情報化時代においては時代遅れとはいえ、製造業はいまだセンチメンタルな魅力を放っている。オバマ大統領も皆と同様それに敏感だ。
同氏は6月、かつての偉大な工業都市ピッツバーグで聴衆にこう語った。「私の最優先事項の一つは製造業を発展させ続けることだ。この国で頑張り、よい考えを思いつき、労力を注ぐつもりなら、必ずここ米国で成功し、アメリカン・ドリームが実現できるようにしたい」
同氏の熱意は理解できる。ピッツバーグなどで製造業の雇用が失われたことが米国の中間層の「空洞化」、不平等の高まり、平均所得の低迷の背景にある一つの要因となっている。米製造業の復活は当然、こうした傾向が逆転するかもしれないとの希望を高める。
■雇用拡大の原動力にはほど遠く
だが5日発表の雇用統計はその宿願の限度を知らしめた。製造業の雇用は今年8月までに16万8000人増加したが、雇用拡大の原動力となるにはほど遠い。2010年初めに雇用が上向き始めて以降、米国の民間部門は新たに約1000万人の雇用を生み出した。製造業はわずか70万5000人。工場で1人の雇用が生み出されたたびに、ホテルとレストランでは2人、医療と社会福祉では2人の雇用が生まれたことになる。
製造業の革新と起業家精神の繁栄というオバマ大統領の理想は魅惑的だ。なぜならそこに真実の芽生えがあるからだ。復興というより回復だが、製造業は確かに上向いている。7月の米製造業の生産高は07年末に景気後退が始まったときよりも1.5%多い。同じ時期にドイツは1%、英国は8%、フランスは16%、日本は17%減少している。
ボストン・コンサルティング・グループが詳細を明らかにしたように、米国では賃金が抑えられる一方、他の主要先進国より生産性の向上が進んだため、製造業関連の魅力的な投資先となってきた。天然ガスと電気の価格を下げたシェール・ブームがその利点を高めた。
この傾向は間違いなく勇気づけられるものである一方、大局的に捉えることも重要だ。今年の第1四半期の米国の国内総生産(GDP)で製造業は12.3%を占める。不況時より高いが、不況前よりはまだ比率が低い。特に安価なエネルギーに依存する石油化学など一部の産業が明らかに再活性化する一方、他の産業の根拠は不確かだ。製造業の雇用見通しは生産高よりもっと疑わしい。米国の製造業の復活を後押ししている生産性向上は、それほど多くの雇用を生まないことを意味する。
歴史は将来、ロシアに対する制裁がグローバル化からの劇的な撤退の始まりを告げたと記録するだろう――。世間では今、そんなムードが広がっている。…続き (9/8)
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