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八重山日報編集長が語る「真実を伝える国境の島のメディアと沖縄の反日マスコミ」

八重山日報編集長 仲新城 誠

安倍内閣が集団的自衛権の行使容認を決めたことを報じる7月2日付の沖縄の県紙「沖縄タイムス」「琉球新報」の紙面は「集団的自衛権狂騒曲」とでも名付けたいような過剰反応ぶりに見えた。

沖縄タイムスは社会面で2ページにわたる大見出し。「戦場へ一里塚沖縄標的の島」「基地集中真っ先に狙われる」。戦争がこれから起きるのではなく、もう勃発したかのような紙面づくりだった。

社説では、わざわざ憲法9条の全文を掲載した上で「思慮欠いた政権の暴走」と主張。

「戦後日本の平和主義を担保してきたこの憲法解釈が(中略)1内閣の閣議決定によって変更されるのは『憲法クーデター』というしかない」「沖縄の軍事要塞化が進むのは間違いない。沖縄が標的になり、再び戦争に巻き込まれることがないか、県民の不安は高まるばかりである」と訴えた。

同紙は7月4日にも「抑止力向上はまやかし」という社説を掲載。「安倍首相が進める『中国包囲網』に傾注した政策では対話の糸口はつかめない」と、中国寄りの論調を展開している。

琉球新報は7月2日付の紙面で「戦争にかじ懸念」「よみがえる戦場の記憶」と報じ、さらには同日付の社説で「日本が『悪魔の島に』」「国民を危険にさらす暴挙」と批判した。同紙の主張は見出しを読めば十分で、もはや延々と中身を引用するまでもないだろう。

沖縄本島住民の9割以上が朝起きて真っ先に開く新聞は、この2紙しかない。無邪気な読者であれば、集団的自衛権容認で、いよいよ沖縄が戦場になる、と信じ、安倍政権への疑念を募らせるに違いない。

沖縄県議会も「安倍内閣に強く抗議し、慎重審議を求める意見書」を、与党の公明党を含む賛成多数で可決した。沖縄本島の世論は集団的自衛権反対の一色に塗りつぶされたような印象を受ける。

だが、沖縄本島から400キロ以上離れ、尖閣諸島を行政区域とする石垣市など、八重山諸島では明らかに事情が異なる。尖閣海域では連日、中国公船が「パトロール」と称した航行を続けており、現に中国の脅威が目前に迫っているからだ。

集団的自衛権の行使容認は、自衛権を狭い意味に限定していた従来の憲法解釈を変え、より柔軟な安全保障政策を可能にする。その意味で尖閣を死守したい私たちとしては、特に反対する理由はない。

石垣市の中山義隆市長も「集団的自衛権はどの国にも認められている権利であって、我が国にもその権利はある」とコメントした。

だが一方で「しかし行使に対してはより慎重になるべきで、憲法解釈の変更によって行使可能にすることは時の政権によって方針が安易に変わる可能性がある」と述べ、自衛隊の位置付けを明確化する憲法改正が望ましいという考えも示した。

県議会とは違って、石垣市などの議会では集団的自衛権の行使容認に反対する決議のような動きはなかった。民間レベルでは唯一、労組や平和団体が閣議決定後の2日に「緊急抗議集会」を開き、約人が参加した。弁士は「安倍政権になり、戦争ができる国づくりが進んでいる。石垣からも声を上げないと、沖縄全体が戦争の時代に戻っていく」などと声を張り上げた。

しかし、集会そのものが、何とも意気が上がらない。いつ見ても同じ「運動家」ばかりの顔ぶれで、しかも平均年齢が高い。ほのぼのとした雰囲気さえ感じさせる集会を取材しながら、この種の「平和運動」が、完全に市民から遊離してしまったことを改めて実感した。

