もしもし。
自分の住む所に土砂災害の危険はないか。
全国で問い合わせが相次いでいます。
都市を襲った広島の土砂災害から20日。
被災地は今も悲しみに包まれています。
今回、災害の発生に間に合わなかった避難勧告。
行政の判断が遅れる中住民みずからが連絡を取り合って命が救われた地区もありました。
この夏全国で相次いだ局地的な豪雨。
これまでの常識では対処できなくなっています。
こうした事態に行政に頼るだけでなく住民みずから避難を判断する仕組み作りも始まっています。
突然襲う豪雨そして土砂災害。
命を守るために今、取り組むべきことを考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
局地的に突発的な豪雨に見舞われることが珍しくなくなってきました。
きょうも北海道では1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降り大気の不安定な状況が続いています。
先月、僅か2、3時間の間に1か月分の雨が降った広島では山の近くに広がった住宅地を大規模な土砂災害が襲い73人もの方が犠牲になりました。
水位の上昇が目に見える川の氾濫の危険に比べ土砂災害の危険は分かりにくく行政が出す避難勧告が間に合わないケースが頻発しています。
これはことし8月に犠牲者が出た5件の土砂災害。
避難勧告が災害発生前に出されたのは僅か1件。
広島でも間に合いませんでした。
突然襲う局地的な大雨。
行政の対応もまた社会のインフラもこのところの急激な気象の変化に追いついていない状態です。
崖崩れや土石流の発生する可能性が高いとされる場所は都道府県によって土砂災害危険箇所に指定されその数は52万か所に上っています。
行政の情報に依存することの限界が浮き彫りになる中で命を守るためにどう備えるべきか。
求められているのは地域住民による危機感の共有や地に足をつけた備えだといわれていますがとっさに的確な判断を下すためにどんな備えが必要なのでしょうか。
8月20日未明広島を襲った大雨。
国は4月に避難勧告に関する新たなガイドラインを出し各地の気象台と都道府県から土砂災害警戒情報が出たら避難勧告を出すことを判断するとしましたが広島では、この新しいガイドラインへの対応がまだできていませんでした。
避難勧告が遅れる中で住民たちはみずから判断を迫られたのです。
広島市安佐北区の上大杉地区。
27世帯のうち10世帯が土砂に襲われました。
午前2時過ぎ、いち早く異変に気付いた住民がいました。
杉田利美さんです。
激しい雷で目を覚まし隣の川を見に行ったところ水位がこれまでにない高さまで上がっていました。
夜が明けて撮影された同じ現場です。
川は土砂と共に流れ込んだ木で埋め尽くされていました。
当時、避難勧告が出ていない中で杉田さんは直後に大きな被害を受けることになるとは考えていませんでした。
なぜ避難勧告を出すのが遅れてしまったのか。
広島市では国のガイドラインが示されたあとも避難勧告の基準の見直しが間に合っていませんでした。
広島市では避難勧告は各行政区の区長不在の場合は、副区長が出せることになっています。
区内で観測された雨量が避難の基準値に達した時点で検討を開始。
さらにもう一つの条件を考慮したうえで、避難勧告を出すことになっていました。
今後、見込まれる雨量や雨の強さを見極めるというものです。
安佐北区で避難勧告を出した副区長の児玉尚志さん。
急激に強まる雨を前に対応が遅れました。
20日の午前1時15分に土砂災害警戒情報が発令。
午前2時に観測された区内19か所の雨量データはすべて避難を検討する基準を下回っていました。
しかし午前3時、雨量の数値は区内4か所で基準を超えました。
僅か1時間で数値が倍以上急増していた所もありました。
避難勧告の検討を始めた児玉さん。
しかし、実際に勧告を出したのは午前4時15分。
55分かかりました。
今後、見込まれる雨量や雨の強さを判断しなければならなかったからです。
気象庁のホームページなどで予想雨量を調べたり消防署とも連絡を取ったりして情報を集めた児玉さん。
時間が過ぎるばかりで判断はつきませんでした。
このころ、安佐北区内では次々と浸水や崖崩れが起きていました。
