(池上)こんばんは。
池上彰です。
8月15日。
またこの日がやって来ました。
終戦記念日です。
(池上)私たちの国は来年で終戦70年を迎えます。
1941年12月8日。
日本は真珠湾を攻撃。
太平洋戦争の始まりです。
日本は南太平洋にある資源豊かな国々を攻めかつて欧米の勢力下にあった地域を次々と占領していきました。
しかし1942年の6月。
(池上)アメリカ軍の反撃を受けミッドウェー海戦をはじめガダルカナルトラック諸島サイパングアムニューギニアなどで敗北。
戦況が悪化の一途をたどっていたことは皆さんもご存じのことでしょう。
実はそんな中でも持久戦に耐え続けた戦場がありました。
パラオです。
人口およそ3万4,000人の小さな島国。
(池上)パラオも戦争で奪い取った土地なのか?うーん。
そう思ってしまうかもしれませんが実はそうではないんです。
当時のパラオはドイツの植民地でした。
しかし第1次世界大戦でドイツが敗れたため国際連盟によって日本がパラオを委任統治するように決められたのです。
委任統治とは将来独立できるようになるまで統治するということですから当時の日本は道路整備や病院の建設など25年にわたって支援を続けていました。
そのパラオもまた太平洋戦争の戦火にのまれていきます。
(池上)パラオ最南端の島ペリリュー島。
この島で実に77日間にわたる激戦が繰り広げられました。
その指揮官を務めたのが守備隊の隊長中川州男さんです。
私たちは中川さんの親族にお会いしてお話を聞き中川さんとパラオの住民たちとの間に深い絆があったことを知りました。
そして戦火の中奇跡の生還を果たした上等水兵の土田喜代一さん。
ことし94歳になった土田さんにも貴重なお話を聞かせていただきました。
さらにパラオには愛のために戦った伝説の日本人女性兵士がいたことをご存じでしょうか?激戦の島には知られざる愛と絆が幾つもあったのです。
天皇陛下も来年にはご訪問を希望されているというパラオ。
あの忌まわしい過去を繰り返さないためそして戦争が残した教訓を忘れないため今私たちが知っておくべき物語を今夜ご覧いただきます。
(土田)敵襲!敵襲!戦艦4隻。
巡洋艦3隻。
駆逐艦数隻に輸送船。
合計51隻!
(中川)各地区の諸君。
いよいよ決戦のときが来た。
(中川)ここパラオペリリューは大本営が絶対国防圏とする最後陣地である。
ここを防衛することが日本を守ることになる。
勝利を獲得し祖国の安泰と日本国民の繁栄のために全身全霊を捧げ敵を撃滅せよ。
わが連隊は永劫に不滅である。
各個奮励努力を頼みたい。
命あるかぎり戦え。
そして生きぬくんだ。
太平洋に浮かぶパラオ共和国ペリリュー島
サンゴ礁と青い海に囲まれた緑豊かな島だ
アメリカ軍は2〜3日で島を占領できると予想したが中川大佐率いる守備隊は抵抗を続け70日を超える激戦の舞台となった
アメリカ軍最強とうたわれた第一海兵師団第一連隊は全体の60%近くもの損失を出して壊滅状態に陥った
このことは長く秘することであったが後にスピルバーグの作品『THEPACIFIC』によって世界に知らしめることとなった
ペリリュー島で戦う師団は当時極寒の満州に駐屯していた部隊であった
師団は満州の地において関東軍と称されていた
その関東軍の中心を成していたのがこの第十四師団である
海軍がそれほどの大打撃を被るとは。
(井田)タラワにマーシャルトラックと侵攻されて日本の防衛線は縮まる一方だ。
このままでは南洋諸島を敵に委ねることになります。
外堀を突破されればフィリピンは直接攻撃を受けることとなり台湾沖縄。
ひいては日本本土は丸裸同然となります。
そこでわれわれ陸軍第十四師団に派遣命令が出た。
われわれは中部太平洋方面に?大日本帝国の崩壊を南方で食い止めねばならない。
中川君。
南の国で一緒に戦ってくれ。
はい。
・
(光枝)あなた。
これでいいですか?うん?うん。
珍しいな。
着物姿なんて。
(光枝)お見送りの日ですもの。
一番好きな着物を着てみました。
どうでしょう?うん。
よう似合うとる。
今度の任地は夏服が必要なところなんですね。
今回の演習は長くかかるかもしれない。
当分帰れないだろうからお前も満州を引き揚げて内地に帰りなさい。
日本へ?分かりました。
熊本でお帰りをお待ちしております。
光枝。
はい。
杯を用意してくれんか?えっ?でも…。
厄よけの酒たい。
別れの杯じゃなか。
あっ。
はい。
光枝。
餞別にあれを歌ってくれんか?はい。
・「春よ来い早く来い」・「あるきはじめたみいちゃんが」・「赤い鼻緒のじょじょはいて」・「おんもへ出たいと待っている」いってらっしゃいませ。
ご武運をお祈りしております。
うん。
お前もくれぐれも体を大事に。
次の春には日本の桜を一緒に見ましょうね。
必ず。
終戦1年前。
1944年の春
中川大佐は極寒の満州から赤道直下へと向かっていきました
当初行き先も知らされずに南へと向かっていた第十四師団は3月末のパラオ大空襲に伴い急きょパラオに転用されることが決定した
中心地のコロールには南洋庁をはじめ日本と同じような警察署や郵便局商店街などが立ち並んでいた
日本語を話せるパラオ人も多かった
日本人はパラオに電気を通し橋を架け道路を舗装
大人には稲作や野菜作りなどを教え子供たちには教育の場をつくった
しかしそんな中パラオを巡る戦いが始まっていく
パラオに上陸した第十四師団は満州に駐屯していた帝国陸軍の中でも最強と呼ばれる部隊だった
栃木県に司令部を置き宇都宮高崎そして中川大佐率いる水戸の第二連隊などで編成されていた
(山村)のどかで美しいところだな。
(伊藤)今度は南方だと聞いてはいたがパラオだったか。
しかし本来ならばマリアナ諸島に行くはずだったそうじゃないか。
なぜわれわれ第二連隊がこんな小さな島に?戦局が変わったんだろう。
このパラオでも大きな空襲があったらしい。
(西野)暑い。
やけどしそうだよ。
(高木)セ氏35℃だそうだ。
(西野)冗談だろ?満州は零下35℃だったのに。
水あるか?
(高木)ここじゃ水は貴重品になるぞ。
おい。
(黒崎)整列!
(黒崎)連隊長殿に敬礼!
(兵士)捧げ銃!
(兵士)立て銃!
