりなんかしますけども。
でこの悪い子供のほうをですね「お前はばかだ〜ばかだ」と言うのはこれは間違いなんだそうですね。
だってですね満3歳までにですね3,200からの日本語を覚えちゃうってんですよ。
3,200の言葉です。
ですからこの日本語ってのはですね隣のおじさんおばさんにしろですね自分のお父さんお母さんにしろお爺ちゃんお婆ちゃんにしろみんな日本語を知ってますから日本語の教え方がうまいですね。
「ほらほらほらほらまんまほらまんまがおいでほらまんままんま」とかねまんまから3,200の言葉を覚えちゃうってんですよ。
ですからばかじゃないんですよ。
ね。
ですから学校の成績が悪いのはですね記憶力が悪いんです記憶力が。
だから頭が悪いんじゃなくて記憶力が悪いだけですからですから親は「ばかだばかだ」っていうのは決して言わないほうがいいんじゃないかと思いますよ。
大体人間なんてのはですね記憶力だけじゃないんですよ。
記憶力と思考力これが並行致しまして立派な人間になる訳でございますから。
ね。
記憶力ばかり良くて思考力がまるで無いってのがみんな落語家になっちゃう訳でございますから。
(笑い)だからこの間そうですよね思考力が無いですからね学校寄席でもって高校生の前でもって吉原の落語やっちゃったりなんかしてね。
(笑い)「全然思考力が無いな」と思ったりなんかする訳ですから。
ですからねもう学校の成績が悪くたって親は決して文句を言わないで「あ〜いいんだいいんだ。
学校の成績なんか悪くたって。
それよりもな思考力考えさえ良けりゃいいんだから。
学校の成績が悪くたって世の中出世してる人はいっぱいいるんだからあ〜気にする事はないよそんなもの。
ああ。
もうね記憶力ってのは何回も何回も繰り返し覚えるからそんなもの覚えちゃうんだからああ気にする事はないよな〜放っとけ。
それよりもな考えるほうがいいんだからああ考えさえしっかりすりゃいいんだから。
本当に考えさえしっかりすりゃ頭さえ使えりゃいい。
もう頭さえ使えりゃいいんだから」ってそうやって育ててごらんなさい「あ〜そうだな」ってんで将来は立派な詐欺師になったりなんかしますけどね。
(笑い)ですからですね幾つになってもですねもう親というものは子供が心配でいろいろと面倒見たりなんかするんだそうでございまして。
「先生。
大変です大変です一大事です」。
「何ですか?いきなり一大事って。
またどこかで船でも衝突したんですか?」。
「先生。
僕にとってはもっと大変なんですよ。
実は親父が上京してくるという電話があったんですよ。
驚きましたね〜」。
「それはうれしいだろうが。
お父さんの顔見りゃすぐに小遣いももらえる。
それが何が一大事ですか?」。
「先生。
普通ならうれしいんですけどね僕にとっては大変なんですよ。
実は僕はいまだに大学をズ〜ッと留年してる事になってんですよ」。
「だって大学を卒業して今の会社へ入ってもう4年だろ?」。
「そうなんですよ。
女房ができた事も子供ができた事も全然知らないんですよ」。
「無届け家庭ですかハア〜。
それにしては随分派手に子供を作りましたね4年間で5人とは」。
(笑い)「いや〜学生時代恋愛してましてね卒業証書をもらったその日に長男が生まれましてね『大学を卒業しました。
ついでに長男が生まれました』なんて手紙に書けないですからね『そのうちにそのうち』と思ってる間にですね年子が生まれる双子が生まれるでとうとう5人になっちゃったんですよ。
初任給15万でしたからねとても生活できなかったですよ。
あっ今は多少上がりましたけどね。
