ご苦労さまです。
こちらです。
(御子柴衛)人間国宝細川重春さんの作品は小さな茶碗でも何十万もするそうですよ。
(桐島孝作)触る前に言ってくださいよ。
(倉元吾郎)マル害は陶芸家の細川重春さん73歳です。
長男の一樹さんが今朝寝室にいないのを不審に思い捜しに来て発見したそうです。
(矢代有作)殺しだ。
死因は脳挫傷。
後頭部を鈍器で一撃。
死亡推定時刻は恐らく…今日の午前1時から3時の間。
(梶原稔)血痕が付着してる。
凶器と見て間違いないね。
(友枝凛子)裸足だ。
(倉元)細川さんはアルツハイマーだったんだ。
半年前から症状が悪化し意識が鮮明になったり不鮮明になったりの繰り返しで徘徊癖もあったそうだ。
(細川公康)ああっシゲさん!
(細川一樹)おじさん駄目ですよ勝手に入っちゃ!お宝が…!触るな!
(倉元)お身内の方ですか?
(一樹)はい父のいとこです。
細川公康上七軒で酒屋をやってます。
ない…ない…。
(真田英俊)どうしました?そこには父が4年ほど前に古美術商から買った骨董品が置いてあったんです。
っていう事はこれらは重春さんの作品ではないっていう事ですか?
(一樹)ええ。
室町時代に作られた古備前の壺は…500万もしたんだぞ…。
(公康)それがこんな粉々に…。
随分と豪華な凶器ですね。
人間国宝にふさわしい。
(吉村和彦)骨董品を狙って忍び込んだ窃盗犯が徘徊してたマル害と接触して撲殺。
その線でしょう。
骨董品の確認にご協力願えますか?それが私は父の作品は管理してますが骨董品の方はよくわからないんです。
あなたはよーくご存じのようですね。
いや私はただシゲさんに古美術商を紹介しただけだ。
ほんとに?どういう意味だ?いきなり失敬じゃないか!申し訳ありません。
もう少し詳しくお話伺えますか?どうぞどうぞあちらへ。
どうぞ。
(高木利幸)あの…泥棒の仕業なんですか?いやそれはまだなんとも。
失礼ですが…?ああ…高木と申します。
3年前重春先生が一線を退いたあとは私がこの窯を引き継いでおります。
木村です。
重春先生のお弟子さん方ですか。
こんな事になったのは私のせいなんです。
どういう意味でしょう?私が昨日納屋の鍵をかけ忘れたんです。
昨日は窯の火の管理のために裏の工房に泊まっていました。
一樹さんと一緒に母屋で夕食を取ったんですがちょっと飲みすぎまして…。
じゃあお二方は屋敷内にいらっしゃったんですか?
(木村由紀男)いえ私は先生に言われて夕方には帰宅しております。
そうですか…。
(鈴の音)父の部屋に何か?あすいません勝手に。
どうしても拝見しておきたかったもんですから。
あの…この鈴は夜中にお父様が徘徊してもわかるように付けてらっしゃるんですね?ええ。
私はいつも隣の部屋で寝ています。
この鈴の音がすれば見に来るようにしてるんですが昨日は熟睡してしまって気づかなかったんです。
あなたは陶芸はやられないんですか?はい。
私は作る方ではなく売る方です。
五条坂で清水焼を扱う店をやっております。
あぁ…。
他にご家族は?弟がいます。
ここには住んでいませんが。
(平田浪江)あっ一樹さん工芸協会の方が見えました。
あすみません。
一樹さんちょっと待ってください。
今日は冷えますから。
ありがとう浪江さん。
あの…こちらで働くようになってもう長いんですか?もう10年になります。
3年前精密検査で脳の萎縮が進行してる事がわかってから旦那様は窯を高木さんに譲って引退しました。
介護もその頃から昼間は私夜は…一樹さんが…。
大変でしたねぇ。
彼ご結婚は?相手を見つける暇もなく旦那様とこの家を守るために働いてます。
それだけじゃないんですよ。
(細川隆二)浪江さん兄貴は?応接間の方に…。
あそう。
(御子柴)今のが次男か。
なんだか胡散臭そうな奴でしたね。
胡散臭いのは次男だけじゃありません。
鈴の話をした時長男は…。
熟睡してしまって…。
口では嘘をついても脳は聞いた音を覚えてるんですよ。
その音が耳の中で再現されるもんですからつい無意識に手が耳にいってしまうんです。
彼は嘘をついていたって事ですか。
そう。
それに…。
500万もしたんだぞ…。
不安。
私は先生に言われて夕方には帰宅しております。
秘密。
動揺。
兄貴は?