つまり、八重山では集団的自衛権行使に反対する声は、全く盛り上がらなかった。

そうした「逆風」を知ってか知らずか、八重山の地元紙は集団的自衛権反対の声を盛り上げようと必死だった。八重山毎日新聞は7月2日付で「いよいよ『戦争する国に』」と題した社説を掲載。「八重山にとっても地元出身の若い自衛隊員が戦場に駆り出され、命を奪われかねない深刻な問題である」と主張した。

驚かされたのは5日付のコラムである。「集団的自衛権行使の閣議決定を説明する1日の安倍首相を、あのヒトラーにダブらせる人がいた」「強弁する首相に、ヒトラーもそのようにしてナチ虐殺の戦争に突き進んだのかもしれないと2人の姿が重なったのだろう」などと書いている。

安倍首相がヒトラーだと言わんばかりだが、それを言うなら、尖閣の強奪を国家の至上命題に掲げる隣国の国家主席こそヒトラーの名にふさわしい。「尖閣の地元紙」としては不見識と言うほかないだろう。

尖閣を抱える八重山には八重山の見方がある。米軍基地の重圧を抱える沖縄本島の立場も理解するが、何でもかんでも本島と口裏を合わせればいいというものではないはずだ。言うべきことを言わずに来た八重山の声を、もっと明確に発信する必要がある、と改めて感じた。

その証拠に、同紙の集団的自衛権反対キャンペーンにもかかわらず、八重山で集団的自衛権に反対する運動がほとんど目立たなかったのは前述の通りである。

私たち八重山日報は、個別的自衛権と集団的自衛権を比較して「政府が国民の生命と財産を守るためには、あらゆる選択肢が許されているはずで『個別的ならいいが集団的はだめ』などという言い方は言葉遊びだ」と指摘した。

基地があれば戦時に標的となる、という主要マスコミの主張はその通りである。だが、基地をあえて攻撃してくるような敵は、もはや確信犯であり、いずれにせよ戦わなくてはならない相手だ。

今求められているのは、まだ攻撃を決断していない相手への抑止力である。武装しているから標的となるのではなく、非武装だから標的となると考える方が自然だ。

集団的自衛権行使に猛反対する一方、尖閣問題をほとんど取りあげない主要マスコミが本当のところ、尖閣をどのように考えているのか、というのはなかなか興味深い疑問である。「中国と話し合い、平和的に解決を」と訴える論調は、裏を返せば「話せば分かる。尖閣問題なんて大したことはない」と言っているようにも見える。

中国には国ぐるみで尖閣を奪わなくてはならない理由がある。尖閣は中国が太平洋に進出する上での出入り口でもあるのだ。私から見れば、これは話し合いで平和的に解決などというレベルの問題ではない。

現状としては確かに、今すぐ戦火を交えるほど切迫はしていない。しかし、例えば竹島をめぐって日韓が戦争するような事態はあり得ないだろうが、尖閣をめぐって日中が開戦する可能性は、今後年間で考えても十分過ぎるほどだと思える。この危うさを、国民はもっと真剣に考えるべきだろう。

中国海警局の船は2〜3隻体制で尖閣周辺の領海外側にある接続水域を連日航行しており、日本の巡視船が領海に近づかないよう警告すると「釣魚島(尖閣の中国名)と付属の島々は古来、中国固有の領土である」と応答する。巡視船に対し「貴船は中国の管轄海域に侵入した。中国の法律・法規を守ってほしい」と逆に警告することもある。

さらに、2〜3隻が休養を取るために接続水域の外に出ると、ほぼ同時に別の2〜3隻が接続水域に入り込み、完璧なタイミングで「交代」する。中国は場当たり的ではなく、尖閣に対して一貫した戦略がある、と見るべきだろう。

私から見ると、こうした中国の態度はもはや「反日」を通り越し「侮日」の域に達しているのではないか、とも思える。

なぜ、中国は日本を侮っているのか。理由は簡単だろう。自分で自分の国を守っていると言い難い国だからだ。尖閣一つとっても、米国に「日米安保条約の適用範囲内だ」と約束してもらい、狂喜乱舞する有様である。

