血に飢えたオオカミか?それとも恐怖の狼男か?鋭い牙と長いかぎ爪で人肌を切り裂きその肉を食らう巨大な野獣。
その名は…事件から250年がたった今もその惨劇は人々の脳裏に底知れぬ恐怖として焼き付いているのです。
フランスの山里で起きた未解決の連続殺人事件。
神出鬼没にして不死身の獣。
100人の命を奪ったその正体はいまだ謎。
最新の研究から見えてきた被害が増えた原因。
それは人災。
庶民の危機に国王は何をしたのか?闇が誘う不可思議な謎。
光が導く検証と真相。
2人の栗山千明があなたと共に幻を解き明かしていきます。
常識を超えた巨大な獣。
これは2012年にカナダで捕獲されたオオカミである。
体重は72kgで現地の平均的なオオカミの2倍近く。
寒い土地で体温を維持するためにオオカミはまれに巨大化する事があるという。
しかし18世紀のフランスに現れたジェヴォーダンの獣はこうしたオオカミとも異なる謎の生物だと言われている。
フランス中央山地に位置するジェヴォーダン地方。
1,000m級の山々に囲まれ村人が酪農や林業で暮らす地。
ある牛飼いの女性がいつもどおり放牧の番をしていた。
そこに…。
(悲鳴)1頭の巨大な獣が襲いかかった。
女性は鋭い爪で服を引き裂かれ体じゅうに傷を負ったが一命は取り留めた。
この事件の記録の中に彼女を襲った獣の姿が記されていた。
それは村人が見慣れたオオカミとは異なる姿だった。
「化け物は子牛ぐらいの大きな体で頭はオオカミよりも大きく鋭いかぎ爪を持ち背中には一筋の縞模様があった」。
数日後最初の襲撃場所から10kmほど離れた村で少女が行方不明になった。
翌朝少女は死体で発見された。
無残にも内臓を食われていたという。
ジェヴォーダンの惨劇はこうして幕を開けた。
謎の獣は度々出現。
犠牲者は3か月で20人以上に上った。
しかも犠牲者のほとんどが狙い澄ましたかのように抵抗する力の弱い女性や子どもばかり。
更に野獣は人知を越えた不思議な現れ方をして人々をおびえさせた。
ある日ベルグヌーという村で10歳の少女を襲った野獣は同じ日に南西に50kmも離れた村に現れ15歳の少年を襲った。
野獣は広大なジェヴォーダン地方の遠く離れた場所にほぼ同時に現れたのだ。
まさに神出鬼没。
険しい山々を越え予期せぬ場所で人々を襲い続けた。
またある日山狩りをしていた村の猟師が野獣を発見。
(銃声)野獣は致命傷を負ったかに見えた。
ところが数日後には別の場所に現れ殺りくを続けたのである。
この野獣事件の背景には当時のフランスの山村が長年抱える問題があった。
(砲声)16世紀フランスでは30年以上に及ぶ激しい内戦があった。
カトリックとプロテスタントの争い。
劣勢だったプロテスタントの一部は山深い地方へと避難。
ジェヴォーダンでも2つの宗派が混在し住民同士の不信と対立の感情が残されていた。
また長い内戦は野生動物にも影響を与えた。
戦いで山里が荒廃すると生息環境のバランスが崩れ数が増えたオオカミが盛んに出没するようになったのだ。
こうした不安を抱える地方に現れた謎の野獣。
オオカミよりもはるかに大きく凶暴な上人知を越えた行動。
未知の獣が何頭もいるのか?あるいは不死身なのか?もしや狼男か?それとも本物の魔物か?村人の恐怖は膨れ上がった。
謎の野獣事件はジェヴォーダン地方から600km離れたフランスの都パリにも伝わる。
連続猟奇殺人の話題に新聞は飛びついた。
「ある者は背中に一筋の縞模様がある事からハイエナではないかと語る。
またヒョウのようだとも言われている」。
臆測交じりのセンセーショナルな話題はフランス全土そしてヨーロッパ各地に広まっていった。
イギリスのある新聞は「フランス軍兵士2万5,000と大砲の全てが野獣に食べられてしまった」と揶揄するように報道。
事件の解決にはフランスの名誉が懸かっていた。
事件発生から5か月後国王ルイ15世はばく大な資金を投じジェヴォーダンに野獣討伐隊を送り込んだ。
フランス軍の精鋭部隊竜騎兵。
別名ドラゴン。
華麗な軍服で着飾り馬で原野を駆ける55名の兵士たち。
これで野獣も退治される。
村人たちは胸をなで下ろした。
しかし…。
竜騎兵は狩りについては素人だった。
山狩りでは獣を追い立てようとドラを鳴らしながら進んだがかえって獣を遠ざけてしまった。
3か月たったある日。
2万人が参加した山狩りでついに野獣が姿を現した。
(銃声)撃たれた野獣は一瞬崩れたが起き上がり森へ逃げていく。
追いかける竜騎兵。
ところが野獣を追い込んだ竜騎兵は意外な行動を取る。
山深く馬が入れない場所でも彼らは馬から降りようとしなかった。
足元がおぼつかない竜騎兵を置いて野獣は姿を消してしまったのだ。
打つ手がなくなった竜騎兵はこんな作戦まで…。
兵士を女装させ放牧の子どもたちに同行。
野獣を待ち伏せる作戦だ。
しかし野獣はわなを見透かしたのか別の場所を相次いで襲撃。
国王の軍隊が失敗を重ねる中犠牲者はその数を重ねていく。
村人は自分の身は自分で守るしかない状況へと陥ったのである。