(浪江)応接間の方に…。
そして嫌悪…。
この家には相当複雑な事情が隠されてるようですよ。
現場にあった陶器の破片からはマル害本人長男の一樹次男の隆二弟子の高木木村いとこの公康それに家政婦の平田浪江他にも身元不詳のいくつかの指紋が検出されたそうです。
つまり物証面でいえば全員が容疑者って事か。
はい。
一課は窃盗犯の線で捜査を進めようとしているみたいですが見当外れもいいところですね。
納屋の中の重春氏本人の作品には全く被害がなかった。
古美術ではないとはいえ人間国宝の重春氏の作品にも高値はついてる。
なぜそっちの方には見向きもしなかったのか…。
確かにあの破片は争った際に床に落ちて割れたっていうよりも意図的に地面にたたきつけて割ったように見えました。
よし我々支援班は怨恨の線で捜査しよう。
俺はクラさんと合流して古美術商の聞き込みに回る。
君は鑑識作業の進行状況を確認してくれ。
桐島さん!はい。
御子柴と一緒にもう一度細川家の人たちを当たってくださいね。
はいはい。
「はい」は一度で結構。
なんか怒ってます?怒ってますよ。
ヤキモチだよ。
(六条舞)ああ…。
(ドアが開く音)どう?進んでる?
(桜井慎吾)これどれがどの破片か判断つかなくて…。
あのさぁ外見で判断出来ないものは科捜研で成分分析してもらえばいいでしょう?ったくもう…ほら私も手伝うから。
梶さんさぁちゃんと教えてんの?桜井に。
全然骨董屋っぽくないですね。
(安藤光子)うちは本当に買う気のあるお客様にしか美術品はお見せしませんの。
これが細川様にお買い上げ頂いた品です。
購入したのは全て4年前の同じ日ですね?ええ。
いとこの公康さんの紹介でいらしてまとめてお買い求め頂きました。
その公康さんもよくこちらで購入されるんですか?いいえ。
1つ買ってくれたきりですわ。
でもそういえばあの人妙な事言ってましたけど。
妙な事?おっ来たぞ!
(記者)何があったんですか?
(記者たちの声)兄貴もう俺たち2人だけだな。
どうする?この家。
こんな時にする話じゃないだろ。
まあ心配するな。
一樹さん警察の方が。
またお邪魔します。
(一樹)どうかしましたか?どうぞそのまんま。
どうも。
(一樹)お父さんの事件を調べている刑事さんだ。
弟の隆二です。
先ほどお会いしましたよね。
(隆二)どうも。
お父様の写真ですか?
(一樹)ええ。
遺影を選んでおくように葬儀社に言われたもので。
あこれイタリアですね。
(一樹)ええ。
向こうの文化交流機関に招聘されて父は10か月ほど焼き物を教えていました。
10か月も!僕も付き添いで。
陶芸の事以外は一人で何もできない人でしたから。
根っからの芸術家でいらっしゃったんですね。
母は病気で亡くなる直前まで父の事を心配していました。
そんな母の苦労を見て育ちましたから僕は芸術家にだけはなりたくなくて父の後は継がなかったんです。
長男に支えられてきたからこそここまで来られた。
ある雑誌のインタビューでお父様そんなふうに答えてらっしゃいました。
(一樹)ええ。
面と向かって息子にそんな事を言う人じゃありませんでしたけどね。
ところでこちらのお宅から何かなくなってるものはありませんか?
