「NHK俳句」第1週の選者は宇多喜代子さんです。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願い致します。
今日の兼題は「新蕎麦」です。
今の冒頭の句ですが蕎麦というのは種をまいて75日目の夕食に間に合う。
早いんですよね。
ちょうど花の盛りなんです。
その時に蕎麦好きの人へのご挨拶でしょうか。
とても風景がよく出てる。
今日もよろしくお願い致します。
お願い致します。
さあゲストをご紹介致します。
今日のゲストは俳人の対馬康子さんにお越し頂きました。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願いします。
対馬さんは宇多さんがご自身の後継になってほしい俳人とおっしゃってるんです。
この世代の俳人は本当に期待する俳人が多いんですがその一人で。
ありがとうございます。
そう言って頂けると私こそ宇多先生は論策ともにエネルギーあふれる方で私の目標とする俳人で尊敬しております。
すばらしい方ですがどの辺りが特に?モダンでいらっしゃる。
言葉遣いその他の感覚が。
とてもいいし。
非常に前へ進む姿勢がとてもよく明確に出てると思います。
宇多先生は現代俳句協会の初の女性会長になられた時私は本当に俳壇にも新しい風が吹いたなと思ってとってもうれしかったんです。
まずは宇多さんが選ばれました対馬さんの1句ご紹介頂けますか?この句好きですね。
これは多分察するところお洗濯物を干したというただそれだけの事だろうけどそこから「胸を開いて」という非常に違う世界へ広がっていく言葉の力がとてもよく出てると思ってとても好きな句です。
これは私の第三句集の「天之」に収められているんですが家族の洗濯物を干すという日常からふと出来た句で。
ボタンを外して風になびかせて洗濯物干す時に何か見えない胸が明日に向かって開いているような気がしたので作りました。
とても明るい感じがしますね。
俳句こその世界ですよね?はい。
ただ洗濯干したわだけじゃないんだものね。
いいと思いました。
それで今日の兼題は「新蕎麦」。
新蕎麦についてはいかがですか?新蕎麦というのは…「新何々」はたくさんあるでしょ?「新米」「新茶」…何がある?「新酒」ですね。
いろいろあるけれども特にその季節に取れるものその季節になくては出来ないものに出会った時の喜びみたいなものがとてもよく表れてると思うんですね。
日本人の旬のものを喜ぶというのに通じる季語だと思いました。
香川のご出身ですがお蕎麦押しで?香川なので讃岐うどんで育ったんですが大人になってお蕎麦が大好きになりまして本当に信州で食べたおいしいお蕎麦は忘れられない味です。
それでは「新蕎麦」。
宇多さんが選ばれました入選句ご紹介してまいります。
まず1番です。
扁額というのは横に長い額ですがこれがお店に掛けてあったんでしょう。
それに「天保」という何かが書いてあったという事でこれは江戸の後期ですね。
そのころからこのお店をやってらっしゃるんじゃないかと思うんだけども。
何か伝統のあるお蕎麦屋さんですよね。
また「天保」というのが飢饉があったり改革があったりしてそういう時代も表れてて蕎麦の庶民性みたいなのを感じる年号だなと思いました。
「天保」と持ってきたところが手柄かしらね。
では2番です。
このお店も古いんですよ。
手斧は鍬のような形をした斧なんです。
大工さんがよく使ってそのままを使って梁の太いのがあるお店で。
このお店も古いんじゃないかと思うんですね。
このお店は何か古民家を改造したようなのも私想像したんです。
蕎麦屋さんって本当古くからあるんですね。
こうして見ますとね。
では3番です。
蕎麦打ちって趣味でなさってる方も多いんです。
これをここではいつもの父なる方のお父さんが打つんだろうと思う。
それがいつもより張り切って「手が若返える」手に焦点を当てたところとってもいいと思いました。
定年後の楽しみのナンバースリーに入るらしいですね蕎麦打ちが。
そうなんですよ。
今度は4番です。
これ信濃川だから水が流れるのは当たり前なんです。
しかも「滔々と水が流れる」は非常に常套句なんですがここに「新蕎麦」が入ると1つの大きい風景になって見えてきますね。
いかがです?やはりここでは「滔々と」と言った時に「水」は必要な言葉ですかね?これいらないと思う。