(黒崎)注目。
諸君。
われわれは軍司令によりこの南洋諸島のパラオを防衛する。
(一同)おーっ。
本日4月24日。
20日間に及ぶ長旅ではあったが満州より無傷で着任できたことをうれしく思う。
われわれを輸送した艦船は直ちに帰還し第四十三師団をサイパンへと派遣する。
従ってわれわれは50時間以内に陸揚げ作業を完了せねばならない。
戦車。
重火器。
水。
食料。
物資。
本来ならば100時間かかっても不可能かもしれない。
しかしその不可能を可能にするのがこの十四師団の将兵である。
(一同)おおーっ!直ちに陸揚げを開始せよ。
パラオに派遣されたその多くは士官学校出身の現役兵で肉体精神共に鍛えぬかれた精鋭部隊であった
海軍の町として栄えたコロールの町には芸者の置き屋や料亭も残されていました
(小鈴)また現地の人たちが犠牲になってる。
戦争なんてやめちまえ。
・誰かおらんのか?貴様。
ここの者か?貴様。
ここの者かと聞いておる。
(小鈴)ハァー。
偉そうに。
今何と言った?
(小鈴)そんなに偉そうに言うなら返してくださいよ。
何をだ?
(小鈴)みんな。
みんな?ここで働いていた人もみんな空襲で死んじゃったし他の料亭だってみんな燃えちゃって。
島の人だって何人も。
貴様おかしいぞ。
おかしいのは軍人さんの方でしょ?みんな死んで。
みんな壊れて。
それで平気だなんて。
貴様許さん!「貴様許さん!」がまた始まった。
どうするの?えっ?どうするの?貴様!・
(八重子)小鈴。
小鈴。
どうしたのさ?
(小鈴)この人が勝手に入ってきて私に…。
違うだろ!
(小鈴)私は勝手されませんから。
(小鈴)力ずくの男なんて絶対に許しません。
話にならん。
女将か?
(八重子)あっ。
はい。
どうぞ。
お上がりください。
いや。
ここでいい。
自分は第二連隊の伊藤少尉である。
今日から軍がこの料亭を借り受けるので挨拶に来た。
(八重子)まあまあ。
恐れ入ります。
将校さま5名。
お代は前受けでお預かりしております。
よろしく頼む。
師団長。
大本営は何と?
(井田)君と同意見だった。
米軍はフィリピンの前にパラオ諸島に侵攻するだろうという公算だ。
やはりそうでしたか。
パラオはフィリピンへの後方支援基地として。
また中部太平洋における補給基地として重要な拠点となる。
(沢口)中でもペリリュー島にはわが軍の大きな飛行場がある。
(福山)うん。
戦略的価値は高い。
ああ。
(井田)各部隊の配備だが。
(井田)ペリリュー島は水戸歩兵第二連隊に。
はい。
(兵士)はい。
(井田)アンガウル島は宇都宮歩兵第五十九連隊に。
(沢口)はい。
(井田)そして高崎歩兵第十五連隊は師団直轄の機動部隊としてこのままパラオに待機してくれ。
(兵士・福山)はい。
われわれに日本の未来が託されている。
(福山)中川。
おお。
福山。
(福山)最重要のペリリュー島は中川大佐か。
同期の中じゃ貴様が一番の出世頭だな。
何を言うか。
貴様こそ師団直轄の機動部隊ではないか。
本丸の守りしっかりやれよ。
(福山)ああ。
アハハ。
しかし貴様の顔を見ると昔を思い出す。
うん?
(福山)士官学校のころ作戦計画の報告書を出すたんびに教官と意見が対立しむきになって言い合いをしていた。
兵士の命を預かるんだ。
むきになって当たり前だろう。
(福山)変わらんなぁ。
おう。
うちの連隊からも春日大尉の部隊がペリリュー島に参加する。
(福山)お互い死出の船出だな。
健闘を祈る。
そのころ米軍は日本本土への上陸を最終目標としマッカーサー大将率いるアメリカ陸軍はニューギニアを
一方ニミッツ提督率いる海軍は太平洋中央部を西に進んでいた
ニミッツ提督はフィリピン侵攻の成功のために9月15日までにパラオへの攻略を実施するよう命令を受ける
そしてパラオ諸島のどこを狙うか検討し攻略が容易に見える小さい島ペリリュー島が選ばれた
ペリリュー島への上陸部隊はガダルカナル島を占領し米軍最強とうたわれた第一海兵師団が担当することとなった
図らずも日米の最強同士がこの小さな島ペリリューで相まみえることになるのである
・・
(三味線の演奏)失礼。
・
(三味線の演奏)・おい。
誰もおらんのか?おい!
(小鈴)いらっしゃ…。
あんたか。
おい。
女将はおらんのか?女将さんは今買い出しに行ってます。
・
(足音)三味線の音が聞こえていたが君が弾いていたのか?あっ。
はい。
はい。
あっ。
はい。
まったく。
変な女だ。
お前は芸妓の見習いなのか?
(小鈴)あんたには関係ありません。
何だと?ほう。
2人は知り合いか?いえ。
挨拶に来たときに会っただけであります。
あのう。
女将さんすぐ戻りますのでどうぞお上がりください。
あっ。
荷物は届いてます。
うん。
よろしく頼む。
どうぞこちらに。
あっ。
あっ。
今。
今すすぎを。
うん。
(小鈴)中川さま。
戦争はお好きですか?うん?戦争はお好きですか?変わった質問だな。
すてきだった町ががれきの町になろうとしている。
仕掛ける人も仕掛けられる人も戦争は悪いことなんじゃありませんか?何でお偉いさんが止めようとなさらないのですか?うまい。
これほどうまいお茶を久しぶりに飲んだ。
ありがとうございます。
ほう。
案外と素直なんじゃないか。
はい。
まあ聞きなさい。
好き嫌いで測れるものじゃないだろう。
戦争というものは。
争いは人間が誕生したときから始まっている。
どれだけの時間を費やせば本当の意味で争いがなくなるのか。
人間がその愚かさに気が付くのか。
誰にも分からない。
もしかしたらまだまだ何万年もの時間が必要なんじゃないかと。
私はそう思うんだよ。
何万年ですか?君は戦争は嫌いか?はい。
戦争が好きな人間などいません。
すみません。
ではごゆっくり。
(小鈴)失礼いたします。
伊藤さま。
お茶です。
そこに置いておけ。
お前はこの島はもう長いのか?3年ほどです。
出身は?栃木の那須というところでございます。
そうか。
自分は茨城の水戸出身だぞ。
何だ。
隣じゃないですか。
「何だ」とは何だ。
それにわれわれ第十四師団の司令部は宇都宮にある。
栃木はなじみのある土地だ。
那須の山から水戸にも続いている那珂川が流れているでしょう?小さいころ素っ裸でよく遊んだな。
あっ。
もういい。
出てってくれ。
(山村)おい。
飯は何時だ?5時です。
すぐに用意いたします。
(山村)うん。
酒は付くのか?皆さま1合ずつでございます。
お前カワイイではないか。
(小鈴)やだ。
失礼します!