避難の基準が気象の急激な変化に対応できなくなっていたのです。
行政の避難勧告が遅れる中安佐北区の上大杉地区では住民がみずから判断を迫られていました。
午前2時に、いち早く異変を感じていた杉田さんです。
1時間後決定的な変化に気付きました。
この直後、杉田さんの自宅の1階に水が流れ込んできました。
1階にいた家族を外に避難させた杉田さん。
川沿いに住む人やお年寄りが気になり地区の名簿を見ながら10世帯に電話をかけました。
電話を受けた西本圭吾さんです。
1階で寝ていた高校生の息子と母親を2階に上げようとしたその瞬間土砂が流れ込んできました。
背後に迫る土砂。
母親と息子の背中を必死で押し2階に逃れました。
避難勧告が出たのはこの30分後でした。
住民のとっさの判断が避難勧告の遅れをかろうじてカバー。
一人の犠牲者も出さずに済みました。
今夜のゲストは、静岡大学防災総合センター教授の、牛山素行さんです。
災害時の避難行動の研究を続けていらっしゃいますけれども、今、見ましたように、避難勧告が間に合わない中で、上大杉地区の杉田さんが、みんなに連絡を取って、そして、避難につながったと。
こうした事例って、みずから住民が動かなくてはいけない事態というのは、これから増えていくんでしょうか?
そうですね。
増えるかどうかは分からないんですけれども、やっぱり今までですと、なんとなくわれわれ、行政に頼っていればいいやと、そういう気持ちがともすれば強かったのかもしれませんね。
それを、いわゆる指示待ちの状態ですけども、指示待ちの状態を少し転換していかなければいけない。
自分たちで判断していかなきゃいけない、それが重要になってくるということは、間違いないと思いますね。
そして、その前兆を捉える。
そうですよね、今回のVTRを見て感心しましたのは、よく臭いがするとか、最後のほうで言っておられましたね、臭いがする、音がするというのを聞くんですけれども、これは前兆というよりも、発生情報なんですね。
もう起きちゃっているということ。
ですから、臭いを感じて、そこから行動を起こすのでは、ちょっと遅いんですよね。
ただ、今回のケースでは、もっと早い段階、大雨が降っているぞと、で、川の様子がおかしいぞと、もっと早い段階で気が付いて、動きを始めてますよね。
ここが非常に重要だと思いますね。
指示待ちでは行けないとはいうものの、行政がこのところの土砂災害で、避難勧告を出せたのは、災害前に、8月では1件しかなかったという。
できることは、もっとあるのではないですか?
やっぱりここ十何年、いろんな、広島豪雨の災害は、1999年、それ以降、いろんな対策が取られてきたんですね。
特にソフト対策の充実というのが図られてきました。
例えば、土砂災害警戒情報、気象台と県が合同で発表する情報。
それとか、自治体が出す避難勧告についても、避難勧告だけではなくて、もう少し早い段階で出す避難準備情報とかですね、こういった仕組みが整えられてきたという面もあります。
ただこのソフト対策というのは、ハード対策、例えばダムを造るとか、そういうのと違って、ダムを造れば、作ったとたんに、機能を発揮するわけですよね。
ところが、ソフト対策というのは、そうはいかなくて、それを作って、そういうものがあるというのを人が知って、かつそれを利用して、自分が行動すると、そこまでいかないと役に立たないわけですね。
ですから、ソフト対策は、作っただけでは機能を発揮しない。
その先を、いろいろやっていかなきゃいけないという、ここがちょっと大変なんですよね。
ただ、いろんな、雨量がどれだけ今、降っているのかとか、リアルタイムに知る手立ても、実は増えているわけですよね。
そうですね。
99年の広島の豪雨のころにはなかったものというのが非常に増えているわけです。
今、画が出てますけれども、土砂災害警戒判定メッシュ情報といいます。
この5キロメッシュで、この辺りの危険性が高まってですよということを知らせる情報。
こんな情報なんかも、十数年前には、誰も見ることができなかったわけです。
これだけではない、いろんな形の情報の整備が進んでいる。
使えるものが非常に多くなっていると言っていいでしょうね。
でも、そのソフト対策が生かされていないのは、どういう背景でしょうか?