でまぁ親父の仕送りをいいことにしてですね親子7人で生活をしてるんですよ。
ええ。
まぁ人のいいおとなしい親父ですからねその反動が怖いですよ。
『親をばかにした』ってんでね仕送りはカットになる。
そうなりますとね親子7人心中これですよ」。
「それは大変ですな」。
「先生。
なんとかならないでしょうかね?」。
「いや〜僕もねこの年になるまで独身生活をしているようでねこれといった名案はないけどな。
ウ〜ン。
じゃあどうだね?僕は釣りが好きだから釣りに出かけるから」。
「ええ」。
「でいつもだったらね鍵を掛けて出かけるんだけど今回は君に留守番をお願いするから」。
「ええ」。
「で君の表札を僕の所へ掛けて僕の表札を君の所に掛けときゃお父さん初めて東京へ出てくるんだろう?だったらこの家にまっすぐ入ってくるに決まってるから。
で僕は独身だからね女の物も子供の物も何もないから。
夕方帰ってきてねまぁもしお父さんがお泊まりになるようだったら釣ってきた魚をみんな君ん家の前へ置いとくからで私はね友達の所行って訳を話していろいろ泊めさせてもらうからそれだったらどうかね?」。
「先生。
そうやってですね時を稼がせてもらえば親子ですからなんとかしちゃうんですけどね」。
「じゃあまずはその表札を換えなくちゃいけないな。
君の表札確か安倍っていったな。
安倍の表札僕の所へ掛けて僕は野田だから野田の表札を君の所へ掛けときゃお父さんこの家にまっすぐ入ってくるだろう」。
「ハア〜何か民主党から自民党に…」。
(笑い)「政権が代わったようなもんですね」。
「まぁまぁそんなもんだな」。
「じゃあまぁ先生ひとつよろしくお願いします」。
「あ〜じゃあ久しぶりに釣りに出かけるかな。
お〜うまく表札換えたね」。
「どうです?先生」。
「ハア〜これなら大丈夫だ。
な〜。
しかもね安倍の表札を一段高く掲げてあるね。
これはアベノミクスの影響かね?」。
「そんなようなとこですな」。
「まぁとにかくじゃあ頑張りたまえ。
な?」。
「じゃあ先生気をつけて行って下さい。
どうも。
ごゆっくり。
どうも。
ありがとうございま〜すありがとうございま〜す。
ごゆっくりどうぞ。
これでなんとか一安心だね。
ええ?なんとか言い訳は立つよな。
じゃあ先生の家上がらせてもらおうかな。
さぁ」。
「それにしても童謡作家の家にしちゃ汚いね本当に。
ええ?男やもめにうじがわくって本当だまた。
ええ?ご覧よ畳なんか破れちゃってボロボロだね本当に。
『たた』が無くなっちゃってるね『み』ばっかりだよな。
あ〜天井はネズミの小便だらけ。
大掃除なんかした事は無いんだな全くな。
でもね座布団だけはちゃんと4枚あるね。
ええ?お客さんなんか来た事は見た事ないけどな。
大きな座布団だな〜。
何だ掛け布団が4つに折ってあるのかよ。
それで座布団代わりにしてんだね。
乱暴だね先生も」。
「敏夫。
敏夫でねえか?敏夫敏夫や」。
「あ〜お父さんですか。
いやお待ちしておりました。
さぁどうぞどうぞお上がり下さい。
おもてなし。
さぁどうぞどうぞ」。
「じゃあまぁ上がらせてもらうべや。
アッア〜ッウウ〜ッ」。
「あ〜初めて東京へ出てきたもんでなああ。
もうとにかくお前表札と住所が頼りだからな。
まぁお前の家見つけるまでは随分心配しちまっただ。
でおふくろから電話あったか?」。
「ええ。
電話ありましたもんですからねええ学校休んでズ〜ッと待機してました」。
「そうか。
あ〜なんだべないきなりお前の所行ってな学校行っちゃったあとでよ一日中お前表に立ってなきゃいけねえって思ったらな『じゃあ電話しましょうよ』ってなおふくろが電話してくれた。