翌日からペリリュー地区守備隊長中川大佐の島の視察が始まりました
こら!いいんだ。
しかし。
子供たちにとってみればわれわれは島を占領している邪魔者だ。
嫌われてもしかたがない。
さあ行こう。
(黒崎)村長殿。
中川隊長です。
中川です。
(村長)村長のエレギです。
このたびはお世話になります。
どうぞ。
(ジェイド)心の小さい村人もいますから。
村長。
この島はわれわれが必ず守ります。
安心してください。
(黒崎)ジェイドさん。
よろしく頼みます。
ペリリュー地区の守備隊には海軍も編成されており見張り所を造って敵の襲来に備えていた
(土田)奇麗な海じゃなぁ。
(土田)ほんなこつ美しか。
・
(寺岡)土田!
(土田)はい。
(寺岡)海ばっかり見てないで空を見ろ!先に敵を見つけた方が戦いを制するんだ。
(土田)はい!分かっております!
(寺岡)バカ者!
(ジェイド)あれが村です。
・
(八重子)今ごろ初恋かい?
(小鈴)そんなんじゃありません。
(八重子)軍人さんは嫌いじゃなかったの?
(小鈴)嫌いです。
大嫌いです。
(八重子)今までどんな男に言い寄られても絶対にほれたりしなかったのにね。
ふーん。
(黒崎)いいですね。
全て見渡せます。
隊長。
ここに本部を置くことにしましょう。
うん。
(黒崎)しかしこうやって歩いてみると想像していたよりずいぶん小さく感じるな。
(春日)はい。
広大な満州とはえらい違いです。
下は隆起珊瑚礁の石灰岩でしょうか。
ずいぶん硬いですね。
(ジェイド)サンゴの死骸が何億年もかかって盛り上がったものね。
(春日)ああ。
だけどこう凸凹では歩くのもままなりませんね。
それがわれわれの武器になる。
凹凸の多い地形。
無数とも思える洞窟。
それらを逆に利用することができれば強力な防衛陣が出来上がる。
(黒崎)ジェイドさん。
この島にはホントに川は1本もないんですか?
(ジェイド)はい。
ないです。
(黒崎)約1万人の兵士の飲み水をどう確保するか。
(黒崎)それが問題ですね。
うん。
(山村)逃げることはないだろう。
(山村)まさか最期の地でお前のような女に出会えるとはな。
(小鈴)最期?
(山村)ああ。
生きて再び祖国の地を踏めることはないだろう。
小鈴。
俺の女になってくれ。
お前との思い出があれば俺はこの先戦っていける。
(小鈴)嫌!放して。
(山村)小鈴。
(小鈴)嫌!あっ。
やめて。
やっ。
・何をしている!おい!伊藤。
山村。
貴様。
この非常時を何と心得ている!?気取ってんじゃねえぞ。
何?
(山村)この野郎!非常時だからだろ!貴様だって分かってるはずだ。
決戦の地を目の前にして死に時と死に場所が決まったんだ。
居ても立ってもいられないだろ。
誰だって生きてきた証しを残そうとするのは当然じゃないのか!俺は貴様とは違う。
どう違う!俺の生きてきた証しは戦場で戦って死んでいくことだ。
恥を知れ!
(山村)くっ。
いい子ぶりやがって。
勝手にしろ。
夜中に一人で出歩いては危ないだろう。
(小鈴)ここは庭みたいなものです。
お前はもう避難しろ。
内地へ戻れ。
勝手に決め付けないでください。
私は帰るところもないし帰るつもりもありません。
隊長。
うん?湧き水があります。
湧き水?しょっぱくありません。
(石丸)確かに。
これなら飲めますよ。
(ジェイド)石灰岩で奇麗になったね。
(春日)今のところここが唯一の水場ですか。
日本兵の命の水となる場所だ。
飲料水の蓄えは?
(春日)持って1カ月であります。
(春日)この湧き水を貯蔵し飲料水として確保しましょう。
伊藤少尉。
ここは何としても死守しなければならん。
任せたぞ。
はい。
後はこのサンゴ礁の島でどう戦うか。
島を東西南北の4つに分けそれぞれに部隊を配備する。
各地区隊は岩を掘り洞窟陣地を構築する。
(春日)あの硬いコンクリートのような岩を掘るのでありますか?硬いからこそ強固な防空壕になる。
(山村)しかし本格的な掘削の機材などはありません。
人の手で掘るんだ。
シャベルやくわならばじゅうぶんにある。
敵の上陸はおそらく8月下旬から9月上旬。
それまでに天然の洞窟を利用した陣地を構築しこの島全体を要塞として造りあげる。
われわれは地下へと潜り徹底抗戦の持久戦を展開する。
持久戦?何もせずに逃げ回れということですか?
(黒崎)伊藤。
申し訳ありません。
しかしこれまでの日本軍は水際において敵を迎え攻撃することを有効にしてきたのではありませんか?水際の伝統は放棄する。
そんな。
突撃こそ軍人の花であり務めであります。
伊藤少尉。
はい。
今回の戦場はこれまでのものとは違う。
水際や精神論を前面に出した戦い方ではわれわれに勝機はない。
われわれは最後の一兵まで戦う。
が玉砕は一切禁止とする。
隊長!・
(警報)
(石丸)電気を消します。
玉砕。
それは玉のように美しく砕け散ること
当時の日本軍は敵に降伏せず死をいとわずに潔く突撃することを玉砕と称し英雄的な行為としてたたえられていました
(井田)中川君の言うとおり持久戦が有効だろう。
はい。
洞窟や鍾乳洞を利用して縦横無尽にトンネルを掘り島全体を要塞化します。
(飯野)サンゴ礁の島だと岩盤が相当硬いでしょう。
(福山)大変だな。
大丈夫か?なに。
死に物狂いでやりゃお手のものだ。
(福山)さすがは薩摩隼人。
からかうのはよせ。
(井田)ハハハ。
日本軍人は腹が据わってるな。
これなら大丈夫だ。
全ては中川君に懸かっている。
地区守備隊長殿。
ペリリューを頼むぞ。
はい。
(八重子)そうですか。
あしたペリリュー島へ。
今夜は精いっぱいのおもてなしをさせていただきます。
よろしく頼みます。
・・
(三味線の演奏)小鈴ですよ。
もう誰も聞いてくれる人なんかいやしないのにね。
・
(三味線の演奏)あの小鈴だが帰る場所がないというのは?あの子も苦労してましてね。
幼いころ母親を病気で亡くして借金のために売られたんですよ父親に。
えっ?
