(テレビ)「火災現場の映像です。
現在撮影機3,500ft。
横約4.5km縦約1.5から2kmの範囲で火災が発生しております。
横約4.5km縦1.5から2kmの範囲で火災が発生しております。
現在強い光が発生しているえ〜家屋が燃えているえ〜場面確認できるかと思います。
現在撮影機…」。
(サイレン)
(赤ちゃんの泣き声)
(母親)はっ!
(せきこみ)助けて〜!誰か…助けて下さ〜い!
(男性)頑張れよ〜!
(女性)頑張って!
(母親)助けて〜!誰か…お願いします。
助けて下さい!
(赤ちゃんの泣き声)助けて〜!お願いします。
せめて…せめてこの子だけでも。
誰か助けて下さ〜い!
(サイレン)助けて!助けて下さい。
(赤ちゃんの泣き声)
(ドアが開く音)
(赤ちゃんの泣き声)
(テレビ)「午前10時ごろ5階建ての集合住宅で火事があり激しい炎と煙で辺りは一時騒然となりました」。
(佳織)おじいちゃんこれよこれ。
(テレビ)「火は1時間後に消し止められましたが5階の1部屋約50m^2が全焼しました。
なおこの火災で高木徳男さん86歳が救急搬送され病院で死亡が確認されました。
警察の調べによりますと…」。
あのおじいさん亡くなったんだ。
(テレビ)「火元と見られる部屋の前で意識を…」。
(正明)高木徳男…。
どうしたの?
(テレビ)「火災のあった部屋の住人ではなく部屋に取り残された人を助け出そうとして煙に巻かれたものと見て警察と消防は火事の原因などを詳しく調べています」。
(由紀子)長女の由紀子と申します。
神部正明と申します。
孫の佳織です。
あの…父とはどういう?高木さんとは戦時中に一度だけ同じポンプ車に乗りました。
ポンプ車?はい。
消防自動車です。
消防自動車?
(佳織)はい。
ご存じなかったんですか?戦争時代の事を話したがりませんでしたし…。
初耳です。
そうでしたか。
それじゃあ神部さんも消防に?いえ私は大学生でしたが学徒消防隊として高木さんがいらっしゃった消防署に配属されまして。
学徒消防隊?はい。
当時大学生は徴兵を猶予されておりました。
しかし戦局が悪化すると文科の学生は学徒出陣で戦地へ赴きました。
しかし私たち理系の学生はいまだこの徴兵猶予にあり消防署へ動員された訳です。
3月10日の東京大空襲の数日前の事です。
数日前?東京大空襲の…。
はい。
父は戦争の時消防官だったんですか。
ええ。
そういえば…。
(テレビ)
(テレビ)「この地点線量率高くありません。
活動時間余裕あります。
ここは線量率高くないから…」。
あの時テレビを食い入るように見ていて…。
父が急に無口になったのはあのころからでした。
神部さんその後父とは?ええ大きな節目の50周年の慰霊祭の時に一度だけお会いしました。
・
(読経)高木さん。
(徳男)神部さん?やはり高木さんでしたね!高木さんは戦後消防を辞められご家業を継がれたそうで。
ええ。
私は植木職人だった父しか…。
あっちょっとお待ち下さい。
でもおじいちゃん。
うん?それって50年ぶりの事でしょ?お互いすぐ分かった。
ふ〜ん。
父の遺品を整理していたら1枚だけ大事にしまってありました。
これは消防の?はい。
当時の消防の制服です。
でもどうして父は消防官だった事をひと言も…?高木さん…。
高木さんは17歳の年少消防官でした。
それまで消防官は二十歳からの採用でしたが空襲火災に備えるために大増員が図られ17歳からの採用になっていました
(教官)高木!気合いを入れんか!はい。
(瀬川)白石ふんばれ!上に向けるんだ上に!ハハハッ。
何をしとるか!おい補助に回らんか!はい!いいか水管を銃だと心得ろ。
敵の心臓を撃ち抜くつもりで放水しろ!
(一同)はい!
(空襲警報)空襲警報!空襲警報!
(教官)放水やめ!全員待機。
空襲警報が鳴ったのは実に2年半ぶりの事で東京は大騒ぎになりました
空襲警報?本当に空襲なのか!?
