長引く不況高い失業率蔓延する閉塞感。
心の声何もかもうまくいかない…。
どんな悩みにも打ち勝つ事ができる方法はないだろうか。
日本で1,500年の昔から読み継がれてきたお経「般若心経」。
仏道に生きる僧だけでなく普通の人々が僅か262文字のお経の言葉に心の安らぎや生きる勇気を得てきました。
では一体この「般若心経」にはどんなメッセージが込められているのでしょうか?「般若心経」。
第1回は「最強の262文字」と題して「般若心経」とは何かその神髄に迫ります。
(テーマ音楽)伊集院さん今回は「般若心経」を取り上げるんですが「般若心経」というとどんなイメージをお持ちですか?僕基本無宗教なんですけど耳にする機会多いし。
あと今朝カミさんこれまた無宗教なんですけど「どう?」って聞いたらおばあちゃんに習ったか何かで「一応全部暗唱できるよ」なんて言ってましたね。
すごい。
でも確かにうちのおばあちゃんもよくお仏壇の前で「般若心経」を唱えていたんですよね。
なんか身近ですよね。
聞いた事が何となくあるという方多いですよね。
こちらが「般若心経」の262文字です。
こうして見ると262文字ですか。
この番組極端ですよね。
「源氏物語」みたいに長いやつも100分で一応読み解いていこうと。
今回は262文字を100分でやっていこうという事ですね。
この「般若心経」数あるお経の中で最も日本人に愛されてきました。
なぜ愛されてきたかというとこの262文字という短い言葉の中にあらゆる悩みから解き放たれる最強の知恵パワーが詰まっているからという事なんです。
悩みと煩悩の数においては自信がありますのでちょっと楽しみでございます。
「100分de名著」これから4週にわたって「般若心経」最強の262文字の秘密を読み解いていきます。
それでは今回の指南役をご紹介しましょう。
花園大学の佐々木閑先生です。
よろしくお願いいたします。
仏教学が専門の佐々木閑さん。
科学者を目指していましたが畑違いの仏教学者になったという異色の経歴の持ち主。
「般若心経」の262文字には奥深い知恵が込められているといいます。
早速ですが「般若心経」というのはお経ですよね。
そうですね。
日本人なら誰でもこの名前は知っているでしょうね。
そういう国民的に広く広まっているお経ですね。
今回はみんなが知っているこの「般若心経」の中に一体どういう思想が入っているのかという事をご紹介したいと思っております。
ではその冒頭部分から見ていきたいと思います。
最初の部分だけちょっと読んでみましょうか。
漢字がどんどん続いていきましてねお経ですからね。
そして全部で262文字。
これは長いように思いますが大変短いお経ですね。
たったの262の漢字で「般若心経」が出来上がってるという事なんですね。
もともとこれは漢字ではなくてインドで作られたものですから仏教のお経ですからインド語で書かれていたんですね。
「サンスクリット」と呼ばれるインドの雅言葉ですけどそういう言葉で書かれたものが今も残っておりますね。
先生タイトルの「般若心経」なんですがどういう意味なんですか?これは「知恵」という意味なんですね。
ですから「般若心経」というお経がありますがこれは「知恵のお経」という事になります。
正式な名前があります。
「般若心経」というのは短く縮めた名前で本当の名前は…知恵の完成という事に関してその一番大事なエッセンスを取り出したお経ですよという事です。
なんかすごく読みたくなりますよね。
知恵の完成のために一番肝心な部分ですよと言われると。
問題はその「般若心経」を誰が説いたのかという話なんです。
それは僕また知識がないところが出ちゃうかもしれませんけどイコールお釈様ではないんですか?仏教のお経ですからお釈様だと考えるのが普通ですがしかしそうではありません。
仏教は長い歴史がありますからお釈様がお生まれになってからもう2,500年たってます。
その間にさまざまな人たちが新しい考えの仏教をつくり出していきました。
人々の苦しみを救いたいあるいは自分の苦しみをなんとか消したいと願う人たちの新しい道が生まれてくるんです。
それが大乗仏教。
今先生のお話にありました大乗仏教をイメージしたものをこちらに準備いたしました。
大勢の人が船に乗っていますね。
「大乗」という言葉は大きな乗り物という意味です。
つまり悟りの世界へ1人で行くのではなくてみんながこの大きな乗り物これが大乗仏教の教えですね。
その大乗仏教の教えにみんなが乗るとみんながそろって悟りの世界へ行けますとそういう意味なんですね。
ですからいろんな人がいろんなお経を作ったわけです。
「般若心経」はその中のただの一本です。
大きなものは例えば「大般若波羅蜜多経」というお経がありましてこれは600巻ある。
600巻のものもこの262文字の「般若心経」も言っている真ん中の部分は一緒ですか?ほぼ同じです。
それだったら是非この262を頂きたいですね。
やはり短い方のに飛びつきますよね。
