「グレーテルのかまど」にようこそ。
15代目ヘンゼルこと瀬戸康史です。
その昔スイーツは神への捧げ物でした。
うれしい時悲しい時もうひとふんばりしたい時一口頬張るとなぜか元気が湧いてくるのがスイーツ。
そんな不思議なスイーツの物語を我が家のかまどで最高においしく焼き上げましょう。
光る石をたどれば行き着く不思議な家にあのお菓子の家のヘンゼルとグレーテルの末裔が暮らしています。
彼らが振る舞うおいしいお菓子の物語をご賞味あれ。
あらあらヘンゼル君なんか無口じゃない。
あそっか寂しいの?何だよそれ。
グレーテル働くわよね〜。
明日帰ってきたらおいしい水ようかんでねぎらわなくちゃね。
分かってる?こういう時が居候組の腕の振るいどころなのよ。
はいはい。
今宵ひもとくお菓子は…。
「作家・向田邦子の水ようかん」。
日本の夏の風物詩水ようかん。
基本の材料は小豆砂糖寒天と水のみ。
シンプルだからこそ素材の力や作り手の技が奥深い味わいを生み出します。
そんな水ようかんをこよなく愛した女性がいます。
彼女は水ようかんを食べる時のBGMやしつらえ器にもこだわりました。
脚本家で直木賞作家の向田邦子。
彼女はエッセーの中で「自分は脚本家というよりも水ようかん評論家という方がふさわしい」とその偏愛ぶりを記しました。
あまたあるお菓子の中で水ようかんに特別な思いを寄せた向田邦子。
彼女の水ようかんはどんな味がしたのでしょう。
向田さんはエッセー「水羊羹」の冒頭にこう書いています。
向田さんと仲のよかった9歳年下の妹和子さん。
姉は水ようかんの切り口にはなみなみならぬこだわりがあったと言います。
切り口がしっかりしてるうちに食べないと姉はあんまりうれしくないもんですから。
(取材者)そういう事はもうおっしゃってたんですか?うん。
「今日まっすぐ帰る?」とかって言われて「なんで?」って言うと「水ようかん持ってって」という時は寄り道するとガタガタしちゃったり形が崩れちゃったりするのあんまり気に入らないんですよね。
自分のわがままなんでしょうかね。
そんな邦子さんの思い出の品。
うちの姉はこれに水ようかん入れるのが一番いいと思ってた。
水ようかんを頂く時は決まってこのお皿を使っていました。
こういうふうにピッ。
向田さんは水ようかんの色にも独特な思いをつづります。
「小学生の頃お習字の時間にどういうわけか墨を濃くするのがはやっていましたが今考えてみますと何も分かっていなかったんだなと思います」。
切り口に命を感じうす墨の色にはかなさを思う。
向田さんの水ようかんは生きているお菓子でした。
その文章はどこか恋人を探しているみたい。
お任せ下さい!本当においしい水ようかんとはどんなものなのか。
向田さんも姉ちゃんもうならせる味作ってみせましょう!よし!ヘンゼル本当においしい水ようかんって分かってるの?第1関門はこちらジャン!小豆のゆで具合です。
これが向田さんの言っていたうす墨の色にも深〜く関わるのよ。
その秘けつは…う〜ん水分を十分に吸っていい感じ。
でもねこれからが要注意。
ゆで過ぎて豆の皮をはじけさせたらジ・エンド!粘りけが出て口溶けは悪くなるわ色もくすんじゃうわで水ようかんの質はガタ落ちなのよ。
え〜。
今の色は…すごいきれいなワイン色。
濁りがなくて透明でしょ。
このワイン色になったらOK。
ざるにあけま〜す。
気を付けて。
これでね雑味が消えて小豆の風味が際立つのよ。
そしてまた水からコトコト煮ます。
今度は指で押し潰せる固さまでね。
はい。
水ようかん一つの命を慈しむように向田さんは食べ方にも礼節を尽くします。
あ〜らすごくきれいな小豆の色が出たじゃない。
うわ〜気持ちいい!すごいサラサラ!でしょ〜?これからがあんこの出来を決める「あん炊き」の作業よ。
そのポイントは?…ってどんな熱さだよ!はいはい始めましょう。