私は西北大学理工学部の1年生でした
神部とうとう来たぞ。
B29だ。
B29…。
(空襲警報)
(白石)あれが敵の飛行機?
(瀬川)たった1機で来たのか?
(空襲警報と戦闘機の音)よし!味方の戦闘機だ。
じれったいな。
早く撃ち落とせ。
ふん爆弾も落とせず逃げやがったぜ。
ざまあ見ろ!
(秋野)神部これから東京は大変な事になる。
「絶対国防圏」の要と言っていたサイパンが取られたのは致命的だ。
B29ならサイパン東京を悠々と往復できる。
でも今国運を賭けてフィリピンで戦っている。
特別攻撃隊か…。
彼らは確かに英雄だと思うが人の命を兵器にするなんてそれが作戦と言えるか?正気とは思えん。
日本はそこまで追い詰められている。
勝ち目はない。
秋野俺たちはこの日本に生まれた。
日本が戦ってるんだ。
俺は死ぬ覚悟はできている。
さすが級長だけあってお前は優等生だな。
なにが銃だ。
水管が銃なら俺たちは水鉄砲で戦っているのか。
お前教官に聞かれっぞ。
(瀬川)あっ!一式戦隼か〜。
こっちは三式戦飛燕。
・「空の護りは引受けた」・「来るなら来てみろ赤蜻蛉」・「ブンブン荒鷲ブンと飛ぶぞ」いいよな〜。
俺本当は飛行兵になりたかったんだ。
消防なんて待ってるだけ。
水鉄砲じゃ戦えんよ。
じゃあ何で消防に入ったんだ?そう怖い顔するなよ。
あいつを見てみろ。
もやしみたいなやつだけどなかなか根性がある。
消防でも真面目にやってりゃお国の役に立つさ。
(せきこみ)風邪ひいたのか?もともとぜんそく持ちだから。
どうしてそんなに頑張るんだ?うれしいんだ消防に入れたのが。
へえ。
俺はあんまりうれしくない。
飛行機乗りになりたかったんだろ?僕も受けたんだ少年飛行兵。
見事不合格。
軟弱だしぜんそくもあるしね。
でも消防はそんな僕でも来いって言ってくれたんだ。
うれしかったな。
(ラッパ)
(一同)第21条。
猛煙猛火にも心を動ぜず混乱の事態にも沈着を失わず勇猛果敢に任務を果たし死するもなお已まざるの気概あるべし。
(所長)戦況は日に日に激しさを増し敵は我が門前に迫ってきた。
東京が空襲の危機にさらされる日も近い。
いよいよ諸氏の出番が来たのだ。
(一同)はい。
(所長)世のため人のため全力を尽くして防空の盾となり水火消防の重責を果たしてほしい。
(一同)はい。
教官に敬礼!直れ!軍神として散華せられた特攻隊員に続きお前たちも特攻精神で水火消防に当たれ!
(一同)はい。
(教官)水管を持ったら自分が焦げても手を離すな!
(一同)はい!もはや前線も銃後もない!銃後の特攻隊たれ!
(一同)はい。
ただいま戻りました。
(栄子)徳男…。
(宗雄)ハハハ。
お前本当に徳男か?はい。
警視庁消防部消防手高木徳男であります。
まあ立派になって。
(宗雄)どうだ?消防は。
まずまずです。
そうか。
徳男。
朝子から葉書が届いたのよ。
(朝子)「消防に入った徳男兄さんお元気ですか。
こちらへ来てからお掃除もお洗濯も自分でしています。
寒くて水がとても冷たいです。
でも大丈夫です。
早く帰りたいです。
でも大丈夫です。
お母さんお父さんお体に気を付けて下さい」。
宮城は寒いだろうな。
「体に気を付けて下さい」なんて涙が出ちゃったわよ。
はい。
母さんこれ…。
おとうさんのお得意さんからお祝いに頂いたのよ。
徳男。
銀飯!朝子にも食べさせてやりたいな。
徳男食え。
頂きましょう。
頂きます。
高木さんたち年少消防官は消防練習所を卒業してすぐに各消防署に配属されたそうです
何だこれ?継ぎはぎだらけだ。
ハハハッ…。
おい!これは鉄かぶとならぬ竹かぶとだ!ハハハハッ。
(瀬川)おお白石!似合ってるね〜。
高木君瀬川君と一緒だと思ったのに…。
おっ!あったあった鉄かぶと。
えっ?ほらこれかぶれ。
お前なら大丈夫。
お互い頑張ろうぜ。
うん。
・白石平介!はい!
