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【書評】『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』濱田浩一郎・彩図社

教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦
価格:¥ 1,296(税込)
発売日:2014-08-22
日本はいかにして情報に勝ち、敗れたか

情報は扱い方によって、人を幸せにすることもあれば、破滅の淵に追い込むこともある“諸刃の剣”である。それは、20世紀の日本、つまり「大日本帝国」の国家運営でも同じだった。大日本帝国が誕生した頃は、産業革命による交通手段の発達や、情報関連機器の高度化によって、現代と同じように情報の量や飛び交う速度が、爆発的に増えた時代。
だから国策や、軍を動かす作戦を決めるにあたり、質と量を兼ね備えた情報を持つ国が国際競争では優位に立った。そこで生まれるのが、国同士の情報の奪い合い「情報戦」である。本書では、大日本帝国が勃興し滅びるまでに世界を相手に死力を尽くし展開された諜報・謀略・スパイ戦の全貌をあますところなく紹介する。

 国家運営にしても戦争にしても、大きなモノを動かすには「情報」を掴んできちんと活用することが不可欠だ。よくいわれることだけれど太平洋戦争で敗色濃厚になっていた大日本帝国軍は、本当に情報を軽視していた。

 当時の同盟国ドイツとソ連の戦い(独ソ戦)の趨勢を掴んだ日本の情報機関は

「当初はドイツが優勢であったが、次第のソ連の反抗が強まり、厳寒の影響もあって、ドイツ軍は敗退している」
 と東京に打電した。
 東京の返事はどうだったか。
「敵性国家を利する情報は、今後送るに及ばず」
 つまりは「『敵が勝ってる』なんていう面白くない情報は送ってくるな」と言ったわけだ。さらには戦争末期、「ドイツの降伏後にソ連が対日参戦してくる」という情報も東京に送られていた。これにいたっては東京からの返事はなし。
 結果は歴史が示すとおりだ。

 おなじようなことは広島に原子爆弾が投下された前後にもあった。
 情報部は「見慣れないコールサインを発する正体不明機がなにか特殊な訓練をしているようだ」という情報をつかんでいた。じつはそれこそが広島に原子爆弾を投下した「エノラ・ゲイ」の訓練だった。
 この情報を見逃してしまったのは、まあしかたがないともいえる。初めて見るサインの正体不明機がなにかの訓練をしているとしかわからなかったんだから。問題はその三日後。同じようなサインを発する電波が再び確認された。この情報が海軍司令部や参謀本部に知らされたのは長崎への原爆投下の五時間前。
 原子爆弾を積んだB-29「ボックスカー」は小倉上空に到達してから天候不良のために長崎に向かうという不可解なコースを取っていたのもあるけれど、あの広島の惨劇の三日後なんだから全国に空襲警報なり警告を発することはできたはずだ。さらには長崎近辺には戦える戦闘機(紫電改)も配備されていた。
 結果は変わらなかったのかもしれないし間に合わなかったのかもしれない。でもせめて市民を防空壕に避難させるなり戦うことぐらいはできたんじゃなかろうか。この前日にソ連が満州に攻めてきて首脳部は対応に追われていたということも差し引いても……っていうかそれも先のソ連の情報を見逃したのが原因じゃないか。


 ごくごくかいつまんで書くと本書の第一章はこんな感じ。
 このように情報を軽視してボロボロの大日本帝国なのだけれど、はじめからこんな体たらくではなかった。その初期、明治時代の大日本帝国はむしろ世界に肩を並べるほどの情報戦を展開していたんだ。

 第二章以降では少し時代を遡り、設立当時の大日本帝国の情報戦を紹介する。
 日清戦争、日露戦争当時は世界の列強としのぎを削るほどの一級の情報網を配備していた。海底ケーブルを整備して各国にスパイを放って敵国の内情から世界の情勢まで掴んで活用し、あのロシアのバルチック艦隊を叩いて世界を震撼させたりもした。
 当時の大日本帝国が世界最強の「五大国」のひとつに名を連ねられたのは、軍備もあるけれどなにより「情報」の力が大きかったんだ。

 では。
 なぜ、その「情報の力」を持っていた日本が第二次世界大戦では情報を軽視するようになってしまったのか?