「滔々と信濃川」だけで十分だろうけども「水」とあると本当に余計な事のようだけどでもこれじゃあいるかなと…。
透き通った感じが背景として表れていいかもしれませんね。
流れるというような動詞がないですよね?そうですね。
それがとてもよく出てます。
「滔々」と「水」と。
では5番です。
この「武州」という言い方これ武蔵の国ですよね。
その真ん中辺りに例の「深大寺」が…今調布市になってるかな。
それがあるという事。
あそこは蕎麦の名所ですから。
そのとおりを言ってらっしゃるけど表現のしかたが面白いですね。
すごくリズムが「武州」「真中」いいですよね。
今度は6番です。
これも自分でやってらっしゃるんですよ。
ところがちゃんと専門のお蕎麦屋さんがやるときちんとそろうところがこれね…短いのとか長いのとか出てくる。
その感じじゃないかしらね。
そう思います。
手打ちうどんも同じなんですが太いのがあったり細いのがあったりするところがまたおいしいんですよね。
「丈の揃はぬ」がいかにも素人がやってるなという。
だけど喜々としてやってるんだなという雰囲気出てきますね。
では7番です。
これお蕎麦は…妙なあれだけども音を立てて食べてもいい一つなんですよね。
おうどんもそうかしらね。
そうすると「うれしき音」という辺りにそれが出て「ああお蕎麦を食べてる」という感じが出てるんですよこれ。
「うれしくすするなり」でなく「うれしき音に」というのが上手。
「音に」の「に」がなかなか…。
「に」がこれは俳句独特の助詞の使い方でしょうね。
「音の中に」「音の内に」動作を表す助詞なんです。
その「うれしき音の中に」音にうれしさが出てるという独特の言い方なんです。
とてもその辺がよく自然に出てると思います。
海外では…ベトナムの方にしても何しても絶対音を出して食べてはいけないので本当に日本独特の…。
日本人ならではの?ならではの。
何か日本の…食べるベテランは皆いい音立てて食べます。
おいしそうに聞こえますもんね。
落語のお蕎麦と一緒でね。
音を立てて喉をするといい香りがするという話も聞いた事があります。
空気と…。
では8番です。
これこれもご自分でなさるんだけど。
「やるぞ」というようなものでしょうね。
たすきを掛けてみたり前垂れを掛けてみたりしながら「今からやります」と。
それを「身拵へして」ってちょっとオーバーなとこが面白いじゃないですか。
では今度は9番です。
これは作者が盛岡でいらっしゃるからおのずとわんこそばという例のあの盛岡あちらの方の郷土料理ですよね。
お碗をたくさん重ねてとにかく食べるんですよ。
あれでたくさんの方がうんと食べてらっしゃるよね。
何かあれですかやっぱり一年中あるわんこそばですが新蕎麦の時はやっぱりひときわおいしいんですかね?混むんですかね?それが好きで来る方もあるんじゃないかと思うんですね。
「飛んで来るやら」が非常にユニークですね表現として。
お碗の中にお蕎麦が歩い飛んできてくれるみたいな羽が生えて飛んできて入ってくれるみたいな。
何か大勢でわいわいと食べてる感じが。
元気のいい。
わんこそばの句もご投句の中に多かったんです。
だから皆さんご旅行なさった方なんかもこれを楽しまれたんだなというのがよく分かりましたね。
止めるのに蓋をなかなかできないんですよね。
それだから「飛んで来る」という感じがきっとね…。
面白いと思いました。
以上が入選句でした。
それでは特選三句をご紹介する前に「俳人のことば」をご覧下さい。
(上田)大きな羽音を立ててパ〜ッと渡り鳥が渡っていきます。
その群れをず〜っと見送っているとふっと自分がだんだん小さくなっていくような感じがしたというだけの事なんですが。
見ていますと渡り鳥がみるみる小さくなるのは分かりますが「われの小さくなり」というのは俳句的なものでしょうかね。
上田五千石は…小学生の頃父や兄の影響で俳句を始めました。
11歳の時に長野の小さな村に疎開。
都会育ちの少年はそこで強く鍛えられ季節の移ろいを体で感じました。
そのころラジオで聴いたあるドラマが少年の心に残りました。
「もがり笛」は冬の強風が柵などに吹きつけて発する笛のような音。
(もがり笛)風の音が心の奥に強い印象として残っていました。
ドラマを基に作られたこの句は「やあーい」という呼びかけをそのまま使った事で発表当時大きな反響を呼びました。
それでは特選句です。
まず第三席はどちらでしょう?沼田忠夫さんの句です。
二席の句です。