(島田)竹内分隊に拝命の高木瀬川!
(2人)はい!どっちがどっちだ?新拝命を賜りました高木徳男です!新拝命を賜りました瀬川誠です!竹内分隊の機関員島田だ。
分隊長の竹内だ。
しっかり頼むぞ。
(2人)よろしくお願いします!
(空襲警報)おっB29!
(ざわめき)また1機か…。
これで何回目だ?10回目だ。
偵察機は本当に東京の精密写真を撮っているのか?ああ。
東京はもう丸裸にされている。
いつ本格的な空襲があってもおかしくない。
(空襲警報)
(戦闘機の音)空襲警報!空襲警報!大丈夫?高木!半鐘を鳴らせ!半鐘をたたけ高木!高木どうした!?
(半鐘をたたく音)西の方向に黒煙!火災発生!はい!了解しました!急に腹痛を起こしたようです。
今回だけ大目に見てやる。
我々は明日から東日製作所の警備に当たる。
はい。
おとうさん大事なものはそろえておいて下さいね。
命より大事なものなんかねえよ。
あらその剪定ばさみ命より大事だって言ってませんでした?金庫に入れておきましょうか?ヘッバカ野郎。
こいつは肌身離さず持っておく。
徳男お帰り。
さつまいもあるわよ。
徳男…。
(拍子木をたたく音)
(子どもたち)火の用心!
(正孝)ご苦労さん。
(子どもたち)こんばんは。
火の用心米英撃滅火の用心。
(拍子木をたたく音)中島飛行機がやられたようだ。
ここも軍需工場が近いから危ないですね。
どっち道これから敵は好き放題さ。
高度1万mのB29に日本の高射砲は届かないし迎え撃つ戦闘機も足りない。
お母さんとお姉さんは正月は帰ってきますか?汽車の切符が取れるかどうか…。
これから空襲が激しくなるだろうし無理して帰ってくるより岩手にいさせてもらう方がいいだろ。
そうですね。
・「靡く黒髪きりりと結び」・「今朝も朗らに朝露踏んで」・「行けば迎える友の歌」・「ああ愛国の陽は燃える」・「我等乙女の挺身隊」・「撃てど払えど数増す敵機」・「北も南も無念の歯噛み」・「勇士想えば」では今日から電磁気学の講義に入ります。
先生!質問があります。
(五十嵐)何かね?自分らも徴兵猶予が停止され戦地に赴く事があるのでしょうか?その質問に私が答えられると思うかね?ただ…私はそういう日が来ない事を祈っていますが覚悟はしておいた方がいいでしょう。
どのような覚悟でしょうか?昨年文科の出陣学徒にある教授はこう言って送り出しました。
「覚悟において死すべく結果において生きて帰れ」と。
私も同感です。
1時間早く終わります。
瀬川…。
うん?何だ?
(瀬川)手話か。
聞こえなくても勤労動員されるのか?国民総動員だからな。
きれいな人だな…。
うん?今何て言った?水管取り込もうぜ。
この間ニュース映画を見た。
密林を行軍する兵士や軍艦の水兵たちが懸命になっている姿を見ていたら涙が出た。
国民学校の子どもたちだって毎日軍需工場で働いてる。
俺たち本当にいいんだろうか?学問だけしていて。
いいに決まってるさ。
国が俺たちにそれを望んでいるんだ。
神部。
お前まさか軍隊に志願しようなんて考えているんじゃないだろうな?それが本当に国のためになるんだったらそうしたいと思うが…。
よく分からないんだ。
何が正しい事なのか。
(空襲警報)
(工場主任)空襲警報発令!全員退避!
(工場主任)早くしろ!
(空襲警報)
(ざわめき)もっと気合いを入れて回せ!はい!
(竹内)北砂町方面空襲火災発生!行くぞ!
(悲鳴)
空から爆弾が降ってくるんです。
空襲は本当に怖かったです
(悲鳴と爆裂音)
(せきこみ)行くぞ!はい!押して!はい!高木!何をやってる筒先補助だ。
はい!