(八重子)その父親が別れるときに小鈴の目をじっと見て必ず助けに行く。
お前を捨てたわけじゃないってはらはらと大粒の涙を流して言ったって。
ずっと父親のことを信じてるんです。
あの子が言うにはですよ。
その自分を捨てた父親にどこかが似てるっていうんですよ。
中川さまが。
中川大佐が?フフッ。
失礼なことでしょう?よりによって隊長さまに恋焦がれるなんて。
ホントにバカな子なんだから。
(黒崎)いやぁ。
こんなうまい和食が食えるなんて思わなかったな。
(八重子)有り合わせのもので申し訳ないんですけれど。
(春日)いや。
酒もうまい。
うん。
(黒崎)海軍はこんなうまいもの食ってたのか。
中川さま。
どうぞ。
ありがとう。
しかしよく準備できたね。
こんないいものを。
海軍の将校さんのを取っていたそうです。
うん。
あっ。
そうだ。
これ。
うん?
(小鈴)あっ。
お守り?どうかご無事でお戻りください。
ありがとう。
そうだな。
無事に凱旋できた暁にはまたこの店で派手に祝ってもらうとするか。
(八重子)あっ。
ハハハ。
(八重子)小鈴。
何か弾いておくれよ。
そうだな。
最後の夜だ。
聞き納めに歌ってくれ。
うん…。
『春よ来い』あれを歌ってくれ。
『春よ来い』ですか?いや。
三味線でうまく弾けるかな?いいから。
頼む。
はい。
(黒崎)隊長のおはこ。
いいですね。
出立前に日本の歌が聞けるとは。
なあ?
(春日)はい。
しかもこんな南の島で。
・
(三味線の演奏)おっ。
・「春よ来い早く来い」・「あるきはじめたみいちゃんが」・「赤い鼻緒のじょじょはいて」・「おんもへ出たいと待っている」・「春よ来い早く来い」・「おうちのまえの桃の木の」・「蕾もみんなふくらんで」・「はよ咲きたいと待っている」
(かしわ手)伊藤さま。
お前いつも何を願いに来る?今夜はお礼をしに来ました。
お礼?はい。
(かしわ手)
(小鈴)今夜はよかった。
私の歌で中川さまに喜んでもらえたなんて。
芸者になって本当によかった。
今夜は自分の人生が報われたような気がしました。
そうか。
あしたペリリュー島に行ってしまうんですよね?ああ。
自分たちは戦場に行くがお前は日本に帰って戦争が終わるのを待て。
明朝早く船が出るからそれに乗るんだ。
どこへ行っても一人なのは変わらないですから。
伊藤さま。
ご家族は?水戸で待っている家族は一人もいない。
そうですか。
自分は帝国軍人だ。
すでにこの命はお国のために捧げてある。
私も戦いたくなった。
私も一緒にペリリュー島に連れていってください。
中川さまや皆さんと一緒に戦います。
お願いします。
バカを言うな。
戦は男の世界だ。
命のやりとりをする場所だ。
分かっています。
私は本気です。
貴様は何も分かってない!もう一度言う。
明朝0300内地へ戻る船が出る。
自分が担当だから必ず乗せてやる。
いいか?必ず来るんだぞ?小鈴。
来いよ。
(小鈴)キャッ!
(山村)静かにしろ。
(小鈴)キャッ!山村さま!?
(山村)んっ。
(小鈴)うっ。
なぜ来ない?・
(兵士)伊藤少尉殿。
出航の時間であります。
ご苦労。
その日中川大佐率いる守備隊はペリリュー島へ向けて出立
村の集会場を借りて仮の司令本部を設けた
(黒崎)米軍の上陸箇所は3カ所に絞られます。
北の浜西の浜。
そしてこの飛行場。
おそらく敵は初日からこのペリリューの飛行場を狙ってくるでしょう。
(春日)洞窟陣地は幾つほど造るお考えですか?500カ所あればいいだろう。
500でありますか?やれないことはない。
複雑巧妙な防御態勢を築く。
洞窟同士互いに行き来できることも必要だろう。
伊藤少尉。
水源の防御はどうなってる?はい。
土のう陣地と鉄条網で二重に守り守備隊を配置します。
うん。
頼んだぞ。
はい。
(黒崎)各地区の連絡には通信と連絡網を使用します。
電線を地中に引き電信用と照明用に大型の発電機を入れ使用する予定であります。
いざ決戦となったら本部にいる私から各地区に指示を出す。
それに従ってくれ。
(一同)はい!
島全体に地下壕とトンネルを掘り島を要塞化するのは中川大佐の作戦であり日本軍としては初の試みである
この戦術は後の硫黄島の奮戦につながっていった
(西野)おい。
今日で何日目だよ?俺たちここに来てから岩しか掘ってねえぞ。
訓練しなくていいのかよ?
(高木)1日かけても20cm掘るのがやっとだ。
ハァー。
これはまだまだかかるな。
(西野)痛っ!
(高木)おい。
大丈夫か?
(西野)大丈夫じゃねえよ。
・
(ジェイド)大丈夫大丈夫。
(高木)おい。
おい。
(西野)おう。
ジェイド。
(ジェイド)手伝いに来ました。
島の男手伝います。
(一同)手伝います。
(高木)えっ?本当に?
(ジェイド)OKOK。
(西野)ジェイド。
ありがとう。
痛ててて。
(ジェイド)おう。
(高木)俺たちも頑張ろう。
(西野)よっしゃ。
やるか!・
(兵士)作業やめ!作業やめ!発破いくぞ!下がれ!
(兵士たち)おい。
下がれ。
下がれ下がれ下がれ下がれ。
(兵士)下がれ下がれ下がれ。
急げ。
(兵士)はい。
もっと急げ。
(兵士)はい。
(一同)はっ。
よいしょ。
はっ。
よいしょ。
深く打ち込め。
(一同)はっ。
よいしょ。
はっ。
しっかり固めろ。
(一同)はっ。
(光枝)「前略。
州男さま。
その後お便り頂けませんがお多忙で大変なことと拝察いたします」「私は妹さんのお宅でお世話になり元気にしております」「カワイイおい御さんやめい御さんたちと楽しい日々を送っておりますのでどうぞご安堵くださいませ」
(村長)隊長さん。
村長さん。
(村長)これランカです。
おお。
(村長)食べてください。
元気元気。
ハハハ。
ありがとう。
・
(飛行音)・
(飛行音)
(女性)ああー!ああー!ああー!
(土田)敵機!敵機襲来!