実は私たちがこの「般若心経」を読む事ができるのはある人の偉業のおかげなんです。
お〜誰?玄奘三蔵です。
聖なる仏典を求めて中国から命懸けで一人インドに渡った玄奘三蔵。
「般若心経」をこの世に誕生させるまでの物語をご覧下さい。
玄奘三蔵は「西遊記」の三蔵法師のモデルとして有名ですが7世紀に活躍した実在の人物です。
24歳の時仏典を手に入れたいと中国からインドへの旅に出ました。
その旅にはこんな説話が残されています。
国を出る直前玄奘は一人の病人に出会います。
衣服や食べ物を施すと病人は旅のご加護があるようにとある言葉を教えてくれました。
玄奘はこの言葉を胸に危険な旅に出かけます。
死の砂漠で行く手を塞ぐ化け物。
その時玄奘が「羯諦羯諦波羅羯諦」と唱えると皆叫び声を上げて消えていきました。
こうして玄奘は苦難の旅を乗り越えインドに到達する事ができたと言い伝えられています。
インドから1,335巻の経典を中国に持ち帰った玄奘は全国から優秀な僧侶を集めおよそ20人の翻訳チームを結成し訳に取りかかりました。
それは20年の歳月を要しました。
次々に訳されていく経典の数々。
その中で262文字に凝縮された「般若心経」が完成したのです。
僕らの知ってるお話の方の絵本の方の「西遊記」の三蔵法師だと到達したら終わりじゃないですか。
天竺に行ったら。
だけどちゃんとお経を持ち帰るという事は持ち帰って何十年にわたってきちんとした翻訳をしてちゃんと広めるというそういう事なんですね。
それが玄奘三蔵の一番の功績なんです。
そうやってインドから中国に持ち帰って訳したお経の一つがこの「般若心経」だと。
そうです。
それが本当にすばらしい翻訳なんです。
やはり内容を理解して思想的にしっかりとそれを翻訳してるところもありますしそれから翻訳をせずにそのまま音を残してつまりインドの音を残したまま漢字で置き換えていく音写をするという事にすばらしい能力があるんですね。
それはすごいテクニックですね。
何に例えていいのか分からないけど例えばねアメリカのヒット曲を日本語版にする。
そのヒット曲の良さを残しながらその音の良さも残しながら日本の文化にも通じるようにしなきゃいけないという作業がまあ大変。
残す割合も大変なら完全オリジナル曲にしちゃうわけにはいかないじゃないですか。
それの超優れてる版という事ですか?そうですね。
特に玄奘三蔵はそういう翻訳の能力に優れていましたね。
何で音写という事にそこまでこだわってるんですか?理屈で分かる部分はちゃんと普通に翻訳すべきですがそうではなくてその音が意味を持ってる場合もあります。
その中でも一番核心ですね。
「般若心経」のまたその中のエッセンスというのはその音写で書かれた部分です。
一番最後に出てきますけどねちょっと読んでみましょうか。
いかがですか。
これ聞いた事があります「羯諦羯諦」というのは。
これ子供心に一番心躍った所なんです。
大人が真面目に「羯諦羯諦」を言ってるリズムとか子供心にすごくワクワクしたというか不思議だなというか覚えてます。
意味は全然分からないんですけど一回聞くと覚えますよね。
これ何ですかね言霊的な事になるんですかね。
そうです。
これは呪文なんです。
無理に平たくしますので間違ってたら申し訳ないですが長嶋茂雄さんっていらっしゃるじゃないですか。
長嶋茂雄さんの言葉ってこれに近いような気がするんですよ。
細かいバッティングのニュアンスをある程度説明したあとにボーンギュッギューだよって言う感じ。
感覚をそのまま伝えないと恐らく分からないみたいな。
要素のある所はちゃんと訳したりなさるんでしょうからあえてこの「羯諦羯諦」を堅い文章にするよりはあのおまじない感だとか何かきいてる感じとかもうセンスですねこれは。
その玄奘三蔵の思いが入った「般若心経」の響きですけれどもそれがどれだけすばらしいのか。
本来全て読むと5分ほどかかるので今回はその一部を実際の読経で聴いて頂きたいと思います。
こうして聴くとまた心が鎮まってくるというか別世界にいざなわれるような感じありません?いいお坊さんがこうやって読んでくれると本当にフワーッとする感じはありますね。
ではここからは言葉の意味を読み解いていきたいと思います。
心の声
(男性1)これは何の言葉なんだろう。
(男性2)その続き教えましょう。
どういう意味なんですか?私やこの世を形づくっている「五蘊」は全て「空」だと分かって一切の苦しみや悩みから解放された。
そういう意味です。
「五蘊」は全て「空」って一体どういう事ですか?あなたや私はいくつかの要素がたまたま寄せ集まって成り立っているだけで確固とした実体のないものそういう事です。
たまねぎだってこのまま皮をむき続けたら何もなくなってしまう。
分かるような分からないような…。
大丈夫ですよだんだん分かってきますから。
今私の困った顔オンエアされました?あっそうですかもうこのカメラに写っておりましたか。
分かんないですね。
いろんな言葉が出て…五蘊?五蘊という言葉が出てきましたね。
あまり聞き慣れない言葉ですけど。