(2人)よし!
(叫び声)ただいま。
どうかした?
(栄子)そんなの信じないから…。
一雄も道男もきっと帰ってくる。
(すすり泣き)徳男…おなかすいたでしょ。
今すぐ支度するからね。
勤務に戻るから。
今日は非番でしょ?非番なのにどうして?母さん…今日高等工業学校の防空壕に爆弾が落ちてそこに避難していた先生と生徒全員即死したそうです。
壕へ逃げれば安心という訳ではないから。
じゃあどこへ逃げればいいんだい?父さんも母さんも無事でいて下さい。
行ってきます。
徳男…。
(物音)どうした?下の兄さんが戦死した…。
上の兄さんも戦死してるんだ。
そうか。
瀬川俺が消防に入ったのはお前だけは志願しないでとおふくろに泣きつかれたからだ。
そうか。
兄さんたちは命を懸けて国を守ろうとした。
ああ。
俺も続きたい。
兄さんたちの死を無駄にしたくない。
無駄にはしないさ。
瀬川消防で本当に国が守れるのか?守れるさ。
守ってるじゃねえか。
俺は本気じゃなかった。
死ぬ覚悟ができてなかった。
これから俺は消防に命を懸ける。
ああ。
食え。
ありがとうございます。
分かった。
・
(半鐘をたたく音)
(ため息)・
(空襲警報)高木。
はい!
(せきこみ)白石…。
奥山分隊の白石です。
燃料が切れました。
予備がありますでしょうか?
(せきこみ)こっちもギリギリだ。
出張所へもらいに行け。
はい。
白石!大丈夫か?高木君…。
情けない声出すな。
毎日これじゃあね。
飯だけはちゃんと食えよ。
高木君も。
白石!頑張れよ。
(宗雄)今日は珍しくお客さん来なかったが。
婦人会の人たちとも話してたんですけどアメリカにもお正月ぐらいはあるから年末年始くらいお客さん来ないんじゃないかって。
そう願いてえな。
・
(空襲警報)えっ…。
やっぱり来るか〜。
大みそかの午後9時43分B292機が浅草神田に焼夷弾を投下したあと年明け0時0分ちょうどに再び浅草そして向島に焼夷弾を投下しました
お年玉代わりに爆弾か…。
バカにしやがって!
(爆裂音)あっ!
B29が交わす無線を傍受していた日本軍は「ハッピーニューイヤー」というパイロットの声を聞いて歯ぎしりをして悔しがったそうです。
そしてようやく都民が眠りについた早朝午前4時50分にまたも警報発令
・
(空襲警報)
午前5時0分に搭載していた焼夷弾全部を江戸川飾にばらまき大みそかから正月元旦にかけて3回の空襲に消防は翻弄され新年早々多くの都民が寒空に焼け出されました
あ〜!うあっ!おめでとうございます。
よろしくお願いします。
雑煮!?いつもご苦労さまです。
私たちからの差し入れです。
雑煮が食べられるなんて夢にも思いませんでした。
消防さんたちだけが頼りだってみんなそう言ってるんですよ。
さあ皆さん召し上がって下さい。
頂きます。
(一同)頂きます!うっうめえ〜!うまい!
昭和19年から20年にかけての冬は異常寒波が日本各地を襲いました
腹減ったな〜。
高木本当に眠るなよ。
(戦闘機の音)
(空襲警報)
2月に入ると硫黄島攻略をもくろんでいたアメリカ軍の空母機動部隊から艦載機が大挙して押し寄せてくるようになりました
戦闘機の機銃掃射は空襲とはまた別の恐怖がありました
放水始め!放水始め〜。
放水始め!日本の戦闘機はどうして飛ばないの?高射砲の音もしない。
消防だけか戦っているのは!?