(一樹)えっ?いえ犯人が納屋だけじゃなくてこの母屋の方にも侵入した可能性もあるなぁと思いましてね。
いいえ。
特に思い当たるものは何も…。
私も…。
そうですか。
お父様の寝室から当然あるべきものがなくなってるような気がしたんですけどね。
私の勘違いですかね。
あの…一体どういう意味です?浪江さん腹減っちゃったな。
頼むよ。
はい。
隆二さん…でしたよね?ええ。
お仕事は今何されてるんですか?ああ祗園でちっちゃなバーやってます。
金は兄貴に出してもらって。
だからもう頭上がんないんですよ。
口ではなんとでも言えるぞ。
(隆二)ほんとに感謝してるって。
親父の面倒だって全部兄貴が見てくれたんだから。
お父様と何かあったんですか?まあ…。
実は僕若い頃一時期親父の下で陶芸の修業をしてたんですけど外で酔っ払ってケンカして…。
(細川重春)陶芸家が手をケガしてどうする!お前のようないい加減な奴は目障りだ!出ていけ!あの頃は後継ぎって目で見られるのがプレッシャーで…。
俺には親父みたいな才能もなかったし。
父は頑固でしたからそれ以来15年弟と顔を合わせる事はありませんでした。
息子は僕1人でいいなんて親戚に言い放って。
父がアルツハイマーを発症してようやく隆二はこの家に出入り出来るようになったんです。
でも兄貴だけはずっと俺を見捨てなかった。
ほんとに感謝してます。
ほんとにお前は口ばっかりなんだから。
(隆二と一樹の笑い声)ほんとに感謝してます。
(隆二と一樹の笑い声)あの弟やっぱり胡散臭いな…。
表面上は仲良しのふりをして金目当てにお人好しの兄を利用してるみたいだ。
ほうその根拠は?テーブルのどの席に座るかに人の深層心理は表れる。
(御子柴)テーブルの角を挟んで座る。
これは最もリラックスして会話が出来る関係。
向き合って座る。
これは相手と話をしようとする意思がある関係。
ところが隆二さんの場合一樹さんとは対角線一番遠い席に座っていました。
つまり会話をしたくない好ましく思っていない相手だという気持ちの表れだっていう事ですね?まさか君にお株を取られるとは思いませんでしたよ。
ま極めて初歩的な知識じゃないですか。
よく出来ました!ご褒美にこれあげましょ。
バカにして…。
っていうかこれまた僕の黙って取ったでしょ。
立派な登り窯ですねぇ。
ああどうも。
(高木)この登り窯にしか出せない独特の風合いがあります。
途中で火を絶やす事は先生が望む事ではないと思って。
重春先生の技はあなたが引き継がれたんですね?はい。
先生はどんなお方でしたか?あちょっと…!陶器は日常で使うもの。
自分はそれを作る職人にすぎない。
いつも口癖のようにそう言ってました。
慎み深い方だったんですね。
(高木)ええ。
飾っておくだけの陶器なんて馬鹿げてるといってご自分の作品に高値がつくのも内心はご不満だったようです。
そうですか。
(高木)失礼。
(倉元)古美術商の安藤さんから聞きました。
重春さんが購入した骨董品はいずれ自分のものになる。
あなたそうおっしゃったそうですね。
(公康)えっ?ああ…。
シゲさんが死んだ時1つぐらい形見分けでもらえるんじゃないかなぁと。
重春さんはアルツハイマーの症状が進行する前に弁護士立ち会いのもと財産分与を決めています。
そこにあなたのお名前はありませんね。
もらえないと知ってあなたはあの納屋から骨董品を盗み出そうとした。
そういう推測も成り立ちますが。
盗み出すなんてしてませんよ!最近の警察はほんと失敬だな!
(梶原)購入した骨董品は4品とも全部現場にあった。
なんにも盗まれてなかったんだ…。
この残りはなんなんだろう?