(警報)
(土田)退避!退避!
(寺岡)土田。
敵は何機だ?
(土田)えーっと。
あちゃー。
しまった。
日の丸だ。
友軍機であります!
(寺岡)友軍機か。
土田。
お前!戻れ!戻れ!友軍機だ!大丈夫。
日本の飛行機です。
日本。
大丈夫。
大丈夫。
(女性)大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
(女性)大丈夫。
石丸。
今日は味方だったがあしたは敵の飛行機かもしれない。
時間がない。
陣地の構築を急ごう。
(石丸)はい。
(ジェイド)西野。
もっと腰を入れて。
(西野)痛っ。
触んじゃねえよ。
今迎撃訓練終わったばっかりでくたくたなんだよ。
(ジェイド)情けねえな。
(高木)そうだよ。
1日も早く訓練始めろって文句言ってたくせに。
なあ?みんな。
ご苦労。
(高木)敬礼!いや。
そのままでいい。
作業を続けなさい。
つるはし1本で掘るのは大変だろう。
(西野)あっ。
いえ。
問題ありません。
うん。
(ジェイド)嘘。
嘘。
どれ。
私も手伝おう。
(高木)えっ?君も手伝いなさい。
(石丸)あっ。
はい。
(西野)おい。
(高木)おお。
(ジェイド)隊長さん。
穴掘りも上手ね。
当たり前だ。
まだまだ若いやつには負けない。
ほっ。
(一同)あっ。
うん?おお。
おおー。
スコールか。
(西野)やった。
雨だ。
(高木)水だぞ。
(高木)隊長殿。
洞窟の中で作業をしている者たちを呼んできてもよろしいでありますか?うん。
声を掛けてあげなさい。
(高木)はい。
(西野)よーし。
この前教えた歌歌うぞ。
(一同)おおー。
(西野)せーの。
(一同)・「我は海の子白波のさわぐ…」しかしスコールはいい休憩になる。
(一同)・「煙たなびくとまやこそ」
(かしわ手)伊藤。
参りました。
そちらの進行具合はどうか?はい。
まだ予定の半分といったところです。
大山までの地下の配管に手間取っています。
そうか。
君はまだこんな洞窟掘りなど無駄だと思ってるのか?申し訳ありません。
水戸の第二連隊は国軍創設のときにできた歴史ある部隊です。
日清戦争も日露戦争も経験しております。
そのとおりだ。
その精鋭部隊が穴ばかり掘ってるのは耐えられません。
隊長はこの戦いに何を感じていらっしゃるのですか?入りたまえ。
私が考えているのは戦いに勝利することだけだ。
隊長は嘘つきであります。
うん?隊長は日本の将来を案じていらっしゃる。
聞かせてください。
自分も最後でありますから。
伊藤少尉。
人はなぜ戦いを繰り返す?それは人々の幸福と平和を求めるからであります。
争いのない世の中を求めて争っている。
おかしな話だ。
しかしそこにあるのは人の愛だ。
愛でありますか?そうだ。
人は憎しみではなく愛でしか戦えない。
愛は悠久の中にある。
そうしたものだ。
愛するというなら国に対しても同じだ。
愛する国を滅ぼしてはならない。
日本も。
パラオも。
われわれの守る国が遠い将来若者が自由に愛を語れる国になってほしいものだな。
はい。
持ち場に戻って指揮を執れ。
はい。
兵士とその家族が近況を伝え合う唯一の手段は手紙のやりとりでした
しかし情報漏えいを防ぐため戦況や戦地を書けば検閲で黒く塗りつぶされてしまう
兵士たちはせめて自分の居場所を伝えようと工夫を凝らしました
(西野)「母さん。
どうかお元気で。
和雄」
(西野)お前この場所が分かるように印は書いたか?
(高木)ああ。
俺はヤシの木を書いた。
(西野)俺は南十字星だ。
(高木)何だ。
ただの点々じゃねえかよ。
(西野)うるせえ。
(高木)ハハハ。
(高木)ハァー。
しかし自分が今どこにいるのかも書けないなんてな。
(西野)でもこれなら南洋にいることは分かるよな?母ちゃん。
(高木)ああ。
(西野)しんみりすんなよ。
しんみりすんなって。
(寺岡)土田。
交代の時間だ。
何だ。
まだ書いてるのか?
(土田)最後の目印がなかなか思い付かんとですよ。
(寺岡)それなら手紙出すのやめろ。
(土田)じゃあ教えてください。
(寺岡)うん?
(土田)ああああ。
もうよかです。
よかよかもう。
(光枝)「あなたさまもお体に気を付けて」「お国のために頑張ってくださいませ」「かしこ。
光枝」
中川は現役将校のまま軍人の本流から外れ福岡県にある高校に軍事教練の教師として勤務していた時期があります
陸軍士官学校を卒業した後官僚の道が約束された陸軍大学校には進まずにあえて連隊勤務に終始していました
しかし陸軍が縮小され出向を命じられたのです
(光枝)《あなた。
福山さんがおみえよ》《おお。
皆休んでよし》
(福山)《おお。
久しぶり》《福山》
(福山)《元気そうじゃないか》《お前も暇だなぁ》《こんな田舎までわざわざ会いに来るなんて》
(福山)《ハハハ。
士官学校を卒業して以来か》《ああ》
(福山)《なあ?中川》《うん?》
(福山)《なぜ陸大を受けん?》《お前ならそのまま昇進だって出世だって間違いないのに》《フッ。
俺には官僚は似合わんよ》
(福山)《ハハハ。
相変わらずだな》《だがその分光枝にはすまないことをした》《なっ?》
(光枝)《あっ。
あなたが出世を望まない人だっていうのは知ってますし》《それに私はここが気に入ってるんです》《のどかだしお茶はおいしくて最高です》《後悔してないのか?》《私は偉い軍人さんじゃなくてあなたの嫁になったんです》《あなたが日本を守るように私があなたを守りますから》《ありがとう。
光枝》
(福山)《あっ。
いやいやいやいやいやいやいやいや》
(福山)《ごちそうさま》
(一同)《ハハハ》
(福山)《俺が心配することなかったな》《はっ。
あっ。
ハハハ》
この軍人としての数年間の空白と苦労があったからこそ中川は厳しく勇敢で愛情深い軍人になっていったのです
伊藤少尉。
隊長。
皆は楽にしててくれ。
水場の完成ご苦労だった。
はい。
私も飲ませてもらった。
実にうまい水だった。
はい。
ありがとうございます。
うん。
あっ。
どうぞ。
すまない。
うん?君は他の者のように誰かに手紙を書かなくていいのか?自分にはそういう相手はおりません。
そうか。
ご両親は亡くなられていたんだったな。
はい。
それに愛する人間がいればこの世に未練が残ります。
自分は軍人としてそういう弱みを持ちたくありません。
愛する者がいるからこそ強くなれるということもある。
えっ?本音を言うとな私はどんな状況でも生きぬいて妻と添い遂げたいと思っている。
むろん難しいことではあるがな。
隊長。
君は女を幸せにしたいと思ったことはないのか?自分は…。
女を不幸にしたくないのです。
米軍はすぐそこまで迫っていた
7月7日にサイパン。
8月3日にテニアン
8月11日にグアムと日本は太平洋の島々を次々と占領されていく
そして9月に入りここペリリュー島でも米軍の空爆と艦砲射撃が激しくなっていった
いよいよか。
(石丸)隊長。
村長がお話がしたいそうであります。
村長が?
