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魔法書を作る人 作者:いくさや

その他

後日譚34 晴れた日に

最後に休んだのは8月12日……(遠い目)。
リポビたん。君だけじゃもう駄目なんだ……。
 後日談34

 魔人の住処は順調に開拓されていった。

 まずは蟻塚(泣)を中心に開拓を進めている。
 人間だった頃、樵だったヨルムが指示して木を倒し、根っこを引っこ抜き、埋まっている岩を掘り返し、小さな石も取り除いていく。
 こうして森を拓いて、それぞれの家を建てたり、畑を作ったりするらしい。
 さすがに魔人だけあって、基本的な身体能力が人間より高く、作業の効率がいい。
 僅か十一名と少数ながらも、役割分担通り作業している。
 うん。十一人だけ。

 いや、僕も手伝おうとしたんだよ。
 強化の付与魔法とか使って。
 でも、木を引っこ抜こうとした時に力加減を間違えたのか、幹を握り潰してしまったのだ。
 伐採した木材は色々と使いたいらしいけど、こうも圧縮されて絞りかすのようになってしまった木材は使いようがない。
 その後も色々と手伝ったのだけど、最終的に『自分たちでできる事はなるべく自分たちでやりたいから』とやんわりと戦力外通知を受けた。
 ……地面に埋まった岩を砕こうとして、危うく巨大なクレーターを制作しかけたのがいけなかったのか。
 住処を用意した件で感謝する気持ちがあるせいか、非常に申し訳なさそうに言われてしまった。

 ならば、強化を使わなければいいのだけど、彼らの言う通りなんでも僕がやってしまうのも違う。見守るのも大切だ。
 突然、僕がいなくなったとしても自分たちでどうにかできるようになってもらいたい。
 なにせ、過去に僕は二度も行方不明になっているわけだし。今後も何もないとは悲しいかな言い切れない。
 例えば破砕しまくってしまった大地の化身に恨まれて、とか。いや、冗談だよ? そんな存在に襲われる兆候なんてない。ないはず。ない、よね?

 まあ、その点はいい。僕が注意しておけばいいことだ。主に自然保護の視点で。
 で、別の方面で協力する。

 いくら強靭な魔人といっても、無補給で働けるわけがない。
 当然、食料が必要になる。
 幸い、裏山には食材が豊富ではあった。木の実や茸類。山芋。野生の兎・鹿・猪に、狼や熊など。
 とはいえ、必需品のすべてを賄えるわけがない。

「狼や熊を食材と判断すんなよ」
「え? 違うの?」

 僕が前で引っ張る荷台を、後ろから押しているラクが溜息を吐いた。
 荷台にはラクヒエ村を通して、隣町や行商人から買ってもらった食材や日用品が積まれている。

「……素で聞き返すなよ」

 そういえば、初めて裏山に入った時は野生の獣を恐れていたような気がする。
 あの頃は襲われようものなら命はないと恐怖していた。
 でもね、今まで|無数の魔族(異世界の理)とか、|人間離れした人間(武王)とか、竜の王ルインとか、|裏ボス(次元喰らい)とかと戦ってきたのだ。
今さら熊の一匹や二匹でビビるわけもない。魔法なしで武王と訓練していた時の方がよっぽど怖かった。あのおっさん、熊ぐらい平気で殴り殺せるだろうし。

「ほどほどにしとけよ。俺らの仕事がなくなるのも困るしな」
「了解」

 狩人のラクらしい心配だ。
 きっと生態系のバランス的な気遣いがあるのだろう。
 もちろん、無駄な殺生をするつもりはないので頷いた。

 村と魔人の関係はまだまだ始まったばかり。
 ラクたち友人一同は手伝いを兼ねて手伝いに来てくれている。その際にちょっとずつ話したり、協力したりして、信頼関係を築けたらいい。

「で、どんな感じ?」
「ん? あいつらのことか? そうだな。まあ、見た目は違うが、普通の人と変わらないんだな、ってところだな」

 今のところ山の開拓しかしていないし、魔族的な言動もないから。
 そんな感想ぐらいしか出てこないよね。

「でも、隣にいて安心できるかって聞かれると困っちまうなあ」

 どこか申し訳なさそうにラクは本心を語ってくれた。

「いいよ。それ、普通のことだし」
「わりいな。別に何か企んでるとか疑ってるわけじゃねえけど」
「うん。じっくりやっていこう――止まって」

 上から何かが降ってくる気配がした。
 見上げれば小さな影がラクの頭上に落ちてきている。枝葉を揺らして落下してきたそれは、そのままラクの肩に着地する。

「うおっと!」
「ラク、つーかまーえた!」

 紫色の髪をした女の子。
 なんだ、テトラか。
 出会った時は食糧事情のせいでかなり痩せていたものだけど、この数ヶ月で子供らしいふっくらした丸みを帯びるようになっている。
 ラクの髪を掴んで、ニコニコとご機嫌顔だ。