(諫早賢三郎)どうだ素晴らしいだろう?これなんか台湾の故宮博物院にあるのとそっくりでしかもたったの5000円だよ。
へぇ〜そりゃ素晴らしいですね。
そうかお前もこのわざとならぬ美のよさがわかるか。
僕が感心してんのはお義父さんのそのコレクターっぷりですよ。
買ってきた骨董品を恥ずかしげもなく自慢するっていうね。
おい随分嫌な事言うねお前。
いえいえ正しいコレクター心理なんじゃないんですか?それよりも逆に大枚はたいて買った骨董品を人に見せる事もなく納屋にじーっと仕舞い込んどくコレクターがいたとしたらこれは一体どういう心理なんですかね?ええ?それはあれだなぁ心理学の範疇というよりも犯罪学に分類されるべき命題だな。
うん。
なるほどね。
(膝をたたく音)素晴らしい。
参りましたお義父さん。
まあまあ一杯。
これで飲んだらどれだけ美味しいかっていう…。
おいよせよせ…!こっこれは香炉だよ!はははははっ空です。
からかうな。
(笑い声)偽物だった?はい。
4つとも全て偽物。
つまり贋作だったんです。
やっぱり犯罪学の命題だ。
さすがお義父さん。
室町時代桃山時代などと書いてありますがこの時代にはありえないフッ化水素アンモニウムが全ての陶磁器から検出されました。
フッ化水素アンモニウムは陶磁器を骨董品に似せる時に使用される事があります。
これを割った人物は贋作だって知ってたんじゃないでしょうか。
だから地面にたたきつけて壊した。
(壺が割れる音)行きましょう。
どこへ?重春氏に骨董品を売りつけた…。
古美術商のとこでしょ?わかってますねぇ。
安藤さんいらっしゃいますか?うわ…。
班長。
高飛びしようとしてたか…。
(矢代)目を中心に粟粒大の溢血点。
頸部につめが食い込み指部で圧迫した部分あり。
見てのとおりの扼殺だ。
死亡推定時刻は昨夜10時から12時。
それと右指のつめに犯人のものとおぼしき皮膚片が食い込んでいた。
彼女は贋作と知りながら骨董品を売りさばいていた。
そう見て間違いないでしょう。
細川重春と安藤光子は同じ贋作を巡って殺された。
支援班の見立てどおり怨恨の線という事ですか。
問題は誰が贋作を作ってたかですね。
あれ?桐島さんは?
(公康)いいでしょうその風合いがなんとも味があって。
なるほど。
やはりここでしたか。
勝手に動き回るのは…。
お小言はあとで。
申し訳ありませんがこれをお借り出来ますでしょうか?色々と調べたい事があるもんですから。
何を調べるの?実は重春さんが安藤光子さんから購入した骨董品は全て贋作だったんです。
当然これも贋作の可能性があります。
ええ…?贋作!?はい。
クソッ!その安藤さんも殺されました。
そんな…!彼は嘘をついていません。
贋作である事も安藤さんが殺された事も本当に知らなかったみたいですね。
2人とも安藤光子に騙されてたって事か?いや重春さんだけは贋作だって知ってたんじゃないでしょうか。
わざわざ大金払って贋作買ったって事ですか?どうしてそんな馬鹿げた真似を?重春さんは飾っておくだけの高い陶器を嫌ってました。
なのに大金を払って一度に4つも骨董品を買って納屋に仕舞い込んでるんです。
ほら矛盾してるでしょ?でももし贋作である事を知っていたとすればそこにある1つの意味が…彼の心理が見えてくるような気がするんです。
どんな心理です?贋作を作ったのが誰だか判明すればすぐにわかります。
(梶原)これも贋作だったよ。
やっぱり同じフッ化水素アンモニウムで古びた趣に加工してあるんだ。
フッ化水素アンモニウムを購入するには毒物譲渡書に署名捺印が必要です。
(御子柴)エルピー化学の記録によると京都地区に10年前の2001年大量のフッ化水素アンモニウムの販売をしていますね。
購入したのは…。
(御子柴)班長…。
まさか贋作を作ったのは細川重春?いや2001年は重春氏は日本にはいませんでした。
贋作を作ったのは10か月間イタリアに行っていた重春氏に代わって工房を任されていた人間です。
道開けてほら!どけほら!父はたくさんの弟子を育てましたが中でも高木は一番優秀でした。
なんで贋作作りなんか…。
才能の無駄遣いだ。
才能の無駄遣い?父は陶芸を人を騙す道具にするような人間を許すはずがない。
高木に騙されていたんですよ。
病気のせいで判断力が鈍っていたんです。
(浪江)裏口に葬儀社の方が見えました。
桐島さん彼女とよく目が合うみたいですね。
よく目が合うのは気がある証拠。
えっ?