 このように、勝利と敗北の鍵を握っていた情報戦の歴史を読み解けば、なぜ大日本帝国が躍進し、衰退していったのかが手に取るように分かる。それが本書の狙いである。
 そこには勝ったゆえ、強かったゆえの驕りがあったように僕には感じられた。もちろん一部の、しかし国家運営に携わる一番大切な部分のごく一部に驕りと慢心が蔓延っていたんだろうな。
 命を賭して掴んだ情報を祖国に発信して無視された諜報員の無念はいかばかりであったろうか。


 本書は諜報機関と特殊任務につく諜報員(スパイ)から見た日本の近代戦争史を描き出している。
 そこには祖国のために名を捨て海外に飛び出し、ときには商人に化けたり現地民と親交を結んで「情報」の戦場で戦い抜き戦況を動かしたひとびとの活躍があった。


 ちなみに。
 戦後、日本のスパイ養成機関・陸軍中野学校のOBは地下に潜り、マッカーサーとGHQをひそかに監視。占領軍がもしも国体の変革を強引に推し進めたり日本人に対して残虐行為を働くならば、ゲリラ戦の訓練をうけたOBが市民を指揮して各地で抵抗する作戦もあったらしい。

 結局この作戦は実行されなかったんだけれど、
 諜報員は戦後まで人知れず戦っていたんだ。

教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦
価格:¥ 1,296(税込)
発売日:2014-08-22

→『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』濱田浩一郎・彩図社

 もくじ

はじめに

第一章太平洋戦争 熾烈な情報戦の真実
01【日米開戦と情報戦】真珠湾に潜入した日本人スパイ
02【情報機関の奮闘空しく】日本軍敗北の影に情報戦あり
03【アメリカの怨念と軍の怠慢】山本五十六はなぜ死んだのか
04【日本人捕虜から情報を奪え】極秘の捕虜尋問センターの内幕
05【見逃されたコールサイン】原爆投下は防げなかったのか?
06【情報の神様、最後の戦い】ソ連の参加を知っていた大本営

第二章明治日本の情報攻防戦
07【戦争前夜に行われた熾烈な情報戦】諜報機関の初仕事 日清戦争
08【情報網の構築で勝負あり】情報で先んじた日露戦争
09【特別任務班が狙うは通信網】ロシアへの命を賭した謀略工作
10【日本が誇る007の実像】明石大佐のの工作は失敗だった?
11【哀れな「露探騒動」の被害者たち】帝政ロシアのスパイを摘発せよ!
12【金子堅太郎の大いなる挑戦】戦争を終結させた広報外交とは

第三章日本の情報戦 衰退の謎
13【果たして日本は勝利者だったのか?】勝利によって招かれた敗北
14【極秘交渉の裏に独露スパイの暗躍】日独防共協定を巡る諜報戦
15【今なお続く日中情報戦】中国国民党の恐るべき宣伝謀略
16【機密文書解禁で明らかになる真実】ノモンハン事件を巡る情報戦
17【日本中枢に食い込んだ男】スパイ・ゾルゲの大いなる暗躍
18【日本は必ずアメリカに負ける!】届かなかった総力戦研究所の警告

第三章大日本帝国 謀略組織の闇
19【エリートたちに施された異例の教え】陸軍中野学校の秘密教育
20【ロマンあふれる珍兵器の数々】登戸研究所のスパイ兵器開発
21【石井四郎が作り上げた恐怖の王国】731部隊の生体実験と細菌戦
22【悪役の定番も情報戦を戦った】壮絶! 憲兵たちの情報戦
23【悪名高き権力の代弁者たち】悪逆非道? 特高警察の仕事とは
24【謀略組織の栄光と闇】世界各地で暗躍した特務機関

第五章敗戦 スパイたちの戦後史
25【凄まじき混沌の始まり】彼らはどう終戦を迎えたのか?
26【マッカーサー暗殺計画】陸軍中野学校最後のミッション
27【日本の夜を支配した米諜報団】キャノン機関と日本の再軍備
28【シベリア抑留とソープランド】特務機関員たちの意外なその後
29【戦犯への恐怖と裏取引】秘密は墓まで 731部隊その後
30【玉砕はまかりならぬ】小野田寛郎の長すぎた戦争

おわりに
参考文献

教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦
価格:¥ 1,296(税込)
発売日:2014-08-22
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