元犯罪者の社会復帰を支えるNPO。
今全国の刑務所から手紙が届いている。
(西山)仙台刑務所鹿児島刑務所…あっ鳥取刑務所。
送り主は暴力団員たちだ。
組織を抜け社会に復帰したい。
そこには暴力団をやめ人生をやり直す決断がつづられていた。
警察や社会は包囲網を強化し組織を追い込んできた。
構成員の数は今過去最少にまで減少している。
暴力団をやめた者たちはその後どうなったのか。
過去を隠し新たな仕事を求めてもがき続ける者。
社会の壁にぶつかり再び闇に近づこうとする者。
暴力団離脱という決断。
その先に何があるのか追った。
今年警察庁が発表した暴力団情勢。
それによると全国の暴力団員の数は年々減少。
ピーク時の9万人から去年初めて6万人を切った。
なぜ暴力団員は減っているのか。
国内外の組織犯罪について研究を続ける阿部憲仁さん。
暴力団の調査に同行した。
(取材者)これは?
(チャイム)
(インターホン)「はい?」。
(取材者)NHKです。
(インターホン)「少しお待ち下さい」。
よろしくお願いします。
大阪西成区に拠点を置く指定暴力団二代目東組。
54年前に結成され構成員は現在160人。
ほかの組織と激しい抗争を繰り返しながら独立を維持してきた。
調査に応じたのは川口和秀副組長ら幹部たち。
挨拶にも暴力団を取り巻く現状がかいま見えた。
(取材者)名刺はふだんお持ちではないんですか?あの…いろいろな諸般の事情ありまして出す事を控えておりますんでご了承下さい。
頂戴しておきます。
取締りが強化される中名刺も脅迫の道具と見なされる可能性があるため渡していないという。
失礼します!3年前には全国で暴力団排除条例が施行。
阿部さんはその影響について聞いた。
(阿部)この暴対法暴排条例実際に東組としてどんな影響が出ているんでしょうか。
これ昨日とおとつい私宛てに送ってきたんですけど…。
最も打撃を受けているのは金融機関の口座解約の増加だと言う。
「暴力団排除条例が施行されており当行にて本件解約手続きをさせて頂きますのでその旨ご通知申し上げます」と。
息子の授業料分…。
この幹部は子どもの学校の授業料を口座引き落としにできず毎月現金で持参させた。
学校で子どもが特殊な扱いを受けるようになったと主張する。
まあ私の責任で…そうなったかと。
自分で自分の事腹立っただけですけどね。
自動車保険にも入れず事故を起こしても補償もないという。
暴力団の利益につながる要素を徹底的に遮断し組織の弱体化が図られている。
仮に公団なんか嫁さん名義で住んでると。
旦那がヤクザやという事が分かった場合は出てくれと。
ほんなら子どもも一緒に出てくれいう事ですね。
どこで住むのやという事になってしまいますしね。
もうこれ私たちどないもでけんですよという事の状態に追い込まれてるのは間違いないですわ。
強まる暴力団排除の流れは組織の状況を変えてきた。
入れ墨を拒否しない銭湯も少なくなり行動できる範囲も狭まっているという。
今の時代には合わないと若手の構成員には入れ墨を無理に入れさせていない。
(チャイム)二代目東組!はい!この日構成員たちの食事は市販の弁当だった。
以前は上の者が出前のすしを振る舞う事もあったがそうした余裕はなくなったという。
質素倹約ですよ。
ピーク時500人いた構成員は半分以下に減った。
暴対法以降やっぱり経済的に沈んでるからこういう傾向が多くなってるんちゃいますか?増えんっていう事はやっぱり魅力ないいう事やな。
絶対それはありませんわ。
魅力っていうよりもメリットかな。
メリットがないって事ですわ。
過去最少となった暴力団員の数。
組織を抜けた者たちはどこに行ったのか。
関西の暴力団を脱退した40代の男性。
かつて債権の取り立てなどを行っていた。
この日男性が訪れたのは人工的に体の一部を作る会社。
ここなんですけど骨の所はどうですか?男性は組織の掟に反したとして小指を切り落としていた。
社会に復帰するために義指を作りたいと相談に来たのだ。
面接でという事でよろしいですか?はい。
男性は元暴力団という経歴が社会復帰の足かせになっていると言う。
組織離脱後知り合いの紹介で会社に就職。
しかし暴力団にいた過去が同僚に伝わり周囲から孤立。
退社に追い込まれた。
隠しきれない自らの過去。
男性は今も定職に就けずにいる。
社会の壁を乗り越えられず再び犯罪の誘惑に揺れる者もいた。
かつて暴力団で覚醒剤を売買していた40代の男性。
刑務所に服役後組織を離脱した。
ハローワークに通い詰め新たな仕事を探したが誰からも信用してもらえなかったという。
暴力団をやめた仲間の中には更生を諦め再び犯罪に手を染める者もいるという。
暴力団に属さずいわゆる半グレになっていく知り合いも少なくない。
もしもし。
男性のもとにも最近かつての知り合いから仲間に加わらないかと誘いが来るようになった。
組織犯罪の研究を続ける…暴力団員の数を減らすだけでは治安は守れないと考えている。