連日連夜の空襲に寒さと空腹に耐え粗末な装備で立ち向かう高木さんたち消防には本当に頭が下がる思いでした
高木!起きろ高木!白石が…死んだ。
機銃掃射か?いや下宿に帰る途中道端で眠ってしまったらしい。
凍死だ。
回想
(白石)消防はそんな僕でも来いって言ってくれたんだ。
うれしかったな。
(すすり泣き)消防署への勤労動員の要請が都内の各大学に来ている。
昨日ほかのクラス委員とも話し合ったが前向きに考えようという意見で一致した。
みんなの意見を聞かせてくれ。
軍需工場で毎日油まみれになるより恵まれてるんじゃないか?しかしこの間消防隊員が凍死したらしいじゃないか。
空襲は激しくなるばかりだ。
危険すぎないか?俺たちに火消しなんかできるのか?神部お前の意見を聞かせてくれ。
危険を伴うかもしれんが戦地で戦っている出陣学徒を思えば…。
防空の役に立てるなら是非参加したい。
飯は出るのか?もちろんだ。
消防署だったら銀飯が食えるかもしれんな。
銀飯が食えるなら俺は行ってもいいぞ。
俺はどんな飯でも出るなら行く。
(笑い声)バカ野郎。
じゃあ我々のクラスは受諾するという事でいいな。
まあ火消しなんかより特攻隊に入って敵に一泡吹かせたいけどな。
じゃあ特攻に志願しろ!特攻に志願しろよ。
その気もないくせに軽々しく口にするな。
もう一度言ってみろ。
どんな思いで特攻に志願しているか貴様なんかに…。
銀飯が食いたいなんて言える貴様に分かるのか!何だと!あ〜っ!?秋野よせ。
うっ!じゃあそういうお前はどうなんだ!?俺は!俺は死にたくない。
死ぬのは怖い。
みんな本音はそうだろ。
出陣学徒だって…。
彼らがどんな気持ちで…。
この〜!
(ざわめき)秋野!やめろもういい!いとこが特攻隊に志願した。
俺はそいつを殴った。
そのいとこにはろうあの妹がいるんだ。
ろうあの妹?
(秋野)お前が守ってやらなくて誰が妹を守るんだって言ったら妹を守るために俺は死ぬんだと言いやがった。
バカ野郎だよ。
(戦闘機の音)
(戦闘機の音)
(戦闘機の音)危ない!伏せろ!撃つなら俺を撃て!
(不明瞭な発音で)若葉さん…。
起きて起きて!
(泣き声)起きて…。
(泣き声)起きて起きて…。
(泣き声)秋野来てくれたのか。
鉄砲は持ちたくないがホースなら持つさ。
理工学部電気工学科1年有志46名江墨消防署へ勤務致します。
敬礼。
有志諸君が帝都防空の一翼を担ってくれる事を誇りに思う。
君たちが徴兵を猶予されているのは我が国の有用なる人材として学問を続けていくためである。
それを片ときも忘れないでほしい。
西北大学学徒消防隊の神部正明です。
同じく秋野武士です。
分隊長の竹内だ。
機関員の島田。
消防手の高木です。
(瀬川)消防手の瀬川です。
よろしくお願いします。
何でも命令して下さい。
(ドアが開く音)これ使って下さい。
眠れる時に眠っておいた方がいいです。
ありがとう。
我々は決死の覚悟で消火活動に当たっています。
同じポンプ車に乗るからには覚悟はできていますか?もちろんです。
出場する時は自分の持ち物は全てポンプ車に積んで下さい。
ここへは二度と戻れないかもしれませんから。
(ドアが閉まる音)ああいうのと同じポンプ車に乗ったら命がいくつあっても足らん。
神部俺はいざとなったら逃げるぞ。
(瀬川)高木!朝子!お兄ちゃん!ただいま戻りました。
朝子お帰り。
(栄子)忙しいところごめんね。
お兄ちゃんはいつ帰れるか分からないって言ったらどうしても会いたいって聞かなくて。
元気だったか?疎開先ではちゃんと勉強できたか?うんずっと1番!そうか。
徳男あさって3月10日は陸軍記念日だからアメリカが大空襲してくるんじゃないかってみんなうわさしてるけど。
単なるうわさですよ。
いつ空襲になっても俺らが決死の覚悟で守りますから。
それは心強いけど。
朝子消防は忙しいからあんまり家には帰れないんだ。
父さん母さんを頼むぞ。
はい。
その翌日私たち学徒消防隊の2度目の勤務の日が3月9日でした
了解しました。
分隊長刺し子も鉄かぶともないそうです。
そうか…。
正規の消防官にだって満足に行き渡らないんだ。
しかたない。
訓練も受けていない素人の学生さんを素手同然で火事場に行かせるんですか?