(井田)大日本帝国の崩壊を南方で食い止めねばならない。
ご武運をお祈りしております。
この島全体を要塞として造りあげる。
争いのない世の中を求めて争っている。
人は憎しみではなく愛でしか戦えない。
(村長)隊長さん。
一緒に戦います。
何?
(村長)お願いです。
(ジェイド)島のみんなで決めました。
私たちは日本人に感謝してます。
(男性)日本人子供たちに読み書きを教えてくれた。
(ジェイド)病気もケガもみんな治してくれた。
(男性)日本人は仲間です。
(村長)だから日本軍と一緒に戦います。
(一同)一緒に戦う!一緒に戦うだと!?帝国軍人が貴様たちと一緒になど戦えるか!足手まといだ!全員島から出ていけ!
(石丸)隊長。
(村長)友達じゃないですか!?
(ジェイド)仲間だと思っていたのに。
嘘だったのですか?石丸少尉。
島民が島から出る船を用意せよ。
(石丸)はい。
(ジェイド)隊長さん。
(一同)隊長さん。
隊長さん。
(石丸)隊長。
どうしてあんなことを?これでいい。
(ジェイド)あっ。
(兵士)間に合った。
(村長)隊長さん!
(一同)隊長さん。
隊長さん。
皆元気で。
隊長さんもお元気で。
(一同)・「我は海の子白波の」・「さわぐいそべの松原に」・「煙たなびくとまやこそ」・「我がなつかしき住家なれ」
(西野)ジェイド!
(ジェイド)はい!西野!みんなも元気で!帽振れ!
中川大佐の判断で村人たちは全員ペリリュー島から避難をした
陸海軍が協力し合っての作業であった
多くの民間人戦死者が出た太平洋戦争においてペリリュー島では一人の死者も出なかったといわれている
(西野)おい待て!どこへ行く?
(高木)お前脱走兵か!こら動くな!おとなしくしろ!
(石丸)貴様。
どこの部隊だ?
(石丸)答えろ!どうした?答えんか!小鈴?小鈴!お前こんな格好で何をしている!
(石丸)貴様コロールの。
お願いします。
ここにいさせてください。
駄目だ。
石丸。
こいつを船に乗せてくれ。
(石丸)無理だ。
最後の船は出てしまった。
何だと?最後の船というのも計算済みだったんだな。
伊藤少尉。
決してご迷惑は掛けません。
絶対に駄目だ!私はもう男になりました!小鈴。
(小鈴)お願いします!お願いします!・受け入れてやれ。
(石丸)隊長殿。
隊長。
しかしそんなわけには…。
覚悟を決めてきたのであろう。
もはや男も女もない。
ここにいる者は皆戦うだけだ。
ありがとうございます。
給仕。
洗濯。
看護。
やれることはいくらでもある。
しっかり働きなさい。
はい。
ごめんなさい。
もう少しで終わりますから。
もう少しでできますから。
もうちょっと待っててくださいね。
小鈴。
はい。
なぜあの日桟橋に来なかった?
(小鈴)行こうとはしました。
ではなぜ?何も言えません。
何かあったのか?いえ。
何もありません。
小鈴。
何があった?
(小鈴)私はもう誰にも愛される資格はありません。
どういうことだ?伊藤少尉。
私は戦うためにここへ来たのです。
何?私も一緒に戦います。
お国のために戦います。
(山村)《俺は日本に戻ることになった》
(山村)《最後にどうしてもお前が欲しかった》
その後山村少尉が乗った船は東太平洋にて空爆に遭い沈没した
(土田)敵襲!敵襲!戦艦4隻。
巡洋艦3隻。
駆逐艦数隻に輸送船。
合計51隻!
(寺岡)土田。
早く下りてこい!
(土田)はい!
(寺岡)急げ!早く来い。
(土田)寺岡兵曹!兵曹!各地区の諸君。
いよいよ決戦のときが来た。
ここパラオペリリューは大本営が絶対国防圏とする最後陣地である。
絶対に確保しなければならない。
ここを防衛することが日本を守ることになる。
(一同)はい。
一兵たりともむやみに出撃してはならない。
玉砕はやすく要城確保の責こそ重大である。
(一同)はい。
われわれは伝統に輝く第二連隊そして第十五連隊である。
勝利を獲得し祖国の安泰と日本国民の繁栄のために全身全霊を捧げ敵を撃滅せよ。
(一同)はい。
わが連隊は永劫に不滅である。
各個奮励努力を頼みたい。
命あるかぎり戦え。
そして生きぬくんだ。
(一同)はい。
9月15日早朝。
海岸一帯への艦砲射撃を皮切りに米軍は上陸を開始する
第一海兵師団約2万5,000人がビーチから島に足を踏み入れた
日本軍はこれを陸海軍約1万人で迎え撃つ
米軍の当初の見通しは楽観的だった
しかし日本軍は洞窟の陣地にこもり上陸した米軍をぎりぎりまで引き付けて至近距離で射撃するという戦術で効果的に応戦した
米軍は天然の要塞に紛れて姿の見えない日本軍に翻弄され被害甚大となった
アメリカ最強とうたわれた第一海兵師団第一連隊は全滅となり別の部隊に戦闘を引き継ぐこととなる
(石丸)隊長。
うん。
(石丸)司令本部からです。
陛下からペリリュー地区守備隊によくやったと御嘉賞が届いたそうであります。
御嘉賞か。
こんな光栄なことはない。
皆畏れ多くも天皇陛下より御嘉賞を賜った。
皆よく戦ってくれた。
(一同)おおー!御嘉賞おめでとうございます。
あなた。
おいしいお茶今入れますね。
一息ついてくださいね。
何?補給船が?本当か?福山。
うん。
よし分かった。
次の船が来るまで何とか持ちこたえる。
福山。
貴様も奮闘を祈る。
作戦は成功した。
がわが軍にはもう弾薬の備蓄がない。
(小森)電文です。
海岸線より弾薬の補給を求める要請であります。
持ちこたえるよう伝えよ。
(小森)はい。
それを見越したように物量に勝る米軍は空と海から大反撃に出た
艦砲射撃。
戦車砲。
ロケット砲。
ライフルを乱射
ついに飛行場も占領され日本は苦戦を強いられていく
・
(石丸)隊長。
西地区が陥落であります。
(石丸)黒崎中佐から玉砕の許可を頂きたいと。
玉砕はならん。
黒崎。
一人でも二人でも生きぬいて北地区と合流しろ。
(小森)隊長殿。
パラオの司令本部から電文です。
「増援は必要か?」だと?