ヨーロッパのある地方に「戦争はオオカミの兄弟である」ということわざがあるそうです。
戦争によってたくさんの兵士たちの死体が放置されるとオオカミが現れそれを食べてしまう。
そうしたオオカミは人を恐れなくなる上狩りをする男たちが戦に取られているためにその数はどんどん増えていきます。
実際フランスでは16世紀カトリックとプロテスタントの内戦のあとオオカミによる被害が急増。
その激しさは「人間とオオカミの戦争が始まった」と記録されるほどでした。
野生動物による災害に付きまとうのは「その原因は人間が自ら作ったのではないか」という疑い。
そしてジェヴォーダンの獣事件の背景にもこの「人災」という文字が見え隠れするのです。
国王の軍隊は獣にかなわないと知った人々はもう一つの権威宗教勢力に救いを求めた。
ところが当時この地を管轄する司教は2つの宗派が入り交じるジェヴォーダンの人々に残酷な言葉を投げかけたという。
司教は各地域の教会に文書を出しこう語っています。
「野獣はオオカミや普通の獣ではなく神が人々の罪を罰するために地上に送った特別な獣なのだ。
これは天罰なのだ」と。
更に人々は地元の土地を支配する領主からも見放された。
これは野獣から身を守るため領主から許された数少ない武器。
棒の先に短剣を付けただけの簡素な槍だ。
犠牲となったのは虐げられた地域のより弱い人々だった。
このジェヴォーダン地方は隔絶され孤立していました。
貧しく見捨てられてもいました。
子どもたちは生活を支えるため放牧の仕事をしなければなりませんでした。
子どもがいない家ではその役目は女性でした。
誰も効果的な手を打てないまま野獣の襲撃は続いていった。
ところが…。
発生から1年3か月。
事件は急展開を迎える。
(銃声)国王ルイ15世が新たに派遣した射撃の名手ボーテルヌが野獣をしとめたのだ。
確かに通常のオオカミより巨大だったが多くの目撃情報で見られた背中の縞模様はなかった。
ともかく事件は解決。
国王ルイ15世は安堵した。
ところがその2か月後…。
(悲鳴)牛の番をしていた2人の少年が何者かに襲われた。
1人は死亡。
生き残った少年は証言した。
「背中に一筋の縞模様がある野獣だった」。
惨劇の知らせは国王の元に。
ところがルイ15世はこれを無視。
事件は既に解決済みという考えだったのだ。
再び始まった殺りく。
しかもこれまでより更に異様な状況が続いた。
刃物で切られたように切断された遺体が続出。
中には遺体の上に帽子が掛けられている事もあった。
もしや野獣に見せかけた人間の仕業なのではないか?かつての内戦以来この地には異なる宗派の住民同士不信感が根強く残っている。
自分の隣人が怪しいかもしれない。
村人たちは疑心暗鬼にとらわれていった。
事件発生から丸3年。
地元の猟師…その後殺人事件はぴたりとなくなった。
ジェヴォーダンの惨劇は突然幕を下ろしたのだった。
獣の死骸を見た人々は口々に怪物だと語った。
しかしルイ15世は直ちに埋めるよう命じたという。
その後死骸の行方は確認されていない。
野獣の正体は未解決のままとなった。
巨大なオオカミハイエナ犬とオオカミの交配種…。
1頭なのか複数なのか…。
人間の手による殺人もあったのか…。
真相は闇の中である。
小高い丘の頂に立つ野獣と少女の像。
手製の槍で自分の身を自分で守るしかなかった村人たち。
国から見放され恐怖におびえながら毎日を生き延び続けた人々の悲劇の物語がここにある。
野獣の正体は一体何だったのか?現代でも意見は分かれもしかすると永遠のミステリー謎のままで終わるかもしれません。
でもたとえ獣の正体が定まらなくても事件の背景からは……などさまざまなテーマが見えてきます。
謎と悲劇の事件。
そこから私たちが学べる事はまだまだたくさんありそうです。
「幻解!超常ファイルダークサイド・ミステリー」。
次回もお楽しみに!2014/08/16(土) 02:25〜02:45
NHK総合1・神戸
幻解!超常ファイル「未解決!ジェヴォーダンの獣事件」[字][再]
巨大な野獣に100名以上が殺された惨劇「ジェヴォーダンの獣事件」。神出鬼没、不死身の怪物の正体とは?なぜ犠牲者を止められなかったのか?栗山千明が悲劇の闇に迫る。
詳細情報
番組内容
250年前のフランスで、オオカミより巨大な獣に100名以上が殺された惨劇「ジェヴォーダンの獣事件」。殺りくを重ねる獣は、銃に撃たれても数日後には別の場所に何事もなく現れる…。神出鬼没・不死身の怪物に、山間の寒村・ジェヴォーダン地方は恐怖のどん底に…。野獣の正体は?なぜ被害を食い止められなかったのか?見え隠れするのは、当時の社会が抱えた矛盾?悲劇の事件の闇に光を当てる。出演:栗山千明 語り:中田譲治
出演者
【司会】栗山千明,【語り】中田譲治
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
アニメ/特撮 – その他
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