(瀬川)足手まといになるだけじゃないでしょうか?お前らだって最初はそうだったじゃねえか!しかし人数だけそろえても…。
人数だけでもそろえなきゃ俺たちは全滅するんだ!手伝います。
ありがとうございます。
大学では何を勉強されてるんですか?理工学部に入ったばかりだから。
理工学部…難しそうだな。
もしかして戦闘機を造ったりするんですか?飛行機は好きだし憧れだったけど戦闘機は造りたくないな。
どうして?飛行機を発明したライト兄弟やサントス・デュモンは戦争兵器を造るつもりはなかった。
人が空を飛ぶという夢を実現したかっただけだ。
実際フランスの飛行家サントス・デュモンは飛行機が戦争に使われる事に反対し失望して自殺したんだ。
やはり学生さんたちはお国の宝ですね。
宝?神部さんたちに万一の事があったら申し訳ないです。
火事場では俺たちも必死ですから。
とにかくポンプ車から離れないようにして下さい。
そのころサイパンテニアングアムにあるB29の稼働機の全て334機が東京に向けて飛び立ちました。
全部離陸するのに2時間40分もかかったそうです
米英撃滅火の用心。
(拍子木をたたく音)米英撃滅火の用心。
(拍子木をたたく音)
(ブザー)
(ラジオ)「東部軍管区情報。
22時30分警戒警報発令!警戒警報発令!」。
(ラジオ)「東部軍管区情報。
南方海上より敵らしき数目標本土に近接しつつあり!東部軍管区情報。
22時30分警戒警報発令!警戒警報発令!」。
・
(半鐘をたたく音)ほらお客さんだ。
お母ちゃん怖いよ。
大丈夫よ。
東京は最近しょっちゅうこうだから。
そのうち慣れる。
(ラジオ)「東部軍管区情報。
敵機数目標は房総半島南方海上を旋回しつつ洋上はるかに遁走せり。
敵機数目標は洋上はるかに遁走せり」。
瀬川嫌な予感がする。
ポンプ車のエンジンかけとこう。
うん。
実はこの時アメリカは数機のB29をおとりにして300機を超える大編隊が超低空で東京湾に進入していました。
先導機がアルミはくをばらまいて日本の電波探知機を無能にしていたのです
(戦闘機の音)空襲だ!なぜ空襲警報が鳴らない!・はい。
竹内分隊。
(竹内)了解。
深川方面へ出場する!
(一同)はい!・
(半鐘をたたく音)おとうさん。
おとうさん!・
(半鐘をたたく音と空襲警報)逃げるぞ!はい。
怖いよ〜。
朝子。
行くぞ!
(焼夷弾が落ちる音)朝子大丈夫?うん。
アメリカが使用したM69という油脂性の焼夷弾は日本の木造家屋を最も効果的に焼き尽くすために日本住宅を再現延焼実験までして研究開発されたものです。
その焼夷弾30万発を人口が一番密集する下町に投下。
アメリカの司令官カーチス・ルメイによる皆殺し作戦で周到に計画された無差別絨毯爆撃でした
大丈夫だからな。
ああっ!熱い!熱い!おとうさん!おとうさん熱い!熱い!お母ちゃん。
クッソーチクショーチクショー!早く逃げろ!川の方へ逃げろ!皆殺しになる!
(悲鳴)
(悲鳴とどよめき)消防隊が来てくれたぞ!消防隊だ!消防隊が来てくれたぞ!
(悲鳴とどよめき)よし!どっちに逃げたらいいんですか?
(赤ちゃんの泣き声)あっ。
大丈夫ですか?消防さん乗せてくれませんか?消防さん乗せて!水管をつなげ!はい!吸水完了!瀬川行くぞ!はい!危ない!道空けて!危ない!道空けて!危ない!危ない!道空けて!道を空けて下さい!よし!放水始め!放水始め!手伝います。
駄目だ逃げろ!ほかももう全部駄目だ!転戦だ!神部!転戦だ逃げよう!神部!放水始め!放水始め!
(焼夷弾が落ちる音)うわ〜!
(爆発音)うわ〜!分隊長!瀬川!よせ!駄目だ!分隊長!瀬川…。
瀬川!瀬川!