(兵士)入ります。
(飯野)中川大佐から返信が届きました。
(井田)読んでくれ。
(飯野)はい。
「ペリリューに兵力を注ぎこむのは疑問。
増援無用」と。
(福山)こういうやつです。
つらいときほどつらいと言わないそういう男なんです。
このまま黙って見過ごすわけにはいきません。
師団長殿。
お願いします。
逆上陸の許可を。
師団長殿!お願いします!
司令本部は逆上陸を決定
(福山)飯野少佐。
中川を助けてやってくれ。
頼んだぞ。
(飯野)はい!
(福山)成功を祈る。
(飯野)必ず守備隊と合流します。
(飯野)ペリリュー島に骨を埋める覚悟です。
敬礼。
約840名の逆上陸部隊がペリリュー島に向かった
しかし米軍の砲撃を受け多くの船が座礁した
それでも約500名が海の中を歩き逆上陸に成功した
(石丸)隊長。
うん?
(石丸)飯野少佐の部隊が逆上陸し北地区と合流を果たしたそうであります。
バカな。
(石丸)北地区は大いに士気が上がっています。
逆上陸部隊482名。
福山の仕業だ。
あいつはそういうやつだ。
それでも米軍との兵力の差はあまりにも違い過ぎた
日本軍は時間の経過とともに洞窟の奥へ奥へと追い込まれマラリアデング熱などの風土病もまん延し苦戦を強いられていく
(小鈴)北野衛生兵。
(北野)はい!
(小鈴)大丈夫?
(兵士)水くれ。
(小鈴)もうここにはお水がないの。
頑張って。
・衛生兵!衛生兵!頼むぞ。
(兵士)はい。
・
(小鈴)伊藤少尉。
小鈴か。
(小鈴)頑張ってください。
ああ。
(小鈴)手当てをしてあげたくてもここにはもう薬もないんです。
私には励ますことしかできません。
いつの間にか小鈴も立派な日本軍の兵士だな。
(小鈴)えっ?中川大佐に会いたくて来ただろうによく頑張ってくれた。
そうではありません。
えっ?ペリリュー島に来るころには気付いていました。
私が中川大佐に抱いていた思いは父親に対するようなものだったのだと。
ではなぜここへ?あなたに会うためです。
あなたがいるから私はここに来ました。
とうとう米軍は火炎放射器などによる攻撃に加えブルドーザーを使って洞窟の入り口をふさぎ日本軍の陣地を次々と追い詰めていった
組織的戦闘はもはや困難か。
しかしまだ何か策はあるはずだ。
まだ戦える。
隊長。
申し訳ありません。
水源地を米軍に包囲されました。
兵力を考えれば時間の問題だったろう。
石丸少尉。
(石丸)はい。
伊藤少尉は本日をもって本部付とする。
(石丸)はい。
どうした?潔く死ぬことこそが軍人の務めだと思っていました。
でもこの戦いを通してよく分からなくなりました。
それでいい。
(石丸)隊長。
黒崎中佐から連絡が入っております。
中川だ。
(黒崎)西地区。
銃弾も底を突き手りゅう弾も切れました。
北地区に合流することも不可能。
われら十余名。
今夜白兵戦にて斬り込みを行うことをお許しください。
・
(一同)お許しください。
隊長。
お許しください。
黒崎。
はい。
黒崎中佐。
名だたる水戸連隊の一員として今日までのご尽力に感謝いたします。
隊長殿。
ご一緒できて光栄でした。
黒崎。
武運を祈る。
はい!
(黒崎)散る桜。
(黒崎)残る桜も散る桜。
諸君。
さらばだ。
み霊となって靖国で会おう。
(一同)はい!
米軍は日本語によるビラを投降した
降参するなら日本兵の命を助け日本への帰還を保証するというものだった
しかし日本兵は抵抗を貫いた
本日われわれペリリュー島守備隊に対して畏れ多くも天皇陛下より第10回目の御嘉賞のお言葉が打電された。
(一同)おおー!確かにわれわれは苦戦を強いられている。
がフィリピンや日本本土への敵の進撃を一日でも遅らせるためにもわれわれは一日でも長くこの島を守らなければならない。
皇国の興廃はこの一戦にある。
以上。
(一同)はい。
(石丸)解散。
・
(爆発音)隊長。
お願いであります。
われわれに玉砕出撃を。
玉砕は認めない。
生きぬいて戦うんだ。
隊長!われわれが生き延びることが日本国民や日本の明日を守ることになる。
伊藤少尉。
われわれの一日は決して無駄な一日ではない。
われわれがかく戦ったことを生きぬいて子供たちに伝えるんだ。
(高木)ここは安全そうだな。
(西野)どの部隊の陣地なんだ?ここは。
(高木)分からん。
もはや生き残りが入り乱れてる状態だからな。
(西野)腹減った。
もう何日飯食ってねえかな。
(高木)もう飯なんてどうだっていいよ。
それより水。
(高木)水。
(高木)水。
(西野)やめろ。
やめろ。
やめろ高木。
やめろ。
(高木)放せ!
(小鈴)小鈴参りました。
伊藤少尉。
傷はどうですか?小鈴。
どうしてもお前に伝えたいことがある。
小鈴。
お前には。
せめてお前には生きぬいてほしい。
(小鈴)えっ?自分もお前と出会ったことで生きていたいと願うようになった。
伊藤さま。
人を愛するということは生きることと同じなのかもしれないな。
私も。
私もあなたと生きたい。
小鈴。
共に生きよう。
(小鈴)生きていたい。
ああ。
そのままでいい。
・「春よ来い早く来い」・「あるきはじめたみいちゃんが」どうぞ。
私は絶対に生きぬきます。
またあなたと会うために。
(高木)西野。
俺はもう駄目かもしれない。
(西野)何を言ってる?しっかりしろ。
(高木)水。
水が飲みたい。
もう耐えられない。
(西野)おい!
(高木)俺が死んだら…。
(西野)今行ったら死ぬぞ!