滝口美恵さんの句です。
一席はどちらでしょう?岩田勝さんの句です。
「武州真中の深大寺」って非常にリズムの乗りがいいんですね。
そこでお蕎麦の名所だという事を言わずに「新蕎麦や」だけで深大寺蕎麦の感じをとてもよく出してらっしゃる。
「武蔵」じゃなく「武州」というところがよく利いてますね。
それも「真中」ですからね。
とてもいいリズムに乗った乗りのいい句でした。
以上が今週の特選でした。
ご紹介しました入選句とそのほかの佳作の作品はこちらのNHK俳句テキストに掲載されます。
俳句作りのためになる情報も参考になさって下さい。
それでは続きまして「入選の秘訣」です。
ここを変えれば入選していたというあと一歩をクリアーするポイントを教えて頂きます。
今日はこちらの句です。
これとても目の付けどころがいい句なんですが表現がいかにも切れが利いてなくて何かこう…句に締まりがないんですね。
どうしてかと思うと上五がやっぱり「山をほめて」。
この「て」の字いらないんじゃないかと思うんです。
この「新蕎麦を」という言い方も私はここはきちんと名詞止めにした方がいいような気がしますので「走り蕎麦」という言い方がありますから。
「歳時記」をご覧になると季語の下に傍題がたくさんあるから。
その中でも「走り蕎麦」は別にその…変えて句意が変わるものではないから「走り蕎麦」になさった方がいいと思うんですね。
これでいいと思います。
やはり名詞で終わると句が締まりますよね。
こういう上五中七がだらっと叙述の部分があると下五を名詞にすると締まりますね。
「歳時記」をきちんと見るというのが大切という事ですね?どうぞ参考になさって下さい。
それでは投稿のご案内です。
ご自身の作品で未発表のものに限ります。
それでは宇多さんの年間のテーマ「季節の食卓」についてお話を伺います。
新蕎麦は例えばお米が取れない時なんかには救荒食品といって代わるものが芋とか何かたくさんあるんですがその中の一つなんです。
お蕎麦は荒れ地でも出来る訳。
あんまりその…どんな所でも出来るんです。
山の耕したような所でも。
すぐ出来るしそれからとても重宝なものだったんです。
それだけに新蕎麦という出会いがうれしかったろうと思う。
それと同時に今の句ですが。
こちらの句ご紹介頂けますか?森下さんは新蕎麦の頃の季節を非常に敏感に風で感じられたんだと思うんです。
季節が変わると風が変わりますでしょ?風の方向が。
今まで夏南から吹いてた風が西へ回ってくるというかそういう事を非常に感じられたんですね。
ですから新蕎麦を言いながら季節の出会いをとても敏感に捉えた句だという気が致します。
やはり蕎麦って時代的なものってあるんですね。
かつては蕎麦は本当に春と秋取れますが特に今年も冷夏で米が取れそうにないやと慌てて種をまくというようなそんなだったのね。
それでもすぐ食べられる。
それと蕎麦殻は枕にするとかね。
蕎麦の食べ方もいろいろあるけど蕎麦掻きといってただ熱湯で。
それがいかにもごはんの代わりという感じがしますね。
冷やごはんと一緒に混ぜるとかいろいろ工夫してきたんですよ。
さあここまで新蕎麦の話いろいろ伺ってまいりましたがここからは対馬さんと宇多さんとの対談をして頂きたいんです。
まず対馬さんにはご自身忘れられない1句がおありなんだそうですね?ご紹介頂けますか?この句は私は大学時代に俳句を始めまして中島斌雄先生に師事をしてその当時に東大学生俳句会という学外に参加させて頂いて山口青先生の句会にも参加させて頂いた時に初めて句会に参加した時に青先生の特選を頂いた思い出の1句です。
どうでした?その特選は?本当にそれで生涯俳句を続けるのが決まったというようなぐらい本当にうれしいものです。
うれしいんですよ。
特選なんて頂こうものならやみつきになる。
本当に特選はなかなか取れるものではないものなので。
特に初めての右も左も分からない時に青先生の選を頂いた。
とてもモダンですし青先生ならではの選を頂いたなという気持ちが今しています。
いろんな事を教えられたんですね?各先生に。
斌雄先生は俳句の現代性が強く表れてる先生ですし青先生は俳句の普遍性とか本質をおのずと教えて下さるしあと同時に教えて頂いた有馬朗人先生は今もそうですが俳句のモダニズムを強く感じて勉強させて頂きました。
いい先生についてきた。
ありがとうございます。
先生とそしてお仲間という事で今日は貴重なものをお持ち頂いたんですね?今日は青春の思い出のこれですね。