「般若心経」の中の「照見五蘊皆空度一切苦厄」この言葉の中に出てきます。
まず我々は一つの人間として例えば西洋哲学で言うと「我思う故に我あり」というふうな「我」というのはあると思い込んでいますが仏教ではそんなものはないんだと。
その仮の姿の私を構成している要素は何ですかと。
何が集まって出来ているんですかというものを考えた時に仏教ではそれは5つだというんですね。
それが五蘊です。
ですからここに挙げましたね。
「色受想行識」ですね。
この図でお分かりのとおりにまず「色」で一つ表してますがこれは私の肉体です。
体を作ってる物質ですね。
残りは私の心の中の働きを更に4つに分けています。
「受」というのは外からのさまざまな刺激に対して私がそれをどう受け取るか。
「想」というのはその受け取った情報に対して私がこちらから積極的に何かを作り上げて考える事です。
想像するという事ですか?そうです。
「行」は本質的には私は何かをするぞという意思作用ですね。
「識」というのはこれは認識ですから外から入ってきた情報あるいは心が捉えた情報を心の中にそのままニュートラルに映し出すそういう働き。
これが仏教が本来的に言う私たちの在り方なんです。
しかし「般若心経」はそれを「空」だと言ってしまう。
すごいですね。
だって僕ここですごい納得しましたもん。
自分とは何だって言われたらなるほどこれ全部自分なんだという納得がまずあってそれすら「空」だと。
そうですね。
一旦徹底的に分析した上でその分析した結果に対してそれは錯覚であるという非常に奥の深いひねりを入れるわけですね。
さあでは先ほどの2人の話の続きを見てみましょうか。
(男性2)ここにあるのは何だと思いますか?
(男性1)本ですよね?
(男性2)そうかもしれません。
でももし本というものを知らない例えば猫にとってはこれは本ではない。
だとすれば何でしょうか?紙の集まりですか?そうとも言えます。
もしくは赤い色と白い色と金色の集まり。
つまり本というのはあなたの経験や知識に基づいてあなたの心がそう決めているだけで本という実体は実は実在しないのです。
今あなたの目に赤い本として映っているのは光と目の前のものそして受け取るあなたの目の感覚器官の一瞬の関わりあいの中で生まれた偶然の産物です。
もし太陽が傾けばこの本はこんなにも鮮やかな赤には見えないはず…。
夜の闇の中ではただの物体になってしまう。
そういう事ですか?あなたの体も心の働きも全ては「空」幻なのです。
ちょっと真理じみたものが見え隠れしてきましたね。
言われて分かるところもあるんですけどでもだからといって最後全ては幻と言われてしまうとそうなのかなという気もするんですが。
例えばこの机にしろ椅子にしろ私たちは「椅子がある」と言いますが…人が使うための道具であってこれは座るものだというそういう判断も一緒にくっついてやって来ますよね。
しかし椅子という言葉を知らない人間とかもちろん犬とか猫が見た時には何だか分からないものです。
このように私たちはものに対して全部約束事として…表向きのものだけであって本質ではないというんですね。
そこまでは理解しました。
幻というか「空」というかは分からないけれども僕が今思ってる一つの物事というのはあくまで僕の都合だったり僕の見てる一面なんだという事は分かるんですけど。
それが分かる事で何だという…それを知る事で何でしょう?ですから同じものがあるにしてもそれを我々が「これはこうである」と決めつけて言う事には必ずそこには間違いが入ってくるわけです。
変な感じになるもんね。
Dialogue:0,0:22:47.39,0:22:50.42,Default,,0000,00002014/09/10(水) 05:30〜05:55
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100分de名著 般若心経 <全4回> 第1回「最強の262文字」[解][字]
大乗仏教のエッセンスを凝縮した般若心経。現在広く用いられているのは、唐の玄奘三蔵がインドの経典を翻訳したものだ。第1回では般若心経とは何か、その基本を学ぶ。
詳細情報
番組内容
わずか262文字に大乗仏教のエッセンスを凝縮した「般若心経」。現在広く用いられているのは、仏典を求めてインドに赴いた唐の玄奘三蔵の訳によるものだ。玄奘三蔵は膨大な経典を翻訳したが、「般若心経」の翻訳にあたって工夫したのが、読経したときの「音の響き」だった。なぜ玄奘三蔵は、音を重要視したのだろうか? 第1回では「般若心経」の基本を押さえるとともに、「音」に込めた玄奘三蔵の思いを探っていく。
出演者
【ゲスト】花園大学教授…佐々木閑,【司会】伊集院光,島津有理子,【語り】小野卓司
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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