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【コラム】

筆洗

 憲法制定をめぐる重い事実がある。戦争放棄という人類の理想をうたった新憲法案を議論した帝国議会に、沖縄県選出の議員は一人もいなかったという事実だ▼終戦の四カ月後、衆議院で沖縄選出の漢那憲和(かんなけんわ)議員は訴えた。「これは、見ようによっては沖縄県に対する主権の放棄」「帝国議会における県民の代表を失うことは、まことに言語に絶する痛恨事であります」▼批判の矛先は、衆院選挙法の改正案。憲法改正に先立って選挙も男女同権など新時代にかなうものにする。戦後民主主義の第一歩であったが、この改正で沖縄県民は選挙権を停止されてしまった▼戦争の地獄を見た沖縄県民を「戦後の平和」から切り捨てるのか。漢那の悲痛な思いは昭和天皇にも届いていたろうか。皇太子時代に訪欧した際、お召し艦の艦長として随伴し厚い信頼を得た軍人こそ漢那だった▼しかし、平和憲法制定と沖縄の基地化は、車の両輪のように進んだ。公表された『昭和天皇実録』にも、米軍による沖縄占領継続こそ日米双方の利となると、天皇が米側に伝えたとの文書が引用された▼憲法制定史に詳しい古関彰一氏は、労作『「平和国家」日本の再検討』で、新憲法の審議に沖縄の声がきちんと届いていれば、戦争の実相と基地化の現実を踏まえた九条論議ができたのではないだろうかと指摘している。これは今へと続く問い掛けだ。

 

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