(高木)俺が死んだら…。
(高木)この血をお前が飲め。
(ピンを抜く音)
(西野)やめろ!高木!
(高木)うおー!・
(銃撃音)・
(爆発音)先に行きます。
(石丸)分かった。
小鈴。
(小鈴)はい。
今日までよく戦ってくれた。
礼を言う。
いえ。
一緒に戦えて光栄でした。
北道路を突破されました。
ここは自分が守ります。
隊長は戻ってください。
伊藤!隊長!お早く。
(石丸)隊長。
下がれ!下がれ…。
(小鈴)しっかり!小鈴。
中川大佐の言ってた意味がやっと分かったよ。
人は憎しみじゃなくて愛でしか戦えないって。
小鈴。
お前と会えてよかった。
駄目!駄目。
駄目。
生きるって約束したでしょ?ありがとう。
あなた。
嫌!嫌!あなた…。
ペリリュー島に日本女性の兵士がいたという記事は1952年11月29日の朝日新聞のコラムで紹介されている
石丸少尉。
これを司令本部に送信してくれ。
そのときが来たら連隊旗と機密文書を焼却しサクラという暗号を連ねて発信すると。
はい。
おそらく次が最終の電文になるだろう。
そのための電池は取っておいてくれ。
はい。
米軍は麓の陣地を次々と破壊
包囲網を絞り守備隊の拠点大山に攻め上った
中川大佐はいよいよペリリュー島最後のときが切迫したことを痛感しました
(石丸)申し訳ありません。
水もせっけんも用意できなくて。
んっ。
これでよか。
どうだ?少しはましになったかな?
(一同)隊長殿。
石丸少尉。
はい。
軍旗ご苦労であった。
とんでもありません。
遥拝。
軍旗を完全に処置し奉れり。
サクラサクラを打つ。
はい。
諸君。
今日までご苦労であった。
(一同)隊長殿。
ご一緒できて光栄でした。
光栄でした。
隊長殿。
中川。
よくやってくれた。
(光枝)《今度の任地は夏服が必要なところなんですね》《次の春には日本の桜を一緒に見ましょうね》私はお前を幸せにすることができたんだろうか?《光枝。
部下たちは本当によく戦ってくれた》《だが彼らの多くを死なせてしまったのは指揮官たる私の責任だ》《この戦争が終われば日本はきっといい国になる》《平和で安全で二度と戦争を起こさない国に》日本の未来を頼みましたぞ。
46年の生涯を愚直に生きた中川州男の死にざまだった
ペリリュー島でのアメリカ軍との戦いは77日にも及び後に「この島を攻めたことがルーズベルトの悔い」とまでいわれるほどであった
中川大佐の戦いへの思いは今日へとつながっている
中川大佐の遺志を継ぎ持久に徹した兵士たちの中にはよくとしの終戦を知らず2年近くも洞窟の中で潜伏し続けた兵士たちがいた
そして1947年4月
生き残りの兵士34人。
その中の一人土田上等水兵の勇気ある行動がきっかけでついに投降を決意しやっとパラオペリリュー島での長い戦いを終えた
(土田)1人か2人ぐらいは生き残っとったと思うけれどもう私にも分かりません。
私たちは終戦を信じなかったわけですよ。
結局は友軍の来るのを待ちわびて戦後1年8カ月もそのうちにまた友軍が来るだろうといって結局頑張っていたわけなんです。
どうして自分たちが戦争をせないかんじゃったろうとかと思って…。
戦いながらも嫌じゃったですね。
戦争っちゅうのは。
人間は少しは利口になったじゃろうと思うですたいね。
もう戦争はやらん方がよかばい。
パラオではその後島の人たちが平和の中で育ち今日を築いています
そして来年の10月には盛大な記念式典が予定されています
中川大佐の言っていた未来とは私たちが生きている今なのかもしれません
中川大佐の目に今の日本はどう映るのでしょうか?
平和とは何だろうか?
命あるかぎり戦え。
そして戦いぬいて生きるんだ。
いかがでしたでしょうか?あの戦争の中にこんな物語もあったのですね。
太平洋戦争における日本人の死者は300万人にも上ります。
中川さんをはじめとして多くの日本人が平和を願っていました。
あれから間もなく70年。
戦争を体験した人たちが少なくなる中で戦争とはどんなものだったのかその事実を伝え続けることが私たちができる平和への道なのかもしれません。
2014/08/15(金) 21:00〜23:12
関西テレビ1
金曜プレステージ・終戦記念スペシャルドラマ命ある限り戦え、そして生き抜くんだ[字]
玉砕は認めない!生き抜くための秘策とは?激戦の地パラオで起きた70年前の知られざる真実▽上川隆也 溝端淳平 北乃きい 小林稔侍 ナビゲーター池上彰
詳細情報
番組内容
太平洋戦争末期、パラオにある小さな島・ペリリュー島に、歩兵第二連隊の隊長・中川州男大佐(上川隆也)と若く血気盛んな伊藤正人少尉(溝端淳平)が降り立った。パラオは第一次世界大戦時にドイツ領だったものを日本が受け継ぎ、委任統治していた場所。このパラオにあるペリリュー島には、東洋最大と言われていた日本軍の大きな飛行場があり支援基地となっていた。この島をアメリカ軍から死守することが、日本全土を守ることへと
番組内容2
繋がる・・・。中川大佐は妻の光枝(木村多江)を日本に残し、後にアメリカ軍と70日以上に及ぶ激しい戦闘が繰り広げられることになったこの運命のぺリリュー島を任されたのだった・・・。ペリリュー島に向かう途中、パラオの首都コロールに滞在した中川大佐と伊藤少尉。2人は、女将・浜野八重子(仁科亜季子)が切り盛りする料亭“みね屋”で、芸者の小鈴(北乃きい)と出会う。空襲でコロールの街が焼けてしまった経緯もあり、
番組内容3
軍人を恨んでいた小鈴は、伊藤少尉に強く反発する。伊藤少尉は、小鈴と口げんかしながらも、小鈴の孤独な身の上を聞き、気にかけていた。そんな中、第二連隊がコロールからぺリリュー島に向かう直前、伊藤少尉は小鈴に内地へ戻る最後の船に乗るよう説得。しかし、船の乗り場に小鈴の姿はなかった・・・。
出演者
上川隆也
溝端淳平
北乃きい
加藤雅也
大杉漣
仁科亜季子
木村多江
小林稔侍
黒木瞳(語り)
池上彰(ナビゲーター)
他
スタッフ
【脚本】
阿相クミコ
【編成企画】
細貝康介
【プロデューサー】
中山和記(バンエイト)
後藤妙子(バンエイト)
【演出】
福本義人
【制作】
フジテレビ
【制作著作】
バンエイト
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
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