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ネットへの書き込み

2014年08月21日 07時50分

 インターネットは匿名だから何を書いてもばれない、と思っている人はもはやいないだろう。ほとんどのサイトにはIPアドレス(ネットに書き込む時に記録される発信者の番号のようなもの)が保管されており、誹謗(ひぼう)中傷などの書き込みに対し、司法も運営者側に開示を命じる流れが定着してきた。むしろ、ネットに匿名はないと思った方がよい。

 会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックに、匿名で店を中傷する書き込みをされたとして、関東の飲食店経営者が、米フェイスブック社側に発信者の情報を開示するよう仮処分を申し立て、東京地裁が今月中旬、IPアドレスなどの開示を命じる決定をした。SNS側に発信者情報の開示を命じる司法判断はミクシィやツイッターでも例があり、今回の決定でユーザー数が多い“3大SNS”がそろい踏みした。

 仮処分が確定すれば、開示されたIPアドレスやログインの日時などの情報を基に、店側はプロバイダーを通じて書き込んだ人物を特定。名誉毀損(きそん)で告訴したり、損害賠償を求めたりすることができるようになる。

 そもそもネットは「自由」であるからこれほど普及した。匿名は自由度の一つの特長でもある。だが一つ間違えれば暴走もする。ネットの世界はよく車社会に例えられるが、普段はおとなしいのに、ハンドルを握るとスピードを出しすぎたり、運転が荒くなってしまったりする人がいる。ネットでも似たようなことが起こる。

 社会心理学では、コンピューターを介した会話は、意見が極端な方向に傾きやすいことが指摘されている。さらに、匿名であれば年齢や地位への配慮もなくなり、発言や書き込みへの責任感が低下し、反対に誇示動機は強くなる傾向があるという。

 法に訴えるには時間もエネルギーも要るから、そこまでして書き込んだ人を突き止める人はそうはいないというのも現実ではある。だが、訴えられなくても身元が判明することは普通にある。サイトがハッキングされるかもしれないし、ログ(コンピューターの利用状況やデータ通信の記録)が流出する可能性だってある。どんなかたちであれ、誰が何を書いたか、は必ずばれるのである。

 Tor(トーア、The Onion Router)などIPアドレスを相手に知られることなくネットに接続したり、メールを送信したりできる匿名化ツールもありはする。だが海外メディアがつい最近、Torを使っていても身元を特定できる技術が開発され、メールが傍受された可能性があると報じたばかりだ。

 ネットの利用者が増え続ける以上、事故は避けられない。だが、悪意に満ちた故意の書き込みを食い止める努力もなく放置していては、法で規制しようという動きも出てこよう。そこまでいかなくても、車同様にネットへの接続も免許制にし、違反が累積したら利用できないようにしてはどうかという考えが出てくるかもしれない。利用者の誰も、そんなことは望まない。

 ネットの伝播(でんぱ)力は強力で、一瞬のうちに多くの人に届く。だからこそ、ネットでの発信は慎重であるべきだ。安易であってはならない。(森本貴彦)

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