「ラク、大丈夫?」
「ああ。これぐらい軽いもんだ」

 ラクは苦笑しながらテトラの膝小僧を押さえて、落ちないように気を付けている。
 物騒な気配じゃなかったから放っておいたけど、僕らが来るのを木の上で待ち構えていたのだろうか。
 子供とはいえ魔人ならそこらの野生の獣にも負けないだろうけど、怪我ぐらいはするかもしれない。

「テトラ、一人で来ちゃダメだよ?」
「一人じゃないよ?」
「ん」

 完全に不意を突かれた。
 頭上から影が落ちてきたと思った直後に押し潰されて、地を這わされる。ぐひゅう、と肺から強制的に息が抜けていった。
 背中に感じるのはよく知っている重さ。

「……リエナさん?」
「つーかまーえた」
「………」
「……びっくりした?」

 心臓止まるかと思ったよ。
 テトラに合わせて童心に返りすぎではないだろうか。
 リエナレベルの達人が完全に気配を殺していたら気づけるわけがないよ。

「リエナ、普通の人にこんなことしたら大怪我するからね?」
「ん。大丈夫。こんなのするのはシズにだけ」

 ……その特別発言は喜んでいいのか判断に困るけど、どうやら僕のテンションは上がってしまうらしい。

「ふん!」

 不意打ちを受けた恥ずかしさを誤魔化して、リエナを乗せたまま立ち上がる。強化の付与魔法がなくたって僕だってやる時はやるんだよ!

 いつものお姫様抱っこではなくて、おんぶというのは珍しいなと思いつつ、自棄になってそのまま荷車を引いて歩き始める。

「……それで学校の方は大丈夫なのか?」

 止まっていた会話をラクから再開する。
 ラクもテトラを肩車したままだけど、いいのかな?
 粗削りながらも道は作ったけど、緩やかな傾斜のある山道だ。人を抱えたまま荷車を移動させるのは骨が折れそうなものだけど、ラクは余裕があるようだ。

「まだまだ先になりそうかな」

 学校と呼ぶには生徒数が少ない。
 魔人の中で色々と勉強が必要になりそうなのがリゼルとテトラの二人ぐらい。
 他の人には護身程度でも武技を教えておこうとは思うけど、彼らはあくまで魔人村(仮)の開拓が第一だ。

 目標としては僕の学校にすることだけど、今すぐにとは考えていない。
 焦ることはない。気長に進んでいこう。

「まあ、まずは弟子候補に認めてもらわないとね」
「あー、あの子か。ちょっと難しそうな奴だったな」
「仲間想いなんだよ。他が見えなくなるぐらい」

 だから、その仲間という輪をもっと広げて、広がった世界を守るために戦えるようにしてやりたい、というのは僕の勝手な願いだけど。

「そうかあ。あのシズが弟子か……」

 ちょっと意地の悪い口ぶりに冷や汗を禁じ得ない。
 いや、一番ダメだった頃の自分を知る人とか、僕の天敵過ぎる。山盛りの黒歴史を思い出すと、肩が重くなった気がする。

「弟子? シズの弟子?」
「そう! そうだよ! リゼルが弟子になったらいいなって思ってるんだよ!」

 テトラが話題に食いついてきたので、好都合だから乗っておく。
 弟子という意味もよくわかっていなさそうに「んー」と何やら考えていたテトラだけど、言葉の響きが気に入ったのか、ただの気まぐれか。
 両手を万歳させて宣言した。

「あたし、シズの弟子になるー!」

 おおっと。まさか僕の弟子一号はリゼルではなくテトラになるのか?
 あ、レイア姫は弟子ではなくて生徒ね。
 いや、違う。今はテトラの意思確認だ。

「えっと、いきなりどうして?」
「シズといっしょだとリゼルが嬉しそうだから!」

 ……そうか?
 僕が話しかけると唇は横一文字になって、眉間にしわが寄って、ギュッと拳は握りしめて、そんでもってじいっと睨みつけるように見てくるんだけど、あれって喜んでるの?

「そうかなあ?」
「そうだよ! リゼルね、昨日もね、ここに来てね……」
「テトラ!」

 突然、僕らの後ろから飛来した大鷹がラクの肩からテトラを攫って行った。
 慌てることはない。寸前に聞こえた声はリゼルのものだ。なら、あれはリゼルが種族特性で変身した姿なのだろう。

「勘違いすんなよ! テトラが勝手に言ってるだけだからな!」

 と、一方的に言い捨てて飛び去ってしまった。
 テトラは襟首を掴まれた途端にお人形さんみたく吊られている。
 二人はそのまま蟻塚(涙)に帰るのだろうか。
 その姿が見えなくなるまで見送って、溜息をひとつ。

「とりあえず、言葉遣いで拳骨かな」
「頑張れよ。まあ、その前に」

 ラクが僕の肩を叩きながら、にやりと笑った。

「まずはお前の結婚式だろ」
やっと……。
五話ぐらいでいくはずだった結婚式にやっと……。

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