(焼夷弾が落ちる音)瀬川〜!
(電信柱が倒れる音)お母さん。
お母さん。
(泣き声)お母さん。
(泣き声)お母さん。
(泣き声)お母さん。
(泣き声)大丈夫だ。
(泣き声)大丈夫。
(泣き声)
(爆発音)
(うめき声)助けて!熱いよ!まだ向こうに人がいる。
熱いよ!熱いよ!無理だ。
逃げよう。
学生さんは逃げて下さい。
俺は消防です。
高木さん!
(爆発音)うわ〜!島田さん!うお〜…。
(悲鳴とどよめき)秋野…。
秋野。
秋野!貴様…。
逃げるんじゃなかったのか。
・水を出せ!・水を出せ!水を出せ!水を出せ!水を出せ!助けて!
(赤ちゃんの泣き声)せめてこの子だけでも助けて下さい!消防さん!せめてこの子だけでも助けて!消防さん!
(悲鳴)チクショー…。
水を出せ…。
何やってんだ!逃げろ!逃げたきゃ勝手に逃げろ!無駄死にする気か!?はなせ!俺は消防だ。
死んじゃ駄目だ!俺は君を死なせたくない!君たちこそお国の宝なんだ。
(泣き声)
(ざわめき)吉岡一樹を知りませんか?建築科1年の吉岡一樹です。
知りませんか?ありがとう。
正明。
無事だったか!一樹は大学にやったんだ。
消防にやったんじゃない。
消防さんありがとうございます。
ここまでやるか。
アリを10匹踏み潰してもいい気持ちはしないだろうに。
僅か2時間半の間に10万人以上の人間を殺してどんな気持ちなんだろう。
私は人間というものが空恐ろしくなりました。
高木さんのご家族は誰ひとり見つかりませんでした
父が消防官だった事をひと言も話さなかった気持ち分かるような気がします。
神部さんは父の命の恩人でらしたんですね。
いいえ。
高木さんはそう思っておられなかったと思います。
(泣き声)高木さん。
なぜ俺たちが生き残った?どうして…死なせてくれなかったんだ。
(泣き声)
心の底では私の事を恨んでおられたかもしれない
神部さん。
写真の裏をご覧になって下さい。
高木さん…。
何もかも欠乏する中で高木さんたち消防は耐えに耐えました。
しかしあの大空襲には手も足も出せなかった。
その敗北感と無念さで戦後年少消防官の多くが消防を辞めていったそうです。
父もその一人だったんですね。
いやでも高木さんの消防魂は消えませんでした。
最期まで消防だった。
そうですか。
父は消防官だったんですか。
眠った父の顔はとても安らかでした。
誰か助けて下さい!誰か!
(ドアが開く音)助けて!落ち着け!そこにいろ!さあさあ…。
ああ…。
ああ…ああ。
頑張って下さいね。
今病院行きますからね。
はいOK。
ストップ。
じゃあ行きますよ。
はい。
(拍手)お願いします。
2014/08/15(金) 00:30〜02:10
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 終戦特集ドラマ「東京が戦場になった日」[解][字][再]
戦争末期、若者たちが激化する空襲火災に立ち向かう消防官として集められた。彼らの姿を通して戦争の悲劇を描く大型ドラマ。モンテカルロテレビ祭でモナコ赤十字賞を受賞。
詳細情報
番組内容
戦争末期、本土への空襲が本格化すると、兵役猶予されていた理科系及び医系の学生たちは「学徒消防隊」として、18歳未満の若者は「年少消防官」として消防署に送られた。その多くは訓練も受けず素手同然で東京大空襲の現場に送られた。ひたむきに命を救おうと壮絶な空襲火災と闘う彼らとその家族の姿を通して、戦争の悲劇を描く大型ドラマ。今年、モンテカルロテレビ祭でモナコ赤十字賞を受賞したドラマを98分に拡大して放送。
出演者
【出演】泉澤祐希,市川知宏,工藤夕貴,大橋吾郎,麻生祐未,中原丈雄,鶴見辰吾,渡辺哲,佐々木勝彦,朝倉あき,中西美帆,米倉斉加年,加藤武
原作・脚本
【原案】中澤昭,【作】中園健司
音楽
【音楽】佐橋俊彦
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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