(倉元)たった今殺された安藤光子の爪に付着していた皮膚片からお前のDNAが検出された。
(吉村)彼女を殺害したのはお前だな?
(倉元)安藤光子が売りさばいた贋作を作ったのも…。
あいつとは昔からの知り合いで12年ほど前にいい儲け話があると持ちかけられて…。
(光子)私に任せて。
カモなんてすぐ見つかるわよ。
2人で力を合わせればきっと大儲け出来る。
(高木)高値のつく古伊万里や古備前を真似していくつ作ったか数え切れない。
実際に儲けたのはあいつだけだった。
それでも構わなかった。
なのに警察に目をつけられた途端…俺を捨てて高飛びしようとしたから…。
いつまでそこに突っ立ってんのよ。
(高木)クソッ!
(光子)ああっ…。
ああ…。
クソッ!細川重春氏との間には何があった?何もない。
俺は先生は殺してない。
重春氏は安藤光子から贋作を購入してた。
それは知らなかった。
光子は俺に客の情報は漏らさない。
だから…。
(高木の声)先生の遺体が発見された時…初めて知った。
なんで先生はあんなものを…。
あの贋作もお前が作ったものだな?違う。
あれは…。
お出かけですか?私たちもお供します。
ついでにお話ししたい事があったらなんでも伺います。
行きましょう。
隆二さんは…あの人は勝手に納屋の合鍵を作って時々お金になりそうなものを盗み出してたんです。
隆二をうちに入れるな。
こんなろくでもない男親子の縁は切ったはずだ。
なんだよまともじゃん。
じゃあその時は重春氏の意識ははっきりしてたんですね?はい。
それとこの前刑事さんがおっしゃってた事なんですけど。
これがなくなってたんでしょ?この湯飲みここにもここにも写ってます。
ええ…。
でもどうしてわかったんですか?寝室の枕元のお盆の上には水差しはありましたがコップがありませんでした。
あったのは跡だけ。
不自然でしょ?旦那様がいつも大切に使ってた湯飲みです。
大切に?ええ。
子供の頃一樹さんがお作りになったそうです。
一度壊れてしまったんですけど出入りしていた金継ぎの職人さんに直してもらって大切に使っていらっしゃいました。
金継ぎっていうのは確か割れたり欠けてしまった陶器を漆で繋いでその上を金粉で装飾するっていう修繕方法でしたね?はい。
あの湯飲みがなくなったのもあの人のせいだと思います。
あれを見て隆二さん…。
この部分の金溶かしたらいくらになるかな?これっぽっちの金を換金出来るわけないだろ。
ほら。
(御子柴)そんな大事な事どうして今まで黙ってたんですか?
(浪江)一樹さんに口止めされました。
一樹さんに?弟さんの生活の面倒もあの方が見てます。
ほんとに家族思いのやさしい人なんです。
あなたにとって一樹さんは大切な人なんですね?高木さんが全て自供しました。
あなたには詐欺罪の共犯容疑がかかってます。
10年も前の話だし時効とかにならないかな?駄目?同行願えますか?わかった!わかりましたよわかりました!