「原生林」といいまして東大学生俳句会の俳誌です。
これは表紙は今をときめく長谷川櫂さん。
当時は隆喜さんとおっしゃいましたけど。
どうぞ。
ちょっと見せて下さい。
これねいわゆるガリ版なんですよね。
ガリ版刷りというんですよね。
学生さんがいかにもこの…慈しんで作っておられたのが分かる。
中を見ますと。
そうそう。
これを見ますとねほら…。
お名前が左のそれこそ上の方ですが。
これ本当にいろんな…あなたの名前がその次に長谷川…。
まだ櫂さんの以前のお名前です。
こちらご覧頂けますか?長谷川隆喜さんです。
対馬さんそしてこちらの方に有馬さんの名前もありますね。
顧問をされていらしたので。
本当に貴重なもので。
この「原生林」が本当に仲間と切磋琢磨した時代が私の俳句の青春時代の原点。
それから俳句を続ける原点です。
多分ね結婚なさって旦那様の方にいらしたんですよ。
そうなんです。
それが全てです。
西村我尼吾さん。
そしてこれは今出ておりますが。
これは?これは山口青先生も顧問をされてたので特別寄稿して頂いてましてこれは「雑草園小景」と書かれてる青先生の直筆の字です。
こういう字をお書きになったんですね。
本当によく学生は青先生の字をまねてサインとかをまねて練習してたぐらい本当にすばらしい字を書かれてます。
でも先生とそして仲間という事で今もご自身若い人たちを非常にバックアップしてらっしゃいますよね?そうですね。
バックアップといいますか今の時代どういう若い人たちがいるのかを広く知ってもらうために。
でもそういう媒体というかそういう方がいなきゃ私たち知る由がないんですよ。
若い方がどのぐらいいらっしゃるかというのを。
それをよくやってらっしゃる。
私だけではないですが筑紫磐井さんと高山れおなさんと「新撰21」それから「超新撰21」という40代以下のアンソロジーを作った時はすごい久しぶりでしたので若い人たちのアンソロジーが。
一堂に名前が知れるという事で随分注目して頂きました。
あれはみんなが注目しました。
話題になりましたよ。
話題になるという事はとても…。
それから芝不器男俳句新人賞というのも4年に一度なのでなかなかこれまたハードル高いんですが毎回100人を前後する若い人たちが。
いい俳人が出てますもの。
そういう人たちに何か今ひと言伝えたい…簡単に言って頂くとどういう事になりますか?世の中にそれこそ名前が出てる俳人の人たちは今ネットでも活躍されてますしどんどん自分なりの活動の場を持ってやっているのでとにかく横の連携を皆さん持ってどんどん新しい俳句に挑戦してほしいな。
新しい俳句というのは難しいですけれども日常の中で新しい関係性を作るというところで。
日常の中…。
最初のシャツのね…。
それを忘れずに。
大事な事だと思いますね。
若い方にそういうのを教えて…教える…?教えるという事ではないですね。
教えるのはおかしいのね。
震災の事もありますし見守っていきたいと思ってます。
ありがとうございました。
今後ともご活躍を期待しております。
ありがとうございます。
それではここでお知らせご覧頂きます。
今日は対馬康子さんにお越し頂きました。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
ますますのご活躍をお祈りしております。
それではまた今日はこの辺で失礼致します。
ごめんください。
2014/09/10(水) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「新蕎麦(そば)」[字]
選者は宇多喜代子さん。ゲストは俳人の対馬康子さん。学生のころ、東大俳句会で山口青邨らの指導を受けたという対馬さん。原生林というガリ版の同人誌を見せてくれる。
詳細情報
番組内容
選者は宇多喜代子さん。ゲストは俳人の対馬康子さん。学生のころ、東大俳句会で山口青邨らの指導を受けたという対馬さん。原生林というガリ版の同人誌を見せてくれる。そこには今、俳人として活躍中の人々の名前が見つかる。【司会】桜井洋子アナウンサー
出演者
【出演】対馬康子,宇多喜代子,【司会】桜井洋子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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