やっぱり人間の側が急速には、進歩できないという面はありますよね。
行政機関でも、防災を担当されている職員の方、私が調査したんですけれども、全体の4分の1は、専任の担当者0人なんですよね。
1人を含めても、もう全体の半分にとどまってしまうということで、人員的にも非常に厳しい状況にあると。
その中で、必ずしも専門的な知識を持たない方がやらざるをえないという面がありますよね。
ですから、こういった人たちを、さらにブラッシュアップしていく、いろんな研修制度、内閣府の防災スペシャリスト養成研修制度、その他いろんなものが出来てきます。
こういったものを活用していくことが重要ですね。
人材育成が重要ですね。
しかし、改めて広島の、地区の様子を見ますと、つながりが、いかに大事かというのを実感するんですけれども、都市部では、こうしたつながりというのが希薄な中で、どうすればいいんでしょうか?
そうですね。
今、むしろ都市部のほうが情報を伝える手段が希薄になっているという部分はありますね。
ですからこの人のつながりがない分、例えばメールその他、エリアメール等もありますけれども、そういったIT系の技術を活用するというのも一つですし、それからコミュニティーFMというのがありますね。
地域のローカルなFM局。
コミュニティーFMを使って、自動的にスイッチが入るタイプのラジオなんかもかなり安くなってきてますね。
こういったいろんな手段で、情報を伝える手段を、都市部ではまずそのあたりが重要になってくるかもしれませんね。
お伝えしているように、土砂災害のリスクが高い危険箇所は、指定されているのは全国で52万か所ありますけれども、しかし、広島では、その危険性が住民に十分に伝わっていない中で、災害が起きました。
住民みずからが地域の危険を知り、備えようという動きが始まっています。
東京のベッドタウンとして丘陵地帯にも宅地開発が進められてきた八王子市。
もしもし。
市内の危険箇所は620か所余り。
広島の災害以来市役所には住民から200件を超える問い合わせが寄せられています。
その大半が自分の住む所に土砂災害の危険はないのかという問い合わせです。
土砂災害の危険箇所は都道府県が調査を行い人命に被害が及ぶおそれのある場合はさらに警戒区域に指定されます。
自治体にはハザードマップを配布し、避難計画を作成することが義務づけられます。
しかし調査に時間や費用がかかり住民の合意が得られないなどの理由で、十分に進んでいません。
全国で今も3分の1が警戒区域に指定されないままです。
1万4000か所を超える危険箇所のうち、2割しか警戒区域の指定が進んでいない岩手県。
危機感を抱く地区があります。
盛岡市の郊外に広がる地区の自治会の代表を務める豊村徹也さんです。
22か所ある危険箇所のほとんどが警戒区域に指定されていません。
広島の土砂災害を受け住民たちはみずから対策に動き始めました。
自分たちの命をどう守るのか。
この日、開かれた集会で緊急に話し合いました。
地域にある危険箇所を一つ一つ確認。
いざというときにどのように避難するか。
今後、具体的に考えていくことを決めました。
警戒区域の指定が進まない中で、住民たちがみずから避難を判断しようという仕組み作りも始まっています。
およそ500人が暮らす三重県尾鷲市古江地区です。
この地区の危険箇所は19か所。
これまでもたびたび豪雨による土砂災害に見舞われてきました。
昭和46年には集中豪雨で土石流が発生。
13人が亡くなりました。
この地区の自主防災会の会長を務める大川弘史さんです。
突発的な豪雨に備えて独自にハザードマップを作りました。
地域の住民たちが専門家の指導を受けながら、たび重なる災害での体験を持ち寄り地図に盛り込みました。
実際に災害が発生した場所。
大雨になると川のように水があふれ出す所。
それに加え、災害の前にどのような異変が生じたのか前兆現象も記しました。
通常の降雨ではあふれないが大雨が降るとあふれ出す。
7年前の土砂崩れの直前泥水、小石が出ていた。
大雨の際、住民がこうした現象を見つけると大川さんに報告します。
3つ以上の情報が集まると市からの避難勧告がなくても連絡網を使って避難を呼びかける仕組みです。
牛山さん、今、行政への問い合わせ、自分の地域が危険なのかどうかと尋ねる方々が多いようですし、先ほどのリポートでは、豊村さんのように、自分の地域を見守りながら、ここは大丈夫なんだろうかという心配そうな表情も、印象的だったんですけれども、知ろうという動き、今、広がっていますか?