強火でね沸騰させながらよ〜く混ぜるのよ。
うわあつっ!この時点で熱い。
気を付けて。
今強火?強火!沸騰させながらよ〜く混ぜて。
火加減はずっと強火のまんまね。
あ少しトロトロになってきた。
あっ匂いが…。
それあんこの匂い。
あんこの匂い!すごい。
なんか涼やかな顔でやってるわね。
あでも…あつっ!きたきたうれしいなんか。
涼やかな顔じゃなくなって。
ヤバイあつ〜!頑張って気合いよ。
あっつ〜。
気が付いたらすごくあんこが飛んでた。
それが醍醐味。
あん炊きの醍醐味よ。
火を弱めるとねジワーッと水けが出てまずいあんこになっちゃうのよ。
知ってる?ん?和菓子の世界ではねあん炊き職人は長生きしないんだって。
え〜!?そう言われてるんだって。
和菓子屋さんね大量のあんこ炊くでしょ。
その熱さがハンパないらしいのよ。
だってもう…この時点で分かるもん。
すごい?熱さハンパない。
あつっ!足にも飛んできた!これすごいんだ手だけじゃないんだ。
・「頑張れ頑張れ水ようかんにもう一歩」あっつ〜!向田さんにとって水ようかんは大人の味自立の味でもありました。
子供の頃向田家には毎日おやつの時間がありました。
母が子供のためにお茶をいれ決まった器に盛られた2〜3種類の駄菓子。
お客様用のようかんの切れ端はきょうだいで奪い合うほどのごちそうでした。
そんなみんなで頂くおやつの時間が邦子さんを育んだのです。
うちを出たのは35歳。
脚本家として多忙を極めながらもお気に入りを味わうひとときを大切にし続けました。
徹夜続きでアイデアが煮詰まると財布を片手にふらりと立ち寄ったご近所のお店。
お気に入りの水ようかんはここにありました。
お目当ては水ようかんだけではありません。
他愛のないおしゃべり。
朝8時前から訪れて先代の女将と長話をする事も珍しくはありませんでした。
母もおしゃべりが大好きなので。
ほっとけばいくらでもしゃべってましたから。
水ようかんの角が崩れないように家路につく緊張感は仕事の慌ただしさをひとときだけ忘れさせてくれました。
居ずまいを正して頂く一切れの水ようかん。
それは大切なおやつの時間を取り戻せる魔法のお菓子でした。
「水ようかんとようかんの区別のつかない男の子」ってまさに俺の事?ちょっと今頃そんな事言ってるの?大丈夫?え…冗談冗談!もう怪しい…。
いよいよ水ようかん作りに突入します。
あんこは買ってくるって人はここからでもおいしい水ようかんが出来るのよ。
よし!一晩ねかせた…。
ねかせた特製あんこを加えて…。
よいしょ。
よし。
ほぐしてほぐして。
うん随分いい感じになってきたわね。
じゃあ火を止めて。
で水で溶いた葛粉を投入してみましょう。
・「ボンボン和三盆〜」ハハハハッ!お〜すごい!う〜ん!いいんじゃな〜い。
でここからが最後3つ目の秘けつ。
ここで…。
ゆっくり粗熱をとります。
そうゆっくりね。
鍋に沿うように。
沿わせるように。
この作業が柔らか〜い舌触りや向田さんが言ってた切り口と角の美しさを決めるのよ。
ちょっと触ってみて。
あっ!OK。
ちょっと一息ティーブレーク。
お菓子のふるさとを訪ねましょう。
帰省客で混み合う年末。
妙な話を聞きつけました。
水ようかんの旬は「冬」と言い張る不思議な土地があるらしいのです。
うわさを確かめるべく向かった雪国は…。
福井!冬の水ようかん王国で〜す。
コンビニのレジ横には肉まんの代わりになんと水ようかん。
しかも冬期限定!市内だけでも70以上の味があるそうで。
冬の中でもとりわけ年末年始が福井の水ようかんの最盛期。
大量のニーズに応えるべく工場はフル稼働。
作り出される水ようかんは今日一日だけでもなんと2万箱!一体どうしてこんな事になっちゃったの?社長さん!・社長!はい。
140乗せれますか?