電話あったか?あ〜そうかそうか。
やっぱりお前汽車より電車のほうが速いわな〜。
ア〜ア〜ア〜」。
「アハハハハこれなあ〜家の畑で取れた野菜物だけんどよおふくろがお前『持ってけ〜持ってけ』ってもんでなああ〜まぁそんなお前『学生にそんな野菜物なんか必要なかんべ』つったら『いや〜お父っつぁん故郷の香りがするから懐かしいからきっと伜が喜ぶべえから』なんてなうん。
おふくろがお前あんまり言うもんだからよああ持ってきただ」。
「でもお父さん重かったでしょこんな大きい物」。
「なにお前肥やし運ぶ事考えりゃそんなもん何でもねえや。
それそっちやっとけ」。
「あっお父さん。
座布団どうぞ」。
「あ〜そんなに要らねえや。
じゃあ1枚だけもらうべえ」。
「いや。
これ4枚つながってんですよ」。
「何だお前変な座布団だな。
じゃあお前暑苦しいから要らねえや。
それよりよちょいとお茶入れてくれお茶」。
「ええっ?」。
「お茶」。
「あ〜お茶ね。
エ〜トお茶お茶お茶お茶と」。
「あ〜な〜汽車の中で飲むべえと思ったんだけんどよああお前隣の人が飲んでるからな『いくらだ?』っつったらお前『150円』なんだ。
カ〜ッ番茶が一杯150円なんてな家に居りゃお前ただ飲めるものをよあ〜150円出すのはもったいねえと思ったからよ喉渇いたけどな洗面所の水飲んでお前我慢しちまっただ。
あ〜あ。
それよりもよちょいとお茶入れてくれお茶。
おい。
お前さっきから何してんだ?ええ?茶筒の入ってる所忘れちまった?お前健忘症じゃねえか?お前今の若さでもってお前茶筒の入ってる所が分からねえなんてよ…」。
「いやお父さんね僕は今いつも水ばっかり飲んでますからねお茶飲みたくなるとね隣の家行ってますよ。
ええ。
隣の家はね自分の家のように親しくしてましてねでどこへお茶筒があってどこへお菓子があってどこへ漬け物があるかみんな分かっちゃってるんですよ。
隣の家は」。
「隣の家の様子が分かってお前自分家の様子が分からねえのか全く。
へっな〜。
しかしよお前どうでもいいけんどよ他人様の家をガ〜ラガラガラガラかき回すでねえよ本当にな。
まぁなんだお前独り身だからってよええ?そんなふしだらな真似するでねえよ本当にな。
あ〜なんだ全くええ?お前の前だけんどよええ?来て早々文句言う訳じゃねえけんどよお前いつになったら大学卒業するだ?全く。
あんないい大学に入ってお前4年も落第して全く。
ええ?お前いつになったら大学卒業するだ?」。
「いや〜お父さんとにかくね東京はですね物価は高いですからね」。
「何だ?物価と睨み合いして落第してるか?全く。
カッまぁどうでもいいけんどええ?仕送りするお父っつぁんの身にもなってみろや本当に。
なまやさしい金じゃねえよ本当にな。
ああ〜一応ス〜ラスラス〜ラスラ仕送りしてるけどよまあ〜おふくろと相談しながらそっこら中にお前頭下げてお前東京へ送ってんだ本当に。
ええ?お前いつになったら大学卒業するんだい?」。
「あ〜とにかくお父さんね東京は物価が高いですからね。
とにかく私が子供の時小川でただで取った泥鰌が東京じゃ10万円からしますからね」。
「えっ?10万円もするか?泥鰌が」。
「ええ。
10kgで」。
「当たり前だばか野郎め。
10kgなんて買うばかがどこに居てやんだばかだな〜。
ア〜ッまぁしかしよお父っつぁん汽車の中でいろいろと考えたんだけんどよお前なんかもう高等学校の履歴書でお前勤めに出たらどうだ?ああ?本当はお父っつぁんな大学の卒業証を見たかったんけんどよもう諦めた。
