5日付本紙記事「言葉の暴力で傷つく国格」で紹介された23歳の女子大生のケースは、韓国社会が心ない数々の暴言によっていかに病んでいるかをまざまざと示している。この女子大生は今月3日、旅客船「セウォル号」沈没事故に抗議する集会に参加し「朴槿恵(パク・クンヘ)は災害に備えた保険を活性化しようと言った。本当におかしな話ではないか」と言った。この女子大生はさらに、遺族のキム・ヨンオさんの断食による抗議行動を批判する保守系団体の中年男性会員を名指しし「こんなやつらの口に入るコメがもったいない」などと罵倒した。これらの言動には大統領や年長者に対する配慮や礼儀などは全く感じられず、最終的に自分と考え方が異なる人たちへの敵対心と憎悪をあおる結果しかもたらさない。
セウォル号沈没事故をきっかけに、韓国社会では今「暴言病」とも言えるような事態が急速に、あたかも伝染病のように広まっている。46日にわたり断食を行ったキム・ヨンオさんは、抗議のため大統領府(青瓦台)に向かおうとして警察に制止された際、警察官を「犬(のように忠誠を尽くす)」などと侮辱し、大統領府に対しても同じような内容の暴言を吐いた。野党第一党・新政治民主連合のチャン・ハナ議員は「(セウォル号沈没事故の)真相究明にも乗り出さない大統領、あなたは国の怨讐(おんしゅう)=韓国語では怨讐と元首の発音が同じ=だ」と叫んだ。国民によって選ばれた大統領を「怨讐」と呼んだのだ。また、与党セヌリ党のキム・テフム議員は断食などで抗議行動を続ける遺族を「ホームレスのようだ」などと侮辱し、あるタレントは「断食を続けて死ね」と口にしたという。
この国がありとあらゆる暴言や人を侮辱する言葉で満ちあふれている最も大きな原因は、このような言葉を口にすれば名声を得るだけでなく、時には「英雄」のように扱われる、非常におかしな風潮が社会にまん延しているからだ。その背景には地域、年齢、イデオロギー、支持政党などにより分裂した陣営の論理が横たわっている。政治的に自らと考えを異にする相手に暴言や侮辱の言葉を浴びせれば、それだけで同じ陣営から拍手と称賛を受けることができるのだ。ひどい場合は、暴言によって有名になった人間が、国会議員候補として政党から公認されるようなケースもある。このような現状を目の当たりにし、一般の市民はもちろん、国会議員、学者、教師、市民運動家、学生、弁護士、メディア関係者、さらには宗教関係者に至るまで、ためらうことなく他人をあざけり誹謗(ひぼう)中傷を行うようになってしまった。陣営同士の対立という形を通じて拡大再生産されてきた政治の問題が、社会に暴言を広める悪しき結果を招いてしまったのだ。
セウォル号問題が今のように国民を巻き込んだ社会の対立となった原因は、この問題を政争の具とした政界に間違いなく大きな責任がある。韓国社会における「暴言病」を治療するには、自分とは違う考えを持ち利害が相反する人たちとも互いに認め合い、包容する文化を定着させなければならない。また政治家などが先頭に立って暴言や他人を侮辱する言葉遣いをやめさえすれば、今のような深刻な事態を改善するきっかけにもなるだろう。暴言を吐き続ける政治家に対しては、与野党に関係なく「無寛容」の原則を貫き、直ちに政界から追放するなど断固たる対応を社会全体が示さなければならない。今のように暴言が普通に語られる状況が今後も続くようでは、この国は決して先進国にはなれないだろう。