(江川)あああるよ。
じゃあちょっと待ってもらって下さい。
(取材者)追加ですか?ん?追加。
実は水ようかんが日本の夏の風物になったのは最近の事。
冷蔵庫がない時代日もちのしない水ようかんは日本中どこでも冬のお菓子でした。
更に福井で年末年始に食べるのは理由があります。
その昔都会で働く丁稚さんたちが年末の土産に持ち帰った貴重なようかん。
それを水で薄めて固め直し分け合って食べたのが始まりとされているのです。
今も福井で冬の水ようかんが廃れないのはなぜでしょう。
福岡に嫁いだ公美さん家族が帰ってきました。
臼井さんご夫婦はこの冬の水ようかんをとりわけ楽しみにしていました。
皇篤くんは1歳。
近頃柔らかいものが食べられるようになったんです。
おばあちゃんたちがひそかに狙っているのは…。
そう皇篤くんの初めての水ようかん体験!福井の味を気に入ってくれるかな?笑った!福井の冬の水ようかん。
それは家族で味わう思い出が詰まった味でした。
この風習まだまだ受け継いでもらえそうですね。
臼井さん!
(秒針の音)お〜…。
切り口と角が水ようかんの命なのよ…。
うるさいなぁ〜!手が震えてる。
ダメそれじゃダメ。
よし集中して…。
直角!向田邦子さん好みの水ようかん完成です!ヘンゼルが心を込めた特製レシピの水ようかん。
グレーテルは気に入ってくれるかしら?
(チャイム)ほらグレーテルよ!姉ちゃんお帰り!お疲れさま!40代半ば小説も手がけるようになった向田さんは突然癌の告知を受けます。
水ようかんのエッセーは「生」という字が心に沁みた手術から2年後に書かれたものでした。
向田さんはエッセーの最後をこう結んでいます。
はかなさもののあわれそして短い命。
向田さんの水ようかんは今ここにある生を慈しむ心のお菓子です。
今日の「グレーテルのかまど」いかがでしたか?涼しいイメージしかない水ようかん。
なのにあんな料理過程で熱い思いをするとは思いませんでした。
それではまた近々このキッチンでお目にかかりましょう。
ちょっと失礼して…。
いただきます!ちょちょっとあなた!それ2つ目じゃないの?ヘンゼルふた…ふた…あっ!おいし〜!もう…。
向田さんが1つで我慢って言ってたの台なしじゃないの!大人の男になるんじゃなかったの?大人の男になるんじゃなかったの?あ〜おいしい!ちょっと私にもちょうだいよ。
あ〜うま〜!んもう…。
障害者のための情報バラエティー…2014/09/10(水) 00:00〜00:25
NHKEテレ1大阪
グレーテルのかまど「向田邦子の水ようかん」[字][デ][再]
人気ドラマの脚本や小説、随筆の名手、作家向田邦子さん。自らを水ようかん評論家と称するほど水ようかんを愛した彼女。なんで?どんな味が好みなの?どんな時に食べるの?
詳細情報
番組内容
アンコールシリーズ、今回は向田邦子がこよなく愛した夏の風物・水ようかん。向田のエッセー「水羊羹」は独特の視点から、その魅力を語った小気味よい小品。文章を手がかりに、妹の和子さんへのインタビューや水ようかん専用のお皿・お気に入りの味・食す作法などを紹介。水ようかん的なものを慈しんだ向田の生き方や美学をひもといていく。「グレーテルのかまど」の初回、開発番組として放送の29分版を24分にしてお届けする。
出演者
【出演】瀬戸康史,【語り】キムラ緑子,【朗読】渡邊あゆみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
バラエティ – 料理バラエティ
情報/ワイドショー – グルメ・料理
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:23726(0x5CAE)