なんだお前お前高等学校の履歴書でもって勤めに出たらどうだ?」。
「でもお父さん初任給15万ですからねなかなか生活できない」。
「だからお前仕送りするよ」。
「えっ?仕送りしてくれますか?今までどおり」。
「今までどおりって訳にいかねえけんどよええ?足りねえとこはお前いくらでも仕送りするよ親子だから」。
「じゃあ勤めに出ましょうか?」。
「勤めに出ましょうかってお前そんな簡単に勤め先があるか?」。
「いや〜実はですね先輩にお願いしましてねこういう会社はいい会社ではないかと思いましてね先輩に何度も何度も猛アタックしましてねでもうね勤め先は決まってんですよええ。
明日からでも勤めに出られるんです」。
「そりゃお前ええ?手回しが良かったな。
じゃあお前勤めに出るか?あ〜お前も中学高校とは成績良かったんだけんどなどうしてこうなっちまったか全く。
ええ?お前道端で友達に会うと『おじさんおじさん』つうから『何だね?』っつうと『いや〜敏夫君大したもんですよ。
ズ〜ッとトップですよ。
どう下がっても3番より下がった事ありませんよ』なんて。
ああ?あ〜まぁ先生は先生で『どうです?東京の一流の大学に入れませんか?きっと一発で合格しますよ。
もう私が責任を持ちますから』なんてなああ〜先生があんまり言うもんだからよ家へ帰ってきてお前おふくろに話したら『いや〜お父っつぁん2年か3年の辛抱ああ。
『石の上にも三年』て譬があるんだから大学出てるのと出てねえのじゃ先行き当人にとっても大変な問題になるから』ってなおふくろがお前乗り気になったもんだからよ東京によこしたんだけんどなああどうしてこうなっちまったかな。
あ〜しかたがねえしかたがねえ。
じゃあお前勤めに出るだな?あっそうか?ああ。
あ〜これで俺も安心しただ勤めに出るか。
ああ。
でも敏夫お前が勤めに出るとなるってぇと今度はいよいよお前女房だな」。
「えっ?女房もらっていいですか?」。
「いいどころじゃねえよお前。
『大学卒業したらな勤め先が決まらなくっても女房が先だ』なんてなまあ〜おふくろがよ四方八方に頼み込んでよ見合い写真のお前50枚も集めちまっただよ。
だけどまあ〜お前があんまり落第してるもんでな言い訳に困っちゃったらしいや。
で先月な訳言ってみんな返しちまっただよ。
見合い写真の50枚も。
ああ。
だからよ俺がお前田舎の娘連れてきてもいいけんどよなんだよお前気に入った人がいたらお前東京の娘もらっても構わねえよ」。
「えっ?構わないですか?僕が勝手に持って」。
「いや。
勝手って事はない勝手って事はねえけんどよまぁ一応親子だからお前相談してもらいてえけどよ」。
「じゃあ持ちましょうか?」。
「お前荷物じゃねえんだからいくらなんでもお前そんなに『持ちましょうか?』って。
じゃあなにかい?お前気に入った人がいるのかい?」。
「いや実はですねこういう女性だったらね僕にはですね似合いの夫婦じゃないかと思いましてねでまぁお父さんお母さんには親子ですからあとで相談しても許してもらえるじゃないかと思って。
でも問題はですね先方の両親ですからね。
先方の両親が『駄目だ』と言ったらこれは破談になっちゃいますからですからね先に先方の両親に掛け合っちゃいました」。
「じかにか?仲人も頼まねえでか?カ〜ッお前いい度胸してるな。
ええ?で何つった?」。
「いやお父さんと同じような事言ってんですよ。
『近頃はですねボーイフレンドだガールフレンドだなんつってねもう恋愛結婚が常識になってますけどこれはどうも納得いかない』ってんですよ。
ええ。
『やっぱり結婚というものはですね両方の親族が合意の上でもって厳粛なる神前結婚式を挙げたい』ってこう言うんですよお父さん。