(一同)よろしくお願いします。
この日訪れたのは定期的に受刑者の話を聞いている府中刑務所。
暴力団に関係する受刑者のうち現役の構成員がおよそ4割なのに対し元暴力団員はおよそ6割。
組織をやめたあと罪を犯し逮捕されるケースも多い。
追い込むだけ追い込んで行き先がない切るだけ切り捨てて行き先がないっていうのが今の形なので。
最終的にどこで受けるのかっていう形を社会システムとして構築していくための今第2ステップに来てると私は思います。
暴力団をやめる決断をどう支えるのか。
ある取り組みが行われていた。
集合!はい集合。
このNPO元暴力団員たちを寮で受け入れ建設関係の仕事を提供。
社会復帰をサポートする活動を続けている。
おっ地下足袋もちゃんとボタンしとけよ。
NPOの会長西山俊一さん。
活動を始めたきっかけは自らの過去にあった。
17歳で山口組系暴力団に所属。
その後40人の構成員を束ねる組長となった。
組織の独立を巡る抗争で命を狙われ2発の銃弾を受けた。
暴力の世界と決別した西山さん。
更生を目指して建設会社を始めたが誰からも仕事をもらえない日々が続いた。
そんなら逆にわしはそういう人たちを使ってあげようと。
我々みたいな者でもこれだけの仕事ができるんだぞと。
活動を始めて30年。
今西山さんのもとには暴力団をやめようとする人たちから手紙が殺到している。
鹿児島刑務所広島刑務所神戸刑務所。
「家族や友人たちを裏切り悲しませてしまった。
真の意味での更生をしたいと考えています」。
「二度と組に入らない決意をしています。
出所後はどんな仕事も真面目に頑張りたい」。
西山さんはこれまで100人を超す元暴力団員たちを受け入れてきた。
2年前西山さんのところにやって来た40代のAさん。
暴力団時代に事件を起こし服役した。
家族とも絶縁し帰る場所を失ったAさんは獄中で西山さんの存在を知り手紙を書いた。
「私には身内と呼べる人が誰ひとりとしていません。
こんな自分ですがどうか助けて頂けませんでしょうか」。
西山さんは更生の気持ちに偽りはないと感じ受け入れる事にした。
出所後すぐにAさんを建設現場に送り出した西山さん。
どんなんや?相手を信用し仕事や役割を与える事が更生への第一歩だと考えていた。
いつまでも鎖をつなげとったら更生はできんですよ。
そしてもう一つ重要なのが社会に対する不信感を拭い去る事。
西山さんは地元で開いている武道の道場にAさんを誘い地域の子どもたちと練習を続けさせた。
正確に蹴れ正確に。
回し蹴りというのはきちんと回して蹴らないかんのやからの。
(子どもたち)おす!当初誰とも話す事がなかったAさんにも変化が出始めた。
NPOに来て2年。
Aさんは寮を出て独り立ちする事を考えるようになった。
しかし更生への道も成功ばかりではない。
この日西山さんは県内にある刑務所に駆けつけた。
面倒を見ていた30代の男性が傷害事件を起こし懲役の実刑を受けたのだ。
15分間の面会。
男性は西山さんにわびもう一度チャンスが欲しいと語った。
「頑張って一日も早く帰ります」と。
「面会に来てくれるのがうれしい」って涙ぐんでましたわ。
裏切られんね。
裏切られたとわしは思ってないけんね。
そんなん思ってたら切りないですよ。
こういう運動をする人間が一遍一遍裏切られたと言いよったらできんですよ。
ほかに帰る場所がないのであれば自分が引く訳にはいかない。
西山さんの意地ともとれる言葉だった。
暴力団をやめ社会に復帰したい。
今日も刑務所から手紙が届く。
暴力団をやめ就職のために指の制作を頼んでいた男性。
お待たせしました。
指の方が…。
この日依頼していた義指が出来上がった。
去年1年間で減少した暴力団員たちはおよそ5,000人。
今も社会のどこかで決断のその先を生きている。
2014/08/14(木) 22:55〜23:20
NHK総合1・神戸
ドキュメント 決断「暴力団“離脱” その先に何が」[字]
暴力団排除条例などが広がる中、初めて6万人を下回った暴力団の構成員と準構成員。多くが社会復帰の壁に直面している。“社会と闇社会”の間で揺れる「決断」を追う。
詳細情報
番組内容
去年、警察庁の発表で、初めて6万人を下回った暴力団の構成員と準構成員。暴力団対策法や暴力団排除条例など包囲網の効果とも見られている。犯罪学の専門家らは、組織の離脱を迫られた元組員たちが、その後どうなったのか追跡調査を続けている。取材で浮かび上がってきたのは、社会に復帰できず、漂流し続けている人が少なくないという実態だ。“闇社会”で日々繰り返される組織離脱の「決断」と、その行方を追う。
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ニュース/報道 – 報道特番
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