オバマ大統領は4月の来日時、尖閣が安保適用範囲内だと明言しながら「私は超えてはいけない一線を設定したわけではない」とわざわざ強調した。米国が日本のために、中国と戦争することはない、と言外に理解を求めているようにも聞こえた。

中国は米国に対しては丁重だ。「新型大国関係」なる概念を持ち出し、両国で太平洋を分割しようと持ちかけている。新型大国関係とは、相互の「核心的利益」を尊重する関係だという。

中国は尖閣を核心的利益と位置付けている。つまり尖閣を石垣市民から奪い取る。それを米国が認めてくれれば、中国は米国のやることに口出ししないであげる、というわけなのだ。これほど八重山の住民を侮辱した概念はない。私は中国の指導部やマスコミが新型大国関係という言葉を使うたびに、憤りをおぼえる。

中国から見た米国と日本の違いは何か。それは軍事力の違いであり、自分の国は自分で守るという気概の違いだということもできるだろう。将来、米国に挑戦する前段階として「まず米国の配下である日本から叩く」という狙いも透けて見える。

中国はいずれ、国際情勢を見極め、米国が介入しないか、介入しても撃退できる、と確信した時点で、尖閣を強奪しに来るのではないか。南シナ海での中国とベトナムの衝突、尖閣周辺での中国公船の航行は、いわばその前触れだろう。

自分で自分の国を守るという決意を国ぐるみで固め、それを内外に示さない限り、日本を侮っている中国は、いずれ本格的な実力行使に出る恐れがある。

6月に「尖閣問題を取材したい」という米国人記者が石垣島の私を訪ねてきた。現に中国で活動している記者だということだった。

この記者は「石垣島は尖閣問題の最前線なのに、住民は平和で、まるで緊張感がない」と驚いていた。中国では政府の反日プロパガンダが行き届き、一般住民も「釣魚島(尖閣の中国名)を奪い返すためなら戦争も辞さない」と殺気立った雰囲気だという。

ただしこの記者は「こうした住民は教育水準が低い」とも言った。また「尖閣問題を根本的に解決するには、中国が民主化するほかない」という私の持論に対して「中国の民衆は民主主義を受け入れるほど成熟していない」と反論した。

では東シナ海を平和の海にするにはどうすればいいのか、と私が聞くと「安倍首相が靖国神社参拝のような挑発行為をやめ、中国の心情にもっと配慮するべきだ」と主張した。

他国から見た尖閣問題とは、この程度のものである。オバマ大統領の本音もこの辺にあるのだろう。

中国国営テレビは集団的自衛権の行使容認と歴史問題をめぐり、連日のようにトップニュースで日本批判を繰り広げている。その猛烈さは、ニュースとは中立的・客観的であるべきだと信じている日本人の想像を超えている。日本人は、中国政府が反日プロパガンダで入念に作り上げようとしている「世論」を甘く見ないほうがいい。

沖縄は地理的に言って、中国の脅威から日本を守るとりで砦である。しかし、その沖縄には沖縄で、日本人自身ばっこによる反日プロパガンダが跋扈している。

悲惨な沖縄戦を体験した県民がよく繰り返す言葉が「沖縄から平和を発信する」というものだ。それは当然の心意気だが、米軍や自衛隊に反対することが平和につながるわけではない。

東シナ海や南シナ海の平和をかき乱す中国を抑止することこそが平和につながる。現に、中国の動向に一喜一憂せざるを得ない八重山の住民にとっては、中国の現政権が消えてなくなることが、将来の平和を保証する何よりの朗報になる。

「日中対立の影響をもろに受けるのは沖縄である。沖縄を中国包囲網形成のための軍事要塞にしてはならない」とは沖縄タイムスの5月日社説である。

私はむしろ、沖縄こそ中国包囲網の中核になるべきだと思うし、そうした考えを積極的に県民に発信したいと考えている。沖縄は今後、東アジアの将来像をめぐり「親中」と「反中」が激しくせめぎ合う場になりそうだ。

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