せっかくお父さん東京へ出てきたんですから見てってくれますか?」。
「見てってくれますかってお前じゃあなにか?お前来てるか?」。
「ええ。
隣まで来てるんですよ」。
(笑い)「本当か?まるっきり。
ええ?。
じゃあまぁいいやせっかく来たんだからええ?会っていくべえ」。
「あっ会って頂けますか。
そうですかどうも。
お父さん。
登美子と申します」。
「あっお父様でございますか。
どうぞよろしくお願い致します」。
「いや〜アハハハハ痛痛っ。
いや私はね敏夫のねあの〜なんでございましてね。
まぁまぁまぁ頭上げて頭上げて。
いやいやそんなね堅っ苦しい挨拶されるとねこっちは仁義に困っち…。
まぁまぁまぁ頭上げて。
なんでございますねまぁ詳しい話は敏夫から聞いてるでしょうから私は何も言いませんがねええ。
ハア〜ッどうでしょう。
縁があったら一緒になってやってもらえませんかね〜?いやいやいやこれはね当人同士がいいって言えばねああ九分九厘まとまったようなもんでしてねあとはもう親の承諾を得るだけでございますけどもまぁ親の口から言うのもなんでございますがこの野郎はええ胆に悪気のねえいい奴でございましてねその上体も丈夫ですしねどうでしょう?縁があったら夫婦になってやってもらえませんかね?あっあ〜そうですか。
あ〜どうもどうも。
ありがとうございますありがとうア〜ッハ〜ッ。
ありがてえありがてえハ〜ッハハハハ。
どうぞ夫婦円満にやっておくんなさいまし。
ハア〜ありがてえこれで俺も肩の荷が下りただよ。
あ〜ありがてえありがてえ。
うん。
でも敏夫ええ?お前が女房持つとなるってえとよ今度はいよいよお前孫の顔だな〜」。
(笑い)「お父さん。
そんなに孫の顔って見たいですか?」。
「ああ。
まぁなんだな若えうちは何ともなかったけんどよう〜ん年取るとな前の家でもって『孫が生まれた』やれ『宮参りだ』やれお前『幼稚園だ』なんてのを聞く度にな羨ましくて羨ましくてな〜ああ。
『家の敏夫も大学卒業してりゃ今時分は孫の顔だんべえ』なんてな。
ハア〜おふくろはのべつ愚痴こぼしてるだよ。
だがな女なんてなぁ愚痴が多いからしかたねえってけどよ。
でも敏夫お前も1年も経ちゃいよいよ孫の顔だな〜」。
「お父さん」。
(笑い)「そんなに孫の顔って見たいですか?」。
「ああ。
まぁなんだなお前こういうもんがトント〜ンとまとまるってぇとよ一日も早くお前孫の顔が見たくなったな」。
「じゃあ見せましょうか?」。
(笑い)「敏夫お前そう慌てる事はねえよああ。
科学文明はな宇宙の時代にいくようになったけんどよまぁこの道ばかりはな十月十日経たねえと生まれねえらしいからよ。
ああ急いだってお前落ち着いたって大した変わりはねえよああ。
自然に任したほうがいいよああ本当だ本当だ」。
「でもお父さん見たいんでしょ?」。
「そりゃ見てえやなお前。
一日も早く見てえやな」。
「見たいんでしょ?」。
「うん」。
「見たいんでしょ?お父さん」。
「ああ」。
「見たいんでしょ?」
(笑い)「見たいんでしょ?見たいんでしょ?お父さんがねきっとそういう愚痴をこぼすんじゃないかと思いましてね実は1人だけこしらえときました」。
「ええっ?できてるか?アア〜ッ連れてこいそれを。
アタタタタッア〜ッあれまあ〜お前ええ?子胤は盗めねえってけど本当だなお前ええ?あ〜お前にうり二つだ。
な?ベロベロベッバア〜ッ。
ア〜ッ笑った笑った。
お祖父ちゃんだお祖父ちゃんだ。
何でええ?泣きもしねえや。
ハア〜血のつながりってなぁ恐ろしいもんだな全く。