広島の豪雨災害以降、そういった取り組みが出ているという話は聞きますね。
やっぱり自分たちの地域、あるいは防災を考えるうえで、何よりも重要なのは、自分の住んでいる地域、あるいは仕事をしている地域で、どういう災害が起こりうるのかということを知るということ、これが非常に重要。
すべてのスタートラインだと思うんですね。
その意味で、こういった自分たちの地域を知ろうと、それで、防災マップを作るとか、こういった取り組みが進むということは、非常に重要なことだと思いますね。
しかし、52万か所ある土砂災害危険箇所のうち、その警戒区域に指定されているのは、3分の2にとどまっていると。
なかなか今までいろんな事情から、そういう指定も進んでこなかったわけですよね。
進まないと、それが知らされない、ハザードマップが作られないということになるわけですよね。
ただ、今回の広島の災害を契機として、事態はかなり大きく変わってるなというふうに思うんですね。
この土砂災害警戒区域というものがあるということが、かなり広く伝わりましたし、こういった警戒区域の指定が、社会の合意がなかなか得られないということで進んでないんだという実態もかなり広く知られるようになりました。
今、土砂災害防止法の改正の話も進んでるようですけれども、警戒区域の指定はとりあえず置いておいて、基礎調査といって、ここがレッドゾーンになりうるというそういう基礎情報だけはまず出そうというふうに思っています。
私はこれは、痛ましい被害の上のことかもしれませんけれども、やはりその大きな一歩前進になるんじゃないかのかなというふうに思いますね。
そして、尾鷲市ではさらに進んで、3つの、そうした住民からの兆候を知らせるような情報があれば、みずから、避難するという、ここまで決めていると。
そうですね、この取り組みも、いろんな情報をもとにして、この取り組み、非常にいいのは、自分たちだけで考えるのじゃなくて、いろんな専門家の指導も受けて、それから過去の教訓も合わせて、いろんな情報をもとにして考えているということ。
これが非常に重要なところだと思いますね。
やはり、広島の教訓は重いですね。
重いですね。
やっぱりこういった教訓、今までですと、なかなか、その教訓をほかの地域に広めていくということが十分ではなかった面がありますね。
ですので、今回、いろんな教訓を、さらに多くの地域に広めていくということ、それから、やっぱりいろんな情報が整備されてきましたので、これを最大限に活用するということを、われわれは頑張ってやっていかなきゃいけないなぁというふうに思いますね。
2014/09/09(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「土砂災害 命を守る避難」[字]
70人以上の命を奪った広島の同時多発土砂災害。自治体や住民の動きを検証、全国で始まった取り組みなども紹介し、豪雨と土砂災害にどう備えるべきか考える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】静岡大学防災総合センター教授…牛山素行,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】静岡大学防災総合センター教授…牛山素行,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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