(隆二)「だから何も知らないんですって」あの贋作の作者は彼でした。
高木が隆二を誘ったのは隆二に人並み外れた陶芸の才能があったからだそうです。
才能?10年前イタリアに行ってた頃彼が工房に出入りしてた事を弟子の木村さんが帰国した重春氏に教えてました。
しかし木村さんは高木が関与している事までは気づいていなかった。
隆二が勝手に来て怪しげなものを作っていたとだけ告げたそうです。
(倉元)「ヤミ金にだいぶ借金あるな」「贋作作りに手を貸したのは金目当てか?」「おもしろいと思って」「おもしろい?」なるほど…。
おもしろいっていうのはどういう事だ?ああ?お父さんが大切にしていた仕事場でお父さんの仕事を汚すような真似をする。
あなたを見放したお父さんへのささやかな復讐だったってわけですね。
フッ…そのとおり。
頭いいですね。
フフンそのとおり。
あのクソ親父俺の才能を全然認めなかった。
でも俺の作った贋作にコロッと騙されて大金払って…。
まぬけなところはお人よしの兄貴そっくりだ。
それは全然違います。
4年前お父さんは公康さんの美術品を見てすぐにあなたが作ったものだと見抜きました。
他のものに比べて実によく出来てましたからね。
誰よりもあなたの才能を評価していたのはお父さんだったんです。
フン…その推理は説得力ないですね。
贋作が人手に渡ればあなたも詐欺罪の共犯になる。
そうなる前に自分の手で買い集めようとしたんです。
父親として息子を守るために。
厳しい態度をとりながらも心の中ではずーっとあなたの事を心配していたんですよ。
重春氏が殺害されたあの夜お前はどこで何をしてた?自分の家にいたよ。
それを証明出来る人間は?いない。
父親が死んだら遺産が入る。
取り立て屋にそう言ったそうだな。
(ため息)弁護士呼んでもらえませんか?まさか弟が父を…?驚いたふりをされなくても結構ですよ。
あなたお手伝いの浪江さんに弟さんの事口止めされてましたよね?お父さんを殺したのは弟さんだって気づいていたからかばうためにそうしたんでしょう?そのとおりです。
お恥ずかしい話ですが隆二ならやりかねないと思ったんです。
ところでこの湯飲みはあなたが作られたんですよね?ええ。
僕が中学の時に父の誕生日プレゼントに作って贈ったつたないものです。
お手伝いの浪江さんはこの湯飲みがなくなったって言ってるんですけれども心当たりありませんか?ああ…きっと父がどこかに置いたんでしょう。
病気のせいで冷蔵庫の中に老眼鏡を置いたりしてましたから。
ああそういう事ですか。
こうなったらあいつが一日も早く罪を償ってやり直せるよう兄として出来る限りの事はするつもりです。
あとは細川隆二が自供すれば決まりですね。
いえ隆二さんはホンボシじゃありません。
じゃあ誰だって言うんです?テーブルの座り位置の話は覚えてますよね?もちろんですよ。
目のつけどころは中々でした。
褒めてあげましょう。
でも1つだけ勘違いをしています。
君は最初に座っていたのは一樹さんだって思ってましたよね?ええ。
でももしその順番が逆だったとしたら?
(御子柴)まさか…そんな…。
そろそろホンボシを落とす決定的なピースがやってくる頃なんですけどね。
決定的なピース?ほら来た!犯行現場には4つの骨董品以外にこれがありました。
重春さんが大切にしていた湯飲みです。
これで全てのピースがそろいました。
(一樹)どうしたんです?こんなところでお話しなんて。
あなたにお伺いしたい事が2つありましてね。
まず1つ目の質問です。
お父様が大切にしていたあの湯飲みあれあなた中学生の時に作ったっておっしゃいましたよね?ええ。
おかしいんですよ。
いえねあの湯飲みを金継ぎした職人さんのところにお話を伺いに行ったんですよ。
そうしたらその職人さんは…。
ほうこれかこれか。
カエルの子はカエルだね。
小学生でこんないいものが作れるなんてさ。
確かに「小学生」って言ったんですよ。
いい間違いか記憶違いでしょう。
そんな話をしにわざわざ?じゃあ2つ目の質問です。
人類最初の殺人事件ってご存じですか?旧約聖書に出てくるお話なんですけどね。
カインという兄とアベルという弟がいました。
2人はそれぞれ父である神に贈り物をしたんですね。
神は弟の贈り物の方をいたく気に入りました。
それに嫉妬した兄はなんと弟を殺してしまったんです。
その話になぞらえて親の愛情を独占する弟に兄が嫉妬する心理をカインコンプレックスと言います。
私はこの事件はそのカインコンプレックスが引き起こしたと思ってるんです。