あ〜敏夫それでお前名前何て付けた?名前。
ええ?貞坊?貞坊か。
ハア〜お前いい名前付けてもらったなお前。
貞坊か。
ああ〜。
俺が村じゃな秋になるってぇと毎年洪水で困ってるだよ」。
(笑い)「貞坊
(堤防)か。
名前聞いただけでもかわいいやな。
ベロベロベッバア〜ッ。
さぁさぁさぁ泣かねえうちにほれおっ母さん所行けおっ母さん所へな。
ハア〜アッ」。
「敏夫。
孫っちゅうもんはこんなにかわいいもんかな?今まではただ『孫が欲しい孫が欲しい』と思ってたけんどよいざ『これが俺の孫か』と思ったらよにじみ出るようなかわいさって本当だなアハハハハ。
ええ?お父っつぁん涙出てきちまっただエヘヘ。
敏夫。
俺悲しくて泣いてるでねえよ。
うれし涙ってなぁ生まれて初めてこぼしたああ。
悪くはねえもんだなアハハハハハ。
でも敏夫この子がよ1年も経ちゃお前歩くようになるしさ2年も経ちゃお前『お祖父ちゃ〜んお祖父ちゃ〜ん』ってお前俺の後を追っかけてきて俺の腰にぶら下がって『銭下っせえ銭下っせえ』なんて事言われたら敏夫たまらなくかわいかんべえな」。
(笑い)「お父さん。
そんなにお祖父ちゃんて言われたいですか?」。
「ああ。
まぁなんだなお前ええ?『これが俺の孫か』と思ったらよ一日も早く『お祖父ちゃん』て言わせたくなったな」。
「じゃあ言わせましょうか?」。
「敏夫。
お前ええ?いくらスピード時代だからってよこの子が急に大きくなってまさかお前お祖父ちゃんとは言わなかんべえ」。
「いや。
言いますよ」。
「ええっ?言うか?」。
「ええ。
言いますとも。
おい。
みんなこちらにお祖父ちゃんだからこちらに」。
「お祖父ちゃんこんにちは」。
「お祖父ちゃんこんにちは」。
「お祖父ちゃんこんにちは」。
「あっ」。
「ハ〜ッハ〜ッハ〜ッハ〜ッハ〜ッハア〜ッハ〜ッ」。
「敏夫。
俺頭が変になっちまっただ」。
(笑い)「俺お前の所来てまださ30分しか経ってねえのによ4〜5年もいるような心持ちになるな。
あ〜どの子もどの子もお前に似てうり二つだ。
ハア〜5人も孫がいるとは驚えたでや〜結構結構うん。
お父っつぁんとやかく言わねえよ。
ああ。
おふくろもお前きっと喜ぶべえや。
な〜?あ〜ありがてえありがてえうんハハハハハ。
でも敏夫この孫たちがよスクスクスクスク育ってよ『婿を取るだ』『嫁取るだ』なんて事言ったら敏夫たまらなくかわいい…。
あっあ〜おっかねえおっかねえあ〜おっかねえおっかねえくわばらくわばらあ〜おっかねえおっかねえ」。
「お父さん。
何を急にそんなに怖がってんですか?」。
「あれまあ〜うっかりした事言ったらまたどんなでけえ子が現れるかもしれねえ」。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2014/08/16(土) 04:30〜04:59
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「表札」[解][字][再]

落語「表札」作:鈴木みちを▽桂米助▽第660回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「表札」作:鈴木みちを▽桂米助▽第660回東京落語会
出演者
【出演】桂米助,斎須祥子,金近こう,瀧川鯉○,三遊亭遊松,柳家小はぜ

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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