安倍内閣の外交 地球儀に空白をつくるな
第2次安部改造内閣がスタートした。デフレ脱却、地方創生など取り組むべき課題は多いが、近隣外交の立て直しも急務である。
安倍晋三首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、首相に返り咲いて以降、世界47カ国を歴訪した。この積極的な外遊活動は、それ自体としては評価に値する。
しかし首相が多くの国を訪問すればするほど、その地球儀の大事なところがぽっかりと抜けているのが際立つ。中国と韓国である。
首相の外交姿勢を例えて言えば、合否を分けるほど重要な苦手科目があるのに手を付けず、得意科目ばかり勉強している受験生‐。そんなふうに見えてしまう。
隣国の中国、韓国と、この1年8カ月で一度も個別の本格的な首脳会談ができていない。このような状態は異常だ。新しい内閣の力を結集し、できるだけ早く中韓との関係を改善してもらいたい。
特に中国とは、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、安倍首相と習近平国家主席との首脳会談が実現するかが焦点となる。
改造内閣や自民党新役員の顔触れを見ると、中国との人脈を持つ谷垣禎一氏を党幹事長に、二階俊博氏を総務会長にそれぞれ起用した人事が目立つ。首相なりに対中関係を意識した布陣なのだろう。
中国側も3日、習主席が日中関係改善に前向きな講話を発表するなど、微妙な変化を見せている。この機を逃さず、APECで首脳会談を実現させ、包括的な関係再構築の手掛かりをつかむべきだ。
政権のもう一つの大きな外交課題は、拉致問題の解決である。
北朝鮮は9月半ばにも、拉致問題に関する再調査の第1回報告を発表するとみられる。北朝鮮との交渉を進める一方で、日朝の接近を警戒する米国や韓国と緊密な連携を保つことも重要だ。
こういう時期に、歴史に関わる閣僚や党幹部の独善的な言動が、中韓や米国の不信を招かないよう、注意が必要だ。時宜をわきまえない政治家の自己主張が、外交の足を引っ張ってはならない。
=2014/09/05付 西日本新聞朝刊=