あなた隆二さんに嫉妬してるでしょ?なんで僕が弟に嫉妬しなきゃならないんですか。
この湯飲み。
これ本当は隆二さんあなたが作ったんじゃありませんか?えっ?覚えてらっしゃらない?無理もありません。
あなたまだ小学生でしたからね。
お兄さんを手伝うつもりでろくろを回しただけだったんでしょう。
ところが初めての陶器作りにもかかわらずこんなに完成度の高いものが作れてしまったんです。
その時あなたは思い知ったんじゃないんですか?父親に必要なのは陶芸の才能のない自分じゃない。
隆二だけなんだって。
あなたはお父さんの後を継がなかったんじゃありません。
継げなかったんです。
そしてその事をお父さんは知っていました。
その父親の愛情を繋ぎ止めるためにあなたは献身的に尽くし介護にも明け暮れた。
だがその一方で勘当された弟を金銭的に援助する事によって意図的に父親から遠ざけた。
弟思いの兄という姿は見せかけの演技。
本当は心の中は弟への憎しみでいっぱいだったはずです。
浪江さんに隆二さんの事を口止めしたのも隆二さんの事を快く思っていない浪江さんがそのうちに誰かにしゃべるだろうという事を計算しての事だったんでしょう。
(御子柴)あの夜徘徊に出た父親を追いかけてここへ来たあなたはある事を知ってしまった。
4年前お父さんがこれらを買った理由。
そして納屋にしまってあった理由を。
知りたくなかった…。
知らずにいたらあんな事には…。
(一樹)お父さん部屋に戻りましょう。
風邪を引いてしまいますよ。
(重春)隆二…隆二は本当にいいものを作る。
これもこれも…実によく出来ている。
ああ〜惚れ惚れするなぁ。
他の人が買ったらまずいだろ?だからお父さんが買った。
お前は本当に才能がある。
小学生でこんなものまで作れたんだからなぁ。
知っていたんですか?
(湯飲みが割れる音)隆二…。
違う僕は隆二じゃない。
一樹だ。
(重春)ああ…こんな…。
ああこんなに…こんなにバラバラ…。
なんで…なんで…お父さんはいつも隆二隆二って…。
なんで僕を見てくれないんだ!うわーっ!!
(壺が割れる音)あー!
(陶器の割れる音)うわー!
(陶器の割れる音)うわーっ!!
(陶器の割れる音)
(荒い息)あっ…うう…。
(泣き声)親父がそんな事を…。
お前のせいだ。
お前さえいなければお父さんは僕だけを見ていた!お前さえ…お前さえいなきゃ…!お前なんか…お前なんか…!あなたは思い違いをしてます。
この湯飲みを大切にしていた理由をお父さんはこんなふうに話していたそうです。
初めてろくろに触る隆二を一樹が一生懸命教えていた。
兄弟2人が力を合わせて作ってくれた。
死んだらあの世にも持っていきたいぐらい…大切な私の宝だ。
兄と弟…お父さんにとってはどちらも大切な息子である事に変わりなかったんです。
(一樹)そうそうそうそう。
うまいうまい。
うまいぞ。
(隆二と一樹の笑い声)バカだよ…。
バカだよ!バカだよ!!兄貴!どうして…。
兄貴どうして!?どうして!
(隆二)バカだよ…!
(隆二の嗚咽)一番罪作りなのは愛情を素直に子供に伝えられなかった父親よね。
その過ちに気づかないまま亡くなってしまったわけだし。
カインとアベルのお話の結末はどうなるんですか?カインがアベルを殺した後神はカインをエデンの東に追放したがそれ以上の処罰をする事はなかった。
えっそうなんですか?それどころかカインが他の者に狙われないようにカインを殺した者は誰でも7倍の復讐を受けるそういう加護までお与えになったんだよ。
どうして?自分の過ちに気づいていたからでしょうね。
兄が弟を憎むようになったのはなぜなのか?言ってみれば神様は人類最初の殺人事件のホンボシが自分だってわかってたっていう事です。
神様だって過ちを犯すんですからね人間だったらなおさらです。
おや?大切なのはその過ちを素直に認める事です。
あーん。
2014/09/10(水) 15:05〜16:00
ABCテレビ1
ホンボシ〜心理特捜事件簿[再][字]
「血塗られた京陶器!豪邸に集う殺人疑惑一族」
詳細情報
◇番組内容
心理学、刑事、鑑識、プロファイリングの専門家たちが、真犯人=ホンボシを暴く!主人公・桐島孝作は元心理学者の捜査官…表情やしぐさから嘘を見抜き、完全犯罪に挑む!
◇出演者
船越英一郎、大塚寧々、桐山漣、高嶋政宏 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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